かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『九月に降る風』 
2009年 09月 07日 |
風のように透明でさわやかなる台湾映画と青春の思い出

1997年夏。竹東高校卒業式の朝、タンは1年前の夏の出来事を独り静かに振り返っていた。



九月といったら、日本では夏休み明けの2学期を迎える季節なんだけど、台湾では、欧米と同じく、新年度が始まる節目の格別に感慨深い時期なのだね。そして、原題の"九降風"というのは、旧暦の中秋節が過ぎる頃に台湾北部に吹く季節風のことなんだそう。そんな秋風の吹き抜ける感触そのもののような爽やかでもの寂しさも残る青春模様がここにあるのだ。冒頭の大声援に湧き立つ野球場の描写が素晴らしくて、最初から手ごたえを覚えた。定番の青春模様の1ページな二人乗りのバイクの疾走図なども清々しさにあふれ、随所が好みのつくりで嬉しくなっちゃった。野球場にプールに屋上、これだよね。

ツァイ・ミンリャンの助監督の経験があるというだけで信頼を寄せたくなる76年生まれのトム・リン(林書宇)監督。この物語は、監督の故郷の新竹市を舞台にしていて、自伝的な要素も盛り込まれているのだそう。それゆえの等身大のナチュラル感がとてもいいの。それでなくても、台湾といえば、侯孝賢やエドワード・ヤンという名匠に始まって、『藍色夏恋』、『花蓮の夏』 とみずみずしい青春映画を誇っているんだもの。そんな伝統を裏切らない、感性のきらめきを感じるステキな青春ものがまた一つ。

何気ない日常を描く台湾映画のこの感触が私はとても好き。主人公がたった1人だったなら、その感情にもっとピタリ寄り添ったつくりになったのかもしれないけれど、群像劇である本作においては、観客の私たちはまさに風に乗るような感覚で、彼らの青春模様を自由に見つめることができるの。場面ごとにエピソードごとに、誰かに共感したり、また別の誰かに感情移入したり、みんなの睦まじさやぶつかり合いを遠くから眺めたり、俯瞰したり。男子高生のグループがメインでありながら、時に女の子の思いもちゃんとフォーカスされるところがいいよね。

日本にも面白い青春映画はたくさんあるけれど、多くはコメディ要素が強すぎだったり、熱くドラマ過剰なものが多い傾向だよね。そして、インディペンデント系女子映画には等身大の日常系の好みテイストのものが結構あるのに比べ、男子高校生が主人公のものでは、ジャストで好みのものに出会った記憶がほとんどないことに気づいた。日本の高校生と台湾の高校生は大して違わないんじゃないかとも思うのだけど、映画の中の青春の手触りと質感は明らかに違うかもしれないなぁってことを思った。

高校生の日常にケータイはまだ登場しないポケベルの時代。だけど、『恋恋風塵』の世界よりは明らかにアカぬけていて、アフタースクールの遊び方もやんちゃぶりもデートのスタイルも現代的になっていて。彼らと同時代の青春期を送ったわけでもないのだけど、彼らの無邪気な姿とそこにある空気感、賑やかさにも切なさにも、懐かしさを感じてしまう。リアルタイムの青春は世代ごとに違っても、思い出の中の青春は限りなく普遍的なのだろうか。それがどんどん過去形のものになっていく寂しさを知っているから、そこに苦くやるせない思いがあっても、悲劇がおこっても、そこにきらめきを感じるの。後ろ髪を引かれながら、ずっとずっと引かれながら、折り合いをつけて、僕らは大人になっていくー。
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by CaeRu_noix | 2009-09-07 23:59 | CINEMAレヴュー | Comments(14)
Commented by KLY at 2009-09-08 02:02 x
こんばんは。タバコ・酒、夜遊びでビリヤードに行ったり、夜中に学校の体育館を勝手につかってめっちゃ怒られたり…彼らと同じようなことをして過ごしてきた私としては、物凄くノスタルジックに浸りながら観ていました。好きな女の子と部屋で2人きり、そりゃ胸元とかに目がいっちゃいます、男の子なら当然。
でも今は当時の友達とはまったく付き合いはありません。でもあの時一緒にバカをやって、ちょっと大人になったように感じて、凄く楽しかったことって一生忘れないと思うんです。なんかとりとめなくてゴメンナサイ。^^;
Commented by acine at 2009-09-08 20:18
かえるさん、こんばんは!
私もこの映画、凄く見たい・・・んです。ウチの方でもやって
くれるかしら・・・?!
台湾映画って、独特の爽やかさ、そして独特の台湾時間が
流れてますよねぇ。
また見れた暁にはコメにお邪魔します・・・。見たいなぁ~。
Commented by tomozo at 2009-09-08 20:42 x
去年のTIFFで見ました♪
せつなくも、このみずみずしさは何なのでしょうね。
>思い出の中の青春は限りなく普遍的なのだろうか
ほんとにね〜。
そうなのかも知れないです。

ブログにも書いたけど、
トム・リン監督はあだち充のファンらしいんです。
なんかわかるような気がしませんか?

