かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『ヒア アフター』 HEREAFTER
2011年 02月 24日 |
武器を持たない殺意と暴力のない映画だから。食べて、祈って、恋をしてー。

パリで活躍するジャーナリストのマリー(セシル・ドゥ・フランス)は、津波に遭遇。サンフランシスコで、霊能力をもつジョージ(マット・デイモン)は過去を隠して工場で働いていた。ロンドンで母親と双子の兄と一緒に暮らすマーカスは、突然の交通事故で兄を亡くす。



ちょっと奇妙な味わいの映画だった。試写で見た人などから否定的な感想ももれ聞こえてきていたので、さほど期待はせずに評価の分かれ目は何かを探りたいというような思いも持ちつつ鑑賞。しばらくは、この物語はどこに向かおうとしているのかつかみきれずに半信半疑という感じで眺めていた。妙な風合いの映画という印象は結局のところ最後まで変わらなかったものの、理性的にはずっとどこかに訝しさを抱えたまま見つめていたにもかかわらず、謎めいていたことが功を奏してか物語の力には引き込まれっぱなしだった。そして、終盤には不思議な感銘で胸がいっぱいになった。

一瞬、イーストウッドってば今回は、万人に理解され絶賛される映画を作るのはもうやめておこうって思ったのかしらなんて。もしや、ゴダールやオリヴェイラのような大航海映画系の巨匠仕事をしてみようかと思ったのかなって。(いきなり世界一周はアレだから、今回はとりあえず太平洋とロンドンやパリとイタリア料理?) そんな思いつきは私の妄想に過ぎず、これは脚本ありきのスピルバーグ映画に他ならなくて、どうやらイーストウッドは雇われ監督的に職人仕事をしただけで、この映画に能動的に大きな思いはたぶんないらしいという話。まぁ、それにしても、アメリカ映画の定番のバイオレンス、銃撃戦なんかが今回は見せ場にならず、死をエピソードに盛り込む際にお馴染みの他殺事件を中心に据えていない物語であることを嬉しく思って、それゆえの静かな感慨があったのだ。自然災害や交通事故で死に直面した人を見つめるあたたかなまなざしが沁みた。

三つの物語の構成、その収束の仕方はあまり巧みだとは思えないのだけど、パターン通りに上手くまとまっていない分、先が見えない不思議な引力をもったといえる。いつもなら、地に足がついていることを頓に感じる力強いイーストウッド映画なのに、ここでは漂うような浮遊感が感じられていたの。シャマラン・ストーリーのように。虚構の物語としては見事な筋書きのプロットに思われないにもかかわらず、この映画の中で悩み苦しみ生きようとする人々の姿が、まぎれもなく本物だと感じられたの。臨死体験をした者、死者の声を聞くことができる者が主人公であるなんて、フィクションならではのファンタジーの世界のお話という偏見が邪魔をして、半ば胡散臭さを感じたりもしたというのに、心はすっかり彼らの苦しみにとらわれてしまっていた。やっぱり手堅い巨匠の演出ということか。

