かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『パンドラの匣』
2009年 11月 02日 |
最上位にあるのは、かるみなのだから。

終戦後、結核療養のために少年利助は健康道場に入り、ひばりと呼ばれる。



太宰治文学と冨永映画の世界は、イメージ的にはおよそかけ離れていたのだけど。なかなかどうして、太宰作品の中では珍しく前向きに明るい青春ものであるというコレに関しては、ものすごくいい具合にマッチング。かなり原作に忠実なのに、現代的なポップさが弾けていて。素材の味わいを大切にしつつも、斬新さの感じられる快い個性派映画になっていたね。太宰なのに、カワイイ映画だったな。そんなタッチは私好み。

パンドラのハコとは、菓子パンとどら焼きの詰め合わせのギフトボックスのことだよーなんてホラも通用しそうな(しないけど)ファンタジー感があるんだよね。そう、強引に食事に例えるならば、ご飯系じゃなくて、甘いおやつの味わいの映画なのだ。パ行の破裂音がかなり好きな私は、パビリオン山椒魚とかパンドラの匣とか、言葉の響きだけで少し幸せになれちゃうのだけど(飛び出せパンポロリーン)そんなタイトルのリズミカルさそのままのPOP感が魅力。主人公は結核を患い、舞台は病人だらけの療養所だというのに、不思議と軽やかにポップなんだよね。

冨永監督映画のギャグ感覚って、私はかなり好きなんだけど、それはちょっと人を食ったような笑いだったりして、誰にでもウケるタイプという感じではない印象だった。でも、本作は、何しろ原作が太宰治なので、支離滅裂に弾け過ぎるということはなく、とてもいいバランスが保たれていた感じ。ギスギスの乾いた笑いを生むのではなくて、常に丸みを帯びた微笑ましさが充満しているの。そして、軽薄になることなく、"芭蕉が晩年に称えた「かるみ」"が体現されているのだ。

その絶妙な感触を作りあげているものの一つには音楽の力があった。今回も音楽を菊地成孔が担当しているのカッコいいよね。太宰の世界に菊地MUSICを合わせちゃうセンスが抜群。バックに流れるフレキシブルなジャズサウンドもよいのだけど、今回は歌にもググッと心掴まれた。女の子たちが歌う「オルレアンの少女」は清々しくて胸キューン。テーマソングもヤバいです。こんなにセンスのいいオリジナル曲を使った日本映画ってそうそうにないよね。

メロディはなくとも、登場人物の発する言葉の響きもまたいいの。文学でしか表現できないものもあるけど、人の台詞が音声になることの味わいは映画ならではのもの。「やっとるか。」「やっとるぞ。」「がんばれよ。」「よし来た。」という問答のこそばゆさはマジカルなほどに可愛くて。竹さんの落ち着いたトーンの関西弁とマア坊のイタズラっぽいカワイイ声とで「ひばり」と呼ぶ音声が繰り返されるたびに鳥がはばたくかのように。この当時の台詞回しがこんな風に蘇るのはすごく新鮮。エコーづかいにもハマっちゃったし。

そして、レトロにモダンなハイカラ感の完璧さは、あまりにも素晴らしいキャスティングの賜物だね。染谷将太、川上未映子、仲里依紗とそれぞれに絶妙で、よくぞこの役にこの人を見つけてくれたと感心することしきり。
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by CaeRu_noix | 2009-11-02 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(7) | Comments(0)
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