もちろん、公開中にもう1度見に行くつもりです♪


Commented by CaeRu_noix at 2009-09-09 00:07
KLY さん♪
飲む、打つ、買うー。酒、タバコ、女?
ビリヤードって、ホウ・シャオシェンっぽくっていいですね。
私のイナカにはビリヤードやるところはなかったかも・・・。
一緒に遊んでた男子の喫煙率は高かった気がするけど、女子な私は吸わなかったし。
というわけで、私はお酒でー。
今でこそ、ワインかヨーロッパ・ビールじゃなくちゃやだわとか言ってる私も?その当時は缶チューハイとか樹氷コーラ割とかをへらへらとのんでましたー。
夏休みの深夜の校内で宿直の先生に見つかって叱られたなんてことは私もありましたっす。
高校時代のきらめきは永遠ですよねぇ。
こないだ新聞記事で見たのですが、お年寄り世代でも最もよく思い起こす思い出は、数年前のことよりも、若い頃のことが多いのだそう。

映画によっては、男の子はいいなーって感じで、女子が仲間に入れない疎外感を感じちゃう類の青春映画もあるんですが、本作はそういう垣根をあまり感じることなく、私もノスタルジィに浸れましたー。
Commented by CaeRu_noix at 2009-09-09 00:21
acine さん♪
おお、ぜひぜひご覧になってほしいですー。
この作風だといつもなら、単館上映って感じなんだけど、シネマートでもやってるんですよね。
台湾で大ヒットし、去年の東京国際映画祭でも好評だったので、きっときっと全国展開してくれるんじゃないかなと。
コテコテに賑やかなエンタメものが主流の香港映画なんかに比べると台湾映画ってずいぶん地味な感じですけど、私はこの質感が大好きなんですよね。
みーんなやけに爽やかですよねぇ。
そう、時間の流れ方がまたいんですー。
コミカル系の『熱帯魚』、『ラブゴーゴー』も好きでしたけど。
acine さんの感想がきけますようにー。
Commented by CaeRu_noix at 2009-09-09 00:24
tomozo さん♪
1年たってようやく一般公開されてよかったですー。
tomozo さんはさすが、アジアの注目作はしっかり押さえていたのですねー。

この瑞々しさは格別ですよねー。
こないだ観た邦画の『色即ぜね~』なんかも同じ青春ものだったんだけど、テーマ・方向性が違うからとはいえ、あちらはそういう胸キュンポイントが少なくて寂しかったのですよ。
日本の男子高生ものでは見出せなかった青春の思い出の普遍性を台湾なこちらで実感ー。

はいはいはい、あだち充ファンということが書かれたインタビュー記事をどこかでちらりと読みました。
とっても納得ですー。
あだち漫画のテイストが感じられます。
野球好きなところにしても、シーンとした空間の描き方などにも通じる魅力があるかもー。

ぜひぜひ、アゲインー
Commented by ジョニー.デブ at 2009-09-11 23:11 x
正直、『九降風』が台湾で大好評だったが、観客数あんまりにも少なかった。けど、見た人のクチゴミで、好評がどんどん広がっていく。半年後大ヒットした『海角七号』ブームのお陰で、再上演することになった。

ほろ苦い青春を思い出させ、けど見たあと妙にすっきりした気分が沸いてきました。自然に席に座り、エンティングソングを最後まで聞きたくなってしまいます。

ああ~せつない~

#台湾の新竹は風城という異名がある。ビーフンが代表名物の一つ。
ビーフンの伝統な作り方では、強い風と晴れたは不可欠。
特に九月からの風が一年中に最高に強く、九降風の由来でもある。

