かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『ブラック・スワン』 BLACK SWAN 
2011年 05月 19日 |
爪は爪切りで切ろう!ささくれ剥がしに震撼!
それでも、バレエ映画が好き。



ダーレン・アロノフスキーがバレエ・ダンサーものを撮ったと本作をずっと楽しみにしていた。アカデミー賞作品賞にいくつもノミネートされ、ナタリー・ポートマンは見事に最優秀主演女優賞を獲得と注目が集まる中、どうやらサイコスリラーであることがわかる。それならひょっとして自分の求めるタイプじゃないかもしれないなぁという思いも過ぎりつつ、興味はわく一方だった。お待ちかねの日本公開で、レディースデー初日から大盛況で大当たりというから、カルト映画の監督だったはずのアロノフスキーの躍進ぶりに拍手をおくりたい。それでいて、インディペンデントな監督がポピュラーに評判を得てしまう時、自分の好みから外れてしまうということは多々あって。サービス満点娯楽風味の本作もそういう面は免れなかった。アロノフスキー作品の中では尾を引かない方の映画となりそう。だけど、とにかく、観ている最中はハラハラドキドキ、とても面白かったね。

執念に取りつかれた人間を描いたら天下一品のアロノフスキー。このたびも白鳥の湖のプリマを踊ることに全てを捧げるバレエ・ダンサーの妄執ぶりを痛々しく強烈にこれでもかと見せてくれた。ナタポンには、体育会系のがむしゃらな情熱は似合わない感じだけど、黒鳥役にふさわしい妖艶な魅力が足りないタイプという設定にしろ、生真面目さが仇となって精神的に追いつめられていくスリラー仕立てには、思いの他ハマっていてナイス・キャスティング。私から見ると、ちょっと大げさな演技に思えなくもなかったけど、アカデミー賞も納得できる迫真の体当たり女優ぶりだったね。この映画を通じて、目下ホットに恋愛中であったことをまるで感じさせないのはすごいかもしれない。実際、こんなに激しく動揺し恐れ怯えながら踊ってたら、レッスンの場ですらまともなバレエにならないんじゃないかなと見えることもあったけど、そういうリアリティはさておき、過剰演出も震撼スリラーを大いに盛り上げてくれた。

回転し揺れ動くカメラは、バレエの躍動を伝えながら、その役割以上に、ニナの不安感と怯えをピリピリと表現しているのが面白くて。ホラー映画のような忍び寄る恐怖の連なりに引きずり込まれた。でも、それは、『レクイエム・フォー・ドリーム』の時のように、人間が陥る恐怖に心底怯えてしまったのとは違っていた。ささくれショック等、血が滴るような場面のビジュアルによる痛みにたじろぎながら、ニナにさほど心寄り添うこともないまま次は何が出てくるか、何に驚かされるかという娯楽的展開を楽しんだという感じだった。恐怖については、せっかく主観ショットによって、一人称的にニナの感じるままの緊張や恐れを観客が共有する運びになっているのに、ここぞという時にニナの思いから離れて、ただスクリーンを見ている観客を驚かせるためだけの仕掛けが動作してしまったような撮り方が挟まれたのは残念。バレエの美しさや優雅さをあえて脇においてスリラーを追求した以上は、『レクイエム・フォー・ドリーム』と同じくらい徹底的にゾッとさせてほしかった。

それでもやはり、この演出構成、映画ならではの表現手法は絶妙。ダンサーが主人公の映画は多々あれど、アメリカン・ドリームの国では大抵がサクセス・ストーリーだったから。ミュージカルというジャンルにおさまれば、『バーレスク』的にいとも簡単にヒロインはトップにのし上がって栄光を手にするのが常だったり。そんな王道パターンを顧みれば、明るく優しく愛されるヒロインというのとは大いに異なる主人公を通し、あえてダークサイドを描き出したのは素晴らしい。人間誰しもが持ち得る疑念や負の感情の数々をエンタメ度いっぱいに放出。ただリアルに切実に人間ドラマを描くことにとどまらず、お得意のスリラー路線で攻めたアロノフスキーはさすが。白黒スワンの二役に苦悩するのに重なって、もう一人の自分に脅かされる様が鏡づかいのホラーなビジュアルの鮮やかなこと。気品あふれる格調高いバレエな世界だからこそ毒々しい痛烈さがたまらない。

スリラーなスタイルはレクイエム~』に近いのだけど、物語のテーマは『レスラー』に似ている。それどころか、Wikiによれば、本作は『レスラー』と合わせて一つのものであるというほどらしい。ステージの上では華やかなその世界も、舞台裏ではスターもこんな風にもがいて人間的に格闘しているんだという切り口は、照らし合わせてより巧妙に浮かび上がる。とはいえ、もともとレスリングについては、怪我は日常茶飯事で肉体を危険に晒してナンボの格闘技なので、主人公の犠牲の払い方にも必然的なものが見えて感動がうまれたのだけれど。バレエについては、そもそも勝ち負けのある競技でもないし、白か黒かという歴然とした結果があるわけでもなく、踊る者が何をどのように歓びとするかは単純には括れないはずなのに。バレエダンサーが格闘技選手と同じような価値観の中を生かされてしまったのには引っかかるものがあった。白黒のメリハリをもってスリラーとして突っ走ったからこそ、作品としては美学ある完成度の高いものとなったのだろうけど。



