かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『再会の食卓』 Apart Together 団圓
2011年 02月 17日 |
時代は移り変われども、人々はこうやって食卓を囲む。

上海で暮らす玉娥/ユィアー(リサ・ルー)のもとに一通の手紙が届く。そこには、かつて生き別れた夫・燕生/イェンション(リン・フォン)が40数年ぶりに台湾から帰ってくると記されていた。



王全安監督の『トゥヤーの結婚』 が大好きな私は、あまりにも平凡な邦題が付けられたことにがっかりしつつも、去年の第60回ベルリン国際映画祭銀熊賞(脚本賞)受賞した本作をとても楽しみににしていた。モンゴルの砂漠でラクダに乗る女主人公の凛とした姿に魅せられた前作に比べると、そういったエキゾチックな美しさが決め手となるアート性が今作の象徴となっているわけではなく、生き別れた夫がやってきて元妻の新しい家族の家で過ごす何日かが主な場面という、よくあるホームドラマのようなシチュエーションのいたってシンプルな物語。それなのに、いいえ、それゆえになのだろうか、全ての場面が味わい深く、静かにじんわりと広がる感銘に心震えた。ヨーロッパで評価されるワン・チュエンアン監督作品と自分の感受性の相性のよさも感じながら、その素晴らしさを噛みしめた。

共産党との闘争に敗れた国民党政権が1949年に台湾へ撤退してから40年間断絶していた中国と台湾。ワン・チュエンアン監督は、"台湾の老兵が上海の妻を訪ねる"というTVニュースを見てこの映画を作ることを思い立ったそうで、真実の物語に基づいているからこそのリアリティに静かに圧倒された。政治的事情で家族と40年以上生き別れという事実がただそこにあるだけで、すぐに説明的に多くが語られないところがむしろとてもいいのだ。回想シーンなどによって、断絶の過去の辛苦を安易に観客に説明しないのがいい。そんなことをせずとも、そのやるせない境遇、複雑な心情を想像せずにはいられないから。こんなふうに家族と生き別れてしまった人がいたのだなぁということをしみじみと思いながら、ユィアーたち家族がどうなっていくのかを不安な思いで見守るばかりなのだ。ただそれだけでも、ユィアーの両脇に今、現在の夫と40数年前のかつての夫がいて、その家族が複雑な思いを抱きながら、食卓を囲むという状況には心がズキズキするような緊張感が横たわっていた。

現在の夫・善民/シャンミン(シュー・ツァイゲン)がまたとても大らかに穏やかに元夫の燕生を温かく受け入れもてなすところがまたせつなくも感動的なのだった。当事者の都合で別れた相手ならばこんな風に迎え入れることはあり得ないはずなのに、彼が政治に歴史に翻弄されたにすぎない悲しき同胞である以上、複雑な心境を包み隠して最上の敬意を払う。兄弟の盃を酌み交わし、普段は買うことのないような高級な蟹をふるまうのだ。それなのにその客人は、とっくに自身もかつての妻も新しい家庭を築いていたのにもかかわらず、一家にとって酷な申し出をするのだから、ますます目が離せない。自分の妻が亡くなった後、というのはずるい気もするけれど、年をとった今だから余生を意識するからこそ、無念に引き裂かれた最愛の妻と人生をやり直したいと思い立ったことを阻みたいとも思わない。子どもたちの反発もわかるし、でも結局はユィアーの決断次第という流れに頷いてしまうの。強くぶつかり合うあけでもないのに、それぞれの思いがひしひしと伝わりわかって、その歯がゆさが見ごたえをもたらすの。

穏やかで優しいシャンミンの佇まいは小津映画の笠智衆さんを思い出させたりした。そうでなくてもこの物語・人間模様には古きよき日本映画に通じる情感を垣間見ることができた。或いは、市井の人々の日常を描くかつて多く見られた中国映画の味わいを、または台湾のホウシャオシェンの家族を描いたドラマに重なってくるような静かで繊細な風合いを感じる。美味しそうな上海料理が並ぶ食卓を囲む光景に昔ながらの中国/中国映画の風情、変わらない懐かしいものを見出し。それと同時に、めまぐるしく発展する大都市上海の高層ビルが視界に入り、失われつつあるものともはや失われてしまったものを思い、一抹の寂しさを覚えながら、時の流れと街と人の変貌を実感するのだ。そんな背景において、孫のナナの存在も印象的だった。元気な現代っ子の彼女が、今の自分の自由なそれとはまるで違う人生を生きた祖父母の一面に、関心を寄せてもの思う場面はとても大切で、そのナナが燕生と市場に行くシーンはいっそう感慨深い。そして事態はまた思わぬ方向に転がるのだけど、これまた全てを受け止めるしかなくて。そうやって受け容れて生きていく彼らの姿に、ただ胸がいっぱいになるのだった。


