かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』
2009年 11月 04日 |
浅野忠信の温泉宿での義太夫もお見事だったよね。太宰もまた歴とした昭和日本の心なり。



放蕩生活を続ける小説家・大谷が踏み倒した酒代を肩代わりするため椿屋という飲み屋で働き始めた妻の佐知。
生誕100年の太宰治の小説「ヴィヨンの妻」「思ひ出」「灯篭」「姥捨」「きりぎりす」「桜桃」「二十世紀旗手」などをもとに紡がれた物語。

『パンドラの匣』 のような個性的にみずみずしい映画の方がいわゆる好みのタイプだったりするんだけど、従来の太宰のイメージに近い世界を誠実丁寧に作り上げている本作は、好みうんぬんを超えた秀作であるという手ごたえを感じたし、そこに描かれているものにしっかり心揺さぶられた。昭和の日本を代表する小説家大宰治の生誕100年に、それを題材にしたこんなにきちんとした文芸映画が作られたのは素晴らしい。モントリオール世界映画祭で監督賞受賞おめでとう。

キャスティングの絶妙さに関しても、『パンドラの匣』の方がよりセンスがいいと思うのだけど、本作の豪華キャストにも感心。こんなに有名な人気者実力俳優を揃えなくてもいいのになぁって思うほどだったりするけど、今年の邦画を代表する1本を目指すならば、これだけ豪華であってしかるべきなのかな。なんだかんだいって、浅野忠信は最高だもの。ダメ亭主に翻弄されながらも明るくけなげに生きる妻役は松ちゃんによく似合うし。広末演技はややわざとらしい感じもあったけど、役どころはハマっていたと思うし。ブッキーはあえていらない気もしたけど、人気者はきっと必要なのでしょう。

俳優たちの存在感を引き立たせる、スクリーンにリアルに蘇った戦後東京の街並みも素晴らしい。またしても、さすがの種田陽平。中野の横町のゴミゴミとしながらも活気のある日常感がとてもいいのだよね。労働者たちでごった返す椿屋もとてもいい雰囲気で、こういうお店で日本酒を飲むのもいいなぁなんてことを思ったりする。人々はまだまだ貧しいのだけど、そこには戦後の希望が射し込んでいて温かいの。そんなお店で、佐知があくせく働くシーンは胸をうつのだ。中野、三鷹、小金井あたりに住んだり通ったりと馴染みがあった私には、この時代の中央線沿線が再現されることも感慨深かった。ガタンゴトンの汽車のリズムといい、駅の佇まいといい、とてもよい感じ。

観る前は、短編の「ヴィヨンの妻」のみを映画化したものと思っていたので、それを中心に複数の他の短編のエピソードが交じるという脚本になっているのも思いの他面白かった。一篇をそのまま使えばそれだけのものなのだけど、複数の物語が入り組むことで、作者太宰治そのものにより迫っていけるわけだから。私たちが知っている太宰治文学の魅力が、この1本の映画にも凝縮されているのだから。ロクデナシ大谷なんだけど、太宰治的苦悩を持つ彼を憎悪することなんてできないの。そして、そんな彼を憎んで突き放したりしない、佐知の健気さと自然発生的な強さには感動せずにはいられない。

ただ飯を食って生きることがやるせない男に、生きていればそれだけでいいじゃありませんかと受け止める妻。タンポポのごとく健気に生きるある妻の物語としても、アンバランスに支え合う夫婦の物語としても感動的であるし、人が生きるということの意味を太宰治的に問わずにはいられないところにも深い味わいがあった。
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by CaeRu_noix | 2009-11-04 11:00 | CINEMAレヴュー | Comments(6)
Commented by cinema_61 at 2009-11-04 13:38 x
こんにちは。
私も観ました!(一応太宰に傾倒したことあるので)
この映画は根岸監督の太宰観だと思いました。
時代背景やキャスティングなどが・・・・・私的には浅野忠信の太宰はちょっとイメージにあわず(TVでトヨエツがやっていた方が・・)、松たか子がよかったです~
糟糠の妻のようで、すごくノウテンキで明るく・・・・彼女のような妻がいたから太宰はいい作品書けたのでは?
松たか子は若いのに演技が上手くてそれがナハについていたのだけど、結婚していい意味で色気がでて・・・・・何だかドキッとする場面もあって。

