かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『抱擁のかけら』 Los Abrazos Rotos
2010年 02月 19日 |
ドロドロ鮮やかフルーティで。舌鼓

2008年、盲目の脚本家のハリー・ケインは新聞記事で実業家のエルネストが亡くなった事を知る。



ゲイのペドロ・アルモドヴァルが唯一ペネロペには欲望を感じちゃった発言には興味を持たずにはいられなかったよね。アメリカでラジー賞ノミネートされた過去は、その女優の演技力がどうこうという話ではなく、この世界には女優を輝かせることのできる映画監督とそうでない映画監督がいるという事実を浮き彫りにするだけなのだ。アルモドヴァルという監督が前者であるということは歴然としている。そして本作は、ペドロ・アルモドヴァルが女優ペネロペ・クルスを輝かせ、マテオ・/ハリーはレナを輝かせる、その二重構造がなんともオツなのだ。

アルモドヴァルの分身ともいえる、ワケありの過去をもった脚本家ハリーが主人公という設定にすぐさま引き込まれる。目が見えないという境遇からしてとてもアルモドヴァル的なんだもの。彼はどんな過去を背負っているのか、ミューズ・ペネロペはいったいどんな風に絡んでこのドラマを燃え立たせてくれるのかという興味に引っ張られ、過去の物語が紐解かれていくたびに心は沸き立つ。薄れることなき魅惑のミステリーを最後まで堪能、中味がギッシリつまった濃厚なドラマをがっつりと楽しめた。

それでいて、期待値が高いこともあって、終わってみると一抹の物足りなさをも感じたことも事実。この感触は『バッド・エデュケーション』を観た時に似ているなと思い当たる。プロットに引き込まれ、見ごたえと面白さという点では大いに満喫したのだけど、私はどうしても彼の映画に心震える感銘を求めてしまうようだ。独特のディテールと語り口によって、ありきたりなヒューマンドラマとはひと味もふた味も違った、善悪の垣根を超越した奇妙で複雑な深い感慨を。そういうクラクラするような感銘を得られなかったので、ドロドロとした濃密な映画でありながら、ガスパチョのようなサッパリとした味わいが残った。

心の奥底に響く何かがなかったのは、主人公の誰かしらに思いきり、同化したり感情移入したりすることがなかったことも原因の一つかもしれない。レネとマテオの燃え上がる恋というのがどうも好みじゃなかった気がしたな。(障害のある恋ならば、『エレジー』の方がその思いにハマれた。)その生き方を否定はしないけれど、金持ちジジイの愛人になってしまう彼女にも引っ掛かりがあったのかな。冒頭の人物関係描写ががハッキリとしていなくて、初めからディエゴは息子だと思い込んでしまったのはもったいなかったし。ジュディットはステディのパートナーであったとも思い込んでいたから、マテオのことを裏切り男として眺めていたのもマズかった勘違い。思い込みを正した後は、ジュディットの思いに心動かされた。

登場人物にそれほど入れ込むことができなかったのが自分としては残念なのだけど、そういったことを抜きしたら、とにかくこのたびも円熟した巨匠の鮮やかなお手並みに感心。以前はもう少し毒々しいイメージが強かったのだけど、今回のインテリアやファッションは気品ある洗練された美しさにあふれていて、室内のショットを眺めるだけで嬉しくなったし。なんといっても、映画内映画、映画内映像の粋な使い方がステキに楽しくて。映像から読唇術で会話を盗み聞くなんてのはアルモドヴァルらしくて本当に面白い。豊かなディテールこそが映画の醍醐味。そして、『謎の鞄と女たち』が甦るシークエンスがなんて感動的であったことが。『神経衰弱〜』のことを思い出しながら、何度でも息を吹き返すことのできる映像の映画の素晴らしさを目の当たりにするのだった。


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by CaeRu_noix | 2010-02-19 13:24 | CINEMAレヴュー | Comments(4)
Commented by Nyaggy at 2010-02-25 13:05 x
かえるさん、こんにちは♪
「ドロドロとした濃密な映画でありながら、ガスパチョのようなサッパリとした味わい」
っていう表現が素敵ですね!すご~く、しっくりきます。
私も『バッド・エデュケーション』を観た時の感覚に近い気がしました。
もちろん、とかくアルモドバル好きなので、ひたすらその世界を堪能した~
っていうのも間違いないんですけど。

映画内映画は良かったですね。
『神経衰弱ギリギリの女たち』が未見なのがちょっと悔しかったけれど、
最後の終わり方も素敵でした。
Commented by CaeRu_noix at 2010-02-26 13:46
Nyaggy さん♪
確か、『神経衰弱ギリギリの女たち』にもガスパチョが出てきたのですが、それを元にしたこちらの映画内映画にもガスパチョが登場したので嬉しかったのでした。
で、一見ドロドロ濃厚なのに爽やかな後味な本作もまさにガスパチョのようじゃないかと思い当たり自己満足。
アルモは常に高水準で今回もばっちり楽しませていぢいたけど、アルモ作品マイベストの上位には食い込まずって感じかな。
私はほんとにもう『イタリア旅行』未見だったことが反省点です。
それはともかく、ペドロっちは衰えることなく円熟してくれて素晴らしい。
Commented by ヒデヨシ at 2010-06-04 16:48 x
なんかいつものような屈折や毒々しさがなかったですね。かえるさんと同じように、僕も物足りなかったです。なんか仕掛けに懲りすぎちゃったのかもなぁ。パッションよりも映画のついての映画でした。
Commented by CaeRu_noix at 2010-06-05 01:46
ヒデヨシさん♪
あら、物足りませんでしたかー。
そうなんですよね。なんか洗練されていた印象。
いつものブラックさはあるのですが、サラリとしてましたよねー。
毒々しさが前面に出ていた頃の作風がなつかしくもあります。
完成度の高い映画だったとは思うのですが、自分が求めるアルモドバル映画とはちと違ったという感じ。
映画への思いは感慨深かったですよねー。
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