かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
latchodrom.exblog.jp
(映画を見るのにいそがしくてブログはもう)
Top
「1Q84」  BOOK 1<4月-6月> / BOOK 2<7月-9月>
2009年 09月 28日 |
この物語はとりあえず9月で終わる。だから、9月のうちに記しておこう。



読み終わったのは、9月2日だったかな。その前に読んでいたのが、なかなか手ごわいブルーノ・シュルツ再チャレンジ(またしても敗北)だったせいか、本作の読みやすさにまず感激。これこそが日本語で書かれた同時代の物語を読むことの歓び。読みやすければいいというものではないけど、スッとのどを通る方が五臓六腑にしみわたり易くもあるよね。春樹氏の文体、語り口、紡がれる言葉の連なりはリズミカルで気持ちよくて、サラリサラリと前に進んでいく。

お馴染みのベースの春樹調に加え、今回心を掴まれたのは、ふかえりの話し言葉。リズムに不思議な変調を与えるの。夥しい数の語句を重ねることで物事を描写することができるのと同時に、逆に、短いシンプルな言葉によって胸をうつ何かがあったりもする。ふかえりの容貌の描写より何より、彼女の話す言葉(を活字にしたものを読む瞬間に感じるナントカ波のようなもの)に魅了された。「せら?」的に。「かっこう」とメイは言った、的に。

序盤に印象的だったのは、「空気さなぎ」の出版に際して編集者と天吾のやり取りから見えてくる、文壇と出版業界のシステムについてのこと、そして、「小説」「物語」についてのこと。業界事情の方、世間の注目を浴びることが肝要なのは、わかりきったことなのでさておき、天吾の思考の描写によって、作家春樹氏が「物語」について、思いを巡らし、葛藤してきたことの一部が垣間見えるようでとてもイントラスティング。文章表現力だけでは不足で、面白い物語がただそこにあるだけでも不足なのかな。

「アフター・ダーク」と「海辺のカフカ」は、それほどに主人公に心寄り添ったとは言えなかったので、今回は久しぶりにその物語世界にどっぷりと浸れた感じ。青豆のことも、天吾のこともとても好きになったもの。主人公への共鳴度ではかったなら、全作品の中でもこれはかなり上位にくるかもしれないなぁ。

実はとてもロマンチックな設定の男と女一人ずつが主人公という構成がよかったのかもしれない。天吾と年下のフカエリとの特別な結びつき、年上のセックスフレンドもありつつ、天吾と青豆という同じようなものを抱えていた同級生の男女の存在は、特定の年月を舞台にすることをより味わい深いものにするよね。今は別々の場所で違う人生を送っている2人も、あの当時は同じ体験をしたことがあったという当たり前のことが何やらやけに感動的。

孤独な魂の触れ合いには嬉しくなる。青豆と警察官のあゆみの交流も好き。青豆とタマルの会話も好き。天吾と年上のガールフレンドとの会話も好き。天吾がやっと父と向き合って話すことができた場面も心に染みる。そして、悪の存在であると思っていたさきがけの教祖と、青豆がストレッチを施しながら語らう場面も、とてつもなく複雑な思いにとらわれるがゆえに鮮烈。どのコミュニケーションも絆も味わいを残す。

宗教団体が一つのキーになるというところが、「アンダーグラウンド」に携わった春樹氏ならではのものだなと思いきや、そこには絶対悪は存在していないというのが、とてもとても興味深かった。そうなんだ。悪は相対的にしか存在せず、とらえられるものではない。それでいて、愛する人のために自らを犠牲にする行為というのは、確かに描かれているのだ。ふぅ。読者の私は、教祖が話のわかる奴だった時、少し足元をすくわれて、一時バランスを崩しそうになった。でも、すぐにふわりと何かに包まれるのだ。空気さなぎのようなものに包まれる感触。

社会的な出来事をポイントに置きながら、ディテールは相変わらず、魅力的な音楽や文学やファッションや料理、お酒の描写にあふれているのが、やっぱり春樹小説のこの上なくステキなところ。「1984」も「サハリン島」ももちろん読みたくなっちゃうし、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」とか、ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」とかをじっくり聴いてみたくもなるものだよね。でも、今回私が最も心惹かれたのは、白ゴマ油づかいだったかな。