「再会の食卓」woman.excite
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by CaeRu_noix | 2011-02-17 15:05 | CINEMAレヴュー | Trackback(6) | Comments(6)
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Commented by templeclub at 2011-02-17 16:34 x
ベルリン映画祭で上映された、驚異のドキュメンタリー映画が、これ。

http://www.youtube.com/watch?v=oZFP5HfJPTY
Commented by CaeRu_noix at 2011-02-17 23:25
templeclub さん♪
ヘルツォークのやつですねー。http://www.cinematoday.jp/page/N0029187
南フランスのショーヴェ洞窟で発見された人類最古の壁画(3万2千年前の洞窟壁画)への特別撮影許可を得た巨匠ヴェルナー・ヘルツォークが、学者らと共に洞窟の中の歴史を3D撮影でひもといていく。
こんな3D体験してみたいですねー。

あと同じく話題のヴェンダースのピナ・バウシュのもとても観たい!
Commented by rose_chocolat at 2011-02-26 08:16 x
この映画も、登場人物たちのすごく複雑な胸中を、これまた微妙な着地点で描かないといけなかったのかなーと感じます。
中国の人たちの生きてきた激動の人生の旅路、歴史に翻弄されてしまった方もずいぶんいらっしゃると思うし。
そして現代中国にも馴染まないといけない。
これだけの題材をうまく納めたという点では、うまいですね。
ナナちゃんの本音がちょっと聞きたかったようにも思うけど、結末がもうそうなんでしょうね。
Commented by CaeRu_noix at 2011-02-27 10:11
rose_chocolat さん♪
これ『冷たい熱帯魚』と近い頃に観たので、食卓の豊かさ、人間関係のリアルなつながりがやけにステキに映りました。
複雑な関係の人々が食卓を囲み、みんな言いたい放題で我をぶつけ合うのかと思いきや、中心にいる人ほどに温和な対応をしているのが興味深かったです。
本当に複雑で微妙で、ちょっとしたことが運命の分かれ道になってしまったという・・・、このちょっとした捻り方が巧いなぁと思いました。
そんな作りこんだ物語も、題材はリアルストーリーで、本当に人はこういうふうにふるまってしまうのだろうなぁという本物っぽさが染みました。
歴史に翻弄された人々の物語はたくさん観てきたけれど、今も続いている台湾のことは、今の視点でまた感慨深いですね。
近代化する街で生きる人々という題材は国を限定しない普遍性があって、しみじみ。
ナナちゃんの心の機微にもたいそうグッときました。言葉で描写せず、ちょっとした表情や態度で映されているところが私はよかったなぁって。
Commented by 小米花 at 2011-08-17 23:00 x
TBさせて頂きます~。

この映画、劇的な展開なのかと思いましたら、
淡々と綴られていたんですね。

親、子、孫の世代の考え方が、日本と同じように移り変わって
行くのが印象的でした。

当時の中国の世代の気質みたいなもの、
なかなか若い世帯には理解出来ないのは、
日本も同じカナって思いました。
Commented by CaeRu_noix at 2011-08-20 09:47
小米花 さん♪
遅くなってごめんなさい。

出来事は劇的でしたけど、それぞれの複雑な思いとは裏腹に場面は淡々と重ねられていましたねぇ。
日本もそうですけど、中国の暮らしの変貌もめざましくて、何かが失われていく寂しさも覚えつつ、変化が興味深かったです。

私、中国には行ったことがなく、近いんだし、老後に行けばいいだろうくらいにかまえてたんですが、今となっては、北京オリンピックの準備がはじまる前に一度訪問すべきだったと後悔していますw
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