かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『天使の分け前』 The Angels' Share
2013年 05月 08日 |
スコットランドの蒸溜所巡りの旅がしたくなるし、爽やかな涙が流せるし。ケン・ローチのおすそ分け。



イラクをかえりみた後、またグラスゴーに戻るケン・ローチのしなやかさが好き。The Angels' Share=天使の分け前、なんてステキな言葉なんだろう。このタイトルそのままの邦題で、銀座テアトルシネマの最後を飾るなんて感慨もひとしお。ケン・ローチの映画は、核にある志は不変でありながら、物語のアプローチは多彩で、いつも飽くことなく考えさせられ楽しませてくれるけど、今回はとりわけ『SWEET SIXTEEN』などと同じ好きなタイプ。スコットランドの危なっかしい若者が主人公で、これまた絶妙にチャーミングな映画。劇中に登場する貴重なスコッチウイスキーの分け前を味わえたような極上の気分に。

先月サッチャー元首相が死去し、国費で葬儀が行われたた際に、"彼女の葬儀を民営化しましょう。競争入札にかけて最安値を提示した業者に落札させましょう"と我らがケン・ローチはコメントをしたという。そんな皮肉を言ってみせる一方で、サッチャーの政策下で英国の貧富の差が拡大したといわれる社会で、底辺でもがきながら生きる若者を映画にし、切り捨てずに手を差しのべることを描くケン・ローチはカッコいい大人だ。選べない家庭環境で犯罪に関わってしまう若者が、負の連鎖をなかなか断ち切れずにいるシビアな現実を見せながらも、社会が酷いとただそれを批判するのでなく、説教臭さを感じさせずに軽やかに道標を示してくれるのだ。

しばしば行き過ぎた資本主義の競争社会について考えさせられるケン・ローチ映画なのだけど、そのシステムを特徴的に表すオークションが登場するのも見事。モノの購入金額がみるみるうちに上がっていく様を見て、価格ってなんなんだろうと不安な気持ちにもさせられたり。そのスコッチウイスキーは、本当に貴重品で美味しいのだろうけど、価値あるモノを所有したい欲のぶつかり合いで、値段が決められることに一抹の虚しさを感じもする。だからその後で、ロビーたちが忍び込む悪巧みを実行した時、私はそれが悪いことだと抵抗を覚えることもなく、「高価格」のミズモノをかすめ取るというエピソードはむしろ物語的に小気味よかったな。

『マイ・ネーム・イズ・ジョー』では主人公を依存症で苦しめていたアルコールが、このたびはスコットランド名産のそれが輝ける賜物として物語の鍵をにぎる。前科者のチンピラなロビーがテイスティングの才能を発揮するというくだりにはひときわワクワクした。村上春樹の「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」を読んだ記憶を探りつつ、しばらくご無沙汰のウイスキーの香りと味に思いを馳せた。そんな天使と悪魔の顔を持つお酒を小道具にして、不公平であるかもしれないこの世界での分け前/shareについてが、軽妙に示唆的に語られることがなんとも味わい深い。時には恩返し。或いは贈与経済か。お金とモノが等価交換され続けるセカイで、恩人ハリーに贈り物が届いたことの素晴らしさをかみしめた。


@銀座テアトルシネマ(ロングライド 4/13)


監督 ケン・ローチ Ken Loach
脚本 ポール・ラバーティ
撮影 ロビー・ライアン
キャスト
ポール・ブラニガン ・・・・・ ロビー
ジョン・ヘンショウ ・・・・・ ハリー
ゲイリー・メイトランド ・・・・・ アルバート
ウィリアム・ルアン ・・・・・ ライノ
ジャスミン・リギンズ ・・・・・ モー


a wee bit of Scotland
NIKKEI 映画・エンタメガイド



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by CaeRu_noix | 2013-05-08 17:00 | CINEMAレヴュー | Trackback | Comments(2)
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Commented by ぺろんぱ at 2013-05-10 12:27 x
 本当にワクワクの展開でした。
ロビーのサクセスストーリーかと思いきや、ちょっと意外でありましたが、ラストはきっちり心を温めてくれましたし。

>「高価格」のミズモノをかすめ取るというエピソードはむしろ

なるほど、私は最初ちょっと抵抗を感じてしまったものでしたが、そう考えるとあれは、本当は賢い男の子だったロビーの“鮮やかな意趣返し”と取れますね。

私も春樹のあのエッセイを思い浮かべました。
アイラのスモーキーなウイスキーも、かの地の気候風土を(訪れたことが無くとも)感じさせてくれてなかなかイイものですよね。

『マイ・ネーム・イズ・ジョー』は未見です。
是非、今後の鑑賞リストに加えたいと思います。

Commented by CaeRu_noix at 2013-05-12 10:53
ぺろんぱ さん♪
ポール・ラヴァーティの脚本は素晴らしいですよねー。
ささやかな意外性がちりばめられていてー。
カタルシスは王道にありながら、一捻りふたひねりに驚いたり、ヒヤヒヤしたり。

おそらく、日本のみなさん多くにひっかかったところだと思います。
犯罪はダメというのはもちろん当然の道徳心。
でもなんというか、競争社会の資本主義シャカイで、価値のあるものの実態の無さを思うにつけ(落札者の満足度には変化はない)、ロビーが働かせた知恵は物語的には痛快でした。

おお、ぺろんぱさんも春樹のエッセイを思い浮かべましたか。嬉しい。
おいしいウィスキーが飲みたいー

ケン・ローチ映画はぜひぜひありったけ全部観てくださいw
『マイ・ネーム・イズ・ジョー』は今作のように明るく終わらないのですが、大切な1本ですー。
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