空気さなぎは透明?
[PR]
by CaeRu_noix | 2009-09-28 23:58 | Art.Stage.Book | Trackback(3) | Comments(4)
トラックバックURL : http://latchodrom.exblog.jp/tb/10278347
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Tracked from Mani_Mani at 2009-09-30 00:17
タイトル : 「1Q84 BOOK1 BOOK2」村上春樹
1Q84 BOOK 1村上 春樹新潮社このアイテムの詳細を見る 1Q84 BOOK 2村上 春樹新潮社このアイテムの詳細を見る 村上春樹を一気読み。 この小説には理由は分からないのだけれど、ワタシを、浅瀬に引っ張っていくようなかすかに禍々しい香りのする力で引き込んでいく。このわずかに禍々しいという温度感が実に気色悪く独特だ。この力に捕われると、もうダメだ。仕事をしていても小説のことを考えている。早く続きが読みたくなり、仕事をしている時間がどうしようもなく空虚に思えてくる。病が高じると、いよいよ仕事を...... more
Tracked from 真紅のthinkingd.. at 2009-10-01 14:33
タイトル : It's Only A Paper Moon 〜『1Q84』
 1984年、東京。首都高の渋滞にはまった青豆は、タクシーを降りて非常階段 に向かう。小説を書きながら予備校の数学教師をしている天吾は、敏腕編集者 の小松から、ある小説のリライトを依頼される。 `..... more
Tracked from 気まぐれな猫の日常 at 2009-10-29 23:03
タイトル : 「1Q84 BOOK2」村上春樹
-心から一歩も外に出ないものごとは、この世界にはない。 心から外に出ないものごとは、そこに別の世界を作り上げていく。- さて、BOOK2も読み終えました BOOK1の後で、あまりに多くの謎が残り過ぎてる為 感想が述べにくいと言いましたが、 B... more
Commented by manimani at 2009-09-30 00:20 x
こんばんは
「サハリン島」もちろん買いましたよ
半分くらい読みましたがなかなか面白い。

で、今「BOOK3」執筆中という結構確かなウワサが・・・!
本屋のポップに書いてあったんですけどね。。
うれしいような、あのまま終わりでいいような・・・
Commented by CaeRu_noix at 2009-09-30 11:33
manimani さん♪
おお、「サハリン島」買われましたかー。すばらしいー。
サハリンのギリヤーク人、とってもいいですよねー。
こういうものを登場させてくれるところが本当に好き。

ざざっと感想を書いたつもりが、書こうと思っていたこといくつも書いていなかったことに翌日気づき・・・。
天吾が、数学を仕事としながら、小説を書く人であるというところも好き。対して、青豆の仕事が体と向き合うものであるというのも好き。
やっぱりディテールなんです。物語はどっちに向かおうとも。

読む前から、続編があるという情報(噂?憶測?)は目にしていたので、私は最初からそのつもりで読んでいたかも。
そのまま終わりでもぜんぜんOKですし。
でも、4月で始まる物語は3月で終わってほしい気もしますー

さてさて、パリ旅行記も読ませていただきますぞ。
Commented by 真紅 at 2009-10-01 14:38 x
かえるさん、こんにちは。気がつけば10月ですね~。
私もこの作品は本当に読み易いと思いました。老若男女仕様と言うか。
で、4月に始まる、っていうのもとっても日本的ですよね。そこがまたうれしかった。
『アフターダーク』『海カフ』に関しては私も同感なんです。
だから今回、とってもココロ惹かれるキャラたちで感激でした。
BOOK3は間違いなく出るみたいですが、4はどうでしょうね。
取りあえず来年の夏を楽しみに待ちましょうー。
Commented by CaeRu_noix at 2009-10-02 00:47
真紅 さん♪
早いものでもう10月。下半期なんですよねぇ。
そうそう、『九月に降る風』を観て、台湾は学期の始まりが9月だということを知った時、4月で始まる「1Q84」は他でもない日本の物語なのだなーってことにしみじみ。

何が書かれているかはもちろん、文体、語りのリズムというのもの小説の大切なポイントなので、この滑らかさが嬉しくなっちゃいますね。
ついでに、キャッチャー・イン・ザ・ライを読み中なんですが、彼がそこでしゃべっているような感覚で、すいすい。

「アフターダーク」はあれはあれで面白かったけど、ココロがザワザワしちゃう感じで。
(アルファビルねたはよかった♪)
「海カフ」は好きなエピソードなどもあれこれあったけど、トータル的にはそんなに思い入れは持てずで。
というわけで、同じく同じく今回は、物語の中にすっかりはまりこんじゃえましたよねぇー。
BOOK3は来年ですかー。楽しみですねぇ。
3で終わったら、12月ってことなんでしょうか?
さなぎが羽化する季節まで続いたらいいのにー。
<< -2009年9月のしねまとめ- PageTop 「第10回カナダ・アニメーショ... >>
XML | ATOM

個人情報保護
情報取得について
免責事項
Beige Shade by Sun&Moon