かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『アーティスト』 The Artist
2012年 04月 24日 |
サイレント映画がということよりも、フランス製作の映画がアカデミー賞の作品賞をはじめとする5部門を受賞するということが興味深かったのだけど。



映画にたずさわる多くの人たちは職人であったり、ビジネスマンと労働者であったりする中、これがアーティストなんだなって。ジョージ・ヴァレンティンとジャン・デュジャルダンの表現を二重に味わったよ。

音楽の素晴らしさにまず心が持っていかれた。疲労を抱えたまま仕事帰りに映画鑑賞をして、時には映画館に来たことを後悔するほどに、シネコンで上映されるハリウッド映画の音/音楽の容赦ない煩さに辟易することの多かった私だから。音響のよすぎるシネコンで、娯楽映画の登場人物はせわしなくしゃべりまくり、驚かせるのが目的かのように銃声や爆音が轟き、その上場面を盛り上げるために重厚シンフォニックなオーケストラ演奏がずっとずっと鳴り響く。今やそれは当たり前のことなのだけど、しばしばそれは苦痛にすらなっていたから、仕事帰りに私が観るにふさわしい映画はこういう音楽のものだったんだと嬉しくなった。なんて美しく心地よい調べ。ブラボー、ルドヴィック・ブールス。

サイレント映画を観る際は、伴奏付、弁士付の鑑賞機会も時にはあるけれど、無音のままでモノクロ映像だけを見つめることが大半だった。スクリーンの中では役者が慌しく動き回っているのに、劇場のこちら側ではシーンとしていて、そのギャップからか劇中のリズムのようなものをうまくつかめないこともあった。そんな過去の体験を思い出しながら、その優美なメロディの導きによって、『アーティスト』のリズムにはすぐさまハマれたことが気持ちよかったな。モノクロ映像の美しさを誇るものも、俳優の演技の見事さに目を見張るサイレント映画も、過去にいくらでもあるわけで、勝負どころはそこではなく。21世紀にサイレント映画を製作するという試みによって、映像と共に奏でられる音楽の魅力に感銘を受けることになるとは。

サイレントでありながら、ミュージカル映画を観る時の手ごたえに近い軽やかな愉しさがそこにあった。トーキー移行の時代、かつての大スターが落ちぶれる悲劇が描かれているのだけれど、そこに重苦しい悲壮感が充満することはなく。言葉を発声しない主人公はファンタジー性を帯びていて、その動きのせいか、何だか可愛らしい存在なのだった。シリアスな心持ちになることもなく気楽さをもって、革命的な映画史の一幕をなぞるのだった。劇中で皮肉めいて言及されていたけれど、私自身もおおげさな演技というのがあまり好みではない。そうではあるけれど、音声ぬきで動作と表情だけで、こんなにも感情や意思を表現できることに改めて感心。古きよきサイレント映画そのもの味わいと、今だからできるアプローチで二度おいしい。

こうやって映画を取り巻く環境は移り変わってきたけれど、人々は現在もあの頃も劇場に集って映画を楽しんでいる。そんなわかりきったことでも、それを目映いモノクロの画面に見出すとなにやら感慨深くて。映画は様変わりしてしまった部分もあるし、多様な娯楽がある今はかつてのようには多くの人々の心を熱狂させてはいないのかもしれないけれど。映画を愛してやまない私たちは、その変遷に悲喜こもごも複雑な思いを持ちながら、このオスカー作品である映画の映画を噛みしめて讃えましょう。先日『バンドワゴン』でアステアのステップを見たばかりなこともあって、本作の劇の結びもこれまた私好みだったと歓喜。柔軟にいこうよ。

古い映画も新しい映画も楽しみましょう。

(2012/4/7 ギャガ) 

allcinema
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