かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『その街のこども 劇場版』
2011年 01月 27日 |
夜道を歩きたくなった。

NHK総合テレビで2010年1月17日に放映された阪神・淡路大震災15年特集ドラマ「その街のこども」に未公開シーンと再編集を追加した劇場版。

東京で暮らす勇治(森山未來)と美夏(佐藤江梨子)が偶然に知り合う。



TV版は未見。元がTVドラマと聞くと、私の食指は動きにくかったのだけど、これはごく一般的なTVドラマスタイルのものとは違っていて、思いのほか気にいってしまったよ。TVドラマといえば、去年特集上映で佐々木昭一郎の手がけたドラマを観た時、ドキュメンタリーのような臨場感と詩情がせめぎ合うNHKドラマが作られていたことを今さら知って驚いたものだった。TVドラマだって本当は自由なのだ。常日頃はTVドラマの劇場版が量産されることにうんざりしていたのだけど、本作に関しては劇場版が作られたおかげで私も出会うことができたのだから、その企画に感謝しなくちゃいけない。(NHKドラマの劇場版制作は異例のことらしいけれど。)TVで観ていたなら、ながら鑑賞をきっとしているはずなので感銘も割引されていただろうけど。暗闇の中でスクリーンと対峙し、劇中の二人とその時間を分かち合ったかのような気分で、感動でいっぱいになれる劇場体験のステキさったら。

阪神・淡路大震災15年特集ドラマなんていうと、被害者遺族の心情に配慮するあまり、そこのところで視聴者の感情を揺さぶろうと、死別やトラウマをポイントにしたお涙頂戴ストーリーが出来上がりそうなものなのに、そういうベタベタなものが採用されなかったことにいたく感心。そして、これが、その日出会った男女のたった半日ほどの物語だという軽やかさにしみじみと感動。15年たったからこそできることでもあるし、制作サイドに頭の硬い人がいたら今なお実行されなかったかもしれないし。これは脚本の渡辺あやのアイディアなのだろうか?これってまるで、私の大好きな『ビフォア・サンライズ』+『ビフォア・サンセット』じゃないか!ということに気づいたことで感銘がより深まった。真似したのかななんて悪い意味での思いはなく、むしろ国営放送ドラマで、震災という重い題材を物語るのに、わが国でビフォア・サンライズ+サンセットがやれたってことにとびきり嬉しくなったの。電車の中で出会った二人の夜明けまでの物語なビフォア・サンライズ。道を歩きながら会話をする男女の物語なビフォア・サンセット。

男と女の会話劇。実に自然な感じでやり取りされる会話、二人のふるまいの本物感が気持ちいい。さすがの渡辺あや脚本。これを自分のものにしてしまっている主演の二人も素晴らしいね。男と女といったらそこに恋愛感情を横たわらせるというのが定番で王道だけど、この二人は別段、恋心を抱いてより親しくなりたいと思っている者同士でもなく、もう二度と会うことはないかもしれない二人で、ただこの街で震災を経験して久しぶりに戻ってきたというさりげない共通項が本当にいい。ベタ設定じゃないからこそ、震災体験によるそれぞれの痛みについて徐々に語られるところにもグッとくる。前半ではちょっとやな奴かと思っていた勇治くんが父親の十倍価格商法でいじめにあったというエピソードも印象深く、資本主義・競争社会の嫌な一面を描いているのが現代的でいいなと思った。そんな葛藤を抱えながらも若者たちは社会人になっていくのだよね。人情バナシだけで終わらず、そういう局面も会話に織り込んでいたところに味わいは増すのだった。震災被害というと、死や障害など直接的な大きな被害ばかりに目を向けがちだけど、現在ごく普通に生きている人の中にも、多様な負の思い出があったりすることを忘れてはいけないね。

そうやって二人が次第に素直に思い出を語る。これはずんずん歩いたおかげかな。騒々しい居酒屋での会話で終わっていたら、二人の心の重石はとれないままだっただろうね。冷たい冬の空気に心は洗われて、二人の心は開放されていったのだ。その過程、その日出会ったばかりの二人がてくてくと夜道を歩き続けるそのリアルな時間を、カメラにおさめたのが映画的にも素晴らしいなって。ストリートを歩くという時間経過をそのまま切り取る臨場感×躍動感は私の大好きな映画の魅力そのものなのだもの。道を行きながら、彼らの心は少しずつ浄化されていったのじゃないかなって。それを共に体験した気分の私も不思議とカタルシスで満たされて気持ちいい涙を流せた。たった一夜の会話を眺めながら、15年という年月の流れにも思いを重ねずにはいられなくて。この二人にように、あの時子どもだった世代も大人になってそれぞれの人生を歩き続けているんだなっていう当たり前のことに胸がいっぱいになるの。向き合う時間を与えてくれたとてもいい映画だったな。
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by CaeRu_noix | 2011-01-27 20:57 | CINEMAレヴュー | Comments(12)
Commented by 通りすがり@関西人 at 2011-01-27 21:50 x
せりふがよかったのは、本人のエピソードを盛り込んだからで、
だから、本番と普段の境界が曖昧になったんでしょうね。
2人とも、設定(当時住んでたところ、年齢)が確か同じですから。

