かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『ずっとあなたを愛してる』 Il y a longtemps que je t'aime
2010年 01月 13日 |
初監督作とは思えない確かな手応え。涙に枯れて、穏やかな感銘に包まれる。

15年の刑期を終えたジュリエットは妹レアの家庭に身を寄せる。



エリック・ロメールの訃報に哀悼の意を捧げながら、本作の会食のシーンにロメール談議が登場したことを思い出す。フランス人というものは、こんなふうに常々食事をしながらでもそんな議論を交わしているのだろうか。もちろんそれはフランス人すべてに当てはまることではないのだけど、そんな固有名詞に私の好きなフランス映画たるものを思う。クロサワやロメールの名前の登場に胸を踊らせつつ、馴染みのフランス映画の肌触りに心地さを覚える。

フランス映画と括ってはみるけれど、監督は本作で映画監督デビューを果たした作家のフィリップ・クローデル。それが、これまで何本も撮ってきた監督の映画のように、安定感をもって心に染みてくる良質な映画であった。文章を書くことを生業としていた人が映像を撮る機会を得たからと、奇抜に実験的なものを取り入れるわけでもなく、飾り立てることなく落ち着いた語り口で、丁寧に極め細やかに物語を紡ぐ。そう、まるで小説のように静かで細やかな描写なのだ。でも、これは自作の小説を映画にしたのではなく、初めから映画のために書かれたシナリオなのだそう。冒頭のクリスティン・スコット・トーマスの表情と佇まいだけで、観客はその背景を理解し、ググッと主人公に心寄り添ってしまうのだ、一瞬にして。随所に見える文学についての問いかけも興味深く、小説のような丁寧な描写でありながら、女優たちの素晴らしさが光る、着実な演出の確かなる映画なのだった。

15年の刑期を終えた後の物語。長い間刑務所で暮らしていた中年女性が妹のところに身を寄せる。そこにどんな物語が生まれるのかなんて、おおよその見当はついていた。世間はどのように彼女に冷たく、彼女はどんなに居心地を悪さを感じ、どんな問題が起きて、やがてどんな風に着地するかなんてのは、鑑賞前からなんとなくイメージできていたことだった。そして、多くのことが予想通りでありながら、そんな大凡のイメージには何の意味もなかったことに打ちのめされる。多くのことを理解し、察してるつもりになっている自分。想像力を働かせたつもりでも、そこに生まれるイメージはとても曖昧でぼんやりしたものに過ぎない。ジュリエットの痛みはジュリエットにしかわからない。もちろん、私はジュリエット自身ではないけれど。映画は限りなく、私をジュリエットに同化させてくれるのだ。

犯罪者糾弾が手厳しい世間に住む日本人などには、人々が犯罪者のその後の心情に思いを寄せる機会などがないのじゃないかということも思った。法律上は15年の刑期を終えたことで罪を償ったはずなのだけど、社会においては一度貼られたレッテルを剥がすことはこんなにも難しいのだ。その罪も消えることはないし、償うために費やした15年もそのまま重くのしかかっていて、再出発はおよそ簡単なことではない。それでも一歩一歩、苦痛の日々の中に温かなものに出会い、絶望の中に一筋の光を見い出して、ゆるやかにゆるやかにもう一度、生きることを取り戻そうとしていくジュリエット。複雑な思いを抱きながらも、まごころをもって姉を支えるレア。辛く切ない場面も多かったからこそ、柔らかなものに包まれる瞬間がとても愛しいの。ピアノの連弾のシーンが心に染みる。男女間で使われる愛という言葉より確かなもの。

