かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『ヒョンスンの放課後』
2006年 05月 12日 |
BBCドキュメンタリー。北朝鮮最大のイベントである巨大マスゲームに参加する女子中学生ヒョンスンとソンヨンとその家族の日常を8ヵ月間にわたり記録。



マスゲームはとても見ごたえがあった。「バーン・ザ・フロア」より圧巻。
下手なミュージカルよりも迫力のある壮観な群舞。
TVのニュース映像などで、そのマスゲームの一部分を眺めたことはあったけれど、こんなにじっくりと多様なパターンのものを見たのは初めて。新体操のようなものから、芸術的じゃないか。すばらしい。

練習のシーンから、普通の小中学生たちが、統制のとれたプロフェッショナルな体操演技を見せてくれることに驚く。放課後の部活のように集団で練習が行われているだけのように見えるが、毎日の特訓によって完璧なものになるらしい。その練習はとてもつらいということだ。オリンピック選手を目指すわけでもないのに、どれほどの時間を費やしているのだろうか。彼女たちのその熱意に感心し、同時にとても哀しくなる。

ヒョンスンは笑顔で、練習の成果を「将軍様に見てもらいたい」と言う。将軍様のために毎日毎日厳しい練習をこなしているのだ。彼女たちの一生懸命さが感動的であればあるほどに怒りがこみ上げる。団結を見せつけるイベントのために、驕慢な独裁者のために、多くの人々が身を捧げているのだ。まだ小さな子ども達の手足が、ピッタリと揃って完璧に動くのを見るたびに、複雑な思いにとらわれる。

地方ではどれほどに貧しい暮らしをしている人がいるのかはわからないが、取材が許されたのヒョンスンやソンヨンのピョンヤンの住まい環境は日本のものとはそう変わらない。一見私たちと同じような生活をしているように見えるのだけど。しかし、学校の授業では、将軍様の素晴らしさとアメリカの帝国主義の忌むべき点を教え込まれ、放課後はマスゲームのための厳しい練習。私がヒョンスンと同じ歳の頃は、めいっぱい反抗期で、大人に押し付けられるありとあらゆるものを斜めから見ていたというのに。

ぐうたら怠け者で協調性のない個人主義の私も、ピョンヤンに生まれ育っていたら、将軍様に見てもらうために熱心にマスゲームの練習をする少女になったのだろうか。なったかもしれない。それが当然の環境に身をおいていたら、自然に努力ができてしまうのだろう。自分探し、自己実現なんて概念もなく、疑いもなく、将軍様のために社会的な生き物になれるのかな・・・。人間の多様な可能性が台無しじゃない。エド・マローも生まれようがない。

将軍様が見にも来なかった見ごたえ満点のマスゲーム。すばらしく、もどかしい。
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by CaeRu_noix | 2006-05-12 12:30 | CINEMAレヴュー | Trackback(6) | Comments(4)
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Commented by Bianca at 2006-11-17 19:58 x
CaeRuさん、こちらからのTBにお返し下さり、どうもありがとうございます。TB解除したばかりなので、つい気ばかりはやって・・・
Commented by CaeRu_noix at 2006-11-18 11:15
Bianca さん♪
トラックバック受付ができなくなっていてご迷惑をおかけしました。TBのみが送られてくると機械的にお返しの作業を進めがちなのでした。のーぷろぶれむです。
Commented by 狗山椀太郎(旧・朱雀門) at 2006-11-18 22:16 x
こんばんは
私も「こんな幼い少女たちが、どうして1人の指導者のために練習に励まなければならないのだろう?」と思いました。でも、ヒョンスンたちにとってはそれがごく普通のことなのでしょうね(少なくとも、そのように見えました)。決して「こんな生活はイヤだ、いつか自由を手に入れたい!」という人々の悲願が感じられるわけではないですし。怒りというよりは、やるせなさがつのりました。

また、将来に国家体制が変革したなら、ヒョンスンたちのように恵まれた生活をしている階層の人々が、もっと貧しい階層の人から「今まで、さんざんいい思いをしやがって」などと恨まれたり、やり玉に上げられたりするのだろうか、と考えてしまいました。

ピョンヤンの人々だけを限定的にとらえた作品でしたが、フィルムに映っていない部分を想像しながら見ると、非常に複雑な思いにかられました。
Commented by CaeRu_noix at 2006-11-20 00:07
狗山椀太郎 さん♪
、1人の独裁者の権力誇示、享楽のために、子ども達が毎日必死にがんばらなくちゃいけないという状況は、日本人の私たちから見ると全くもって理不尽ですよね。でも、そうなんです。彼女たちにとってはごくごく当たり前のことなんですよね。私たちはその状況が不憫でならないのだけど、彼女たちは自分たちが異常な状態におかれているなんて思ってもいないんですよね。その事実にはうなだれるしかないです・・・。
ヒョンスンの家庭は比較的恵まれてはいるけれど、国家に騙されているのは他の国民と同じですよね。真っ当な方向での変革なら、それはそれほどの懸案事項でもないと思います。まぁ、ちょっとした情報操作で非難の矛先が向かいそうな気もしますけど。将軍さまの天下が終わるなら、一部の人の多少の弊害を気にしてはいられないような?
このドキュメンタリー自体は、取材対象が限定されているんですよね。それゆえに、映っていない部分が自然に気になってしまい、あれこれ考えさせられました。
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