かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
latchodrom.exblog.jp
(映画を見るのにいそがしくてブログはもう)
Top
『倫敦から来た男』 A Londoni férfi
2009年 12月 24日 |
洋画不況・アート映画ピンチの今なのに、今だから、ハンガリーの鬼才が作り上げた怪しき美しき映像をスクリーン体験できることが至福。

鉄道員のマロワンは、ある夜、偶然に殺人現場を目撃した。



そういえば当初は、映像はカラーが当たり前というところから入ったので、たまに観るモノクロの映画には集中しづらくて少し苦手だった。けれどいつの頃からか、ヴェンダースやジャームッシュのお陰が、モノクローム映像の味わいに強く惹かれるようになった。正直言って今も、カラーがなかったからモノクロで撮られたに過ぎない時代のクラシック映画の映像の質感はあまり好みではなくて、フィルムの劣化もあってか眠くなりがちな傾向にあるのだけど。技術の進歩があって、卓越した美しいモノクロ映像を撮ることが可能になった今、カラーがスタンダードなのにあえて選ばれるモノクロームという表現手法には、たまらなく魅了されるのであった。

そんなわけでタル・ベーラの映画を劇場体験できるなんて最高だ。これこそは私の求めているモノクローム映像の一つ。光と影があまりにも素晴らしくて、静かな画面に目が釘付けになる。クラシックの名作にスクリーンで対面すると睡魔に襲われがちだというのに、タル・ベーラの作る21世紀のモノクロ世界はむしろ私を覚醒させてくれるのだった。確かに覚醒しながらも、夢の中の体験のような不思議な感覚がもたらされる。クールな落ち着きが魅力のフィルム・ノワールと呼ばれる映画でも、生身の人間を描けばやっぱりどうしたってガチャガチャ慌ただしくなってしまうのが常なのだけど、ここにはこの世のものとは思えない幻想性の漂う独特の世界が築き上げられている。

タル・ベーラならではの、とてつもない長回しに息を飲む。冷徹なまなざしで距離感を持って主人公を見据えているカメラに虜になる。こんなに完璧な雰囲気の港は見たことがない。路地のたたずまいにも魅せられる。彼が目にして気分を害した、娘が掃除をする姿が外から映し出されるモップがけをする姿もたまらなく印象的。何の変哲もない日常的な行為がこんなにも奇妙で幻想的な香りをもってしまうのだから。この世界に夢中にならずにはいられない。『ヴェルクマイスター・ハーモニー』でも店内空間でくるくる回るなダンスシーンのようなものがやたらに面白かったのだけど、本作でも酒場の一角で繰り広げられるアコーディオン演奏に合わせたヘンテコな踊りのシークエンスも見どころ。憂いのメロディは芸術的に美しいからこそ、奇妙さが際立つ。当然のようにこんな饗宴場面を挿し込むそのセンスが大好きだ。

