かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『悪人』
2010年 09月 17日 |
夜の海には灯台。灯台には灯台守。況や、悪人をや。



ふかっちゃん、モントリオール映画祭での最優秀女優賞受賞おめでとう。その演技力をもってすれば、元気な活発女子役でも何でもござれの彼女なのだけど、『(ハル)』のホシ役とか、TVドラマ「最高の片想い」の主人公な深津さんが好きだった私としては、ひたむきな内気ちゃん役こそが彼女の本領だと思っている。だからこの受賞は嬉しいし納得。深津絵里扮する光代の表情の一つ一つにせつなく心つかまれた。本当いったら、この物語は、妻夫木・深津というきれいめな二人じゃなく、ちょっとさえない外見の男女である方がよりリアリティを感じられたんじゃないかとも思った。と頭で考えてはみたものの、妻夫木くんもイメージしていたより大分よくて、私はすっかりこの祐一と光代の逢瀬と逃避行に引き込まれてしまったな。同様に、それ以上に、柄本明と樹木希林の存在感が圧倒的でしばしば感情を揺さぶられた。同時に複数の立場から見つめることができる物語であったのがよかった。

吉田修一の小説もたびたび映画化されているけれど、その映画の脚本をも担当したのはこれがはじめてなのだそう。そういえば、吉田修一は自作の短編でメガホンもとっているんだよね。原作とは別の物語という趣きで映像化されていたあの『Water』を思い出しながら、原作に忠実に映画を作ることに固執せず、小説と映画の表現は別ものであるという理解のうえで、映画のために物語を編みなおしたということを大いに評価。原作はもっと回想シーンが多いということだけど、映画はシンプルに時間の経過とともに前に進んでいくのがよかった。そのうちに、何故彼はあのような事件を起こしてしまったのかを追及することよりも、二人はどうなるのだろう、これからどうするのだろうということを見つめようとしていた。孤独な魂の触れ合いをただ見守っていた。

そして、この歯がゆくも考えさせられる今日的なテーマに手応えを感じた。タイトルの「悪人」とは絶対的な響きをもつ言葉なのだけど、それは通りすがりの第三者の言葉として発せられていたことが全てを表していた。メディアの報道を通して事件を知った人々が、ワイドショーの煽りそのままにその事件と加害者・被害者像をわかった気になり、単純に犯罪者を非道だと責め立てる。加害者はもちろんのこと、かたちの上では擁護しているはずの被害者とその家族も晒されてズタズタに傷つけられてしまう。人はそれぞれに己のうちで悪徳を自戒すればいい、あとは社会問題として考えればいいだけのことなのに、毎度事件が起こるたびに、僕らは柵の外から見物し偉そうに断罪したりするのだ。絶対悪というものがあるのかどうかはわからないけれど、現代社会においてはマスとメディアが悪人を作るのかもしれないね。

もちろん、いかなる場合においても人を殺めることはいけないのだけど、とりあえず法治国家のもとでは、殺人を犯した犯罪者は法で裁かれるのだから、僕らは声を荒げなくてもいいじゃないかと思う。逆に、法律を犯していることが表面化していない、悪行・悪意の数々は野放しだということに苛立ちをおぼえる。年寄りから金を巻き上げるインチキ健康商品会社のやっていることは、殺人に比べたら全く些細な罪ということになるのだろう。ああ、だから、佳乃の父が彼女を置き去りにした増尾を責めた場面はたまらくなった。他の誰もが殺人者だけを糾弾するのだとしても、愛娘を奪われた父だけは罪の意識も感じずに生きていくであろう軽薄な彼を赦せなかったというそのシーンは辛いけれどとても大事。