森山未來は、過去の経験(『絆・被災地に生まれたこころの歌』、『未来は今』)があったから、あの演技が出来たのかなと。

監督(とNHK)は、いわゆる普通の震災ドラマは作りたくない
って思ってみたいですし。あらゆる意味で、奇跡で作られた
作品かと。

http://www.sonomachi.com/news/index.html#07
Commented by CaeRu_noix at 2011-01-27 22:09
通りすがり@関西人さん♪
ありがとうございます。
私は映画館でもらったbukuというフリー本にサトエリインタビューが載っていたのを読んで知ったのですが、おっしゃるとおり、サトエリ、森山くん共に劇中の二人と同様にその年令で震災を経験しているんですよね。
本当にそのことがこのドラマをリアルに心に染みるものにしていたんだと思います。
台本そのものは渡辺さんがみっちり書き込んだみたいで、サトエリは台本の台詞を正確に拾って発声するそうで、森山くんはわりと自由に、自然に話すタイプらしいです。
それを読むとぎこちなくなってもおかしくないのに、実際はすごーく自然に会話が続いていましたよね。
やはり根底にある思いが確かで強いものだったからなのかなー。
なるほど、監督もいわゆる普通の震災ドラマは作りたくないという姿勢だったんですね。
それが実現できて本当によかったです。
近年TVドラマは全く観ていない自分なんですが、こういうのができるのなら捨てたものじゃないなって思いましたよー。
奇跡の域なんですねー
Commented by ノラネコ at 2011-01-28 19:28 x
リンクレイターからインスパイアを受けたのは間違いないでしょうね。
ラストも含めて、上手く換骨奪胎したなあと感心します。
これは創作の幸福な連鎖の結果でしょう。
サンライズがサンセットへと繋がった様に、20周年、或いは10年後の25周年に、この二人がどの様に記憶と向き合っているかを描く続編を作っても良いかも。
特に勇治のその後は気になります。
Commented by CaeRu_noix at 2011-01-28 20:53
ノラネコ さん♪
ですよねぇー。もろビフォアでした。
リンクレーターの映画を知らない広いNHKドラマの視聴者の目にはどのようにうつったのか気になりますが、映画化の要望が強かったということは、意外にもこの手法で多くの人の心をつかんだということですよね。スバラシイ。
本当に実にうまく拝借、再構築していたなーって思いますー。
そうですね。10年後ならありえそう。
そうやって、人生がまわるように、映画続いていくのもステキですよねー。
今はまだ軽めなワカモノな勇治くんが頼もしい大人になった姿、ぜひ観たいですねー。
Commented by BC at 2011-01-29 23:35 x
かえるさん、こんばんは。

当時、震災被害に関しては被害の大きさばかり大々的に報道されたし、
私は被災地の光景を目の当たりにもしたけど、
私が訪れた被災地の人々は悲観に暮れているというよりも
当面どうやって水や食料などを得ていくかという
具体的な事ばかり話していて実に淡々としたものでした。

多分、勇治も美夏も子供ながらに震災に関する事は冷静に受け止めてきたのでしょうね。
15年後の夜の神戸で二人が出逢った事で
別段何かが変わったり成長したりという事はないだろうし、
二人が再会するかどうかはわからない・・・。
今後、二人は会った事を思い出すかどうかすらわからないけど、
日常のふとした出来事の中で震災を想起する事もあるだろうし、
心の中で震災と折り合いながら年齢を重ねていくような気もしました。
Commented by CaeRu_noix at 2011-01-31 13:19
BCさん♪
トラックバックは今朝送りました。
コメントは外からアイフォンにて書き込んだのだけど、gooブログはアイフォンのブラウザ=サファリからだとTB先のURLがコピーできないんですよ。
なのでコメントと同時にTB送信ができなかったの。
gooブログもスマートフォン版ができるといいのだけど。

あれから15年16年経ったのですよね。
直接的な被害の大きさによって、年代や住む場所によって震災の受け止め方は多様なのでしょうけど、あえてこういう立場の二人を主人公にするというのは実によいアイディアだったと思いました。
確かに小学生だったら学校に行かなくてすんでラッキーと思ったはずで、キレイごとonlyでなくそういう邪念も織り込むのがいいなぁと。
勇治くんが大人になって、父の儲け方について振り返る所はとてもいい場面だし。
自身の生き方にどう反映していくのかは未知数だけど彼が建設業に携わっていることはホントにキーポイント。
過去と未来を繋ぐこの一夜。感慨深いです。