コルシカに作られたセットなんだって。世界中が『アバター』に歓喜する今だからこそ、タル・べーラのような映像作家が頑固一徹にこういうのをまた作り上げてくれたことはしみじみと嬉しい。『サタンタンゴ』が観てみたいのですが。
[PR]
by CaeRu_noix | 2009-12-24 07:22 | CINEMAレヴュー | Trackback(3) | Comments(6)
トラックバックURL : http://latchodrom.exblog.jp/tb/10589928
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Tracked from LOVE Cinemas.. at 2009-12-24 21:05
タイトル : 倫敦から来た男
2007年のハンガリー映画。『ヴェルクマイスター・ハーモニー』から7年ぶりにタル・ベーラ監督が送るサスペンスドラマだ。主演はミロスラヴ・クロボット。共演に最近では『バーン・アフター・リーディング』や『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』が記憶に新しいティルダ・スウィントン。偶然にも殺人を目撃し、大金を手にしたことで大きく運命が変わった鉄道員を描いている。タル・ベール監督の独特の手法に注目だ。... more
Tracked from Mani_Mani at 2010-01-16 02:07
タイトル : 「倫敦から来た男」タル・ベーラ
倫敦から来た男 2007ハンガリー/ドイツ/フランス 監督:タル・ベーラ 脚本:クラスナホルカイ・ラースロー、タル・ベーラ 出演:ミロスラヴ・クロボット、ティルダ・スウィントン、ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ、レーナールト・イシュトヴァーン ほか 不覚にも前半うとうと寝ちまって左右の人のほうに傾いたりして迷惑をかけたと思う。いびきもちょっとかいたかもしれん。 これはワタシの体調のせいなのだが、原因の一部をこの映画に帰する誘惑を禁じえず。つまらないということではなく(ワタシの場合つまらない映画と...... more
Tracked from ヨーロッパ映画を観よう! at 2010-01-22 00:44
タイトル : 「倫敦から来た男」
「A Londoni férfi」...aka「L'Homme de Londres」「The Man from London」2007 ハンガリー/ドイツ/フランス マロワンにミロスラヴ・クロボット。 マダム・マロワンに「フィクサー/2007」「バーン・アフター・リーディング/2008」「ベンジャミン・バトン 数奇な人生/2008」「リミッツ・オブ・コントロール/2009」のティルダ・スウィントン。 娘アンリエッタにボーク・エリカ。 ブラウンにデルジ・ヤーノシュ。 刑事にレーナールト・...... more
Commented by KLY at 2009-12-24 21:11 x
光と影の織り成す幻想的な光景はモノクロならではでしたね。驚異的な長まわしは、監督と役者の勝負の場でもあるのかなと感じました。日本のタレントもどきでは即座に馬脚を現すでしょうし。
アート系はお客さん入らないですからね。私はある意味仕方ないと思ってます。妥協しなきゃお客さん入らない事実は曲がらないですし。ぶっちゃけ既存の映画上映のスキームに組み込むのはもう無理があるんだと思います。絵画における画廊みたいなものが出来ないとだめなのかも。
Commented by CaeRu_noix at 2009-12-25 12:40
KLYさん♪
光と影が美しくて夜の存在に強く心掴まれました。こんな長まわしを愛しすぎちゃうとハリウッドエンタメの小刻みなカットについていけなくなったり。
本作は徹底的なアート系の割にはお客が入っていた印象でタル・ベーラは人気あるんだなと。
お客が入る入らないそのものは私の問題でもないけれど、お客が入らないために日本でアート映画が配給されなくなるというのが悲しくて。KLYさんのお好きなシャルロット主演のAntichristなんかも未定なわけですよ。公開される映画を見て行くのみという映画ファンの方々には共感してもらいにくいことでしょうが、カンヌ映画祭コンペ出品作すら観ることができないなんて発狂ものっす。
Commented by KLY at 2009-12-25 19:30 x
同感ですよ。仕方ないとうのは諦めてるという意味でもあります。カンヌで女優賞とっても日本では大して話題にもならず公開もない。実際私はブログでハリウッド映画も邦画もアート系も拘りなく満遍なく上げていますが、アート系作品は極端にアクセス数少ないです。で、結局それが現実なんだなと。特に素晴らしい作品で多くの方に観てもらいたい!って心底思っても、間違いなく『ウルルの森』の方がお客さんはいるこの事実。ほんと、そのうち共同馬主みたいにお金出し合ってフィルム買う時代が来そうで怖いです。
Commented by CaeRu_noix at 2009-12-26 12:50
KLYさん♪
再びありがとうございます。アクセス数というのは基本的には、観た人の数に比例し、つまり上映館数の数に比例すると思うので、シネコンものより単館ものは少なくて当然ですよね。
私の認識(偏見)では『倫敦』を観る人は普通『スノープリンス』などは観ないもので、『スノー』を観る人は微塵もタルベーラに興味なんてないものと思っていたのですが、その両方をご覧になるKLYさんはとても柔軟ですよね。どうかそっち側からこちらへの架け橋になってくださ~い。
配給事情は本当に寂しいもので私は映画祭や特集上映に期待するばかり・・
Commented by templeclub at 2009-12-26 19:25 x
7時間ぐらいあるらしい「サタンタンゴ」は、多分絶対日本公開は無いでしょうから、ネットでヨーロッパから購入しようと思い、調べたところ、分厚いボックス入りDVDで「倫敦~」と「ヴェルグマイスター、、」もセットのようでした。
カントリーコード指定のDVDで、PAL仕様だから、購入には勇気が要りますな。
カンヌ映画祭は、2回ほど行きましたが、ホテルも航空運賃もこの時期だけバカ高いので、最近は「河北新報」の「海外映画祭レポート」で我慢しています。
Commented by CaeRu_noix at 2009-12-27 08:49
templeclub さん♪
サタンタンゴ、観たいですよねー。
DVDはBOXのみなんですかー。それは勇気がいりますね。
DVDで450分鑑賞に耐えられる自身もない私。
上映の機会はないですかねぇ。せいぜいでもアテネフランセなどかなぁ。
他にも監督作は結構あるんですよね。日本で2本目が公開されたのを機に他の旧作も取り上げられたらウレシイのですが。
カンヌ映画祭に行かれたことがあるなんてステキです。
確かにその界隈のホテルは高そうですが、運賃もあがっちゃうんですか。
私もお祭りの様子を知るのはネット上でのメディアのレポートで充分なので、とにかく映画祭で上映された映画のより多くを観る機会を得たいと切に願うのであります。
<< 12月23、26日の公開映画ち... PageTop 『ジュリー&ジュリア』 >>
XML | ATOM

個人情報保護
情報取得について
免責事項
Beige Shade by Sun&Moon