Rue89Japon

ニナと母の関係を見ていて、ミヒャエル・ハネケの『ピアニスト』のエリカのことを思い出したのだけど、まさに監督はナタポンに『ピアニスト』を参考にしろと言ったらしい。鑑賞中にはわからなかったけれど、ニナの母親の役名がエリカであるとは、まさにまさに。

「ダンサーは修道女でありボクサーである」 ―モーリス・ベジャール

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by CaeRu_noix | 2011-05-19 21:31 | CINEMAレヴュー | Comments(12)
Commented by acine at 2011-05-19 23:26
かえるさん、お久しぶりです!
私は感想に”病んでいく人を描かせたら天下一品”と書いたけど、
かえるさんの”執念に取りつかれた人間を描いたら天下一品のアロノフスキー”
まさにその通りですね!あの毒々しさと痛々しさがなんとも印象的です。
私も”レクイエム”で度肝を抜かれた一人でして、もう一回見ろと
言われると辞退したいけど、あの衝撃は今でも忘れられません・・・。
見てる方までが病んできそうですもん。今回もまさにそうでした。
しかも、”レクイエム”では、最初は皆普通だったけど、
今回のナタリーは最初から神経質オーラ全開で、あぁこれでは、
きっとボロボロになるだろうなぁ・・・と思っていたら案の定!
私ホラー系苦手なので、終盤の楽屋でのシーンとか
お母さん(この人が私は一番怖かった!)とのシーンとか
目をつぶってしまって、肝心なとこ見れてません(笑)。
だけど、ストーリー自体はちょっと少女漫画風でしたね。
かえるさんの書かれてる通り、かなりステレオタイプな白と黒の演技を
主人公は強要されてた気が。その分、万人にわかりやすく、
メジャー系アロノフスキー映画になったんでしょうけれど・・・。
Commented by CaeRu_noix at 2011-05-20 10:57
acine さん♪
わー、お久しぶりですー。
いやー、アロノフスキーの映画をシネコンの一番大きいスクリーンで観ちゃいましたよー。
レクイエム〜を観た劇場は閉館してしまったし。
やはりちょっとレクイエムの衝撃を思い起こして比べちゃいますよねー。
ナタポンのニナはあまりにも過敏に神経質で、舞台裏で創作するジャンルのアーティストならいいけど、表舞台に立つ本番勝負のダンサーとしては、絶対そういうんじゃダメでしょう!の域だった気がしますw
私も、鋭利なもので傷つけ血が出る瞬間とか、ひじょーに苦手なので、一瞬直視できなかったものはいくつかありまする。
怖がらせるのは、肉体の痛みでじゃなく、心理的にやってくれーと思いますー。
そうそう、ライバルの存在とか物語設定は日本の少女漫画チックでしたよね。
そこに親しみがもてると同時に、ちょっと笑っちゃう部分が出てきちゃうというか。
バレエ漫画大好きだったのでまぁ楽しかったけど。
どうせならトウシューズに画鋲もやってほしかったー
Commented by kaka_o00o2 at 2011-05-20 12:46
ああ、そうですね。そうですそうです。
爪切りとささくれ剥がしが一番痛さ共感。ふう。わかる痛さだから。
私は結構、うすら笑いしながら観ました。
ふざけてるわけでもバカにしてるわけでもなく、なんだか笑いがこみ上げてしまって。
ミヒャエル・ハネケの「ピアニスト」。なるほど!そんな感じですね。
私、あの映画もヘラヘラ笑いながら観ました。
ナタリー・ポートマンすっごく頑張ってたけど、
もうちょっとちがうのを代表作と呼んであげたいような気もするなあ。そんなことないのかなあ。
あ、でも映画はとても楽しめました (^_^;)
Commented by rose_chocolat at 2011-05-21 04:04 x
なるほど~。 元ネタの映画がハネケとは。
お話としては私も、少女漫画の世界にも近い? とも思ったのですけど、
いろんな要素が絡み合って面白い作品でした。
これだけやれば主演女優賞は納得です。