みんな死んでますとか、奇跡がおこってハイ来世開始ですというファンタジーな展開、SF的な着地もあってもおかしくないくらいのことを覚悟したりもしたのに、何でもありえそうな独特の奇妙な空気を終始感じていたのに。臨死体験や霊能力という、「映画」でたびたびファンタジー、オカルト、SFの題材になってきたものを、ここでは娯楽の材料として取り扱うことはしないのだった。それによってこのドラマの主人公は大いに苦しんできたけれど、出会いあってそれを乗り越えるという着地。まとわりつく死の影に怯えた日々に決別し、前を向いて生きる力をやがて取り戻すという意外にも定番な物語。いつもなら安っぽいと思える可能性もあった結びなのに、どこへ向かうのかと心落ち着かなかったせいか、三者の出会いにしみじみと感じ入ってしまったな。タイトルとはウラハラにHERE IS なところにね。
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by CaeRu_noix | 2011-02-24 23:59 | CINEMAレヴュー | Comments(10)
Commented by rose_chocolat at 2011-02-26 05:38 x
あっさり・・・という感じではありました。
最近の作品と比較しても、あんまり巧みではなかったと言えばいいのか。
でも、理解してくれないという苦しみの中で生きるのも、これまた辛い訳ですから、
これは「霊」に囚われず、様々な苦しみの中に生きる人への励ましなんでしょうね。
Commented by CaeRu_noix at 2011-02-26 06:37
rose_chocolat さん♪
あっさり・・・という感じでしたかー。
わたし的にはあっさりっていうんじゃなかったんですよ。
薄味さらりではないんだけど、妙ちくりんな味わいでした。
この脚本を映画化してくれという使命の遂行の仕方としては大いに巧みだったと思います。
チェンジリングやグラントリノなんかに比べてしまうとガツンとくる感じは確かにないのだけど。
私はインビクタスにあんまり感動しなかったのでそれに比べると楽しめた感じですー。
そうですね。臨死とか交霊とかスピリチャルにふっておいて、実は普遍的なヒューマンドラマ、生きることへの讃歌になっていましたねぇ。
その回り込み方がなんか面白かったなぁと。
Commented by minori at 2011-02-26 12:19 x
こんにちは。
確かにグラントリノなんかに比べると「がつんと」感はなかったですが
私は静かで好きでした。キリスト教が絡んだ死後の世界とかそういう
怪しげなカンジにならなかったので(多少あったものの)よかったです。
Hereafter, 来世とかそういうよりは、そしてこれから、ってな
カンジにとらえることの出来る映画だったと思います。
でも、メラニーちゃんの男にがっつく姿にはちょっとどんびき(笑)
あれは男目線でこういう子がいたらいいなぁという思いなのか、
どうなのか。それはどうでもいい話ですが…。
Commented by CaeRu_noix at 2011-02-28 00:22
minori さん♪
グラン・トリノはハラハラの連続で事件もたっぷりで、ガツンという感動が訪れる前も、濃厚ドラマチックだったんだけど、これはなかなか、核心に迫っているのか、どうなのかよくわからない時間が長かったですw
でも、そう、多くの映画の人が殺されたりなんだりのエピソードをふんだんに使って盛り上げるパターンが多いので、この静かにいく感じはむしろいいなぁって思いましたわ。
てっきりスピルバーグの好きなファンタジー方向のお話かと思いきや、イーストウッドらしくしっかりひゅーまんだったのがやはりよかったよね。
そか、Hereafterって単語、自分は使ったことがたぶんないんだけど、別にあの世っていう意味ばかりじゃないのかな?
そして人生は続くの変則型ですかね。
メラニーの料理教室シーンはエロいと評判でしたので、サービスでしょう。
というか、イーストウッド自身がヘンタイ的にそういう撮り方が好きというは話なんで、もう仕方ありません。
目隠ししてあんなに接近するって面白すぎだったよねぇ。
Commented by とらねこ at 2011-03-01 22:30 x
こんばんは。本当、不思議な作品でしたよね。
常識を描くのではないところで、確信している部分を挙げ連ね、描いていくように見えたというか。
今のところ納得できる形で、様々な人の目線でもって、死について描くというよりは、生の先にある何かを描いた、
すると生にやはり戻ってきた。そんな気がしました。
ちなみに自分の場合は、インビクタスは大好きでした。
料理教室での目隠しシーンは、彼女の表情が見えるより、見えない状態の方が、
ジョージの本心が見えるという、面白いシーンでしたよね。
メラニーの本心もそのせいで見える。鋭いシーンでした。
Commented by CaeRu_noix at 2011-03-03 00:24
とらねこ さん♪
へんな映画は実際はたくさんあると思うけど、近年正攻法で世の大絶賛を浴びていた巨匠イーストウッドの映画としては、妙な捻りのある映画でしたよねぇ。
そうですね。目隠しシーンは、ジョージのウキウキ恋心を抜きにしても、目隠しによって、心露わになれてましたねー。
あまりにも妙なノリの料理教室シーンではありましたが、描いていることは巧み。
あ、インビクタスは、キネ旬のベストにも確かはいっていたし、イーストウッドファンにはちゃんと好評だったかと思うのですが、何しろ私はスポーツ観戦が不得手で、ラグビーシーンでどっちらけでありまして・・・。
NZ選手のハカのシーンには大興奮したものの。
あと、自分は南アのマンデラといえば、『マンデラの名もなき看守』が大好きだったので、アメリカの巨匠が同じ人を題材にたやすく注目作を撮ってしまうことに反感もあったのかも。
そんな感じで、常に私はアメリカの大物よりか、ヨーローッパものを応援したいマインドがあって・・・。
今回のイーストウッド作は意外にもヨーローッパに触れていたのがちと面白かったですー
脚本にあっただけなのかもしれないけど、ミッテランへの言及の仕方とか興味深かったなと。
Commented by manimani at 2011-03-05 22:01 x
かえるさんこむばむわ~
霊能者もひとりの人間ていう、普通に悩むおじさんだという映画だと思いました。基本は群像劇。パーソナルな出来事が中心の。それが最後にふーっと近寄って、でも炸裂したりはしない、これからのことに思いを持って行きながら映画としては尻切れで終わる。そういう絶妙に完成を避けるというところは、もう有名監督ならではの贅沢だなと思いました。
スピルバーグ映画だなというのも思いましたし、シャマランというのも思いましたねー(予告編の段階からw)
Commented by CaeRu_noix at 2011-03-06 08:32
manimani さん♪
おはゆ。そうですね。霊能者もひとりの人間!
映画の世界でもワイドショーの世界?でも、特殊な能力をもっている人がたやすくその力を活かす場面をよく見かけるけど、本当にそういう能力もっていたら、本人はつらくて仕方ないんだよ、人前でじゃんじゃん発揮できるなんて偽物だぜよ、って思わせる、ハリウッド映画批判(のように私は思えた)にグッときましたー。
マット・デイモンをおじさんとは呼びたくないけれどー。
ヨーロッパ映画界なら巨匠のストーリー性の微妙な映画は当たり前なのに、最近のイーストウッドからするとちょっと不思議なつくりでしたよね。
もちろんそういう贅沢はどんどんすべき。万人ウケ狙いはもうやめたっていいかと。お前らがついてこいだー
お話的にはスピルバーグ風味でしたけど、演出がイーストウッドならではで、そのバランスがちょい奇妙だったのかなぁ。
Commented by seqtaxus08 at 2011-03-08 01:08
雨(雪)降りなので映画でも観ようということで、CaeRuさんのレヴュを色々拝見して、こちらにしました。
確かに「職人仕事」。心地良く酔わせて頂きました。…涙もあり。
映画の醍醐味を味わった2時間9分でした。
ありがとうございました。
Commented by CaeRu_noix at 2011-03-08 10:56
seqtaxus08 さん♪
はじめまして。コメントありがとうございます。
 昨日の雪には驚きましたね。啓蟄なのに寒かった。
そんな日に映画鑑賞というのもおつですね。
このたびは参考にしていただき、恐縮ながら嬉しいです。
私の好みはあんまりポピュラーではないかもですが、イーストウッドの映画ならじっくり見ごたえがありますから、よいセレクトだったのではないかと思いますー。
これ見よがしじゃないのに心に沁みる映画ですよねー。
こちらこそありがとうございましたー。
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