かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『プレシャス』
2010年 05月 07日 |
朗らかに感動的でありながら、奥深いテーマも見えるプレシャス・ムービー。

1987年のニューヨーク、ハーレム地区。16歳の黒人少女クレアリース・'プレシャス'・ジョーンズの物語。



とてもいい映画だったね。主人公プレシャスの身に起こる出来事はあまりにも痛々しく惨いのだけど、それをお涙頂戴仕立てにせず、朗らかに謳い上げているところが素晴らしいじゃないか。最初はね、映画が始まって登場した主人公が、見苦しいほどの大でぶちゃんでおまけにかなりオバカで思い込みが激しいイタいコだったから、これはちょっと感情移入とか共感とかしにくいかもしれないなぁっていう不安がよぎったの。だけどそのオバカな思い込みや空想癖は、残酷な現実の苦痛を和らげるための無意識の防衛なんだとわかってくるにつけ、プレシャスの健気さにどんどん引き込まれていった。悲惨なことをあえて深刻に表現しない、そのユーモアあふれる語り口が本当にいいなって思った。

虐待を受ける不遇の黒人少女の物語ということで、アリス・ウォーカーの「カラー・パープル」に思考がいきあたった。そうしたら、原作小説「Push」には、プレシャスがレイン先生に教わりながら学校でその本を読むくだりがあるということも知り得る。映画にはそんなシーンはなかったように記憶しているけれど、プレシャスがレイン先生に教わりながら、自身と同じように虐待される黒人女性が主人公の物語を一生懸命読んで、何かを感じていくという過程は何ともステキじゃないか。スピルバーグが監督した映画『カラーパープル』が存在していなかったら(或いは映画化されたそのカラーパープルが原作のテーマを忠実に描いたものであったなら)、このエピソードが本作にも登場したかもしれないなぁなんてことを考えた。そして、原作者の望むように映画化されなかった「カラーパープル」を踏まえたうえで、『プレシャス』という映画が生み出されたことは大いに評価できることなんだよね。

「カラーパープル」のセリーは信仰をささえにして前に進んで行った。プレシャスの人生の一つの転機にかけがえのないものであったのは教育を授けられること。本当なら、人が人生の始まりの大切な時期に出会う肉親がよき教育者であればよいのだけれど、なかなかそうはいかないもの。それにしても、プレシャスは肉親による虐待行為という最低レベルの教育を受け続けてきたのだ。そのまま地に落ちていくしかないような不憫な境遇にありながら、自分自身と大切な存在のために人生を再出発できたのは、フリースクールでのレイン先生たちとの出会いがあったからなんだよね。「An Education」という原題の『17歳の肖像』の後に本作を鑑賞した私には、そのテーマの共通性が非常に興味深かったの。二人のティーンエイジャーの知性と生活水準はまるで異なるものなのに、道を誤るのも軌道修正も、導き叱咤してくれる人の存在次第という結実に共に感銘をうけたのだった。

そして、迷える傷だらけの主人公を救ってくれたのは女たちであるというのが象徴的なのだ。フランス映画の『女はみんな生きている』などヨーロッパ映画には、ダメ男に嫌気がさした女たちが男抜きで心を通わせてハッピーな世界を作り上げるというドラマは珍しくないと思うのだけど、アメリカ映画で女性が女性だけで幸せを切り開いていく物語というのは何やら新鮮だった。そんなわけで、「男性中心主義の終焉 (内田樹の研究室)」 を読んでなるほど納得。私がヨーロッパ映画ほどにアメリカ映画を好きになれないことの一因に、内田氏が解説するフェミニスト映画論で言われているようなことがいくらかあるのじゃないかと思っていたので、ありふれているようで新鮮さを覚えた感銘の正体が腑に落ちる。原作者と監督が同性愛者であるという立場あっての映画、という見方をする向きもあるみたいだけれど、そうやって向こう側に押しやって差別していたのではせっかくのステキな映画の味わいと存在意義が損なわれてしまうよね。ただ爽やかに感動し、その意義をかみしめよう。

レーガン時代、黒人/女性/同性愛者であることの痛みと覚醒/crisscross/ 大場正明
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by CaeRu_noix | 2010-05-07 20:33 | CINEMAレヴュー | Comments(4)
Commented by ノラネコ at 2010-05-15 00:04 x
私もカラーパープルを連想しました。
プレシャスが自我を発見してゆく物語は、様々な問題を抱えつつも希望も感じさせるのですけど、モチーフとなっている問題が100年近く前を舞台にした映画と同じで、尚且つ全く現代性を失っていないという事実にも深く考えさせられました・・・
Commented by CaeRu_noix at 2010-05-15 01:07
ノラネコ さん♪
やはりカラーパープルですよねー。
特定の神様じゃなくてもいいから、信じる心が人間を導いてくれるのだなって。
で、そうなんですよね。アメリカという国や人々の暮らしぶりは大きく変わったはずなのに、貧しい黒人家庭の女は、昔と変わらない虐げられた生き方をしていたりもするなんて、なんともショックです。
そういうことも含めて、実に意義深い題材でありましたけどね。
ただ、セリーの頃に比べたら、公的に救われる術が現代にはちゃんとあるのかなと思えるし、とにかく教育を受ける機会だけは失われていなくて、周囲の大人達もとにかくそれが大切ななことだとはわかっていて。
不遇な環境の中でもそれなりによい循環がつくられるとよいなぁって思います。
Commented by ノルウェーまだ~む at 2010-12-05 08:19 x
かえるさん、こんばんわ☆
ヨーロッパの寒波もちょっと一息、今日は気温が3度もあって!なんだか暖かい~
クリスマスムードいっぱいのハイドパークへ行ってきました。

プレシャスはそんな華やかな世界とは無縁の人生なのに、だんだんと輝きを増していくところが、実に素晴らしかったね。
愛されていることを知るって、すごい力なんだな~と思いました。
Commented by CaeRu_noix at 2010-12-05 23:00
ノルウェーまだ~む さん♪
おー、3度は十分寒そうですが、寒波がやわらいで何より。
TOKYOも12月とは思えない温かい日がしょっちゅう。
クリスマスムードのヨーロッパはステキだなぁ。
日本も商業的なスポットはこてこてクリスマスだけど、例年に比べるとそれを感じる装飾が少ないかも??

最初に彼女が登場した時は、完全に名前負けしているちょいと痛い子ちゃんに見受けられたのにあれよあれよと言う間に、名前通りのきらーん☆を体現してくれましたよねー。
この世界に絶望していた彼女が自信をもって愛を感じていく様はホントにすばらしかったー。
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