かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『バッシング』
2006年 07月 24日 |
取り上げることに意義はあるから。

2004年にイラクで起こった日本人人質事件をヒントにつくられた。帰国した有子は周囲からの激しい批判を浴びる・・。



監督のインタビュー記事などを読んだ限りでは、この映画を作ろうとした動機、その思いに共感できる。2年前のあのバッシング騒動には唖然としてしまったものだ。人質となるに至った彼らの行動にはもちろん自重すべきところは大いにあっただろうけど、TVの報道を見た無関係な人々が、結果的に人質の被害にあった彼らを非難するのはどうかしているとしか思えなかった。そんな不可解なバッシングは、首相の言葉によって、メディアの報道によって、起こり威力を増したようなものだったから、いたたまれなかった。

そう感じていたので、この日本の社会の一面を題材にした映画がカンヌ映画祭に出品されて注目を浴びたことは喜ばしいと思ったし、ようやく一般公開されたこともよかったと思う。タブーにさえなったようなこの難しい問題に取り組んだ心意気は買いたい。
でも、実際にこの映画を観てみたところ、観客に訴えたいものは何なのかよく掴めなかった。何かを主張するということではなく、観客に個々に考えてもらおうということ?私は現実のバッシング騒動の時には多くを考えさせられたけど、今この映画を観て、新たなる発見をしたり、改めて考えさせられることはあまりなかったので、何を感じ取ればよかったのか戸惑ってしまった。

この題材で映画を撮るからには、バッシングする人々やそんな社会を問題視するというスタンスに違いないと思い込み過ぎてしまったのだろうか。主人公に感情移入をしづらくした、バッシングされた彼女の肩をもたないという姿勢は、公平なところがいいと思うべきなんだろうか。主人公をどうしてこんなにエキセントリックな女にしちゃうんだろう。フィクションだから、そんなのは作り手の自由だし、清く正しく明るくチャーミングな誰もに愛されるようなタイプにするのは、やっぱり公平さとリアリティにかけるのかとは思うけど。このキャラクターはないんじゃないかと思った。それとも、もとはもうちょっと明るい人だったんだけど、バッシングにまいってしまって、こんな無愛想な人間になっちゃったということ?ボランティア活動をするような人は、燃やせない容器ごみが無駄に出てしまうようなおでんの買い方はしないと思うんだけどなぁ。

音楽もなく、ドキュメンタリータッチで進む日常は淡々としているのに、その物語展開、エピソードは昼ドラ的に劇的なものだから、不自然さを感じてしまった。世間の目が原因で仕事を辞めさせられるということにはリアリティがあると思うのだけど、親子揃って同じ時期にというのは偶然過ぎるし、職場でのやり取りの一つ一つに私は違和感を覚えた。そして、父親の選んだ行動にも悲しいよりも興ざめした。それはもちろんあり得ない話ではないけど、このお父さんは家族を置いて、自分だけが逃げたりするタイプじゃないと思えた。妻のつらい立場を思ったら、遺してはいかないでしょう。それほどに精神がまいっていたと理解するしかないけど、フィクションであっても、死をもってくるというのは違うんじゃないかな・・。

大体、初めの方のコンビニで買ったおでんが、通りすがりの人の嫌がらせで、地面にこぼれ落ちてしまう場面から、あり得ない・・と思ってしまった。こういういじめ方は、昭和の頃のNHKの中学生日記の中で見かけたような、陳腐なシーンに見えてしまい。『誰も知らない』のようなみずみずしいリアリティを・・・というのは高望みとしても、もうちょっとどうにかならなかったものかな。嫌がらせ電話にうんざりして電話機を投げ捨てちゃうっていうのもいかにもだし・・・。もう一度旅立つのはいいんだけど、「もしもし、飛行機のチケットを。モスクワ経由で」っていう電話の会話はどうしたって成り立たないし。市役所勤めの彼の言動にしても、しばらくぶりに会ってそれは変だと思ったし。どんなにバッシングを受けたって、父の葬式に参列する親戚や友人たちは絶対いると思うし。父の49日も待たずに、義母の手助けもせずに、旅立ってしまうほどに非常識な薄情女の物語?

