かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『不灯港』
2009年 08月 05日 |
万造のまっすぐなまなざしが心に焼きつく。カウリスマキ映画的魅力がニッポンの漁村舞台に。

小さな港町に暮らす38歳の漁師、万造の物語。



日本映画界で注目すべき若手監督といったら、ぴあフィルムフェスティバル出身者でしょう。黒沢、塚本、犬童、橋口、矢口、園、荻上、井口という才能を輩出してきた名アワード。そして、このたびPFFスカラシップによって、長編商業映画デビューを果たしたのがこの81年生まれの内藤隆嗣監督。お笑い芸人になろうと思ったものの、理系なので周りに相方志願者がいなくて、映画作りを試みたとか。理学部数学科出身でコメディ映画を作っちゃうところが興味深いな。

野暮ったい風貌の田舎の男が一輪の赤いバラをポケットにさして、クサい台詞をはいていたり。予告を見た時は、映し出されるギャグの数々にいちいち笑える気がしなかったのだけど、これが大いに面白かったんだよね。コメディ場面の予告と本篇の印象の違いで思い出したことを一つ。先に挙げた矢口監督の『スウィングガールズ』の予告は、最も面白い笑える場面がテンポよくたっぷり盛り込まれていて、いざ本篇を鑑賞した時は、予告で既に目にしていたことにより、ギャグの数々の面白みがパワーダウンしてしまった。ところが本作は、予告で使われていた印象的な場面も、本篇の物語展開の中では、ニュアンスの異なるものとして表現されていることがわかり、こういう使われ方だったのかという意外性によって、新鮮な気持ちで面白がることができちゃったのだった。一発芸的小ネタだけなら、予告篇と本篇は同等にしか楽しめないものだけど、一貫性をもってそのドラマ、世界観が構築されている長編映画は、その物語に実際に足を踏み入れることによって、万造のはーどぼいるどな生き様を知れば知るほどに、反復されればされるほど、何気ないネタにもおかしみが寄せては返すのだった。ということに気づかせてくれてありがとう。

結局のところ、私のツボにハマったのは、これがまさしくカウリスマキ的な映画だからかな。鑑賞中はそれとは気づかず、鑑賞後しばらくしてから、気障で寡黙で不器用な万造のキャラクターにしても、淡々と決まりごとを繰り返すこだわりの日常生活も、カウリスマキ映画の主人公そのものだと感じた。(と思ったら、そんなことはとっくに世界の映画祭で評されていたのだけど。)台詞はおさえめで、独特の間とテンポで、何ともいえない哀愁を帯びたおかしみがフィックスの画の中に浮かび上がる。オサレ度は低いけど、その分コミカルさがしっかと伝わってくる、日本人から見てコテコテの笑いを引き出す存在感がある漁師万造キャラ。ヒロイン美津子もとってもカティ・オウティネン的。

美津子との出会いのことにしても、予告では何も匂わされていなかったから、本篇の中で彼女が最初に登場したショットが、映像内映像だったことに膝をうつ。闖入エピソードは目新しくもないけど、それに気づく場面の描写が最高に面白かったもの。フィックス映像を定番とする中で、こういうアイディアを盛り込めるところが素晴らしい。そして、美津子との恋愛バナシがメインで語られるのかと思いきや、男の子の存在がまた心温まるエピソードと笑いを提供してくれて。ユーモラスでほろ苦い終わりもいい感じ。冒頭の港の漁を風景を切り取った瑞々しい映像もよかったし。ぐっじょぶ。
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by CaeRu_noix | 2009-08-05 00:54 | CINEMAレヴュー | Trackback(4) | Comments(2)
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Commented by BC at 2009-08-12 17:41 x
かえるさん、こんばんは。
カウリスマキ映画が生活を噛みしめるしょっぱい塩味ならば
『不灯港』は生活に染みてくる濃い醤油味という感じかな?

美津子とまさおが初登場するのは映像内映像という発想は面白味があったね☆

まさおが美津子の実子だったならば美津子がまさおを置いていくと
涙を誘うメロドラマになってしまうかもしれないけど、
まさおは美津子の前の男の子供で実子ではないので
まさおを置いていってもおかしくはない状況だから
わざとらしい展開にならなかったのが良かったです。

そして、まさおと万造が実の親子のように息が合っていくのが
ユーモラスで微笑ましかったです。(*^-^*
Commented by CaeRu_noix at 2009-08-12 23:26
BC さん♪
カウリスマキ映画の世界にも日本的なものが見え隠れしているとも思うのですが(監督がOZUファンゆえか)それでもやっぱり味わいはサラリと西洋風味なんですよね。ムニエルー。
そして、本作にはやはりコテコテJAPANなお醤油の味わいを感じましたよねー。味噌やみりんも少々。アメリカンドッグを食べていようが、ウエスタンジャケットを着ようが、和風ー

美津子という女性と出会う、というのは予告を見て知っていたのだけど、どんな風に出会うかはまったくもって予想外でした。それも直接、物音がしてご対面とかじゃなくて、お見合いパーティの最中に発見してしまうなんて、めちゃめちゃ個性的なエピソードですよねー。その表現手法にゃちょいと感動ー

女性との恋愛がこの物語のメインだと思っていたので、マサオの存在がまた思いのほか面白かったですー。女に裏切られるだけじゃそれで傷ついてオシマイなんだけど、置き土産のマサオがまた複雑な思いを醸し出してくれましたよねー。ふんだりけったりながらも、万造とマサオの姿には温かな感動がうまれましたよねー。絶妙にシュールでホット♪
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