かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『ミックマック』 Micmacs à tire-larigot
2010年 09月 10日 |
不滅のエスプリ。美とへんてこは共存するのだ。

レンタルビデオ店に勤めるバジルはある日発砲事件に巻き込まれ、頭の中に銃弾が残ったまま、家も仕事も失ってしまう。



フランス映画祭で観られなかったジャン=ピエール・ジュネの新作を心待ちにしていたよ。『アメリ』はポピュラーに大ヒットしたので、アメリ大好きってむやみには言わなくなった私だけど、『デリカテッセン』の時から変わらず、ジュネ・ワールドがたまらなく好きなのだ。、ミックマックというタイトルの弾む語感から"らしさ"いっぱいで好感度大なんだけど、それはイタズラを表す言葉なんだってね。(さっそくマクドナルドのカウンターで「ミックマック!」って言ってみたくなるよね。ビッグマックは食べたくないから言わないけどね。)イタズラゴコロに満ちたジュネ映画の楽しさったら。

イタズラ行為の主体は子どもであることが一般的なのに、このたびは20代女子アメリちゃんどころではない、いい歳したオッサンオバサンたちが子どものようにエネルギッシュにミッションを展開するのだ。ジャンル分けが徹底されるハリウッド映画においては、ファンタジー・アドベンチャーだったら主演はピュアな少年少女になろうし、大人主人公ならクールに立ちまわるヒーロー・アクションものに、へんてこな仲間たちが主役ならばコメディにくくられてしまうのだけど。ヨーロッパ映画・フランス映画はそんなパターンにとらわれないところが魅力。現代社会の問題をシビアに題材に用いながらも、ユーモアがめいっぱいあふれていて、ジュネの構築した奇妙で美しい景色が広がり、そこはまるでおとぎの世界のようなの。こういうアプローチをアニメではなく、実写で見せてくれるのがいいんだってば。

おかしなおかしな仲間たちのキャラクター造形がやっぱり最高。パトリス・ルコントの『ぼくの大切なともだち』でもいい味を見せてくれたダニー・ブーンが今回はそれ以上のコミカルな役どころ。野暮ったいニットにサスペンダー・ズボン姿もラブリーなほどですっかりジュネ・ワールドの住人。毎度お馴染みのドミニク・ピノンもヨランド・モローも健在。異常に体の軟らかい女キャラの登場の仕方もやたらに面白くて。こんな変な大人たちが共に暮らし、そして悪しき奴らをぶちのめすために力を合わせていざ作戦決行するなんて、その王道じゃない風変わりな感触が微笑ましくてしょうがない。作戦の工程、アイディアの一つ一つも偶然に起こった不運も、いちいちへんてこに個性的なんだもの。子どもには真似できないアダルトにしてお茶目なイタズラがそれは愉快。

コミカルな空気が充満しているのに、スクリーンに広がる画は常に妥協なく息をのむ美しさなのだ。相変わらずジュネ映画の美術は素晴らしく完璧だ。このレトロな風合いが大好きなんだよね。セピアがかったブリキの質感でごちゃごちゃした空間ほどにいい味なんだ。映像が見事なのは美術の賜物でもあるし、それを映し出す撮影がまた気持よくきまっている。思いきりローアングルで吹き抜ける風が地面の落ち葉を踊らせるなんていう描写の作り込み方にもウットリしてしまう。日本人の永田鉄男氏が私の大好きなジュネの映画のカメラマンを担うということにも興味があったのだけど、ジュネの期待に応えたに違いないグッジョブだったんじゃないかな。私の期待にもしっかりと応えてくれた。ショットは美しく、遊びをきかせてテンポよく編集されたシーンの重なり、流れも実に気持ちよいのだ。

とにかくもう私はこの映像世界が大好きなのでそこに浸っているだけで大いに幸せなんだけど、この題材とストーリー展開にはやっぱり心打たれてしまったな。世界中で多くの人々の生命を奪い、傷つける紛争の原因はとても複雑で限定することはできないだろうけれど。一部の人間が利益を得ることが目的のビジネスのために、高度な技術によって武器兵器が量産され続けていることで、その被害は止めどないというのもひとつの事実だと思っているから。地雷で足を失ってしまう罪もない子どもたちがいるということを思い出すにつけ、ぶちのめす相手が兵器製造会社のトップという設定であることに胸がすくのだ。真面目な顔して力んで社会問題を訴えるというのではなく、重要なテーマをしなやかに織り込み、あくまでもファンタジックにユーモラスにいつものジュネ映画を堪能させてくれるところが大好き。
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by CaeRu_noix | 2010-09-10 23:53 | CINEMAレヴュー | Comments(4)
Commented by rose_chocolat at 2010-09-30 05:14 x
どうもです。 
私も今年のFFFの初日と最終日は行けなかったので、『パリ20区』と同等楽しみでした。
この映像の美しさですよね。 これで煙に巻くのかと思いきや、
メッセージはさりげなくちゃんと伝えているところが憎いです。
あの、軟体の彼女は、本当にできちゃうんでしょうね。これもすごい(笑)
Commented by CaeRu_noix at 2010-10-01 00:34
rose_chocolat さん♪
そうそう、フランス映画祭のオープニングということで、ジュネふぁんの私としては生ジュネのお話を聞きたいという気持ちもあったのですが、休暇取得するならまとめ鑑賞できる日ということで、本作の先取り鑑賞の機会は見送っちゃったのですよねぇ。というわけでお待ちかねでしたー
ジュネの映像は本当に大好きで、これをスクリーンで観られるだけでとっても幸せだったのだけど、ビジュアルオンリーじゃなくて、軽やかかつしっかりと真摯なテーマが追求されていたので大感激でしたー。
軟体な彼女はCGとかではなかったですですよね??オモシロすぎ、素晴らしすぎー。
Commented by ノラネコ at 2010-10-01 23:19 x
ジェネの映画にしては、風刺部分に捻りがなくて、ちょっと薄味に感じました。
まあスラップスティックコメディとしては十分に面白かったですけど。
永田鉄男の仕事が素晴らしく、印象的なビジュアルになっていました。
確かに彼の日本での作品を見ても、ジェネのテイストに近いものを感じます。
Commented by CaeRu_noix at 2010-10-03 01:12
ノラネコ さん♪
お久しぶりでーす。
こないだとらねこさんにゾートロープに連れて行ってもらいましたよ。
そうですか。私は武器商人をやっつけろっていう軸に大いに感銘をうけました。
というかもともとなんてことはないファンタスティックな娯楽映画だと思って観ていたので、思いのほか直球なメッセージがあったのがよかったんです。
テーマやストーリーがまずしっかりあるものと思って観たら、ひょっとして薄味と思えたのかな??
反戦なてーまをアニメ以外でこんなにおもちゃ箱ちっくに描けることにむしろわくわく感嘆。
そして、そう、永田さんのカメラがまた素晴らしかったですよね。
このコラボにもまた嬉しくなりましたー。
どんどん活躍してほしいですー。
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