かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『蛇イチゴ』
2006年 08月 09日 |
早川兄弟と一緒にゆれるその前に、明智家訪問。
いやー、痛快でした。物語は不幸なのになぜか痛快。



だって、登場する人々の人物造形が完璧で、彼らの言動・挙動の一つ一つがリアルなんだもん。巻き起こる事件そのものはTVの2時間ドラマみたいに衝撃的にドラマチックなんだけど、その悲劇を目の当たりにした等身大の人々の心の動きや振る舞いは、隅々までリアリティにあふれて、逐一わかるなぁーと共感。そして、外から眺めたら模範的にすら見えた、よい父親とよい母親とよい娘の幸せそうな一家の綻んでいく過程がシニカルにおもしろくってたまらない。

微妙なニュアンスが伝わるために、邦画は洋画よりも、役者の演技に不満を感じることが多くなりがちなのだけど、本作では、俳優たちの演技力+監督の演出力を絶讃したい。台本に書かれた台詞そのものが現代的に自然なのだろうし、それがふさわしい場面で迫真の演技によってイキイキと放たれる。そもそもキャスティングが素晴らし過ぎる。なんでもかんでも人気TVタレントをもってくる企画もの大作邦画とは大違いの絶妙なコラボレーション。

仕事で失敗したことを家族には告白できず、家では頼りになる大黒柱を演じ続けるお父さんのプライド。痴呆のおじいちゃんの世話も苦にしないよくできた優しいお母さんがかいま見せた誰にも言えない邪心。真面目でまっすぐな教師の妹の正しさの信念・自信が揺らぐ時。嘘つきで犯罪にさえ手を染める堕落した悪徳人間のお兄ちゃんが修羅場では救いの神。蛇の道は蛇。

当たり前のことながら、完璧な人間なんていないし、皆それぞれに長所と短所をもっている。善良さも邪悪な心ももっている。みんながみんな白でも黒でもなくてグレーなんだと思う。そのグレーは状況に応じて、或いは見る角度によって、黒に近い濃いグレーだったり、白に近い薄いグレーだったりする。同じようなグレーでも、対比するものによって、濃く見えたり薄く見えたりもする。その色はとても微妙で複雑で移ろいやすいもの。善悪とはそういうもので、表裏一体のもの。絶対的なものでない。そういったことを具に感じさせてくれる巧妙な物語なのだ。

脇役では教師のともこの婚約者キャラが傑作だった。ビールは苦手で、いつもはスパークリング・ワインをだなんてねぇ・・・。婚約者の家に初訪問して、そんなことを言っちゃう男は痛いでしょう。不良兄貴への反動で、純朴善良おぼっちゃまに惹かれてしまったということ?疑念なき善良な人って、愚鈍さへの自覚がないのが困りもの。そんなことを感じる性悪な私だから、この物語はもう的確に面白かった。

明智先生は教科書に載っていないことを学ぶことができましたとさ。

均整のとれたハウス栽培の花やフルーツとは違う、たくましく野に咲くヘビイチゴの強さと美しさ。

-cast-
明智周治 ・・・ 宮迫博之
明智倫子 ・・・ つみきみほ
明智芳郎 ・・・ 平泉成
明智章子 ・・・ 大谷直子
鎌田賢作 ・・・ 手塚とおる

2003 公式サイト
監督.脚本  西川美和

(レンタルDVD)
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by CaeRu_noix | 2006-08-09 11:46 | CINEMAレヴュー | Trackback(3) | Comments(4)
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Tracked from シネ・ガラリーナ at 2006-08-12 23:03
タイトル : 蛇イチゴ
2003年/日本 監督/西川美和 普通の人間を普通に描くとこんなにも恐ろしくなる。 普通の平凡な家族の仮面をはぎ取る、その何気ない光景に背筋がぞっとする。仮面をかぶった家族たちの冷ややかな視線、言動。人間って、こんなに恐ろしくて醜い生き物なのだろうか、と思う。しかし、だからと言って絶望的な気分になるかというと全くそうではないのだ。なぜなら、家族が集うシーンは、ドキュメンタリーかと思うほどリアルな描写で、この本物っぽさ、生っぽさに非常に引きつけられるからだ。これは西川監督を見いだした是枝監督...... more
Tracked from MESCALINE DR.. at 2008-08-12 23:29
タイトル : 損と嘘
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Tracked from ☆彡映画鑑賞日記☆彡 at 2008-11-11 20:15
タイトル : 蛇イチゴ
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Commented by たかこ at 2006-08-10 11:40 x
>疑念なき善良な人って愚鈍さへの自覚がないのが困りもの。
ふふふ、そうそう。
>明智先生(つみきみほ)
男子の「お母さんが病気」、あれを嘘だと決めたのに驚いた。
ありえるでしょう!朝は発作が起きやすくてつらいながらも夕方は晩ご飯の用意がんばってるのってー!
>グレー、黒に近い濃いグレー、白に近い薄いグレー
そうそう。谷崎の「陰影礼賛」はだーいすきな本。
日本の美意識だけでなく、この映画で言ってることにも通じます!
Commented by CaeRu_noix at 2006-08-10 15:00
たかこさん♪
ふふふ。スパーリングワイン男の余罪をついきゅうしたいですぅ。
スパーリングワインとあと何て言ってたっけ。シェリー?

「嘘はいけません。まず謝りましょう。」と児童に説いていた明智先生の教室への姿はうまい伏線になっていましたよね。目を輝かせて一少年を嘘つきと決め付け反省を促す道徳心にあふれた偏見・・・。ホントにヒドイ先生。でも、教育現場ではよくある話なんだろうなと思えたり・・・。もう1人の飼育係?の女の子の率直な指摘が痛快でした。

「陰影礼賛」は読んだことないです。そんな内容なのね。興味深し。
私は坂口の堕落論が好きでした。あんま関係ないか・・。「青鬼の褌を洗う女」
Commented by とらねこ at 2007-06-29 03:01 x
こんばんは。かえるさんがヒキコモリ気分だと、寂しい私です。
頑張れエキブロ~。

>疑念なき善良な人って愚鈍さへの自覚がないのが困りもの
全くそうですね。このキャラの描き方で、西川美和のカッコよさが分かりますね。
美和、頭が良いので、この手の女の愚鈍さが嫌いそうですね。
この映画、伊丹十三の『お葬式』を思い出してしまいました。
で、上のたかこさんと言う方が『陰影礼賛』を言っていらっしゃる!ふむなるほど・・・。
Commented by CaeRu_noix at 2007-06-29 12:44
とらねこ さん♪
ありがとうー。がんばれ、液風呂ー
受付再開のお知らせはまだなんだけど、昨日の夜、1件エキブロ以外からのTBが入っていました。たまたま?

西川美和ちゃん、敵に回したらちょっと怖い人だけど、その洞察ぶりを垣間見せてもらう分にはとてもカッコよいですよね。嬉しくなっちゃいます。美和(呼び捨てでいいの?)はそう鈍感な奴が嫌いでしょうな。
『お葬式』はTV鑑賞だった気がするのであんまり憶えていないけど、ブラック・ユーモア加減は似ているかも。
「陰影礼賛」、読もうかなっ。
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