かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『雪に願うこと』
2006年 06月 08日 |
しんみりしつつも、温かな気持ちになれる。
人生というレースは勝ち負けじゃない。

帯広のばんえい競馬場でなけなしの金をすってしまった男・矢崎学が、調教師の兄・威夫を厩舎に訪ねる。東京で成功を収めていたはずの弟の13年ぶりの帰郷。



地域ならではのものが描かれた映画は好きだ。輓曳(ばんえい)競馬というものを初めて知った。速く走るために改良されたサラブレットとは違うどっしりとした巨体の馬が重いソリを引いて登り坂を越える。まさに馬力というものを見せつけられる。優しい目をしているのになんて力強いんだろう。見わたす限りの雪景色が美しい北海道の大地で厳しい寒さと向き合いながら、それぞれの夢を持ちながら、馬と共に暮す厩舎の人々の地道な毎日がとてもいい。

TVドラマ風なのかなぁという不安もあったのだど、施設にいるの母と再会シーンがパターン通りだった以外は、素朴なタッチでじっくり丁寧に描かれている良質なものであった。目新しいものはないし、競馬については当然予想通りの展開をするのだけど、人と人の間に交わされる言葉は、案外と予想通りではないところが味わい深い。TVドラマならカップル誕生していただろうし。大躍進をしてめでたしめでたしと終わるのではないけれど、心が軽くなってがんばる気力を取り戻す。そんな過程が誠実に描かれている。人生は一筋縄ではいかないけれど、絶望することはないのだ。

今日的な設定であることも興味深かった。お金というものに大きく左右されてしまう私たちの人生。人生の浮き沈みはこんなにもお金次第なのだということを寂しくも実感。だからこそ、これまでずっとパソコンを操作してビジネスを行っていた都会人が、8万円の給料を得るために体をつかって馬の世話をする毎日を送るようになったことが何だか感慨深い。今の日本では、汗水たらして労働するよりも、頭を使って楽して効率よく儲けることの方がカッコいいという価値感が主流だろう。そんな世の中だからこそ、学が体を張って体験したことの一つ一つがとても嬉しく思えるのだ。

起業家として成功し続けていたら、気づかなかったこともあっただろう。兄や母に会いに来ることさえもしなかったのだろうか。自分のことばかりしか考えていない学の甘ったれた未熟ぶりに何度も傍ら痛さを感じながらも、その挫折感ややるせなさには共感してしまい、彼と一緒にいくつもの気づきを得た。徹底的に厳しいけれど決して弟を見捨てない頼りになる兄、気のいい幼なじみ、温かい人たちに囲まれて、ゆっくりしっかり生きることを噛みしめる学の気持ちで清々しさを覚える。

迷わずにまっすぐ生きているように見えた兄も本当は迷っていたという言葉にはズキンときた。そうなんだよね。誰もが迷って苦しんで挫折をしているんだ。自分だけじゃないんだよ。女1人で生きてきた晴子の謙虚さも胸をうつ。厩舎生活を通じて、勝ち組ではない自分を認められずに目をそらしていた学が、きちんと現実を受け容れようとしたことは大いなる進歩。そして、ウンリュウのように復活を遂げられるかもしれない。がんばれるものなんだ。