ささくれだの爪切りだの、あーそれはたぶん痛い・・・ と思わせておいて本当に超痛いというのも、うううっ!って感じで、痛いけど小憎らしいくらいハマってたなあ。

ミラ・クニスのキャスティングもお見事だったと思います。
なかなかああいう雰囲気の女優さんっていないですもんね。
Commented by CaeRu_noix at 2011-05-21 10:54
kaka_o00o2 さん♪
鋏の爪きり怖かったですよねー。
ささくれも直視していたら、気を失ったかもしれん・・。
肉体的に痛いところは、私は心底ゾゾッとしてしまったけど、ホラーテイストのじゃじゃーんな演出とか、ナタポンの激しく怯える演技とかには、ツッコミもーどで笑っちゃう感じになってしまいー。
『ピアニスト』もコメディ説ありましたね。
やはりアカデミー賞とれたから、やはりこれがナタポンの代表作になるんでしょうねぇ。
実際、バレエの部分はほとんどダブルさんらしいので、評価されたのはベッドシーンと恐怖にまみれた演技ということなのかしらん?
私は『フリーゾーン』のナタポンがとてもよいと思ってたんだけど。
また公開作ありますねー。
Commented by CaeRu_noix at 2011-05-21 10:56
rose_chocolat さん♪
元ネタというんではないですが、母娘の関係性についてはかなり参考にしたみたいですよ。
というか、設定的にちょっとパクってるやんみたいな・・・。
ピアニストのエリカちゃんの物語は主軸は別方向にいきましたけど、倒錯っぷりはかなり似てました。
ハネケのピアニストは人間というものがとても面白く描かれていたので、すごくインパクトをうけましたけど、こちらはそういうのを設定と活かしつつ、スリラーホラーが前面に出ていたので、個人的には心に食い込む映画っていうんじゃなかったんですけどね。
ミラ・クニスはとてもよかったですねー。
アメリカの女優さんではこういう魅力がある人って少ないので今後も楽しみですー。
Commented by ノラネコ at 2011-05-22 22:28 x
昨日はお疲れ様でした~。
電車間に合いましたか?
なるほどピアニストね・・・私はキャリーとか山岸涼子の少女漫画を思い出したけど、言われてみれば確かに。
私的にはアロノフスキーにはバレエに対する思い入れはあまり無くて、単に白黒を象徴するのに丁度良い素材だったから選んだに過ぎないんじゃないかと思ってます。
Commented by CaeRu_noix at 2011-05-23 10:00
ノラネコさん♪
お疲れ様でした。
お声がけありがとうございました。楽しかったですー。
何とか無事に帰り着きましたよ。(アキバでホームを間違えつつw)各停しかなくて長旅となりましたがー。

山岸涼子のマンガは読んでないんですが、これを見たら、なつかしのバレエ漫画あれこれを読みたくなりましたー。
あと、『パーフェクトブルー』もみなくちゃ。

そうですね。アロノフスキーはちっともバレエに思い入れはなさそうですよね。
フラメンコでもヒップホップダンスでも、肉体を使うものなら代替可能だったんでしょうね。
それが、バレエの名作にはスワン・レイクという最高の演目があったために。
おかげで、ビジュアル的にとても素晴らしいレッスン場のショットなんかが見られてよかったですー。
『赤い靴』が楽しみー。
Commented by 樹衣子 at 2011-05-23 22:21 x
かえるさんへ

私もバレエ映画大好きです。
それからハネケ監督の「ピアニスト」も連想しましたが(好みで言えばはるかに「ピアニスト」の方)、ニナの母親役の名前がエリカとはっ!
Commented by maru♪ at 2011-05-24 01:51 x
かえるさ~ん

私かなり感動して号泣してしまいました(笑)
ニナが芸術家として苦悩した先に、見えた世界があったんだな・・・
とか思って泣いたんだと思ってました。
もちろんそいういう部分が大きかったと思うんですけど、
よく考えるとドキドキさせて緊張MAXで、ストンと終わった演出も大きいなと・・・(笑)
緊張が一気に解けて号泣しちゃった気もします。
もちろん、それは演出が上手かったんだと思うのですが・・・
Commented by CaeRu_noix at 2011-05-24 21:52
樹衣子 さん♪
バレエ映画いいですよねぇ。
今後はまず『赤い靴』が楽しみでー。

そうなんですよ。映画のタッチでいえば、『ピアニスト』の方が断然・・・。
ええ、観ている時は母親の名前なんて知る由もなかったのですが、後でネットであらすじを参照したら、"元ダンサーの母親・エリカ(バーバラ・ハーシー)"なんて書いてあってビックリ。
あえての名づけだったんでしょうかねぇ。
Commented by CaeRu_noix at 2011-05-24 22:06
maru♪ さん♪
おお、怖くて、とかじゃなくて、感動して泣けたとは素晴らしいですー。
私はmaruちゃんのようにピュアじゃないので、ニナの人物造形が神経症過ぎ!とかいうのが気になって、感情移入は全然できなかったのですけど、ドキドキ面白く観ることができましたー。
本当はそういうふうに、ニナが芸術家としての信念を貫いたと見ることができたら感動的だったのかな。
ちょっとこの映画の作りと、ニナのこだわった部分の描写だと、踊ること、表現することに懸命になるより、ライバルに勝つこと、巧く晴れ舞台を成功させることが目標であるって感じの、競争社会な側面が私には目について、芸術ってそうじゃないでしょう!?っていう引っ掛かりがあったのだけど・・・。むむ。
それほどにmaruちゃんの感情を刺激したとは、アロノフスキーの演出もうまかったってことですね。
レッスン、がんばってー。
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