かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
latchodrom.exblog.jp
(映画を見るのにいそがしくてブログはもう)
Top
『白いリボン』 DAS WEISSE BAND
2010年 12月 15日 |
透き通る美しさの白と黒の世界は不穏で忌々しく。エクセレント。

第一次世界大戦前夜の北ドイツ。大地主の男爵を中心に、人々が静かに暮らすプロテスタントの小さな村で数々の不可解な事故が起こる。




鬼才ミヒャエル・ハネケが常連のカンヌ映画祭で初のパルムドールを獲得したのは、初のモノクロ作品にして第1次世界大戦前という過去を舞台にした物語。スクリーンに広がる白と黒の映像が、次々に起こる事件は不穏さと痛々しさとは裏腹に、静謐であまりにも美しくて、2時間24分という時間の長さを意識することなく、映し出されるその世界に魅了されてしまった。美しさが不快さを凌駕したということではなく、不気味で時に残酷な場面と物語世界とが、淡々とひたすら静かに美しく描写されているからこそ、ハネケの映画は極上の味わいをもたらす。疑惑の中で見え隠れする悪意や暴力のひしめき合いが、あくまでも上品な装いで静かに美しく撮り上げられたことで、緊張感と得体の知れない不気味さに観客は支配され続ける。

善と悪、或いは無実と罪とが、白と黒という色で表現されることは常であるためか、このモノクロ映像は終始、善悪や功罪についてを私たちに問いかけているかのようだった。それはまさにフィルムのネガポジのごとく、表裏一体で反転するものであるのだということに気づく。タイトルの白いリボンとは、悪いことをした子どもへの罰として巻きつけられるもの。"汚れなき正しい心"を思い出させるというリボンは、その志しの通り、清らかな純白の色なのだけど、理由や目的がどうであれ、子どもを縛り付ける見せしめの体罰には、いびつさを感じずにはいられない。その厳格な教育は、本当に子どもたちのためのものなのか、大人たち、権力者の都合に過ぎないのではないかということが見えてくるにつれ、リボンの白さにも聖歌隊の少年たちの澄んだ歌声にも、表面上清らかであるゆえに、忌々しさと不気味さが浮かび上がるのだった。

インタビュー記事によると、ハネケはテロリズムの形式についてを描こうとしたらしい。そして、本映画はしばしば、のちのヒットラーのファシズムの台頭を予感させると紹介されている。確かにそうやって、どういう状況でファシズムが共同体を支配していくのか、どうやってテロリズムは生まれていくのかということを考察することはできるのだろう。けれど、私自身はもはや、このような謎の事件を引き起こした因果を思うより、ましてや世代の子ども達がその後どのような人間になるのかということを想像することはなく、ただ現在進行形の威圧的で厳格な父権主義的な社会そのものに戦慄するばかりだった。父親の、一家の主の、権力者の言葉も行為も絶対的なものとして力を持っているけれど、彼らは聖人君子ではなく、その力とそれによって築かれた関係性を勝手に都合よく利用する。この時代、この村に限られたことではなく、どこの国、どんな組織、共同体にも見受けられる構図だから、歯がゆさを感じながらとても興味深く見入ってしまった。

最も強烈におぞましさを感じたのは、医者の娘に対する行為と、助産婦に投げつけた言葉だった。冒頭、この医者が落馬シーンによってこの不穏な物語の始まりが告げられたのだけど、この男ならばそんな復讐をされても当然だと思えてしまうほどに。医者に酷い言葉で突き放される助産婦を見ていて、(この助産婦役の女優も出演していた)『ピアニスト』のイザベル・ユペール扮するエリカの姿が何となく重なった。『ピアニスト』の主題はマチズモだという解釈にその当時は興味をもったことを思い出しながら、父権主義的構造の男性優位性についてにも考え込まずにはいられなかった。弱き者たちが虐げられる姿を見て不快さを覚えながらも、一方でそれほどに絶望させられないのは、権威をもつ男たちの傲慢さがはっきりと悪徳として描かれているからだろう。そして、語り手の教師の恋のパートがとても爽やかで温かいものだったから。多くの謎は解決されないけれど、不思議とモヤモヤした気持ちにはならず、映画の完成度に満足するばかり。
[PR]
by CaeRu_noix | 2010-12-15 09:37 | CINEMAレヴュー | Comments(4)
Commented by とらねこ at 2011-01-18 16:02 x
かえるさん、こんにちは。
>弱き者たちが虐げられる姿を見て不快さを覚えながらも、一方でそれほどに絶望させられないのは、権威をもつ男たちの傲慢さがはっきりと悪徳として描かれているからだろう。
この一言、とても凄いですね。確かに、不穏でおぞましい話であるのに、このバランス感覚は一体なんだったんだろうと。
素晴らしく良い映画を見た後の満足感が得られました。
これは是非また見たいですね。
Commented by CaeRu_noix at 2011-01-18 23:06
とらねこ さん♪
ようやくご覧いただき嬉しくー。
大昔は救いのない残酷な物語には不快な思いしか残らなかったはずなのに、多くの映画を観るほどに、劇中にどんなに酷いことが描かれていても、それをちゃんと酷いこととして伝えいることに、逆に救いを感じたちゃったりするんですよねぇ。
(だから、暴力を愉快爽快に描くハリウッド映画に時として引っかかるわけですが。)
意地悪おやじなんだけど、とことんクレバーなハネケ先生ですから、観客の私たちの心のうちに、よいバランスで黒と白が投射された感じですよねぇ。
長いのにホント、隅々まで満喫、面白い映画でしたー。
とらねこさんにも好評でよかったー。
ハネケ特集も本当は行きたかったー
Commented by manimani at 2011-02-02 04:23 x
かえるさんこんばんは

>ハネケはテロリズムの形式についてを描こうとしたらしい。
おーなるほどー「形式」というところが渋いですね。

>この時代、この村に限られたことではなく、どこの国、どんな組織、共同体にも見受けられる構図だから、歯がゆさを感じながらとても興味深く見入ってしまった。
ですよね〜そういう普遍性(というと言い過ぎ)のようなものがあるので引き込まれて観てしまうですね。
ハネケ実は初めて観たんですけど、なんか好印象だったりw
Commented by CaeRu_noix at 2011-02-02 22:42
manimani さん♪
あ、そんな時間にブログ活動をしているまにまにさんを目撃するのは久しぶりかもー。
あ、それは検索して発見したブログの記事だったかに書かれていたインタヴューの訳です。
原語がどういうものだったのかはわかりませんが、「形式」とありました。
当然のことながら、テロリズムの本質を描こうとしたとかじゃないのが、くればーハネケなんですよねぇ。
時代は移り変わり、社会は多様化すれど、コミュニティでうまれる問題は変わらず・・・って感じなので、普遍的といえば普遍的ですよねぇ・・。
(進歩しているようにも見受けられない我々)

あら、初ハネケとは意外っす。
私はファニーゲーム、というかピアニストで大いに興味をもって、全作制覇にいそしみましたー。
好印象はある意味正しいですw
<< 12月17、18日の公開映画ち... PageTop 12月10、11日の公開映画ち... >>
XML | ATOM

個人情報保護
情報取得について
免責事項
Beige Shade by Sun&Moon