監督 根岸吉太郎
脚本 加藤正人  原作:鳴海 章
出演 伊勢谷友介、佐藤浩市、小泉今日子、吹石一恵、山崎努
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by CaeRu_noix | 2006-06-08 23:57 | CINEMAレヴュー | Trackback(8) | Comments(10)
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Commented by わかば at 2006-06-10 00:27 x
こんばんわ。
私も行きましたよ~。いい意味で予想を裏切ってくれる素敵な作品でした。嬉しかったです。字幕なしでいい映画が観られる幸福を感じました。
東京で生きていると、8万円なんて何もできないと思ってしまうけど、案外人間て本当は8万円くらいあればじゅうぶんなのかもしれませんね。
Commented by CaeRu_noix at 2006-06-10 12:46
わかば さん♪
よい映画でしたよねー。毎日を一生懸命生きる人たちの息遣いがステキでした。わかばさんはココシリと重なるものがあったということですが、私は同じ邦画の『かもめ食堂』に通じるものがあったかもって思いました。舞台が片や故郷、片や異国の地という違いはありますが。日々の積み重なり方の丁寧さが似ていたような・・・。深呼吸ー。
物価高の東京では8万円ではなかなか暮らせないかもしれませんね。この現代日本では、お金なんていらないとは言い切れないのも事実ではあるけれど、金銭に囚われすぎているともっと大切なものをは見失ってしまいがちだと思います。生活できて、時々ささやかな贅沢ができるくらいがよいのでしょうねぇ。欲深な私が言っても説得力がないですが・・。
Commented by わかば at 2006-06-10 21:53 x
こんばんわ。
「かもめ食堂」…評判いいですね。なんとなく、先入観で避けてます(笑)小林さんがあまり得意じゃなくて。でも先入観を捨てて、観ようかな。DVD出たら(^^;
でも、「かもめ~」もこの作品も「ココシリ」も、今の都会の生活を見直そうよっていう時代の気分なのかもしれませんね。
しかも、そういうテーマで見応えのある作品が多く発表されているのは、とっても嬉しいことだと思います。
Commented by CaeRu_noix at 2006-06-11 11:42
わかば さん♪
『かもめ食堂』はビックリするほどに評判がいいですね。そういう私にとっても、今年の邦画のベストかな。昔TVドラマで観た小林さんはそんなに好きではなかった気がするんですが、かもめの小林さんはすっごく素敵な女性を演じていましたよー。童顔なのがいいんですよね。ご覧になる価値は大いにありますです。
邦画って、ハリウッド映画に同じく、派手でドラマチックなものが話題になり、ヒットするという感じが強いんですが、こういった若いアイドルが出ているわけでもないシンプルな作品が好評をよぶというのは実にすばらしい現象だと思いました。日常こそがステキなのだという映画がたくさん受け容れられるのは本当に嬉しいことですよね。
『雪に~』は一見古くさいドラマ風なので、万人に大きな感動を与えはしないかもしれないけれど、この現代だからからこそ再認識したいテーマが描かれていることを、観た人に感じてほしいですー。
Commented by t@shi at 2006-06-12 15:18 x
突然のTBありがとうございました。うれしいです。この作品にふれて
いかに自分が多くのものから逃げてきたか、痛感しました・・・
Commented by 丞相 at 2006-06-12 20:25 x
こんばんは、TB&コメントありがとうございました。
自分の人生にしっかりと向き合うこと、そういう誠実さに満ち満ちた
作品でしたね。地味ながら、骨太な作品でもありました。
登場人物たちも、それぞれ屈託を抱えながら誠実に生きているのが
実に好感が持てました。
小泉今日子も、『空中庭園』に続いて立派な女優になったと思います。
Commented by CaeRu_noix at 2006-06-13 10:55
t@shi さん♪
そんな大きな感動が感じられるレヴューだったので、TBさせていただきましたのです。(そちらへは丞相さんの記事のTBからたどりました。) そんな映画に出逢えてよかったですね。しみじみと感じるものがあったよい映画でした。
Commented by CaeRu_noix at 2006-06-13 11:41
丞相 さん♪
誠実で骨太でしたね。登場人物それぞれの生き方がリアルでした。必要以上にお涙頂戴に走らずに地味な日常を綴ってくれたから私も好感をもてました。そんな故郷の日々の中で、イマドキ価値観をもった若者がそれまで見失っていた何かに気づくという心の旅物語が描かれていたのがとても心に沁みました。彼とともに学びながら、彼らの人生に静かに感動。
『空中庭園』は観ていないんですが、本作のキョンキョンの存在はとてもよかったですね。あのイントネーションがとても心地よかった。いい女優さんになりましたよね。
Commented by まつさん at 2006-06-13 19:12 x
コメント&トラックバックありがとうございます。
人間本来の生活を見出せる温かさのある作品ですが、逆に考えるとやはり地方の厳しいさに身を置く人にとって都会は憧れであると言うきれいごとでは済まされない面もあることを痛感しました。
都会の暮らしを知らない地方の人々がこの映画を見てどう思うのかが知りたいところです。
Commented by CaeRu_noix at 2006-06-14 15:02
Mr.まつさん♪
観てはいないんですが、本作を観て、「青いうた~のど自慢 青春編」にもちょっと興味を持ちました。地方の若者が夢を抱いて東京に出て行くけれど、現実は厳しく・・・という感じの物語なんでしょうか。自分もそうでしたけど、やっぱり若いうちは、都会の生活にあこがれてしまうんですよね。地元で地道な仕事をしようという若い人は少ないのでしょうね。私はそういう現実があるからこそ、この映画に描かれているものに感動したクチです。歌舞伎町でホストでもやろうかなーなんて調子に乗っていた彼だけど、今は毎日厩舎でがんばっている姿を見せてくれたから。きれいごとでもあるかもしれないけれど、真実でもありますよね。といいつつ、私も温かな感動を受けたばかりでなく、社会にある/自分にも思い当たるリアルな痛さを感じる映画でもありました。
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