かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『シングルマン』  A Single Man @TIFF
2009年 10月 22日 |
グッチのデザイナーとして活躍したトム・フォードの初監督作品であり、ヴェネチア国際映画祭にてコリン・ファースが男優賞受賞に輝いた注目作。



原作はクリストファー・イシャーウッドの同名小説で、舞台はキューバのミサイル危機真っ只中の1962年、ロサンゼルス。
ジョンという長年のパートナーの訃報を聞いたゲイである英国人教授ジョージの1日が描かれる。

監督:トム・フォード
出 演:コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、マシュー・グード

90年代に低迷していたグッチを一躍トップブランドに引きあげたファッション界の実力者、一流デザイナーのトム・フォード。多くは知らないけれど、一時はおばさんくさいブランドイメージをもっていたグッチがガラリとイメージを換えて、先端のおしゃれなブランドに生まれ変わったことは憶えている。みんながバンブーバッグを抱えていた時代があったよね。

そのセンスはお墨付きという大物だからといって、ファッション界で活動していた人がいきなり映画を作り、それが名のある名監督たちと並んで、ヴェネチア国際映画祭のコンペに出品されるとはどういうことなんだろうって思っていた。大物ゆえのコネクションの賜物なのだろうかって。多かれ少なかれ、それもあるのだろうけれど、才能とセンスのある人は何を手がけても一流のものを生み出せるものなのかもしれないとも思える。それほどに本作は、初監督作品とは思えない上質な素晴らしい映画であった。思えば、ファッション業界と映画には共通の要素が多いのかもしれない。どちらも、芸術性の商業性の狭間で、定番のものと新たなるもの間で、創作し、表現するものなのだよね。

そして、これは、デザイナーの美的センスが遺憾なく発揮されているシックでエレガントな映画であった。がちゃがちゃしたものが大半のアメリカ映画には近頃、これほどの気品のある大人の映画はなかった気がするもの。似たような感触のもので思い出したのは,
『記憶の棘』くらいのもの。その深い哀しみが静かに静かに映し出されるのだ。失ったことを知ってしまっているから、ジムとの思い出の回想シーンは切なくてとても美しい。田舎の庶民の中年のゲイを主人公にした『キング・オブ・エスケープ』のアラン・ギロディ監督の言い分にも大賛成なんだけど、それはそれとして、ハイソな暮らしをするインテリ教授が主人公であるからこその魅力には抵抗できないの。知性ある人ゆえの気の利いた言葉やその深い思考に夢中になってしまう。ただ漠然と日々を生きることができない人たちの苦悩に取り込まれてしまうのだ。

コリン・ファースといえば、『アナザー・カントリー』なので、こういった役は何ら意外でないけれども、この年代であることが思いのほかパーフェクトであった。かつてよりステキな英国俳優であったけれど、こんなにこんなにこんなに素晴らしく魅力的なコリン・ファースは初めて見る。『マンマ・ミーア』でもったいない使われ方をした時は、これだからハリウッド映画は・・・って腹立たしさを覚えたことも懐かしく。コリンの存在感と演技の完璧さに加えて、トム・フォードはやっぱり人をよりカッコよく演出する技に長けているのかなって。クローズアップも多いのだけど、コリンの顔が常に麗しいので、実に絵になっているのだ。コリンの扮する知的で紳士的で色気ももつ大学教授のジョージは、実態のあるリアリティと理想を兼ね備えた見事な存在であった。

ジュリアン・ムーア扮するかつての恋人である友人チャーリーの存在感もとてもよくて印象深い。近年は深刻な顔をした役どころが多かった気がする彼女なので、このユーモラスでキュートなキャラクターには嬉しくなってしまった。ジョージのダイアローグのシーンはどれもすてきな印象を残してくれたけれど、私はチャーリーの部屋を訪問した際の語らいに最も胸をうたれた。年齢を重ね、経験と喪失を繰り返してきた者だから持ちうる思いに強く心揺さぶられたのだった。明るいふるまいの中でふとしたやるせなさがのぞくところがいいの。逆に、傷心のジョージが若い世代と言葉を交わすことで思いを新たにするというシークエンスもさりげないのに味わい深くて。やがて辿り着いた少しファンタジックな色を帯びたラストも好き。モードの人がこんなにも人間の内面に迫ってくれるとは驚嘆。
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by CaeRu_noix | 2009-10-22 10:45 | CINEMAレヴュー | Trackback(9) | Comments(6)
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Commented by とらねこ at 2009-11-05 17:23 x
かえるさん、こんにちは
素敵な物語でしたね~!この映画の後、トイレでかえるさんにバッタリ会ったのでした。私は、思いっきり泣いた後って感じだったので、ちょっと恥ずかしかったです^^;
目に涙がいっぱい溜まっていたかも・・