九月の前後も卒業の時期で、分かれる気分の溢れる時期でもあります。
Commented by まてぃ at 2009-09-12 23:32 x
かえるさん、こんにちは。
青春の瑞々しい、だけどどこか痛々しさも感じるいい映画でしたね。
群像劇っていうのも、7人いればたいていの男子は誰かしらに感情移入してあるあるってなるんじゃないでしょうか。
台湾の青春映画の瑞々しさって、本当に不思議なものですよね。異国の映画なのにまさに青い春って感じで等身大で見られる魅力は、香港や韓国の映画とはまた違った印象で心に残ります。
自分が折り合いをつけてきたものが輝かしく描かれれば描かれるほど、もう手の届かない自分の琴線を揺さぶるんでしょうね。
Commented by CaeRu_noix at 2009-09-13 23:19
ジョニー.デブ さん♪
せつないのにすがすがしい青春映画でしたねー。
『海角七号』と本作は台湾でとてもヒットしたそうですねー。
でも、こちらはすぐにそうなったのではなく、『海角七号』の効果もあってのことだったんですか。
原題になっているこの舞台の新竹に吹く九降風は、そんなに強い風なんですねー。
風が強いから、時期によっては、女子学生もスカートじゃなくてズボンをはいているそうですね。
そして、ビーフンにも風効果があったとは知りませんでした。
この強い風が、ビーフンを乾かすのに適していたから、ビーフンがこの地の名産になったんですねー。
そういえば以前、中華料理や香港飲茶とも違う、台湾小料理屋さんっていうのが近所にあった頃に時々行っていたことを思い出しました。
おいしいビーフンが食べたくなりましたー
Commented by CaeRu_noix at 2009-09-13 23:19
まてぃ さん♪
さわやかさにあふれていましたけど、物語的には痛く悲しいものでしたよねー。
1人は眠ってしまったし、1人は無実の罪で学校を去ることになり・・・。
ちょっとケンカしたり、ケガしたり、停学になったくらいなら、それもいい思い出の一つということもできるのですが、ちょっとしたことで人生が狂ってしまうのは辛すぎますよねー。
でも、どこかファンタジックに寓話的な空気が感じられる部分もあったからか、不思議とその痛さが後味の悪いものではなかったんですよね。

前に、アジア映画をよく観る友人と、香港・台湾・韓国映画の比較をしたことがあったのですけど、台湾映画は本当に、等身大の瑞々しさに特徴がありますよねー。
香港、韓国ものはちょっとコテコテにドラマティックな傾向があるので、私はやっぱり、日常をナチュラルに描く台湾映画が平均的に好きですね。

そう、もう自分は二度と高校生には戻れないわけですから、この時代がキラキラまぶしくて仕方ないのですー。
Commented by とらねこ at 2009-09-18 13:23 x
かえるさん、こんにちは~!
私はまだそれほどたくさん台湾映画を見ているわけではないのですが、かえるさんが「台湾映がが好き。」と言われるの、凄く分かる!と思いました。

この作品、私とても好きになりました。見ていてなんて心地がいいんでしょうー!
私、韓国の映画より、台湾映画の方が好きかも?なんて思い始めています。。
学校、廊下、屋上、少年の持つ暴力性、友情。。
同じキーワードを並べても、『青い春』よりずーっと爽やかで等身大でみずみずしくて。
かえるさんのこの記事を読んで、「アハ、先を越されたぁ☆」なんて思っておりました♪
Commented by CaeRu_noix at 2009-09-19 01:08
とらねこ さん♪
台湾映画好きな感覚をわかっていただけますかー。
とらねこさんは、アジア映画だと、よほどに面白そうなもの、どちらかといえばヴィヴィッドなものしか、ご覧にならないのかなーという気がしていたので、本作を気に入っていただけたのはよろこばしくー
韓国映画は概して、ややベタめなものが多いのですよね。
恋愛映画はべた甘過ぎだし、青春映画はヒリヒリドラマチック過ぎなものが多い印象。
日本の主流映画もさりげなさなんてものは失ってますしね。
日本の青春映画の味わいの偏りについて、ホント、じっくり考察したくなりましたもの。
先を越されたっていうくらい、そのへんの感じをわかってもらえて嬉しいっす。
とらねこさんが台湾に行っている時に、私はこのレヴューを書いていたっていうのもウフフでした。
台湾行きたーい。
こういう爽やか系台湾映画とは違うけど、キム・ギドク好きのとらねこさんには、ツァイ・ミンリャンを観てほしいっす。
Commented by かりおか at 2009-12-03 09:24 x
昨年の夏に「藍色夏恋」を遅ればせながら観て以来、台湾青春映画の虜になってしまいました!
この「九月に降る風」も評判を聞いて、観たかったのです。たまたま横浜でも上映があり、映画館で観れました。
苦い苦い青春でしたね~。主に男子の話でしたが、自分の高校生時代の無自覚さと重ね合わせて、切なくなりました。でも、どこか爽やかさもあり、やはり台湾映画、好きだなーと思いましたよ♪
TBさせてくださいね。
Commented by CaeRu_noix at 2009-12-06 01:27
かりおか さん♪
台湾映画、いいですよねー!
特集上映などを見た限りでは、台湾映画はこてこてエンタメが主流の中国、香港とはテイストが違っていて、日常感のあふれるさわやか映画が確かなものとして前面に出ている感じなんですよね。
若気のいたり的に向こう見ずな振る舞いって、自分にも思い当たるふしがあって、ズキンとせつなかったですよね。
普遍的なんですよね。不思議と。
リアルな痛さも含め、みずみずしい青春映画ってほんとに素晴らしいー。
「海角七号 君想う、国境の南」ももうすぐですよー
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