かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『コトバのない冬』
2010年 03月 11日 |
白く美しく心に染み込んでいく。かまくらの中がなぜか温かいように、雪は温かい。

北海道の小さな町、由仁町で父親と二人きりで暮らしていた冬沙子。東京でモデルの仕事をしている妹が帰宅した頃、冬沙子は届け物を頼まれて行った夕張で言葉を話すことができない男性に出逢う。
俳優、渡部篤郎が監督・原案。



北海道の雄大な大地。一面に広がる雪景色。しんとした静けさ。真っ白に染まった世界を五頭の鹿毛の馬がじゃれ合うように駆ける。その光景の美しさに息を飲む。こんなきらめきの瞬間を切り取った渡部篤郎監督の感性がとても好き。ただそれだけのこと。迫力ある銃撃戦だの、衝撃のラストだの、泣ける人情ドラマだのは他の人に任せておけばよいのだ。多くの人が求めるのはそういった映画なんだろうと思いながらも、私は渋谷の喧騒を忘れ、スクリーンに映る雪の白さに心洗われるように幸福な時間を過ごす。雪景色の中の観覧車とメリーゴーランド。走るスノーモービル。そんなものたちが大好き。

台詞は控えめ。それでいて、女たちのトークは時に賑やかに盛り上がり、そのギャップについ引き込まれ、おばちゃんパワー炸裂の渡辺えりトークにも聞き入ってしまった。これが都会だったら、おばさんのおしゃべりにはうんざりしてしまうかもしれないのだけど、しんと静まる田舎町のおせっかいおばさんの存在は何だかとても温かい。『シベールの日曜日』について語ってくれるのも嬉しかった。対照的に、ほわんとしてていて口数の少ないフサコが、口のきけない彼といる時はいつもより饒舌になるのが印象的。一緒にいると安心すると感じるのって、結局黙ってきいてもらえることだったりするのかな。

この雰囲気、自然の美しさ、しんと澄み渡る空気感だけで充分なので、出会った男性は口がきけないという設定なんてむしろ私にとっては不要だったな。そういうハンディキャップを背負っているがゆえにピュアで優しい人間という図式は安っぽく感じられてしまうから。主人公の彼女がコトバなんて関係ないのかもって思ったように、コトバに寄らないかけがえのない関係性は確かにあるのだから、逆にあえてコトバをなくすこともないような気がした。はたち前後の若い女子という設定ならともかく、あるいは図々しいおばちゃん世代ならともかく、フサコ世代の大人女子が、相手が話せないというところにむしろ安心感を覚えて、自分から知り合ったばかりの男性にやけにフレンドリーなのもココロモチ歯がゆかったり。

なんて、冷静に脚本を検証したならば、不自然に感じる部分は無きにしも非ずなんだけど、この雰囲気に浸っているその時は、そんなことは大して気にならない。コトバのない冬の清らかなる静けさに耽溺するばかり。雑音、騒音いっぱいの毎日を送る私は、映画のあらすじ紹介で"平凡な生活、単調な毎日"と表現されてしまうフサコの日常を憧憬するのだった。口のきけない彼のひたむきな感じもいいのだけど、もっともグッときたのは北見敏之扮する父親の存在。男親というものは口がきけたって娘に対しては得てして寡黙。でも、いつも娘を見守り、心配しているんだっていうのが滲み出ていて、ふとした瞬間に感動させられてしまう。二人の男の寂しさが雪景色の中に溶けていく。せつないけれど美しい物語。
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by CaeRu_noix | 2010-03-11 13:00 | CINEMAレヴュー | Trackback(4) | Comments(4)
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Tracked from コトバのない冬: LOV.. at 2010-03-11 21:53
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Tracked from 佐藤秀の徒然幻視録 at 2010-03-14 10:23
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Commented by Yumi at 2010-03-11 22:18 x
こんばんは。「コトバのない冬」、とっても気になっていたんです。レビューを読ませていただいて、もう間違いなくドンピシャな気がしてきました!
Commented by CaeRu_noix at 2010-03-12 00:45
Yumi さん♪
これは気になりますよねー。
私も東京国際映画祭の紹介でその存在を知った時から、好みの香りがしていたのです。
フライヤーの写真1枚で自分の好みのものってわかっちゃいますよねー。
ユーロスペースの上映はもう昼間の二回になっていて、確か明日までなんですが・・・。
その後は横浜なんかでやるみたいです。二番館上映はあるかなぁ。
これはできればスクリーンで観ていただきたい美しい風景のある映画なのです。
ぜひぜひー
Commented by Yumi at 2010-03-13 22:44 x
観に行ってきました。やばいくらいにストライクでした。最後にキャストの名前がスクリーンに出たとき、「終らないでー!」と心の中で叫んでしまったほど。。行けてよかったです~。ありがとうございました(^^)
Commented by CaeRu_noix at 2010-03-14 00:59
Yumi さん♪
きゃー、早速ご覧頂いたなんて嬉しいですー。
うわーい、よかった。バッチリストライクだったんですねー。
こういう空気感の映画に静かに浸るのってホント幸福感があるのです。
ずっとそのまま浸り続けていたいって感じで。
そんな心地よさ、この映画のきらめきを共有できてとても嬉しいですー。
こちらこそ、ありがとうございました♪
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