かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『CUT』
2011年 12月 29日 |
連日シネマート新宿のロビーにお出ましのアミール・ナデリ監督の熱意に感心。

劇中で常盤貴子はなぜそんなにカジュアルな服装をしているのかというのが疑問だった。ヤクザのおっさんはバーカウンターの女に着飾らせるものというのは偏見だとしても、その80年代の小中学生のようなトレーナーみたいなのとかは妙すぎじゃないかって・・・。そういうデニムシャツってすごく懐かしいなって。そして、それはナデリ監督の服だったというのを後でインタビュー記事をネットで発見して知ったよ。どう見ても、ヘン!と思えたものに、実は意図があったらしい。まぁ、そんな調子なんだ。そうなんだ。



私にとってもアミール・ナデリ監督というのは、東京フィルメックスで見知った人であるのだけど、この映画そのものも、フィルメックスを通じてナデリが西島秀俊と出会ったことが決定的となり作られるに至ったという。ナデリといえばフィルメックスであると同時に、西島秀俊といえばフィルメックスであった。2年前のフィルメックスで久しぶりに西島氏をお見かけし、同じエレベーターに乗り合わせた際、その後彼はナデリ監督と共に歩いて行ったことを思い出す。(その時のツイート) あの時この映画の企画は深まっていたのかなと想像しながら、とにかくこうやって映画が完成し舞台となる日本で公開されたことか喜ばしい。

『サウンドバリア』『ベガス』を観て、取り憑かれたような人間の執念を描くことに強い関心があるというのがナデリの印象だったのだけど、今作の主人公も想像通りのその路線の人であった。頑固で愚直にひたすら突き進む男。それは決して、誰もが自然に共感、応援したくなるような主人公ではなくて。我らが西島が扮する、こよなく映画を愛する真っ直ぐな男の身を案じたいのは山々なんだけど、いくらなんでも秀二さん、あなたは無謀で痛い人すぎるよというもどかしい気持ちにさせられてしまう。くだらない商業映画であふれるシネコンの影で、芸術たる映画が日の目を見ない事態には私もたびたび歯がゆい思いをしている。基本的には秀二の思いに共感できるからこそ、そんなに独りよがりに叫ばれると、むしろそれは逆効果、もうちょっと賢明に行動してよ、と気恥ずかしくなってしまう。その点、実際のシネフィル西島は謙虚に慎ましくも賢くふるまっている人だと思うのだけれどね。本人とは異なり、とにかく猛進する妄執の人は、良くも悪くもナデリ監督映画ならではのナデリの分身のようなもの。圧倒されるというよりは傍ら痛さに襲われるんだけど、もう見守るしかないんだよね。

殴られるというシチュエーションはなくてはならないものだったのだろうけど、それだけで1千万円以上を2週間で得るというのはあまりにもリアリティがないよね。富豪の道楽者にはそんなことに金をつぎ込む悪趣味人がいるかもしれないけれど、ヤクザの下っ端にそんなのに数千円、数万円払う人が大勢いるとはとても都合のいい状況に感じられてしまう。そういう違和感が強いから、殴られ痛められることが重要だとは理解しつつも、それがテーマとしての映画への愛と重なり合って響くに至らない。狂気紙一重の中で見せつけられる肉体的苦痛が、亡くなった兄への思い、歴代の巨匠のフィルムへの愛 、映画を撮りたいという意志と融合、共振したようには感じられはしないの。やろうとしていることはナデリらしくてよくわかる気がするんだけど、突き放せないながらも入り込むことはできないのだった。

映画内の映画の表現も非常に楽しみにしていたのだけど、100本の映画のほとんどはただ最後にタイトルと製作年と監督名が文字で登場するだけなのが残念だった。そんなに多くの映画の映像を引用するのは権利の問題等で無理があるだろうし、物語の中で名作にオマージュを捧げたようなもどき場面をふんだんに盛り込むというのもやっぱり難しいとは思うけれど、タイトル羅列は工夫がなさすぎる気がした。屋上上映会はステキだけど、まわりの電灯で明るすぎるんじゃないかとか、客席がスクリーンから離れすぎじゃないかとか、いくらお金がないとはいっても上映会の手作りちらしはセンスなさ過ぎじゃないかとか、細部には気になることがありすぎて。それでも夜に秀二がスクリーンの前で、映画を浴びるように映像に重なっているシーンはいい雰囲気だったな。やり方はもう一つだったものの、日本で撮られた21世紀の映画の中に、歴代の素晴らしき映画が数多く記されているというのはなんだかんだいってもよくやってくれたと思う。

映画の最後に表示された100本の英題を全て認識はできなかったけれど、定番のシネフィル必見傑作選という趣で、それでいて意外なものも入り込んでいて、興味は誘われた。そうそう、アレは観ておかなきゃと思っていたのにまだ観ていないやと再確認したり、その羅列は残念と思いつつも、一生懸命タイトルを追っかけていた。普段過去の名作をあまり観る習慣がない人も、この映画を観て、その中の未見作を観てみようと思うキッカケになったらそれは素晴らしいことであるし。秀二の突っ走り方はクールじゃないものの、このような映画愛について思いを巡らせるひとときが、本作を観た人たちにあっただろうことはステキだ。せっかくの映画を巡る映画なのだから、もっと巧くセンスよく面白く作ってほしかったという思いを打ち消すことはできないけれど、臆せずにこんなに熱い映画の映画を作り上げたことには拍手したいな。

西島秀俊の100本が知りたい!



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by CaeRu_noix | 2011-12-29 09:43 | CINEMAレヴュー | Trackback(3) | Comments(0)
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