かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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ミヒャエル・ハネケ映画祭のまとめ
2006年 05月 10日 |
今回観た過去4作品の感想とハネケ考



私のミヒャエル・ハネケ初体験はカンヌ映画祭グランプリ作品の『ピアニスト』(01)
イザベル・ユペールとブノワ・マジメルが抱き合うポスターのイメージを受けて、てっきりピアノ女教師と年下男子との甘くせつない恋愛映画だと思って観に行って突き落とされた。エリカの行動の数々に衝撃を受け、言いようのない不快さ痛さを感じつつも、すっかりその闇にハマってしまった。イェリネクの原作も読んでしまったし。

『ファニー・ゲーム』はその後にVIDEOで観たのかな。過激さにゾッとし、理不尽な暴力なんだけど現実にあり得ないことではないと思えるところがまた怖かった。

この2作品の印象から、ハネケという人は、現代人の病理というテーマを描き出すことに関心が高いのだと思っていた。そして、今回、『隠された記憶』 を含めて5作品を鑑賞して、ハネケのもっと視野は広いということを認識し、それと同時にもっと限定されたものに焦点を絞っているとも思った。

痛烈な暴力描写をする監督というと他にキム・ギドクを思い出す。だけど、描写の質感は全然違う。キドク作品の暴力には不器用にあがく人間の体温を感じるのに比べ、ハネケのそれは鋭くて冷たく乾いていて、人の思いが見えずに居心地が悪い。追いつめられて仕方なく最悪の状況に至ったという一部始終が見えずに、不条理感がつきまとう。そして、その心の闇や血迷った行動は、決してその人物特有のものではなくて、この社会に生きる人間誰もがそうなってしまう可能性があるといっているような描き方。とりわけ、恵まれた暮らしをする人たちがいつも主人公なのである。

そして、繰り返されるラジオやTVで流れる国際ニュースが印象深い。ハネケは、家庭や人間の限定的な問題を描くのではなく、世界の情勢をふまえて物語を綴っているだということにようやく気づく。ボスニアの人々は戦禍を被り、生き延びることにさえ必死なのに、先進国のハイソな人々は、ずいぶんと恵まれた暮らしをしていても、その日常に憂鬱になり閉塞感を感じていることを対比して描き出しているかのよう。批判をしているわけではないのかもしれないが、同情はしていないのだろう。作品を解釈しきれない以上、ミヒャエル・ハネケ論にはほど遠いけど、自分なりにハネケの傾向が掴めたのは収穫。

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『セブンス コンチネント』 89 THE SEVENTH CONTINENT 

-"一家心中をした家族が死ぬ前に家財、持ち物のすべてを壊した"という記事がきっかけで作られた。何不自由ない暮らしをする3人家族のもとに浸透する絶望感。-

第7大陸に行ってしまいたい気持ちにはかなり共感できてしまうので、要所要所はおもしろかったのだけど、終盤の破壊活動は私には理解できないタイプの行動で、それほどにノレず・・・。部屋って、ちらかすつもりはなくてもどんどんちらかってしまうものなので、せめて最期くらいは片づけたい私。物を壊す映像を見続けるのは結構不快で、いえ、本当はその不快さに圧倒されるべきところだったのかもしれないけど、ちょっと心は離れ気味。
娘が学校の先生の前で目の見えなくなったふりをしちゃうところが印象深い。
あと、何度か出てきた洗車される車内のウツ感がたまらない。


『71フラグメンツ』 94 71 Fragments of a Chronology of Chance

-ウィーン市内の銀行で、大学生が銃を乱射して、3人が死亡、その男も銃で自殺。その場所に居合わせた人々のそこに至るまでの断片が映し出される。-

パズルが組み立てられるように展開する群像劇。こういう構成は好きなので、興味深く観られた。何気ないエピソードの数々がリアルで少しずつ病んでいる。私にとっては、『セブンス~』 よりもこういうことってあり得るよなーと感じられるおもしろさがあった。偶然の引き合わせによって起こる悲劇。だけど、それは偶然性の事故的なものでもなく、起こるべくして起こったと思えるほどに、彼らの日常にも不穏感が漂っていて。大学生が没頭するパソコン、不法移民の少年の存在、挿入される世界の紛争のニュース使いがおもしろかった。紛争ニュースと同じ神妙さで伝えられるマイケル・ジャクソンのニュースが最高。


『ベニーズ ビデオ』 92 Benny's Video

-中学生のベニーはビデオマニアで、ビデオカメラとビデオデッキで独自の世界を楽しんでいた。家庭用ビデオで撮影した豚の屠殺シーンを何度も見て、ある日家に誘った少女を・・・。-

個人的にはこれが一番おもしろかった。こんなに恐ろしい物語をおもしろいと思うというのもアレだけど、"そう来たか"と何度もうならされる。恐るべき子どもの行動に衝撃を受けつつ、ビデオ映像の屠殺シーンに影響を受け過ぎてしまうことなんてあり得そうと思えたし。あり得るよなーと少し心理に歩み寄れた後に、理解を超えるゾッとする行動があったりして。多様に心理を揺さぶられた。ビデオの使い方がとにかく効いていた。撮影してしまうことがすごいし、親がその映像を見て発覚するというのもいい。そして、両親の行動がまたリアルだし。エジプト旅行も楽しめちゃった。あの少年はホテルでTVで見た神聖な映像と音楽によって改心の心が芽生えたんだよね?しかし、その方向性にまたビックリ。


