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『悲しみのミルク』 La Teta Asustada - The Milk of Sorrow
2009年 12月 11日 |
「TOKYO FILMeX 2009」 にて鑑賞。

ペルーの農村。ペルーにテロが多発した時代に母親がレイプの被害にあっていて、娘ファウスタは母乳を通して感染する病を患っていた。



ベルリン映画祭金熊賞受賞作ということで楽しみにしていたペルーの女性監督作。受賞ニュースの映画紹介の一文によって母親のレイプ被害によるトラウマを描いたものだと認識していたので、重苦しいドラマであると覚悟しつつ向き合った。私はてっきりリアリズムに徹した直球の重厚な社会派映画だと思い込んでいたのだ。そして、イメージしていたものとはまるで違った詩情あふれる寓話性にグッと心を掴まれる。これはまさにそこかしこに女性的な感性がきらめいている映画で、それはもう私好みであった。同時に、自分の好みという個人的嗜好の枠の中でおさめている場合ではない、さすがの金熊賞作品と思える素晴らしい映画であった。

物語はとても抽象的。主人公の母親の背景を事前に把握していなかったら、うまく状況を理解できなかったかもしれない。だけど、そういうのはもう二の次でいいのだ。出来事をわかりやすく描写することに重きがおかれていないこと、少しも説明的ではなく、幾分ファンタジックに描かれているところが魅力なのだから。いきなりの母親の死、棺桶を運べないというエピソード。世間知らずな無垢な主人公ファウスタの姿を通して、不穏な出来事もユーモラスな風情で描写される。ファンタジックな味付けでフワフワと滑稽をもって物語られるから、逆にファウスタが抱える悲しみの重さが見るものの心に迫ってくるの。
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ジャガイモを入れることで男たちの欲望の暴力から逃れようとしていたなんて、理性的にはずいぶんと滑稽で妙なことだからこそ、それほどに怯えているのだということに胸が痛くなるの。そうすれば男たちは不気味がって手を出さないだろうなんて。男性にはわかるまいと思えるその恐怖心、その防衛姿勢をそんなふうに表現したリョサ監督の女性ならではの発想に感銘を受ける。苦悩や痛みを、「苦しい」「悲しい」という直接的な訴えで描いたりはせず、映像と音楽とで虚構の世界を作り上げることができる映画ならではの表現を存分にしているところがとにかくいいの。

壮大なるペルーの風景にも魅せられる。それを切り取るショットも素晴らしい。maplecateveさんのツイートで後に知ったのだけど、このカメラは『シルビアのいる街で』を撮った人(Natasha Braier)なんだ。エクセレントなのも納得で、映像の魅力にも釘付け。ペルーの素朴な野性味と土の香りはそのままに、西欧流の洗練をもって情景が紡がれている。結婚式の場面も何とも印象的。そして、そこに重なるその土地固有の歌の響きの素晴らしいこと。ファウスタ役のマガリ・ソリエルは歌手であったらしい。見覚えのある顔だと思ったら、3年前のスペイン・ラテンアメリカ映画祭で観たリョサ監督の処女作『マデイヌサ』(Made in usa)の主演も彼女だったのだよね。『マデイヌサ』も心に残る映画であった。そして、『悲しみのミルク』はそれ以上に私の心に残り続けるだろう。2作目でこんなにも魅力ある映画を作った76年生まれのクラウディア・リョサのセンスに脱帽。

監督:クラウディア・リョサ(Claudia Llosa)
出演:マガリ・ソリエル(Magaly Solier)、スシ・サンチェス、マリア・デル・ピラル・ゲレロ、エフライン・ソリス
 ベルリン国際映画祭金熊賞・国際批評家連盟賞
 第24回グアダラハラ国際映画祭イベロアメリカ部門最優秀作品賞
 アカデミー賞外国語映画賞ペルー代表作