あんまり細かいことは気にしちゃいけないファンタジーなんでしょうか。私はすっかりテーマを見失ってしまいました。私としてはこの映画そのものはあまり評価できないかな。人物造形や流れに違和感を感じることが多くて、心に響くというところまではいかず。

(レンタルDVDで『蛇イチゴ』を観ました。お見事でした。ふと、この西川監督ならば、バッシングされる有子とその家族を、私の心にしっくりくるようなかたちで描いてくれるんじゃないかと思ったりした。是枝印なのだね。)

と私にはしっくりこない映画でしたが、他の人の感想を少し読んで、やはり考えさせる映画ではあるようです。彼女を非難したり、社会を問題視したりするよりも、自分自身が生きるうえで学べることは、どんな出来事にもどんな映画にもありますもんね。

フィルメックスで最優秀作品賞をおくられた際の「テーマの重要性と内容に適合したその映像スタイルを評価。人々が思いやりの持てる社会となることを願って。」という言葉をかみしめたいものです。

BASHING 2005
脚本.監督 小林政広
出演 占部房子、田中隆三、大塚寧々、香川照之 
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by CaeRu_noix | 2006-07-24 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(6) | Comments(12)
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Commented by mar_cinema at 2006-07-25 05:50
かえるさん、おはようございます。
この映画、初日に観に行くほど、気合入っていたんですけどね・・・
まぁ、そのおかげで、ぴあの初日評価の採点、最低点をつけたのは、
私だったりします。(他にも、同点数つけた方がいるかもしれませんが)

かえるさんのコメントを読ませて頂くと、全て一致している訳ではないですが、
己が表現できなかった事が、明確に表現されており、
自分がこの作品に対して、感じた何かを再認識させて頂きました。
もう少し、表現力が欲しいです・・・(笑)
Commented by CaeRu_noix at 2006-07-25 12:42
mar さん♪
ぴあのアンケートに答えたのですねー。
あの満足度調査って、最高点と最低点も表記されるんですよね。
雑誌を見て、30点なんてつけちゃう人の気が知れないと思ったこともありましたが、やっぱり厳しくなってしまうものもありますよねー。何点だったんでしょう?
そうですかー。似たようなことを感じられたとは嬉しいです。私が、2,3読んだレヴューではそれなりの評価をしていたようなので、私の見方は意地悪過ぎかなぁとも思ったんですが、期待はずれ感は否めません。なんで、大塚寧々なんだろうとか、あらゆることに違うよなーって思えてしまったのでした。はい。
Commented by mar_cinema at 2006-07-25 19:56
かえるさん、こんばんは。
ぴあのアンケート、どういう基準で点数を?って聞いたら、
『貴方の基準で・・・』っていう事だったので、平均点50点主義の私は、
普通に30点って言ってしまった覚えがあります(苦笑)
個々の基準って、同じように面白いって思っても、
平均をどこにおくかっていう事で変わるんですけどね。

この作品、題材は凄く良いと思うんですけどね・・・
個人的には、なんか嫌悪感を抱いてしまった作品でした。
他の人のコメントを見ると、評価高いですね~
Commented by 隣の評論家 at 2006-07-25 20:38 x
かえるさん、こんちわー。
いつもながらお見事な記事で感服いたしまする。
>この題材で映画を撮るからには、バッシングする人々やそんな社会を問題視するというスタンスに違いないと思い込み過ぎてしまったのだろうか。
うーん、この作品のタイトルやテーマとは違う部分を見てしまうというところはありますよねぇ。私は、とにかく有子のいう女性像ばかりをあーだこーだと色々考えてしまいました。
不快感は残ったのですが、考えさせられたという点では、評価は高めになりました。かえるさんは、何点くらいなのかしら?
Commented by 朱雀門 at 2006-07-26 02:53 x
こんばんは

この映画はあくまでも題材として「人質事件」を扱っていたように思います。リアリティに欠ける点や、主人公を突き放したように描いている点は、私も鑑賞中いささか違和感を覚えました。
ただ、ひとりの人間として誰かと相対することの難しさを描くことによって、間接的に「顔の見えない人質バッシング」を批判しているように思えたので、そのあたりは興味深いところでした(この部分は『隠された記憶』に通ずるかも知れません)。
実際の「人質事件」は私にとっても関心の高いニュースでした。今後は、本作とは別の視点でもっとストレートに描く作品が出てくることを期待したいですね。

蛇イチゴ・・・ご覧になりましたか、うらやましい。
先日見た『ゆれる』がなかなか良かったので、近いうちに前作も見てみたいです。
Commented by CaeRu_noix at 2006-07-26 23:25
mar さん♪
そうでしたか。「貴方の基準」なんていったら、本当にばらつきがでちゃいますよね。そんなんで出した平均点の高さなんてアテにならないような気がしますー。それでも、サンプル数が多ければ、わりと公平な数値になるものなんでしょうかね?marさんならば、当然30点ですよねー。

