かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『ブライト・スター ~いちばん美しい恋の詩』 Bright Star
2010年 06月 20日 |
詩のように美しい映画。耽溺。

1818年、新鋭詩人ジョン・キーツは編集者である友人ブラウンのロンドン郊外ハムステッドの家に身を寄せ、隣家の長女ファニーに出会う。
(John Keats、1795年10月31日-1821年2月23日)



久しぶりのジェーン・カンピオンの長編には大満足。初め新宿武蔵野館へ出かけたのだけど、そこはDLP上映だということを受付で知り、急遽予定を変更した。フィルムで観ることにこだわりを持つほどに、自分は映像の違いを細やかに感じ取ることができるというのか。そんな前週の自問に今は肯きたい。違いをつぶさに察知できたかどうかはわからないけれど、フィルム上映に変わった銀座テアトルで鑑賞し、フィルムの質感にうっとりしてその映像美に目と心が釘付けになって事実なのだから。美術館を訪れた後の映画鑑賞となったので、右脳の働きがよくなっていたのかもしれないなどと思いつつ、感性に訴えかけてくる素晴らしいフィルムに耽溺できてよかった。緑輝く風景も窓辺の光と影も、様変わりする衣装も、映し出されるもの聴こえるもの全てが美しいのだ。

歴史上に実在した人物を描く伝記的な映画の多くは、その人となりや人間関係、起こった出来事の多くを見るものに伝えるために、エピソード盛りだくさんの慌しくもドラマティックなドラマになりがちなのだけど、画家や詩人を描いた映画がスポーツマンや政治家を主人公にしたものと同じようなトーンではいけないはずだと思う。19世紀に夭折したロマン主義の詩人ジョン・キーツのものとなれば、それは一遍の美しい詩のような映画であってほしく、その点で『ピアノ・レッスン』のジェーン・カンピオンは理想的だと感じる。現代劇をセンシティヴに描ける英語圏の女性監督はアメリカにだっているけれど、19世紀イギリスの田園風景を舞台に、しっとりとした純愛の物語を静かに詩的に紡ぐならば、カンピオンが最良ではないかな。(サリー・ポッターはもう少し情熱的でシャープかなと。)

ベン・ウィショーは詩人のイメージではなかったし、『キャンディ』でジャンキー娘に扮したアビー・コーニッシュも慎ましき時代の女性という雰囲気を持つとは思っていなかったのだけど、思いの外キャスティングは完璧なものだった。そこにジョン・キーツとファニー・ブーロンが息づいていた。本来アビーは共感しやすいタイプの女優でないと思うのに、カンピオンの演出のなせるわざなのだろうな。風景の美しさに心つかまれてそのままに、手製のドレスで暮らすその女性の暮らしに、弟と妹と連れ立って野原を歩くその姿に、すっと引き込まれて、終始ファニーの思いに胸を痛めたりときめいたり。
恋の相手は貧乏で家族がその恋愛を歓迎していないというラブストーリーとしてはベタな状況が、とてもやるせないものとして心に響いてくるのだから不思議。詩人の物語でありつつ、恋の物語は主にファニーを中心に描かれているのが大きな魅力で、女性監督の細やかな感性が発揮される極上の乙女映画。

オースティン原作ものなどはもっと賑やかなイメージがあるし、多くの人物が登場する宮廷ものも会話にあふれているのが常だけど、このイギリス時代劇は主人公たちの会話シーンがずいぶん少ない印象だった。多くを直接伝え合わない慎ましさと、自然の音につい耳を澄ましてしまう静けさこそが、この世界の特別な魅力を輝かせる要因だったと思う。しっとりと静かだから美しいものに目を止めて噛みしめることができた。愛する人を思い独り窓辺で物思いに耽るファニーのショットの崇高な輝きといったら。そして、日常会話とは違う詩にしたためられた言葉の美しさに酔いしれてしまう。書かれた詩が音読されてスクリーンのこちらの私たちに届けられる味わいは映画ならではのもの。2人の愛の純粋さに、その思いを紡ぐ詩の美しさが溶け合って、せつなさに身動きがとれなくなるほど。

English Poetry and Literature
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by CaeRu_noix | 2010-06-20 11:02 | CINEMAレヴュー | Trackback(1) | Comments(8)
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Tracked from 千の天使がバスケットボー.. at 2010-06-23 23:56
タイトル : 『ブライト・スター/いちばん美しい恋の詩(うた)』
「輝く星よ」1819年 輝く星よ その誠実なきらめきは 夜空に高く孤独を知らぬ その目は永遠の瞼を開き 受難者か隠遁僧の如く見守りつづける 世を取り巻く大地の岸を 絶えず清め 流れる水を その目はまた 山や沼を覆う 淡き初雪を見守る 永遠に誠実にして変わることなし 恋人の豊かな胸を枕にその柔らかなうねりを感じつつ目覚めよう 甘き不安の中で 静かに彼女の息づかいを聴き 永遠の生か恍惚の死を求めん わずか25歳で夭折した英国を代表するロマン派詩人のジョン・キーツJohn Keatsの「Bright ...... more
Commented by Yumi at 2010-06-20 15:16 x
こんにちは。
Bunkamuraのミュージアムに行った翌日に観ました。
映像の美しい、静かな作品でしたね。
"だるまさんが転んだ"のシーンは幸せに満ちていて、劇場内からも笑いがこぼれていました。^^
Commented by ゆるり at 2010-06-20 20:19 x
かえるさん、こんばんは。

ここのところ観たイギリスの時代物(「ヴィクトリア~」とか「ある公爵夫人~」等)は、衣装や調度品等のきらびやかさが印象に残る作品が多かった気がします。
そんな中、この作品は対照的というか、もっと精神的な部分に響くものでした。
人間が自然と一体となったような、大げさでない映像。心地よくて懐かしいような。
詩人の恋愛を描いた映画なんやから、詩的でなければ!