人と人の関係性の物語としても素晴らしく。私は、犯罪者という境遇に限ったものでなく、もう少し普遍的に、生きるうえで大切なものや、生きるとはそもそも何なのかということにたびたび感じいってしまったな。そんな風に深い味わいをもたらしてくれた。
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by CaeRu_noix | 2010-01-13 12:30 | CINEMAレヴュー | Comments(16)
Commented by mi10kuma at 2010-01-13 21:14
かえるさん、またもやこの邦題で男女の恋愛ものかあってスルーする所でした!ありがとう。バウスシアターに来たら観ようと思います。
「BOY A」と共通するテーマなのですね。
Commented by CaeRu_noix at 2010-01-14 01:16
シリキさん♪
そうなんですよ。この邦題は陳腐な響きですよね。
実際は、原題自体もそういう感じのタイトルなんですが、日本語の愛してるという言葉はどうにもこうにも陳腐ですよね・・・。
でも、実は、大人向けの素晴らしい映画ですので、おすすめです。
テーマの核は「Boy A」とは違いのですけど、状況的にはかぶるものがありますね。
バウスでやるんですかー。
私は先週バウスに行きました。吉祥寺って、伊勢丹閉店でLONLONもなくなるんですか?
Commented by rose_chocolat at 2010-01-14 10:31 x
かえるさんこんにちは。 お久しぶりですね。

>文章を書くことを生業としていた人が映像を撮る機会を得たからと、奇抜に実験的なものを取り入れるわけでもなく、

私も、フィリップ・クローデル氏の、その目線の映画製作がよいと思いました。 得てしてこのような経緯で監督になるような方ですと、ご自分だけの世界を延々とスクリーンに流すこともありがちなのですが、本作は緻密といってもいいくらい丁寧に描かれていましたね。 
恐らく監督は、ミシェルに自身を投影なさっていると思うので、できるだけご自身が感じたことのニュアンスを大切にしたかったのではないでしょうか。 それが素敵な映画になったように思います。
Commented by CaeRu_noix at 2010-01-14 23:55
rose_chocolat さん♪
お久しぶりなところ、ありがとうございますー。
クローデル氏の聡明さが感じ取れましたよね。
作家ならではの細やか丁寧な人物描写がされつつ、だけど決して説明的な描写、台詞なんかに寄りかかりすぎず、俳優の表情やら、ちょっとした空気感なんかを大切にしていて見事でした。
堅実で、バランスのよく、優れた表現をしてくれたなーってつくづく感心。