全てにおいてではないけれど、犯罪者が生まれるかどうかは偶然的要素の積み重ねに過ぎなかったりもするはず。そう、本当に祐一がもっと早く光代に出会っていたなら・・・。この世界から悪はなくならないけれど、悪人と呼ばれる人間をを生み出さないことはできるかもしれないという救いはあるよねって。大切な人はいるかと問う、柄も父さんの強い眼力は、映画でしか表現できないことだと思いながら、文学的なテーマが映像で物語られることの味わいを噛みしめる。
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by CaeRu_noix | 2010-09-17 18:20 | CINEMAレヴュー | Comments(12)
Commented by Yumi at 2010-09-17 21:41 x
細かく頷きつつ読ませていただきました。最後の「柄も父さん」という呼び方にで笑えてしまいましたが(笑)
原作よりも、映画の力か、より大きな感動が押し寄せてきた作品でした。一人一人の表情が印象的で。。それぞれの立場・見方が出来たからかもしれませんね。現代がよく投影されていた気もします。
簡単に人を非難することなんてできないなとも感じました。(^^;
Commented by CaeRu_noix at 2010-09-18 00:39
Yumi さん♪
コメントありがとうございますー。
これ、まだ他の人達の具体的な感想・レヴューはほとんど読んでいなくて、皆がどのような感想をもったのか、何を感じ考えたのかを知らないのですが、yumiさんに頷いてもらえてホッとしましたー。
「柄も父さん」に笑ってもらえたことも嬉しくー。って、そこで笑いを追求してどうするよという気もしたのですが、柄も父さんとどうしても呼びたかったのですー。
Yumi さんは原作も読まれているんですね?その違いが気になりますー。
小説だともうちょっと距離をおいた冷静な語り口になっちゃうのかなと想像できますが、映画は名優たちの競演によってか、人間の生の生々しさ、熱い血潮を感じる感動作になっていましたよね。
この物語はクールに外側から眺めちゃったら結局お茶の間からワイドショーを見るのと変わらないので、どうしてもそれぞれの登場人物に寄り添う必要があったと思います。そういう意味では胸をうつ演出でよかったなって。
本当に常々、巷の非道な奴ら、非常識な奴らを一側面から見て、非難してしまいがちですが、全ては紙一重のものであることを思い出したいものですねー。
Commented by cinema_61 at 2010-09-19 21:01 x
こんばんは。
私は原作を新聞連載で読みました。地方都市の一見平凡に暮らしているような若者たちにもやりきれない孤独が潜んでいて・・・・・。映画は後半部分の祐一と光代の逃避行を中心にしていましたが、映像的には効果があったと思います。
それに深津さんの演技がとてもよく、小説では味わえなかった愛されることに飢えていた女性の切なさを感じられました。役者はみんな上手で、岡田くんや満島さに拍手でした。(勿論樹木さんと柄本さんは抜群ですが)
持てる者と持てない者(いろんな意味で)の過酷な運命を感じました~
Commented by CaeRu_noix at 2010-09-20 00:16
cinema_61 さん♪
へぇー、新聞で連載されていたんですかー。小説の味わいも気になります。
地方に住む解体作業の若者が道を踏み外していき・・・っていうので、ケンタとジュンとカヨちゃんの国のことも思い出したりしたんですが、同じような閉塞感を抱えていても、彼らの場合はツレがいましたからねぇ。普段交流する友達なんかもいない祐一の孤独な日々ってとてもいたたまれないものがありました。(こういう物語の主人公は常にそういう職種っていう設定もアレだよなぁと思ったりもして・・)
車を走らせるシーンや何といっても灯台のシーンは映像ならではでしたよね。
ホント、ふかっちゃんが素晴らしくて、行動の不自然さなんて感じることはなかったです。本来なら、こんなにかわいい彼女がこれまで放っておかれていたはずはないって思うところなんだけど。岡田くんも満島ちゃんもよかったし。
罪を憎んで人を憎まず、と昔から言うけれど、レッテルを貼られてしまうのが人間社会なんだよなぁと思考はつきませんー。

Commented by kaka_o00o2 at 2010-09-21 12:23
かえるさま。コメントはおひさしぶりです。
私はあらためて樹木希林に惚れ直しました。彼女の見えなくなった方の目が空を見つめるとこなんか、ブルブルッッときました。
笑い事じゃないですけど、押尾と増尾がダブってしまい、裁判員制度のことまで考えちゃいました。
Commented by kira at 2010-09-21 19:27 x
「君子危うきに・・・」とか、
「類は友を呼ぶ」とか(笑)
出会いの無い田舎ではないけれど、男の子を持つ親としては、
祐一が悪人にならないためには、どうしたら良かったのか?!
それがみなさんの仰るように、二人の出会いがもう少し早ければ―
とはならなかったのです。
(自分を馬鹿にした)佳乃への執着(怒りも)を捨てて、
後を追わなければ、もうそこに立ち戻るしかなかった気がしました。