独特の日本情緒がきっと国際映画祭で評価されたのですね。この雰囲気は、他国では真似できませんもの。
Commented by KLY at 2009-11-04 21:31 x
うんうん。役者さんは豪華なだけでなく演技力もある人たちなんで、
その意味では引き込まれました。ただストーリー自体はそんなに
面白いもんでもないと思ってます。かえるさん同様に、あまり好み
ではなく、私も『パンドラの匣』の方が好きですね。
悪く言うと、適材適所名キャスティングすれば、もっと経費抑えら
れたかもね、みたいな。(苦笑)だってどう観ても『パンドラの匣』の
ほうがギャラ安いでしょうし。
Commented by CaeRu_noix at 2009-11-04 22:16
cinema_61 さん♪
私も太宰はかなり好きなんですけど(漱石などより)、cinema_61さんも傾倒したほどだったんですねー。
そうですね。監督と脚本家による太宰観といえるでしょうね。
浅野キャスティングは抱いていたイメージとは違っていたものの、映画を実際観てみたら、わたし的にはかなりグッとくる存在になってました。
cinema_61さん的には違っていたんですねー。残念。
そうそう、松さんは評判通りよかったですよねー。飲み屋の人気者さっちゃんがハマり過ぎー。
私は松さんは昔から結構好きでした。(岩井俊二の『四月物語』が最高。)
太宰の妻観というのもとっても興味深いですよね。
現実的にもこういうお方だったのでしょうかね。

これはホント、海外で評価されるのも納得の風情ある日本が描かれていましたね。
味わい深き、戦後昭和の情緒。
Commented by CaeRu_noix at 2009-11-04 22:17
KLYさん♪
そうですか。
私の場合、"好み"という言葉を使えば、パンドラの方が上なんですよ。
でも、感動ではかった場合、評価をくだしたならば、こちらが上になるのです。
結局どっちも四つ星レベルの手ごたえのある映画でしたけどね。
私は"ストーリー"主義ではないんで、ストーリーが面白いとか面白くないとかいうのは、そんなに重要ではないと思っているんですよ。
面白さが大事なら、もっと面白い脚本を探してくればいいだけですもんね。
でも、あえて、ヴィヨンの妻をベースにして、昭和情緒に満ちた太宰の世界を映像化したということはとても意義があったと思います。
KLYさんが求めるストーリーの面白さっていうのは私にはよくわからないのだけど、テーマは味わい深ーいものだったと思いますよ。
同時期に、本作とパンドラを両方観られて、私は両方にすごく満足しましたよー。
インディペンデント系映画好きの私としては、豪華すぎると思えるキャスティングではありましたが、こういう規模の映画にはギャラ高くても集客力のある有名な人気者俳優が必要なんでしょうねー
Commented by kaka_o00o2 at 2009-11-07 12:20
太宰ファンの中には
原作をいろいろミックスしたのがイヤだって人もいそうだな〜と思うけど
私はこのミックス、かえるさんと同じでなかなかいいと思いました。
浅野忠信はダメな感じをいい塩梅でだしてるなあ〜と思いました。
松さんは、監督のやりたいこととかを飲み込む能力がすごいのか
もしかしてインタビューとかで言ってたように、共感する部分が少ないから、役を演じきったのか
なんだかうますぎるとさえ思いました。

Commented by CaeRu_noix at 2009-11-08 02:04
kaka_o00o2 さん♪
このミックス加減がよかったですよねー。
普通に忠実に映画化したら、どうしたって映画は原作小説を越えられないものだと思うので、別ものとしてのアレンジは大いにしてよいと思うのです。
どうなんでしょう。純粋な太宰ファンは、一篇の小説をあまり脚色せずにそのまま映画化する方を望むのでしょうかね?
でも、どの道、映画は原作ファンに不満をもたれる運命でしょうから、私としては独自のアレンジ大歓迎。
浅野忠信はすばらしかったですよねー。
この前に観た浅野っちといったら、『劔岳』のやたらに誠実キャラだったので、そのギャップにやられました。
この脚本は、松さんアテ書きだったそうで、全くもって完璧に佐知そのものでしたよねー。
脚本と演技と演出がバッチリかみ合って極上のハーモニーを生んだのだなーって感じで。
映画はこんな風に、登場人物にみずみずしさをもって息を吹き込むことができるんだということに感激っす。
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