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アトム・エゴヤンの『カレンダー』(アルメニア・フィルム・セレクション)
2006年 08月 23日 |
好きな監督の1人であるアトム・エゴヤンの93年の作品を観ました。



エゴヤンは、アルメニアの亡命者だった両親の長男としてエジプトのカイロに生まれ、のちにカナダへ移住しています。自らのルーツであるアルメニアを取り上げた2002年の『アララトの聖母』はすばらしい作品でした。トルコ政府がその事実を認めようとしないアルメニア人大量虐殺にスポットをあてたドラマで、物語中の映画撮影によってその場面が映像化されるという構成も感慨深く。

そして、本作でもそんなアルメニアにおもしろいアプローチをしていました。主人公のカメラマン夫婦をエゴヤン本人と彼の妻であり女優でもあるアルシネ・カーンジャンが演じています。

カメラマンの主人公がアルメニアの古い教会を写真に収めたカレンダーをつくるため、通訳として妻を同行してアルメニアへ赴く。現地ガイドと妻は主人公の彼がわからないアルメニア語での会話を繰り返し、2人は彼を差し置いて親しさを増していく。そんな情景と、その時に記録されたビデオ映像と、帰国後の彼が外国語を話す女性と食事をするシーンが交互に展開する。

食事に招いた女性は決まってある時点で「電話を貸して」と言って、席を立ち電話をかけ、母国語で恋人と会話をする。多様な国籍の女性が食事に招かれて、同じように電話をかける。ワインを注ぎきって、ボトルを空にした時が電話かける時機の合図なんだろうか。彼女たちが恋人と話す外国語を聴きながら、アルメニアでの妻とガイドの会話を思い起こし、何かを探そうとしているのだろうか。

エゴヤンが描き出す人間の心の傷というものにとても惹かれてしまう。
何本かの作品を観て、村上春樹小説の登場人物が抱える心の傷に似ていると感じた。ストレートに悲しみを表現するのではなく、とても屈折している。一見そこには悲しみなんてないかのように振る舞うのだけど、ちょっと奇妙な行為を通して、そこには深い傷があるということがあぶり出される。人間の心理はこのように複雑怪奇で一筋縄ではいかないものなんだよね。そりゃー誰だって悲しいに決まってるよっていうわかりやすい悲劇のドラマよりも、こんな謎めいた物語にうなります。

何が起こったかも明らかに語られていないのに、彼の心の傷の痛みには寄り沿ってしまい、喪失感にとらわれて、アルメニアの美しい風景とビデオ映像がせつなく心に残るのでした。
しかし、物語の解釈は悩んでしまうところです。
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by CaeRu_noix | 2006-08-23 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(3) | Comments(4)
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Commented by GOGh at 2006-08-25 23:32 x
ご無沙汰してます。
ところで「カレンダー」どちらでご覧になりました。
UPLINK-X?ならご一緒してたんですね。(^_^ゞ
Commented by CaeRu_noix at 2006-08-27 13:03
GOGh さん♪
お久しぶりです。『カレンダー』ご覧になったのですね。
私はアテネフランセの方で観たのですよ。賑わっていました。
UPLINK-Xもきっと満員状態だったのじゃないでしょうか。
UPLINKは『ガーダ/パレスチナの詩』を観に行きましたが、移転先の場所をチェックしていなくて、辿り着くのが大変でしたー。
Commented by いわい at 2006-09-14 19:04 x
こんにちは。
DVD上映は、英語字幕もついてましたよね。画面にあるものは全て読んでしまう性質なので、大変でした。ト書きみたいなのまで、字幕になってたのは、どうなんでしょうね。
女の人が話す外国語が、Russian,German以外はForeign Languageだったのが残念。何語なのか知りたかったです。
アテネフランセも、UPLINKーXも、びっくりするほど混んでました。関心が高いみたいだから、もっと大きいハコで、また開催して欲しいです。
Commented by CaeRu_noix at 2006-09-14 23:56
いわいさん♪
日本語と英語字幕とのニュアンスの違いが感じられたりして興味深いですよね。そうそう、あの外国人の女性たちの出身国がすべて知りたかったですね。言語を聴いただけではもちろんわからなかったし。わからない言葉を聴いてニュアンスを感じるのが物語の主旨であったのかもしれないけど・・・。
本当に混んでましたよね。こんなに混む映画祭は多くないですよね。以前イメフォであったエゴヤン特集はそんなに混んでいなかったような・・・。パラジャーノフはとにかく人気あるんでしょうね。こういう特集上映って、なかなか儲けが出るまでいかないとどこかの記事にありましたよね。だから、費用の高くつく会場でやるのは難しいのかもしれません。でも、もうちょっと広いところでまたやってほしいですねー。
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