かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『Ricky リッキー』
2010年 12月 03日 |
リッキーかわいいよリッキー。へんてこなようで着実。アンバランスさを恐れずに直接的に描くことで、むしろ抽象的なものの真理に迫っていくところに技あり。


郊外の団地に娘のリザと二人で暮らすシングルマザーのカティは勤務する工場で新入りの工員パコに出会う。



お待ちかねのフランソワ・オゾンのRicky!ドヌーヴ様主演の『しあわせの雨傘』はわりと早く配給がついて大きく宣伝されていたのに、それより前の作品はどうしちゃったのかと一瞬心配になったりしたので、ようやくお目にかかれて一安心。その公開の遅さを思い、ひょっとしてあまりパッとしない映画なのかと邪推してしまいそうになったのだけど、それは杞憂だったね。やっぱりオゾンのセンスはステキなのだ。日本じゃ俳優が人気者じゃないとサクサク配給されないというだけのこと。ドヌーヴ様に比べたら、こちらの主演俳優が日本で有名じゃないというだけのことで、オゾンの仕事はいつも通りにお見事。繊細に女心の揺れを描写しながら、一見奇妙ともいえるユーモラスな物語を巧みに紡ぎ、心温まる着地を見せてくれた。

まずはシングルマザーの主人公カティは工場勤めをしているという設定がちょっと新鮮。というのは、フランス映画って、ブルジョアジーな人たちが主人公のものが多いんだよね。イギリス映画なんかだと労働者階級の人の物語はコンスタントにあるのだけど、と思ったら、本作はイギリスの女性小説家の短編小説が原作だと後で知って納得。(ローズ・トレメイン(Rose Tremain)による「The Darkness of Wallis Simpson」の中に収められた「Moth」が原作。)『エンジェル』に続いてまたしてもイギリス小説を映画化しているのだけれど、作りものの世界っぽさが前面に出ていた前作とは異なり、今作は舞台がごく自然にフランスに置き換わっていた。今度はこうきたのかって、オゾンの表現手法のさりげない多様性に感心するばかり。

カティはいとも簡単に、職場で出会った男とすぐさま、少しもロマンチックじゃないかたちで関係をもつ。道徳心が先走りしがちな日本女性などから見たら、軽はずみ過ぎて共感できないと一蹴されかねない主人公の行動なのだけど。そこはさすがのオゾン。ただひたすら生活のためにルーティンな工場労働をするだけの地味で孤独な毎日に、熱い目線を送る男が現れたなら迷いなくよろめいてしまうものなのかもしれないね、と一抹の歯がゆさを感じながらも自然にカティの行動を見守ってしまうの。歯がゆさや居心地の悪さを覚えるのは、もうすっかりカティたちに肩入れしてしまっているから。身近な共感がもたらされるというのでもなく、上から目線でシングルマザーに同情するのでもないのだけど、自分は始終彼女たちの幸せを願っていたのだ。

オンナと女ゴコロの描写力に定評のあるオゾン。上はジャンヌ・モローから、そして今回は少女の思いを実にきめ細やかに映し出していた。この物語の主人公は、タイトルロールのリッキーでもなく、母カティでもなく、リザであるのじゃないかと思いながら、ふとした表情から少女の悲しみに胸を痛めた。家庭のかたちは多様であってよいと思うけど、多感な少女には、どこの馬の骨ともわからない男との同居って受け入れやすいものじゃないはずであり、そのリザの思いをまるで顧みないカティに苛立ちを覚えたり。男に母を奪われ、そうかと思えば今度は、生まれたばかりの弟に母の関心がいってしまう、リザの寂しさはこの物語の味わいどころ。でも、その少女は悲劇のヒロインなんかじゃなくて、しっかり者のお姉ちゃんであることを忘れず、リッキーと共に飛翔するのだからたまらない。