ファニーはアビー・コーニッシュだったんですね。
観ている時は気が付きませんでした。なんかぽっちゃりしてたし。
彼女、役の個性に溶け込むタイプなのかもしれません。
Commented by CaeRu_noix at 2010-06-20 23:40
Yumi さん♪
コメントありがとうございます。
ミュージアムって、ストラスブール美術館展でしょうか?
それもまた風景がリンクするものがありますよね。
だるまさんが転んだのシークエンスはとびっきりほほえましいものでしたよねー。
そうそう、本作は妹ちゃんの目線がとてもうまく入り込んでいたこともポイントでした。
妹ちゃんの無垢な視線が恋するふたりに絡むところがオツでした。
だるまさんころんだな遊びってユキとニナにも出てきていたので万国共通なのだなぁと思ったんですが、歴史もかなり古いのでしょうかね??
ちなみの私のイナカではだるまさん~がおかあさんのはりばこでした。
Commented by CaeRu_noix at 2010-06-21 07:46
ゆるりさん♪
そうですよねー。
イギリスの時代ものってそういうタイプが多いです。
「ある公爵夫人~」などはかなり気にいりましたけど、ドロドロな人間関係を傍目からのぞくという感じでもあって、映画への入り込み方は別物でした。
衣装や調度品の素敵さを目で楽しむことも、本作にも共通していましたが、そういったものたちが身分の象徴的なお飾りのものにとどまってなくて、慎ましやかだけど生を営む空間のものとして機能していました。
そう、自然とともに生きているという感触が素晴らしかったです。
キーツの自然の姿を繊細に詩にしたためる感性にも惚れ惚れ。
美術、衣装、撮影の美しさが物語と調和していてよかったですよねー。
そうそう、コーニッシュ嬢はぽっちゃりしてましたよね。
意外なほどにはまっていてびっくり。素晴らしいです。
Commented by 樹衣子 at 2010-06-24 00:09 x
こんばんは。
ル・シネマ系の私好みでいたく満足しました。

>DLP上映

・・・フィルム上映とどう違うのかわかりませんが、私も銀座テアトルシネマで土曜日に鑑賞しました。
映像そのものが詩でしたね。美しく、恋するファニーを見守る母親、弟、まだまだ恋にはぴんとこない妹と、家族の絆もよかったです。
ところで、銀座テアトルシネマと言えば、大きなポスターが劇場内にはってあったのにかえるさんは気がつきましたか?
ポスターで宣伝された映画は秋に上映予定だそうですが、国内では配給元が未定だったのですが、上映が決まり、私は今から待ち遠しいです。
Commented by CaeRu_noix at 2010-06-25 01:43
樹衣子 さん♪
ルシネマ系でございましたねw
ご満足いただけて何よりです。
オーケストラの大盛況ぶりに比べるとこちらの客足はそれほどでもないようで少し寂しかったりしますが、まぁこちらはポピュラーな感じではないですからね。
でもこの芸術性はわかる人にはわかる素晴らしきものかと。
ストーリーはきちんとあって詩のような文体の映画ではないのですけど、説明的ではなく行間で伝えていたりするところが詩のようでしたね。
お母さん役は『エンジェル・アット・マイ・テーブル』のケリー・フォックスというのがまた感慨深かったり。
母の心配、妹の好奇心などが交差する感じもとてもよかったですよねー。

銀座テアトルシネマの大きなポスターってなんでしょう?
劇場内に貼ってあったポスターといったら、『白いリボン』などがありましたけど、ハネケ作品を樹衣子 さんが楽しみにしているというのは違う気がするしw
なんだろう??
Commented by cinema_61 at 2010-07-02 21:07 x
こんばんは。
今日、ル・シネマで観てきました。
ジェーン・カンピオン監督の「ピアノレッスン」大好きですので、期待して・・・・。
音楽と映像のコラボがステキで十分満足できました!
切ない恋に涙が出て、エンドロール中のキーツの詩に感動し、この映画の世界に耽溺できました。
ベン・ウィショーは私のタイプですぅ~
Commented by CaeRu_noix at 2010-07-03 00:14
cinema_61 さん♪
ルシネマでご覧になりましたかー。
そういえば、bunkamuraは来年改装のためにしばらく閉館するんですよね。
その間、ルシネマな映画の上映が減ってしまうなんて悲しいなと。
ジェーン・カンピオンといえば、劇場鑑賞必須ですよね。
なのに、上映回数がもう減ってしまうほどに人気無いのかな??
でも、これはわかる人にはわかる。美しく味わい深い映画でしたよねー。
音楽がまたよかったですよね。映像にぴったりハマってました。
貧乏と病気で好きな人と結ばれないなんてー。
そんな純粋な世界、思いのほかうたれてしまいましたよね。
そうなんです。エンドロールの詩もよかったですー。
余韻が残る幕でした。私も耽溺。
ベン・ウィショー、素晴らしいですよねー。
みるまえは詩人タイプに思えなかったですが、見事に繊細な青年でありました。
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