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『ルイーサ』 LUISA
2010年 11月 11日 |
仏頂面のルイーサがだんだん可愛らしく見えてくる。
冷凍庫から火葬場におくるための火事場の女優力を見よ。

ブエノスアイレスのアパートで、猫のティノと暮らす60歳のルイーサ。



アルゼンチン映画といえば、今年公開されたアカデミー賞外国語映画賞受賞作の『瞳の奥の秘密』が好評を博していたけれど、あんなに劇的で濃厚なドラマよりも、私はもっとさりげないものが、慎ましく生きる人々のささやかな日常の物語が好みなのだ。『ルイーサ』のような映画が、ちょっぴり痛々しくて、ちょっぴりおかしくて、じわーっと心が温かくなるものが大好きなの。

王家衛の撮った『ブエノスアイレス』のイメージは鮮烈であるし、先日観た巨匠コッポラ監督作の『テトロ』の中のモノクロームのブエノスアイレスもまた美しくて、地球の裏側から思いを馳せれば、いつだってそこはピアソラのタンゴが聴こえてくる気がする、異国情緒漂う洗練された都市。だけど当然のことながら、平凡に暮らす人の日常はどこの国も大して変わらないものだということを思い出させてくれるのがルイーサ。傍から見れば些細なものだけど、世知辛い世の中においての庶民の悩みごとは当事者にとっては大問題。そういう身近で等身大なところが好感触。

アラ還だけど、例えば孫がいておばあちゃんという役割を与えられているわけでもなく、人に頼らずに生計をたてねばならないルイーサ。それなのに、愛する猫ちゃんは去ってしまうし、仕事はクビになっちゃうし、せめてもの退職金も手にすることができなさそうで。今の不況なニッポンから見ても、こういう状況は他人事には感じられないし、60歳にして孤独にそういう不安を突きつけられるのは非常に辛いものだなぁと。まさにどん底。英語だと単なるBottomという語句に置き換えられるみたいだけど、日本語って偉い。

このどん底どん詰まり状況は悲劇なのだけど、愛するティノのためにお金をどうにか貯めようとするルイーサの奮闘模様がそれはもうユーモラス。最初のうちはさほど共感もできず、好感ももてなかった主人公なのだけど、次第に目が離せなくなって微笑ましさが募るの。手っ取り早く稼ぐためにインチキなことにトライするルイーサの不純さと必死な真っ直ぐさの混じり合った行動が可笑しくて絶妙。土壇場なのにどん底だからこそ、滑稽さを見せてくれる人間はやっぱり愛すべき生き物だなって思う。

これを観たのはちょうどハロウィンの日曜日で、渋谷の街は仮装してはしゃぐ若者たちの喧騒に何度かうんざりさせられたのだけど。そういう遊びなんかじゃなくて、かけがえのないもののために、ルイーサはまさに火葬のために仮装(変装・偽装)しているなぁというところに拍手したくなったよ。ルイーサの身の上を知り、頑なに心閉ざして暮らしてきたのも仕方ないのだねと一度は思いつつ、切羽詰まったインチキ作戦の末、思わぬ方向に弾けて開放されていく感じがいいの。そういうのがいいの。

とびきり楽しくて印象深いのは何といっても、ライバルであり後によき同志となったオラシオとの出会い。ちょっと憎たらしいんだけど人生経験豊富で厚みのある粋なじいさん、松葉杖のオラシオ。いい俳優さんだなぁと思ってすぐにこれが彼、ジャン・ピエール・レゲラスの遺作となったことを知る。だからこそ、しみじみ味わい深くて。いつ人生は幕を閉じることになるかわからないけれど、生活は続き、どん底でも何でも生きていかなければならなくて。不安だらけのこの世界だけど、いくつになってでも何かに気づけたらいいし、出会いがあれば幸せだし、どうせなら輝くものを見つけながら、何とかまぁ暮らしていきたいものだねって思うわけなのだ。
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by CaeRu_noix | 2010-11-11 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(2) | Comments(2)
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Tracked from LOVE Cinemas.. at 2010-11-12 02:43
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Commented by ぺろんぱ at 2010-11-30 21:01 x
こんばんは。
私もコレ観てきました。

ルイーサの何処にあったのかと驚かされる力強さに圧倒されつつ、その後流した彼女の長い涙には私も心の中で泣きました。

生きてる人間、ルイーサの誕生。
オラシオやホセ、味のある男たちでしたね~。(*^_^*)
Commented by CaeRu_noix at 2010-12-02 08:55
ぺろんぱ さん♪ 
火事場の馬鹿力とはまた違うけど、追い詰められた人間は思わぬチカラを発揮できるものなのでしょうかね。
それが、また正攻法な稼ぎ方じゃないところが、楽しかったですね。
単なる生活苦で、食べられればそれでいいならホームレスになりかねないところ、ネコのためのお金が必要ゆえの奮闘。
地味ながら非常に面白い展開でしたねー。
愛猫の生を失いはしたけれど、自らの生を取り戻せてホントによかった。
いくつになっても転換できるのねって。
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