翼を持たぬ人間の空への憧憬が映画の飛行シーンを生むのであろうか、多種のファンタジー映画において度々飛ぶものの姿をスクリーンで見てきたけれど。こんな天使の誕生を見たことがあっただろうか。天使の存在も、翼を持つということも、飛翔することも、形而上で語られるか、ファンタジーというジャンルの中で映像化されるか、のどちらかしかなかったのじゃないか。リアリティを重んじた人間ドラマとSFやファンタジーは分断されているのが常なのに、さらりとそんな常識を超えるのだ。そして、明らかに目に見える羽と飛ぶという状態を実写しているのに、見る者は逆に形而上的に天使の存在について、翼について飛翔についてに思いを馳せずにはいられなくなるの。天使のリッキーの無邪気な微笑みにありがとうと言いたくなった。リッキーを誕生させてくれたオゾンにもメルシー。

PS リッキーは天使ちゃんなわけだけど、日本人の私たちは、ソラトブアカチャンといえば、Dr.スランプのガッちゃんを連想するよね?だから、この愛嬌が受け入れやすいのかも?クピピ。

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by CaeRu_noix | 2010-12-03 16:19 | CINEMAレヴュー | Trackback(6) | Comments(4)
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Commented by KLY at 2010-12-04 22:13 x
そうそうガッちゃん!同じぐらい可愛かった。(笑)
どうしてフランス人の赤ちゃんとか子供ってあんなに可愛いんでしょう。それこそ羽が生えて無くても天使だわさ。^^
家族の心の距離感、特にリザの微妙な心の変化に一々納得。そうだろうなぁと思いながら。というか、起きてきたら知らない太ったおじさんがタンクトップとパンツ一丁でママと談笑してたらそりゃ引くかなって気もするけど。^^;
Commented by CaeRu_noix at 2010-12-05 10:11
KLY さん♪
ガッちゃんに似てるーと大発見をしたつもりだったんですが、Drスランプ世代なら思い当たることなのかもしれませんねぇw
ガッちゃんは何気なくもうまく飛んでたけど。(ってロボちゃんだからか)
リッキーったらめちゃめちゃかわいいですよねぇ。風体はガッちゃんでお顔はキューピーちゃん系。
リザが心地良い居場所を手に入れることができたのはとても嬉しかったですー。
そう、ホント、セルジ・ロペスのような胡散臭い男がいきなりお母さんといちゃいちゃしてたら、少女心の痛手は大きいですもん。
よかった、よかった。
Commented by rose_chocolat at 2010-12-30 08:51 x
何か、これ、すごくツボに来たのよ。
駆け込んで鑑賞できてほんとによかった。

まずリッキーがむちゃむちゃ可愛いっていうのと(笑)、
メリュジーヌ・マヤンスちゃんが素晴らしいっていうのと、
ママと義理パパの気持ちもよくわかるってところです。
実際、あの状況じゃ、リッキーを育てちゃったらいろんな弊害が
あるもんね。  と、現実的なことを考えてしまうと、すごくこの作品、
ツボでした。
Commented by CaeRu_noix at 2010-12-31 02:04
rose_chocolat さん♪
駆け込み鑑賞ブラボー。
私もこれはもう大好きです。この表現手法に感銘!
リッキーの顔はキューピーちゃん系だなと思っていたのですが、昨日バラエティショップでキューピーちゃんの人形で背中に小さな羽がついているものを見つけ、あ、リッキーだ!って思いましたよ、まさに。
母、娘それぞれの揺れる思いが実に繊細に描かれてましたよねー。
リッキーを不安に思いながらもただひたすら受け入れ対処しようとする母の姿を見て、例えば、何らかの障がいを持って生まれた赤ちゃんの母親もこういう風に一生懸命になるんじゃないだろうかって、普遍的なものが見えたりもしましたー。
だから、そういう感じでがんばってずっと育てるのもアリだったかもしれないけどw、やはり天使ちゃんですからそうはいきませんよねー。
現実とファンタジーの線引きは不必要、とオゾンのこちらでも、隣のシアターのケン・ローチのエリックでも思いましたー
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