かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『セントアンナの奇跡』
2009年 07月 30日 |
ビタースイートなトスカーナのチョコラータ。

1983年、ニューヨーク。ある郵便局員が、切手を買いに来た男性客をいきなり銃殺した・・。



スパイク・リーといえば、イーストウッドの硫黄島二部作に、黒人兵士が1人も登場しないのを非難していたことが記憶に新しいのだけど。物議を醸したあの発言は、本作のような映画を撮ったからこそのものだったのだなと改めて納得。初めての戦争映画である本作は、そんな主張にピタリと合った黒人兵士"バッファロー・ソルジャー"を主人公にした物語であった。遍く戦争の悲劇、不条理さをテーマにしながらも、黒人兵たち固有の不遇と栄光を力強く描いているリー監督ならではの力作。

サスペンスの要素も色濃いのかと思ったら、案外とそうでもなかった印象。冒頭で、"堅実に生きてきたその男が一体何故そんな殺人を犯したのか?"という謎が提示されるので、序盤にその謎解きへの興味がまず沸き起こる。でも、そんなミステリー仕立ての導入が、思ったほどに効果的には響いてはこなかった気がする。逆に私にとっては、その後にたっぷり描かれる1944年イタリアの戦場ドラマに、速やかに興味の切り替えができないマイナス要素になってしまった。現在の事件を起点に、そこに至った過去の出来事を紐解いていくというプロットは、うまくすればとても面白いものになると思うんだけど、本作に関しては83年はない方がよかった気がしないこともない。ルイジ・ロ・カーショの正体もすぐ察しがついちゃうし。

というわけで、戦場ドラマが始まってしばらくは、彼らの物語になかなかハマりきれなくて、上映時間の長さが少し苦になったりした。でも、徐々に、美しきトスカーナの石畳の風景が私の心を捉える。黒人兵士が主人公なのはスパイク・リー監督ならではのものだけど、トスカーナの田舎の建物やイタリア人を映し出した映像の質感はまるでイタリア映画そのもの。現代NY舞台のリー監督作品では見たことのない絵画のような陰影にうっとり。これが、『サン・ロレンツォの夜』と同じ44年のトスカーナの物語ということも嬉しくて、オーバーラップして感慨も増すの。その上、お父さん役をやっているのはタヴィアーニ兄弟作品の名優オメロ・アントヌッティ!スパイク・リー監督作で、イタリアの田舎で暮らす素朴な人たちの描写に惹かれるのは邪道な気がするけれど、それが私のお気に入りポイントその1だった。

そして、やっぱり、人種や言葉の壁を越えて、人と人とが温かな交流をするというドラマには、心打たれてしまうのだ。愛嬌いっぱいの太っちょトレインがアンジェロくんを可愛がる姿がなんとも微笑ましいの。白人にこんなに近寄ったのは初めてだっていう台詞がせつないね。そう、祖国アメリカでは肌の色で差別されることが常だった者たちが、異国のトスカーナの村人たちには差別的な態度をとられないことに気づいて感動するシーンはとても印象深い。シニカルにも感じられる切り口で本質に迫るところがさすがなのだ。温かな気持ちにさせられたかと思えば、虐殺の残忍さや戦闘の迫力に圧倒されて心は凍りつくのだけど、やがて、こんなに過酷な体験をして生き延びた者だからこそ、その83年を迎えたのだということに合点がいくの。

弁護士。保釈金。アメリカでも通用する財を築いた者じゃなければ命の恩人を救うこともできないのかなぁと首を傾げちゃいけないよね。奇跡というタイトルがついた物語なのだから・・・。というわけで、やっぱり83年はいらなかったかも?
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by CaeRu_noix | 2009-07-30 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(10) | Comments(4)
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Commented by とらねこ at 2009-07-31 12:20 x
かえるさん、こんにちは♪