『カフカの「城」』 97 The Castle 

-原作は、カフカの未完小説「城」。奇妙な村で主人公Kが体験する迷宮世界。-

これは毛色が違っていた。そして、こういう世界は好きだな。他の作品こそが、いわゆるハネケらしいものなのだろうけど、これはこれでいい。不思議ファンタジー感の漂うわけのわからない状況の物語。カフカの「城」は読んでないけど、映像として雰囲気満点で見ごたえのある映画化じゃないかな。測量士の押しかけ助手の2人のキャラがツボ。コメディですね。カフカ的不条理って、お役所仕事のこと? お役所に限らず、一組織のシステムは内部では当然のことでも、外部の人から見ると、非合理で妙だったりするものだよね。楽しい迷宮体験。このナレーションをトリアーはパクったの?

ミヒャエル・ハネケ映画祭&『隠された記憶』/幻燈機
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by CaeRu_noix | 2006-05-10 23:55 | CINEMAレヴュー | Trackback(11) | Comments(8)
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Commented by さち at 2006-05-11 18:48 x
ハネケ祭、アンコール(モーニングショー)があると知りました。
かえるさんのレビューを拝見すると、『71フラグメンツ』 と『ベニーズ ビデオ』が気になります。
ギドクの暴力描写は、極端だけれど自分の心にも確かにある部分が突出した形をしているのでまだ正体がつかめるけれど、ハネケは…その形が見えないので薄気味悪いです。
Commented by peridot at 2006-05-11 21:30 x
ハネケ特集のぜんぶからTBさせてもらいました。
すんませーん。
私も「ベニーズビデオ」好きです。
ヘンかな。
Commented by CaeRu_noix at 2006-05-12 12:40
さち さん♪
アンコール上映があるんですね。毎回、立ち見がでるほどに大盛況でしたもんね。ご都合がよろしければ、ぜひ観に行ってみてくださーい。最終上映ですから。『セブンス コンチネント』は最高傑作なんて書かれていたりもしたんですが、個人的にはそんなにピンとこなかったので、わたし的には『ベニーズ ビデオ』が一押しですー。
そうですね。ギドクの暴力は正体をつかみやすいですよね。もうちょっと葛藤が見える気がするし。ハネケ作品の登場人物たちはとにかく冷徹で不気味かも
Commented by CaeRu_noix at 2006-05-12 12:51
peridot さん♪
たくさん、TBありがとうございますー。
ふっふっふ。ベニーズビデオ支持嬉しいです。
ヘンじゃないですとも。おもしろかったですよね。傑作です。
いわゆる好きな映画にこれを挙げる勇気はありませんけれどー。
Commented by Chocolate at 2006-05-14 13:05 x
かえるさん、こんにちわ。

ハネケってビデオの巻き戻し、再生、巻き戻し、再生、
コレ結構私の中で恐怖になってたりします。(笑)
「カフカの城」カフカが苦手なのでパスしましたが、
かえるさんのレビューを読んだら見に行けばよかったなーと
ちょっと後悔しております。(泣)

TBもさせて頂きましたー。(^.^)
Commented by CaeRu_noix at 2006-05-15 11:05
Chocolate さん♪
巻き戻しのキュルキュルは恐怖ですよねぇー。
そして同時にそのVIDEO使いにしびれてしまうのでした。
カフカは「変身」くらいしか読んだことがなくこだわりもないんですけど、こういう妙な世界を映像化してしまう試みはとりあえず面白いと思いました。御伽の世界みたいな心地よさ。「城」も読んでみたくなりました。なーんか不条理コメディ路線のおもしろさがありましたよ。こんなハネケ作品もありなんだーという収穫でした♪
Commented by いわい at 2006-06-27 19:59 x
こんにちはー。
わたしのハネケ祭りも終わったので、感想を全てトラックバックさせていただきますー。
 『セブンス コンチネント』以外は、モーニングショーだったのです。朝からハネケは重かったっす。
わたしの初ハネケも『ピアニスト』でした。ハネケ監督の作風についての紹介を読んでからだったのですが、それでもドーンときました。
まとめて観て、何となく傾向が掴めたかなぁ。
オーストリアという文化の先端にある国から、現代の人々が持つ闇を見つめているという印象です。
確かに、批判も同情もなくて、観客につきつけてくるものが凄い、と感じました。監督が言っているように、彼の作品は娯楽ではなかったです。
Commented by CaeRu_noix at 2006-06-28 23:55
いわいさん♪
全作鑑賞おめでとうございますー。最終上映は逃せません。
朝からハネケっていうのはつらいですよね。でも、レイトでハネケで道玄坂っていうのもそれはそれでつらかったですー。
ピアニストは女子的にはかなり痛い映画でしたよねー。予備知識なしで観た私はそりゃーもう腰が抜けそうでしたわ。血はやめれー
そうなんですよ。これらのおかげで自分なりにハネケってこういう方向性の人なのねっていうのがつかめたような気がします。まったくもって娯楽ではないですよね。その冷徹さはやっぱり魅力なんですがー。
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