アメリカ映画でこの手の気品を持った映画は『記憶の棘』ぐらい、という一文、なるほど~なんて読ませていただきました。『記憶の棘』
、かえるさんはとても評価が高いんですね♪
私は、ジュリアン・シュナーベルの『夜になるまえに』を思い出して観てました。
二人が岩山みたいなところで寝そべるシーン、それが『夜になるまえに』での出会いのシーンを思い出したりもして。
いずれにせよこの作品は、この手の作品が大好きな一部の人っていそうだなあ、と思います。
ジュリアン・ムーアの役どころもすごく良かったですよね!彼女がいることで、この作品の持つ深みをより色彩豊かにしていたように思います。
男だけの世界でなく、男も女も孤独な姿を描いていたので、良かったナ~って思ったのですよ。
Commented by CaeRu_noix at 2009-11-06 11:59
とらねこさん♪
素敵な映画でしたよね。せつない感傷に満たされました。私にとってはそんなに涙腺刺激映画ではなかったのですが、どっぷり耽溺映画。
一人でただかみ締めるばかりでなく、直後に本作の感銘について、とらねこさんと語らえたのは嬉しかったですー。
『記憶の棘』以外にもこういうオトナテイストのおされアメリカ映画ってあるとは思うのですが、すぐには浮かばず。『夜に~』の詩情に通じるところもあるかもしれませんね。ハビやんはコリンのような目の保養にはならなかったけど。
ジュリアン・ムーアの場面はとびきり大好きで、そのへんも共感し合えてよかったです。
タッチがカーウァイ風味だからmyツボだったのかな
Commented by ぺろんぱ at 2010-10-10 21:10 x
こんばんは。

映像センスもさることながら(耽溺しました)、会話の妙にも“ノックアウト”の一作でした。
人は絶望を抱えつつも、生きていれば一瞬の小さな輝きを感受できるものなのですね。

こんな映画を作ってくれる人のデザインって・・・?! と、今一つファッションの流行に敏感でなかった私も彼が作ったトレンドに興味津々の今です。
Commented by CaeRu_noix at 2010-10-11 19:25
ぺろんぱ さん♪
原作ものだけあって、文学性の感じられる印象的な会話が盛り込まれていましたよね。(具体的なところは忘れちゃっているのですが)
ただのおしゃれファッショナブル映画じゃないという。
今日私はルイ・マルの『鬼火』を観たのですが、死に向かおうとする男が主人公ということからか、本作のことを思い出しましたよ。
死に向かうことは決して好ましいことではないけれど、そこに芽生えるものは切り捨てられない…

そう、私もブランドは大枠のイメージでしか捉えてないので、どのデザイナーの時にどんな作品があったかなんて、あまり知らないのですけど、これを見てトム・フォードのかつての仕事が気になっちゃいました。
Commented by minori at 2011-05-01 20:52 x
かえるさーん。こんばんは。
そういえば確かに会話もツボをついていましたね。
私も映像にノックアウトされたのでそっちばかりのコメントしちゃいましたが。確かに私もそんなに涙腺にはこなかったんですけど、あの同じ種類の犬にキスをする彼の姿にはちょっとうるっとなりました。
色んな感情があの時押し寄せていたのは間違いなく、犬との思い出が同時にジムのことに繋がって、私が彼だったらきっとしゃがみこんでしまうくらい辛いだろうな、と思ったシーンでした。

ジュリアン・ムーアが素敵でしたねー。
彼女も本当にいい女優さん。そういえばそろそろかえるさんもThe Kids Are All Rightを見た頃かなぁ?
Commented by CaeRu_noix at 2011-05-03 09:03
minori さん♪
うん、映像にノックアウトされたよねぇー。
そして、いまだかつてないほどにコリン・ファースのステキさにもノックアウトされたし。
それでいて、原作ものだけあって、主人公がインテリだけあって、言葉の一つひとつも心に響くものでした。
それが美しい映像と共にセンチメンタルに発せされると、きゅんきゅんきますー。
この心情は本当に格別に寂しくてせつなくてー。
犬の存在がまたたまらなくきいてましたね。二人のわんこ。
こないだ『イヴ・サンローラン』を観た時、デザイナー、ゲイと連想して、トム・フォードのことを思い出したりしました。

The Kids Are All Rightはまだ観てないのよ。来週な予定。
ジュリアン・ムーアがホントに楽しみー
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