こういった問題作に取り組んだ意気込みはとにかく素晴らしいと思います。逆風も強かったに違いないのに、一般公開にこぎつけてよかったと思いますとも。でも、せっかくの問題作なのに、心に響かずに残念でしたー。
Commented by CaeRu_noix at 2006-07-26 23:28
隣の評論家 さん♪
いえいえ、ただの難癖ヤローな感想かも・・・。
有子という女性はどうしたって問題点ありありですよね。ドラマの多くは、主人公に感情移入・共感させることを第一としていますが、これは全くそれをしていないんですよね。それはそれで観客が感情に流されず理性的に彼女たちを見つめることができていいと思うんですが、それにしてもなぜあえて、こんなに感じの悪い女にしちゃったんだろうという疑問が大きかったんです。今日チラッとお話ししたように、「この映画の目的はひょっとしてセカンドバッシング?」と勘違いしてしまうほどに、こんな女じゃー非難を浴びて自業自得っていうことになりかねないような・・・。作中人物の孤独な不幸に不快になるのではなく、実在する人物をモデルにしてこんなキャラ設定にするのは本人に失礼じゃないかなぁという複雑な思いがあったりしました。そういう意図じゃないことはわかるんですけど、しっくりきませんでした。50点くらい?
Commented by CaeRu_noix at 2006-07-26 23:31
朱雀門 さん♪
バッシングはテーマではなく材料の一つに過ぎず、主題は別のところにある?
主人公を突き放したように描くことはいいと思うんですが、客観的に見て、あまりにも自分勝手で非常識なキャラクターにしてしまうのはどうかと思ったんですよ。ボランティア活動中は子ども達に優しく話しかけていた彼女が、どうして家族や友人にあんなにつっけんどんなのかって。都合のいい時だけ善良な、外面だけがいい女という設定なのか。それとも、とにかく、バッシングされて心が傷ついて、人当たりが悪くなってしまったということなのか。そのへんがずっとつかめずにいました・・。
「顔の見えない人質バッシング」を批判しているに違いないと映画を観る前には思っていましたが、そのへんが伝わってきませんでした。"ひとりの人間として誰かと相対することの難しさ"が描かれていたとすると、それがバッシング批判になるっていうのはよくわからないです。すみません。とにかく嫌がらせ電話をかけるバッシンガー?な人たちはもう仕方ないから、される側の立場がよりよい処世術を模索しましょうよという映画?

『蛇イチゴ』の家庭も悲劇だらけでしたが、人間がリアルでおもしろいですよ。
Commented by いわい at 2006-07-30 23:53 x
こんばんはー。
似たような感想を持ちました。重たいテーマだからと、気合いを入れて挑んだのがいけないのかも?
コンビニのおでんのエピソードはいただけませんよね。
でも、あのエピソードに言及して、褒めている人もいるのだから、感じ方はいろいろなんだー、と今更ながら思ってしまいました。
わたしも、テーマが何かをつかみきれませんでした。
Commented by CaeRu_noix at 2006-07-31 10:35
いわい さん♪
予告を見た時に既に陳腐さを感じてしまっていたので、私は全然期待もしていなかったし、気合いも入っていなかったんだけど、物語展開のチンプさは覚悟していた以上だったので、ガックリしてしまいました。全ての映画が主題を明確に描く必要はないと思うけど、せっかく逆風の中でこういう重いテーマを扱うのだから、もっとガツンと心に響くようなものであってほしかったです。
おでんのエピソードは納得いかないですよねぇ。監督自身がこういう買い方をするらしいんですが、それをこういう境遇の女子に当てはめないでほしい。おうちでゴハンが用意されているのにおでん買っちゃうなんて、かなり病んでいるっていうふうにしか解釈できなかったです。都会に住むの男性の発想だなーって感じ。とにかく、ディテールの一つ一つが私には不自然に感じられました。
このモデルの彼女に取材などはしたんでしょうかね?フィクションとはいえ、自分がモデルの映画で、こういう女として描かれたら、私なら傷つきますー。
Commented by rino at 2006-09-09 11:44 x
すみません!二重TBしてしまいました。お手数ですが削除お願いします。

当時、私もかえるさんと全く同じ思いでした。
ただ、私は映画のメッセージ性を追ったので、こちらで書かれていることは書けませんでしたが、同じ思いの人がいらっしゃたのがとても嬉しかったです。
Commented by CaeRu_noix at 2006-09-11 01:05
rino さん♪
はじめまして。了解ですー。
私は映画からはメッセージというものを感じなかったんですけれど、それはともかく、あのバッシング騒動を問題視したことについては賛同したいです。あんなことはオカシイと感じた人がたくさんいてくれたなら救いです。
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