キアロスタミの『そして人生は続く』も思い出し。
Commented by 通りすがり@関西人 at 2011-02-01 00:37 x
ちょっと思い出しました。
井上監督(ディレクター)は、TVドラマでは珍しく
映画みたいな画を撮る人なんですよ。
あと、ここ一番では、ワンカメラ長回しをよくしてますね。
朝ドラ(15分)もので、12分ワンカットとか
確か昔やったはず(「ちりとてちん」とか)
今の「てっぱん」でも、先週ワンカットをやったみたい。
みんな、映画みたいって言ってた。

宇多丸さんもおなじこと言ってたね>before sunset
http://www.tbsradio.jp/utamaru/2011/01/post_800.html
Commented by CaeRu_noix at 2011-02-01 13:54
通りすがり@関西人さん♪
へぇー、そうなんですか。
今やっているてっぱんは見たことなくて、というか、もういかなるTVドラマも見ていないのですが、井上監督はTVでもそんな撮り方をするんですかー。
15分のドラマで12分がワンカットってすごいですね。
それはちょっと見てみたくなります。
TVと映画はそもそも違うものでしょうけど、そういう撮り方によって映画みたいな味が出せるなら、それは面白いと思います。
映画的なものを追求する姿勢があったからこそ、本作はこういうものになったのでしょうしね。
ツイッターでこの映画の宣伝アカウントからリプライをもらったのですが、ビフォア〜を想起する人はやはり多いみたいです。
宇多丸氏も言及してましたかー。
Commented by とらねこ at 2011-02-04 16:10 x
かえるさんこんにちは♪
かえるさんが『ビフォア~』を連想する、と言っていたので見たくなりました。
毎回TB貼られるのは面倒かな?と思い、近年はTB貼ることを遠慮してしまっていたのですが、
かえるさんの影響で見る気になった時ぐらい、TBしてもいいだろう、ということで・・。
歩くという行為自体がすごくいいんですよね。
夜道を知らない人と歩くなんて格別だろうな、なんて思いながら見ました。
歩くことについて何も書かなかったのは、かえるさんが書いているだろうと思ったからなのでした。
言い訳ばっかりしてしまいました><
Commented by CaeRu_noix at 2011-02-05 01:26
とらねこさん♪
あら、そうなのー?!それは嬉しいですー。
リンクレーターしてましたよねぇー。

TBはレヴューを読んでくれたブロガーさんがおくってくれるのはそのしるしとして?ぜんぜんOK歓迎であります。(そこらじゅう数十個件もTBとばして、あんた絶対読んでないでしょうーっていう人のは面倒なので返さないこともしばしばですが・・・)

歩くことって、ステキですよねぇ。その行為そのものもだし、それをとらえる映像的にもね。
あまり親しくない人とずっと向きあって話すとなるとかたい雰囲気になってしまうこともあるけど、歩くという主目的のおまけで会話をすると、気負いもなくなって素直に離せちゃうかもなーって思えます。
人通りの少ない非日常の場所というのもまた気持ちよさげだしー。
そこでまた『サンジャックへの道』のことを思い出し。巡礼だー。
Commented by rose_chocolat at 2011-02-06 06:13 x
実はこの日に出産などしておりましたので(笑)、これは絶対に行かねばねばと思ってるんだけど、今月ジャクベでやるみたいだからそこにしようかなどとも。
そうなのよ16年経ったのよね。 改めて進歩のない自分も感じますが f^^;
ロードムービーって基本的に好きだし、サンジャックも好きですし、
偶然ですがビフォア2作もDVDで観てるし、やっぱこれは行かなくちゃだあね。 楽しみにしてます。

>そこらじゅう数十個件もTBとばして、あんた絶対読んでないでしょうーっていう人
むはっ! いるいるぅ。 
私などは、みなさんよりも遅く鑑賞したのはTB送るのが面倒なので、気心知れた方とか下さった方にしか送らないんだけど、
遅く見たのにTB90件とか100件とかくっついてる方とかもいらっしゃいますし(笑) 人生いろいろ~♪
あまりにも場違いな亀TBは私も最近バックレてる・・・(小声)
Commented by CaeRu_noix at 2011-02-06 08:44
rose_chocolat さん♪
そうなんですねー。直接震災体験しなくともこの日に出産とは、お子さんの成長と共に見つめられて感慨深いですねー。
うん、これはとにかく日本映画の中でかなーりよかったのでぜひー。
震災を振り返る映画で歩け歩けロードムービー仕立てになっているなんてステキですです。
ジャクベでもやるんなら、ぜひー。

ブログ2年目くらいの時は自分も結構TBもがんばってたんですけど、今となってはその意味がわからなーいというのが正直なところ。
同じブログ名が毎回並んでるけど、TBを送るためにリンクをたどるだけで、それを読んでる人ってあまりいない気がしてねぇ・・・。
少なくとも私はTBだけの人のは返しても読んでないw
遅く記事書いたのにTB100件という人は、検索してソースでまとめてTB送っていると思うので、それこそ読んでいないでしょうねぇ・・・。
そんなんで、トラックバックありがとうございますとお礼を言われていたりする映画ブロガー界の不思議・・・。
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