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by CaeRu_noix | 2009-12-11 06:30 | CINEMAレヴュー | Trackback(8) | Comments(7)
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Tracked from アグイジェ.net at 2011-02-22 00:47
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Tracked from 映画感想 * FRAGILE at 2011-04-02 23:44
タイトル : 悲しみのミルク(LA TETA ASUSTADA)/母か..
悲しみのミルクLA TETA ASUSTADA/THE MILK OF SORROW/2008年/ペルー/クラウディア・リョサ恐乳病の少女は、自分の中にジャガイモを入れました。 1964年に結成された革命集団「センデロ・ルミノソ(輝く道)」。毛沢東主義を奉じ、その残虐さから「南米のポル・ポト」と呼ばれました。1980年代に武装闘争を開始、1993年にアルベルト・フジモリが鎮圧するまで、ペルーの農村を拠点にテロ活動を行いました。 ファウスタ(マガリ・ソリエル)は、テロリストにより陵辱され...... more
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Commented by maplecat-eve at 2009-12-14 04:49 x
はじめまして。「じゃがいも」ですか。ゾクゾクします。レビューを読んで『悲しみのミルク』を尚更見たくなりました。クラウディア・リョサの前作って上映されていたのですね。
Commented by CaeRu_noix at 2009-12-14 07:16
maplecat-eve さん♪
コメントありがとうございます。
maplecat-eve さんのブログはいつも読ませていただいてます。
ホセ=ルイス・ゲリンについてのことなども印象深く。
クレール・ドゥニをご覧になっていいなぁって指をくわえてみたり。

よりによってじゃがいもなんですよ。ゾクゾクです。
ホントに素晴らしい映画だったので、機会ありましたら是非ご覧になっていただきたいです。
そうなんです。前作も映画祭で上映されているんですよね。
ネットで検索して、たまたま自分が観ていたものだと知り嬉しかったのでした。
スペイン・ラテンアメリカ映画祭は、世界の映画祭で賞を取った秀作をわりと取り上げてくれるのがいいです。
Commented by at 2011-04-12 12:17 x
ようやく見ました。素晴らしい映画ですね。かえるさんおっしゃるように、「不穏な出来事もユーモラスな風情で」、しかも女性にしか描けないような物語と映像で。先日見た『ブンミおじさんの森』にもぶちのめされましたけど、この映画もすごい。歌がまた素敵で。ファウスタの歌も結婚式のチープで陽気な音楽も。CDを探したのですが、残念ながら出てないようですね。
Commented by CaeRu_noix at 2011-04-13 00:20
雄 さん♪
素晴らしい映画ですよね!
ペルーに行ってきた自分なので、もう一度観に行く予定ですー。
ペルーの現地ガイドさんがフジモリ大統領以前、テロリストが怖くて街もあるけない治安の悪さだったことをしみじみ語ってくれたりで、この映画の中で描かれていた恐怖した状況をスッとイメージできた感じで。
大統領選にフジモリ娘が出ているんですよねー。
街を平和にしてくれたフジモリ支持者は多くて、囚われの身今でも毎日多くの人が面会にきて、品物が届けられるそうです。
女たちにこんな恐怖をうえつけた世の中をかえてくれたなら、信奉者がいて当然だよなーって思ったり。
あ、ここはフジモリのムスメじゃなくて、リョサの姪の話。
ノーベル文学賞作家の姪というのも納得の知性と感性が感じられる芸術品でしたよねー。
CDなかったですかー、残念。本当に歌も味わい深くて。
スペシャルに好みな映画だったんですが、雄さんにも素晴らしいという評価をいただき嬉しいです。
Commented by rose_chocolat at 2011-04-23 16:11 x
観てきました。
庭師さんがよかったですよね。
どちらかというとペルーの方たちは押し出しが強い国民性なのかな? と
映像を見ていて思ったんだけど(実際に行ったかえるさんの感想が聞きたいわ)、
この庭師さんは一線を画していて、そこがファウスタにも響いたんでしょうね。
Commented by CaeRu_noix at 2011-04-24 17:52
rose_chocolat さん♪
めったにお目にかかる機会のないペルーな映画、ご覧いただき嬉しいですー。
ラテンの人はどちらかというと、アグレッシブな感じがしますよね。
私はしがない観光客だったので、接した人は皆普通に穏やかに親切でしたけどー。
庭師さん、なんとなく記憶にありますー。
そういう存在が大事。
全部を思い出すべく、近いうちの再見しますー。
結婚式のシーンとかホント素敵でしたー。
今日はブラジルな映画を観ました。
Commented by いちご at 2012-10-06 02:18 x
このブログとてもいいです。コメントも面白かったですね。パワーフルな映画でした。
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