後で知ったのですけど、クローデル氏自身に刑務所で教えた経験があるそうで。
私は、ミシェルのあの台詞、刑務所で教えていた時、自分と彼らの立場が逆転してもおかしくないんじゃないか・・・と感じたいうようなことを言った時、なんかものすごく共感して、心うたれたんですよ。
それもそのはず、クローデル自身が経験して感じたのであろうリアルな思いだったからなんですねー。
本物だから、胸をうつのだとしみじみ納得。
妹のベトナムの娘ちゃんはクローデル自身の娘さんだというから、これまたステキですよね。
これまで書いてきた小説以上に、自身を投影して作った映画ということになるみたいですね。
ホント、だからこそ、沁みました。
著作も読みたくなってしまいました。
Commented by mi10kuma at 2010-01-15 00:12
かえるさん。
吉祥寺はどんどん寂しくなってるんですよー。立川にお客をとられてしまい。さすがにロンロンはなくなる事ないと思いますが。10代から今まで映画といえば、まずはこの街で観るのが基本だったし、大好きな街です。バウスは今のビルになる前の天井むき出しの古さが風情があって好きでしたね。
Commented by CaeRu_noix at 2010-01-15 01:30
シリキさん♪
おフランス映画の記事のコメ欄で吉祥寺話をするのは本意ではないのですが(笑)。
そうか、立川の発展が関係していたんですね。
ただ栄えていればいいってもんじゃなくて、吉祥寺の味わいは格別なのに。
下北なんかの面白さに近いものがある感じ。
今はたまーにバウスシアターに出かけるのみですが、中央線に住んでたことが合計4年程はあったので私も吉祥寺には馴染んでいました。
といっても、ヨドバシカメラがあったことをついこないだ知ったり・・・。
吉祥寺好きなシリキさんにはぜひ『ライブテープ』を観てほしいのですが、レイトショーなのがアレですよね。
あ、ロンロンは一応おしまいになるそうで、「アトレ吉祥寺」として2010年4月にリニューアルオープンするのだとか。
Commented by cinema_61 at 2010-01-20 20:54 x
こんばんはかえるさん。
今日、見て来ました!
やはりフランス映画はいいですね~
見る者の想像力を掻き立て、深い余韻に浸らせてくれます。(最後の歌がとってもステキ!)
そして何と言ってもクリシティン・スコット・トーマスの演技が・・・・・・
歳をとって皺が目立つけど、哀しみをたたえた瞳にはひきつけられます。
この「邦題」は何とかなりませんかね~みんな勘違いしそう。
でも、今日は満席(1回目)でした!
Commented by mi10kuma at 2010-01-20 22:31
観てきました。うーん、やはり味わいがフランス映画なんですなあ。監督の深い知性が犯罪を題材にしてはいるけど、もっと広い意味での「判り合える」希望をテーマにしているのでしょうね。作品としては色々と思う所もあったけど感動しました!
Commented by CaeRu_noix at 2010-01-21 00:05
cinema_61 さん♪
ご覧になりましたかー。
やはりフランス映画はいいですよー。
本作は説明的ではなく、観客の想像に委ねる部分は多いけれど、決して不親切で難解というんではなく、容易にその背景や登場人物の心情を汲み取ることができるようになってるんですよね。
その感じがとてもほどよくて。
そうそう、エンドロールの歌もしみるものでした。
KSTの演技は各賞で女優賞ノミネートも納得の素晴らしいものでしたよね。
冒頭こそ、出所したてで年をとってやつれた感じがあるんですが、基本的に美しい人なので、たびたびその表情に打たれましたよねー。
邦題の響きは、ホントに残念なものがあります。
冬彦さんを思い出しちゃいますしね。w
よく知らない人は恋愛ものだと思っちゃいますよねー。
せっかくのステキな映画なので、タイトルで人を遠ざけることなく、多くの人にご覧になっていただきたーい。
Commented by CaeRu_noix at 2010-01-21 00:10
シリキ さん♪
早速ご覧いただきありがとうございます。
フランス映画らしい味わいでしたよね。
『Boy A』的なテーマとはやはりちょっと違うんですよね。
実際のところ、赤の他人の世間の目はあちらもこちらも変わらないのだけど、家族という近しい存在と理解者が、彼女の支えに成り得るという希望がこちらにはありましたよね。
そこに安易に行きついたわけじゃなく、決裂しそうになりながらもそれでも、、、っていう感じの物語だったのがよかったです。
分かりあえなさもちゃんと描いているからこそ、それでもの結びつきには大いに感動しましたー。
Commented by margot2005 at 2010-01-22 00:42
かえるさん、こちらこそ今頃ですが今年もよろしくで、今年もヨーロッパ映画をたくさん観ましょう!
さてお亡くなりになった巨匠エリック・ロメールの映画語られてましたね。ロメール映画はあまり観てないのでこれから観ていきたいですね。
K.S.トーマスは影のある役上手いですね。
静かに進行する素晴らしいドラマで気に入りました。
Commented by CaeRu_noix at 2010-01-23 02:52
margot さん♪
よーろっぱ映画を観まくりましょうー。
ミニシアター系冬の時代ではありますが、それでも今年も素晴らしき映画の公開予定が目白押しで。
エリック・ロメールの訃報は悲しかったですー。
自分は、"ヌーヴェルヴァーグ"とは何ぞやということを認識するよりも先に、レンタルショップで借りたロメール映画を観る方が先で、ヌの字も知らないうちから、エリック・ロメールの名前を愛していた感じなのです。
アメリカなんかでは、男はイーストウッド的に、スコセッシ的に、骨太なドンパチのある映画を撮るのが王道って感じですが、おフランスではおじいちゃんになっちゃった巨匠が男女のウダウダ物語を撮り続けちゃうわけで、そういうところが大好き。