荒れる岡田君のショット、小ずるい満島さんのシーン、
そして深津ちゃんや妻夫木くんの横顔。
どれも無駄なシーンは無かったです。
たくさんの若者に観て欲しい作品になっていました☆
Commented by CaeRu_noix at 2010-09-22 02:29
kaka_o00o2 さん♪
お久しぶりですー。ゴキゲンYO!
そうそうそう、鬼気きりん効き嬉々ー素晴らしかったですよねぇ。
『歩いても歩いても』でもいい味出してたきりんさんでしたが、今回は彼女でなくてはならない役どころでしたよね。あの眼!
優しいおばあちゃんというんではなく、ついつい孫に頼っちゃう様がリアルでしたし。
そうか、増尾と押尾は名前も似てますし、世代は違うけれど、なーんか共通点が感じられる気がしますね・・・。(私はマスオくんという音にいちいちサザエさんちのマスオさんが現れて困りましたw)
一方的な見方をしかねない裁判員セイドも本当に不安はつきず・・
Commented by CaeRu_noix at 2010-09-22 02:46
kira さん♪
コメントありがとうございます。
君子危うきに近寄らずというのはごもっともなんですけれど、裏をかえせば、出会い系サイトにアクセスしちゃうような危機管理のできない愚か者たちはどんな目にあっても自業自得ってことになるので・・・。
もちろん、よい親御さんをもつkira さんの息子さんはそんなふうには絶対ならないでしょうけど、祐一のような境遇に育ったコに何が救いになりえたかということを考えたいのです。家族、仕事、友人、趣味、いろんなたらればな分岐点を想定することができますが、その中の可能性の一つとして、佳乃、光代と出会う順序が違っていたら、こうはならなかったかもと思えるのですよ。
所詮フィクションなので、○○をしなければよかった等はいくらでも言えるのですけれど、そういうことでなく、こういう奴は佳乃を殺さなくてもそのうち別の誰かを殺すんじゃねぇの?ということでもなく、何が救いになりえたか?を模索したいのでした。

みーんな印象的な表情を見せてくれましたよねー。
メジャー系邦画はあまり観ない私なんですが、これはせっかくそこらじゅうのシネコンでやっているのだから、多くの人に見てもらいと確かに思いましたー
Commented by tombo at 2010-09-22 23:32 x
こんにちは。
丁寧な感想を読んで、
私も見に行ってみたいと思いました。ただし、ひとりで、ね。
原作者の吉田修一の運命を読み解いたコラムがここで読めます☆
h ttp://www.birthday-energy.co.jp/ido_syukusaijitu.htm
彼だからこそ描けた悪人といえそうです。
行ってみて参考にしてくださいね♪
Commented by CaeRu_noix at 2010-09-23 00:37
tombo さん♪
コメントありがとうございます。
tombo さんは映画はまだご覧になっていないのですね。
原作が先の方がどのような感想を抱かれるかは興味深いところであります。ぜひご覧になってくださいー。
私としては、この映画化脚本はいい感じだったんじゃないかと思えたのですが、原作者が脚本に参加したのがよくなかったんじゃないかという感想も見聞きしてますので、いろんな見解が気になりますー。
吉田修一氏のコラムのサイト紹介ありがとうございますー。
すべてを解説してほしくないという気持ちもありつつ、是非とも読んでみたいですー。
Commented by ノルウェーまだ~む at 2011-01-03 17:05 x
かえるさん、明けましておめでとうございます☆
昨年機内で見たのだけど、初レビューがこの「悪人」になっちゃった・・(笑)

深津絵里の繊細な演技といい、どの役者さんも素晴らしかったですね。
現代が抱える闇、みたいなものなのでしょうか。
誰しもなり得る悪人・・・・そこに大切な人を思いやる心があるかないかで、悪人にも善人にもなり得るように感じました。
Commented by CaeRu_noix at 2011-01-03 21:53
ノルウェーまだ~む さん♪
あけましておめでとうございます。
あれ?まだ~む さんは今どちらにいらっしゃるんですっけ?まだ日本?
悪人は東京行きの機内で観たということですよね?
新年早々、悪人について考えるということは不似合いのようで意外と趣があることかもしれませんー。
書初めに悪人って書きたくなりますよね。 ならないか・・

現代社会の闇、田舎の閉塞感、孤独、言葉で並べちゃうと陳腐な感じもしますけど、そのへんをうまく練りこんでいたと思われますー。
悪人と善人なんて紙一重ですよねえ。
100%の良い人ではいられないにしても、悪人と呼ばれてしまうような状況に陥らないように・・・
そこにはそういう大切な人の存在がキーにもなるんでしょうねー
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