かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『谷中暮色』
2009年 11月 18日 |
積み重ねる。交わる。蘇る。再構築。伝える。

東京下町の谷中。古いホームムービーの保存・修復活動をしているかおりは、昭和32年に焼失した<谷中五重塔>とその姿を記録した8ミリフィルムの存在を知る。



ベルリン国際映画祭フォーラム部門出品作ということで気になってはいたんだけど、11時台に1回のみ上映というのがネックで、見送ってしまいそうだった。でもこれぞ、私がスクリーンで鑑賞すべき映画だったのだ。ノスタルジックな下町の情緒がセピア色に浮かび上がるなんてまさに私好みで、見送らないでよかった。今年はドキュメンタリーの秀作が多いなぁって思いながら、いえ、これはドキュメンタリーじゃないんだね。ドキュ・フィクションというらしい。ドキュメンタリーとフィクションの両方を用いた映画はこれまでも観たことがあったけれど、本作はまた違った面白い構造をしていた。五重塔に思いを寄せて、幸田露伴の「五重塔」を原作にした時代劇パートも織り込まれるなんてステキ。

そんな構成/構造の面白みを実感したのは後半になってからのことで、初めはただそのドキュメンタリーパートに心揺さぶられたの。谷中のお寺や路地の詩情あふれる美しさに息をのみつつ、住民のおじいさんたちの素朴な語りに何だか泣けてくる。フィクション部分の若い男女のパート、とりわけ素行不良の彼の存在などには一種の違和感というか、素人くささを感じなくもなかったけど、接する年配の住民の人たちの自然な姿も交互に登場するので、不自然ささえも馴染んでしまう感じ。(後で知ったのだけど、主演の彼らは卒業制作の学生俳優とのことで、素人くささも納得。)若い世代が古き良きものに出会う物語が大好きな私は、彼らがおじいちゃんたちと交流するシーンに涙腺を刺激されるばかり。(男女間に恋の芽生えはいらなかった気はしたけどね。)

監督の前作、オダジョー主演の『ビッグ・リバー』もかなり気に入っていた私としては、舩橋淳の映像センスは評価したいかな。そして、今回はテーマ的にも心打たれるものがあった。前作鑑賞時に、監督がアメリカの偏見・差別の問題をテーマにしたらしいということを知り、その思いは素晴らしいけど、どうせ社会派視点を持つなら、日本人俳優でやるなら、アメリカじゃなくて日本を描いてくれればいいのにと思ったりした。なので、失われてほしくない日本情緒あふれる下町にスポットをあてた本作には嬉しくなった。ベルリン国際映画祭で外国人ウケする要素もあるということにせよ、日本人だって、お寺や墓地、伝統工芸の工房を眺め、住職や職人のお話を聞くのはしみじみ味わい深いの。

貴重なフィルムを探すというフィクションの軸も魅力的だし、同時に、今の谷中の活きた人々を映したこの映像そのものも貴重なのだ。そして、1957年に放火されて焼失してしまった五重塔にも、谷中の人々と共に思いを馳せる。若い世代と長年谷中で暮らす人たちの姿を見つめ、過去と現在、現実とフィクションの間を心地よく彷徨いながら。露伴のフィクション「五重塔」のシークエンスで、初めは後ろ姿しか映らないのだけど、十兵衛を演じるのが彼だとわかった時もそのアイディアに膝を打った。お年寄りも若者も生きづらい今の世の中なのだろうけど、十兵衛のようなまっすぐな志を持てたらよいよねって。燃えてしまうのは一瞬なのだとしても、それを建てるのはどれほどの労力が必要だったことか。失ったからこそ、思いは強まるのだろうし。でも、確かに、伝えられるものも、再現できるものもあるんだよね。
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by CaeRu_noix | 2009-11-18 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(2) | Comments(2)
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Tracked from シネクリシェ2.0 at 2010-04-14 07:31
タイトル : 『谷中暮色』
谷中五重塔の炎上現場を撮影したフィルムが発見さる!... more
Tracked from 〜青いそよ風が吹く街角〜 at 2010-06-09 23:48
タイトル : 『谷中暮色(やなかぼしょく)』Deep in the V..
2009年:日本映画、舩橋淳監督&脚本&編集、野村勇貴、佐藤麻優、加藤勝丕、小川三代子出演。... more
Commented by peridot at 2009-11-29 20:13 x
わたしもこのドキュ・フィクション好き〜
映像のアート感覚と事実の詰め方のバランスがよくて
おじいさん、おばあさんの表情がいいよね〜
朝1回の上映とは、もったいない気がしました
実際に谷中を訪ねると、すごいファンキーでヒッピーで
ちょっと驚きでしたわ
十兵衛役の子、ちょっと龍平っぽくてお気に入りです^^
Commented by CaeRu_noix at 2009-11-30 01:59
peridot さん♪
わーい。これ、すごくよかったですよねー。
私もすごーく気に入りまして、今年のマイベスト邦画の上位にいれたい感じですー。
全体的にはアートなつくりなんだけど、町の人たちの姿は飾り気のない純朴なもので、ホントにバランスがよかったですよね。
作りものキャラなんかじゃないおじいさん、おばあさん。そうやって生きてきた年配の方々の語りには心打たれずにはいられなくて。
すごくすてきな映画なのに朝一回上映だと観る人が限られちゃうんで本当にもったいないです。
年配の方だけをターゲットにする必要はないのになぁ・・・。
そうなんですか。実際の谷中はこんなに風流ではないんですね。
なるほど、彼はココロモチ龍平くん風味ですかね。
役者になる前は少しワルだったそうで。(ワルって?)
音楽もすんごくよかったなぁ。<ヤニック・ダジンスキー
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