KSTは素晴らしいですよね。
フランス映画の中でこんなによい演技を見せてくれたことが嬉しかったです。
不倫妻役ばっかりふられるかKSTでしたが、それらとは一線を画すよい役だったと思います。
フランス映画の語り口、トーンは本当に好みですー。
Commented by ぺろんぱ at 2010-02-14 21:10 x
観て来ました。

>もう少し普遍的に、生きるうえで大切な

何らかの「喪失」を体験した人が何人か出てきたので、私もそう
感じました。

繊細なタッチでありながら手応えをしっかり感じた作品でした。
Commented by CaeRu_noix at 2010-02-15 01:05
ぺろんぱ さん♪
ようやくそちらで上映なんですね。
そして、本作がかかっていた銀座の劇場ではカラヴァッジョが始まり。

本作はフランス映画らしく、多くが説明的ではなくて、観た人それぞれいろんな受け止め方ができる感じですよね。
例えば、犯罪者であった者の物語、姉妹の物語等、限られた範囲でそこにあるテーマを汲み取ることも可能だと思うのですが、私にとっては限定的でない事柄、人間が生きる上で大切なものとは何なのか、を描いた映画としてとても心に響いたのですよ。
ぺろんぱさんもそのように感じてもらえて嬉しいです。
それぞれの喪失/喪失感に、共感したり、胸をしめつけられたりしましたよね。
そのポッカリあいた穴を完全に塞ぐことは難しいのだろうけど、希望がもてる温かなドラマでした。
涙にくれた手応えアリの1本でした。
Commented by ヒデヨシ at 2010-05-06 13:05 x
1月に観られた映画なのに、今頃のコメントで恐縮です。最近やっと観れたもので・・・。
かえるさんが書かれているように、作家であるフィリップ・クローデル氏は、映画のことをよく分かっている人ですね。多くの説明を省略し(病気・裁判のことなど)、観客に想像させ、映像で語る。

僕もあの連弾のシーンが大好きです。問い質すことではなく、一緒に弾くこと。思い出の曲を。そして子供が踊るところがまたかわいらしい。

ラストのミシェルが寄添うように彼女と一緒に何かを見ているシーン。
向かい合うのではなく、ともにいること、同じものを見つめること。それこそが、心を閉ざした彼女にとって、必要な態度だったのでしょうね。
そんな彼女の心を潤すものとして<水>が効果的に使われていたのは文学者らしい気がしました。
Commented by CaeRu_noix at 2010-05-07 00:29
ヒデヨシ さん♪
再訪ありがとうございます。
こちらは『オーケストラ!』のような娯楽ものじゃないから、上映館も少なく、ゆっくり全国をまわっているようですね。
小説の映画化作品を観る時は、小説ではこのシーンはどういうふうに文章で表現されているんだろうと考えることが多いのですが、本作ではそういう想像をするのともまた違って、ただ、映画のために書かれた脚本の絶妙さに肯くばかりでした。
全てを語りすぎないところがいいんですよね。
観客は彼女たちの背景を知りたくてよりのめりこんでしまう。
その心の痛み・苦しみがあまりにも切実だったから、連弾のシーンは本当に胸をうたれましたよね。
(自分は、こういうさりげないシーンに心打たれ、こういうのが大好きと思っているから、時々アジアあたりの映画の激情煽り系お涙頂戴ドラマを見ると、どうしてもしらけてしまうのでしたw)
終盤の場面にしても、劇的に幸福感を描写しているわけではないのだけど、ゆるやかにささやかに希望がさす感じがよくて。
そうですね。傍らにいるよ、っていう妹の姿勢/存在が大事だったのでしょうね。
とてもいいバランスで考えさせられつつ、心に染み入る物語でした。
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