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『ル・アーヴルの靴みがき』Le Havre(アキ・カウリスマキ)
2012年 06月 22日 |
男はだまってカルヴァトス。



現実世界には詭弁があふれ、声の大きい口ばっかりな人々にうんざりさせられているせいだろうか。カウリスマキ映画に登場する寡黙な大人たちの姿にはやけにしびれてしまったね。彼らは余計なおしゃべりなどしないし、取り繕いの言い訳をすることもない。ただ黙って信ずる道に向かって行動をする。多くを言葉にしなくとも人々は互いに信頼しあって助け合う。カウリスマキの映画をヒューマンドラマなどと呼びたくはないが、そこに生きる人のあり方には心底グッとくるのだった。

かつてのボヘミアン、マルセル・マルクスが今は港町ル・アーヴルで靴みがき。収入、仕事は安定しているようには見えず、馴染みのお店でつけを溜めるばかりかパンをくすねたりする始末なんだけど、その姿は悲壮感よりもささやかな笑いを誘うのだ。金銭的には豊かではない暮らしぶりなのだけど、行きつけのBARでおいしいお酒を飲んで、よくできた女房アルレッティと相変わらず耳のたれ具合がかわゆい愛犬ライカの待つ我が家に帰る。それはつつましくもとても充実した幸せな毎日なんだなってことが、さりげない描写の中で浮かび上がってくるの。そういうのが大事、人の暮らしも、映画もね。

自分たちの生活にゆとりがなかったら、無関係の他者を慮る心の余裕も持ち得ないこともあり得るのだけれど。何しろ、マルセルたちは大切なものが何かを知ったうえで満ち足りているので、通りすがりの困っている少年に手を差しべることができる。これまでたくさんの映画で不法移民の物語を見てきたけれど、まさかカウリスマキの映画でそんなエピソードに遭遇するなんて。多くの場合、それは社会問題として取り上げられるので、シリアスタッチなのが常であった。それがこのカウリスマキ世界ではお馴染みの独特のリズムにユーモラスな語り口で展開。説教臭さは微塵もなく、妙に新鮮でむしろじっくり心に響く。

危なっかしいトホホキャラもいたりしたカウリスマキ映画の歴史を思い出しながら、今作の主人公の人柄への信頼性がとても気持ちよくもあった。哀切は漂いつつも根底にある安定感。登場人物がいい人だらけ、幸運に見舞われるばかりだったら、それはむしろ物語がつまらなくなりそうなものなのに。フィクションの都合のよさを感じるスキはなく、じわりじわりと人情が染みていったのだ。皆がイドリッサの身を案じてくれることが嬉しいし、職務に忠実な厳格男に見えたダルッサンのモネ警視の温情には感激ひとしお。アルレッティのワンピース姿には、善い行いをする者を神様はちゃんと見ていてくれるんだなって思える幸福感が訪れる。小津映画のようなサクラサク。

寒色のブルーやグリーンの中にさす茶色や赤、配色の素晴らしさと、ワンショットごとの画の美しさに見惚れつつ、気づかぬうちに演出の積み重ねの巧みさにも引き込まれてしまったようだ。いつもの味、それでいていつになく完璧で愛おしいカウリスマキ映画だよ。


(2012/04/28 ユーロスペース)


allcinema

アンドレ・ウィルムス (マルセル・マルクス)
カティ・オウティネン (アルレッティ)
ジャン=ピエール・ダルッサン (モネ警視)
ブロンダン・ミゲル (イドリッサ)
エリナ・サロ (クレール)
イヴリヌ・ディディ (イヴェット)
ゴック・ユン・グエン (チャング)
フランソワ・モニエ (ジャン=ピエール)
ロベルト・ピアッツァ (リトル・ボブ)
ピエール・エテ (ベッカー医師)
ジャン=ピエール・レオ (密告者)

撮影:ティモ・サルミネン
美術:ヴァウター・ズーン
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