完璧な作品では全然ないんですよねえ。惜しい感じがして悔しいような(笑)でも、愛すべきところはたくさんあって。
かえるさんが感じられたいろいろのポイント、ぶんぶん頷いてたりします。
83年を、ただポートレイト的に一瞬で描くか、そこにつなげるイマジネーション豊かな映像がほんの少し、とか上品に出来ないものかとー。
あ。と、でもこれスパイク・リーなんですよね。硫黄島二部作に対する意見、知らなかったです。なるほど言いそうな感じはしますね。。。
Commented by CaeRu_noix at 2009-08-01 00:54
とらねこさん♪
そうなんですよー。大作で力作なんだけど、傑作ではない・・・。
スパイク・リーのセンスと心意気は好きなので、ああ惜しいなぁとちょいと悔しい感じがありますよねー。
戦闘シーンの迫力だとか一つ一つの演出はきっちりしていた気がするので、脚本がいまひとつエクセレントじゃなかったかなぁという感じで。
本人確認せずに、容貌の記憶だけでいきなり銃殺というのもそもそもなぁとか・・・。アンジェロとの再会シーンが海辺というのは、あまりにも画的に美しすぎて陳腐じゃないかねぇぇとか。83年の描写については、ちょっといただけない部分があれこれあるのですが、トスカーナが見ごたえあったのでよしとしますー。
あ、でも、いつものように音楽がクールじゃなかったのがかなりざんねーん。

天下のイーストウッドに噛みついちゃうからさすがですよねー。
カンヌ映画祭の時にそういうコメントをしていたもようです。
その件があったからこそ、本作の序盤のTVで戦争映画を見てつぶやくシーンにはニヤリとさせられました。
Commented by マダムS at 2009-08-12 16:23 x
こんにちは~ いつも読み逃げでスミマセン!ご無沙汰しておりました~(^^;)
昨夜観てきましたので、やっとお邪魔出来ましただ。。
アフリカ系アメリカン監督の想いがストレートに伝わってくる力作でしたね~
んでも、やっぱりどことなく・・うーん上手く説明出来ないけれど、めちゃめちゃ感動というわけにはいかなかったのは、やっぱり脚本の問題なんでしょうかね~~ そうそう!音楽もなんだかやたらウルサク感じちゃってダメダメ。。 
オメロさん以外に考えられないような役でしたね♪ 私もやっとこら「サン・ロレンツォ」観られたのでオーバーラップ経験を味わえて良かったデス。
これから感想書きますわ。
旅行の記録も覗かせて頂きましたよ! スゴーイ! こーーんなに色々なところに行ってらしたとはっ!! 超羨ましーーい! その以前のHP?も拝見してみたいものです。 
Commented by CaeRu_noix at 2009-08-12 23:21
マダムS さん♪
こめすた?
スパイク・リーらしい力強さでしたよねー。
戦争映画が初めてというのは意外で、そんな初めての気負い/気合いも感じつつ。
しかーし、そうなんですよ。大感動というわけにはいきませんでしたよね。私には4人がアンジェロを守ったという風に見えてなくて、アンジェロの恩人は八割がたトレイン1人に思えていたので、こういう感動の再会にピンとこなかったりもしたり。あんなに過酷な経験をしたアンジェロが、金の力を信じる気どり屋さん?な大人になっていたことに悲しくなったり。
スパイク・リー作品は音楽のクールさが魅力の一つなのに、今回のはホントらしくない、ありがちなハリウッド映画的荘厳音楽だったことも残念でしたよねー。
でも、そう、トスカーナはひたすら美しく、スクリーンで「サン・ロレンツォ」な世界を味わえたのは嬉しかったですよねー。
イタリーものはあと、「副王家」!

旅行記もご覧いただきありがとうございますー。
前のWEBサイトはフリーのページだったので、更新しなくてとっくに削除されましたー。それに使った文章や写真はどっかに残っているはずなんだけど・・・
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