かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『楽日』 -不散-
2006年 09月 03日 |
映画館への思いがとても温かい。

台北の古い映画館「福和大戯院」が閉館しようとしている。



最後に上映されているのは 『龍門客桟』という1967年製作の武侠映画。邦題は『残酷ドラゴン・血斗!竜門の宿』、英題は『DRAGON INN』。その武侠映画は、名匠キン・フー監督が台湾で撮影した記録的なヒット作であり、シャオカンの父役でツァイ・ミンリャン作品常連のミャオ・ティエンのデビュー作でもあるという。そして、ミャオ・ティエンは2005年に他界し、この『楽日』は彼の遺作となった。

『龍門客桟』を観ておけばよかったなと思った。台北に実在したその映画館「福和大戯院」のことも知らなければ、上映されている作品のことも知らなかった私。その映画館をよく知る台湾の人やその『龍門客桟』をリアルタイムで劇場で観ていた人は、より本作を楽しむことができるに違いない。

だけど、その特定の映画館や上映されている映画そのものになじみがなくとも、常日頃映画館に通いつめている映画ファンならば、自然とここに流れる空気に親しみを感じることができる。暗い場内で、食い入るようにスクリーンを見つめる人の姿に微笑み、大きな音を立てて周りの迷惑になっている人の姿に苦笑する。映画館という空間では、どこの国でも同じような風景が毎日毎日何十年も繰り返されているのだなぁ。

映画館の楽日を描いたツァイ・ミンリャンの映画ということで、とても静かで淡々としたものであるとは思っていたのだけど、予想以上にダイアローグも少なければ、特別な出来事もなく、物語展開のようなものもなかった。これは、娯楽映画志向の人にはススめられない作品。だけど、映画館という空間を愛してやまない一握りの映画好きな人たちには、味わい深いものがあるはず。とてもユーモラスで温かくて、ふとさみしさが交わる。そこにあふれる映画館への思いに満たされてしまう。

宇宙ステーションみたいなシネコンで映画を観ることが一般的になり、DVDを部屋で観ることが当たり前となり、福和大戯院のような古くて汚い映画館は建物が老朽化したら閉館するしかないのだろう。日本でも味のある名画座がどんどん閉館してしまっている。オープンする時は人々の注目を浴びたに違いないのに、終わりはとてもひっそりとしたもの。だけど、確実に寂しい思いをする人がいるのだよなぁ。入場客が普段気にも留めない受付の女性や姿を見ることもない映写技師の最後の日を見つめ、とてもせつない気持ちになってしまう。そして、そんな映画館の終わりを温かなまなざしで見つめる映画監督がいてくれることもとてもステキだと思う。

結局誰と誰がユーレイだったの?日本人の意味は?
この映画がつくられたきっかけ、福和大戯院と『龍門客桟』とミャオ・ティエンのエピソードを知ったの後からだったので、それらを絡めての味わい深さが鑑賞中に広がらなかったのは少し残念だったけれど、そんな背景をぬきにしても、ほほえましくて温かい余韻の残る作品であった。

受付の彼女の桃饅頭にはとても心打たれた。
夜の雨がとても寂しいけれど・・・。

楽日 公式サイト
不散 /GOODBYE, DRAGON INN 2003  台湾
監督.脚本  ツァイ・ミンリャン
出演 チェン・シアンチー、リー・カンション、三田村恭伸、ミャオ・ティエン

(渋谷 ユーロスペース)
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by CaeRu_noix | 2006-09-03 18:42 | CINEMAレヴュー | Trackback(12) | Comments(12)
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Commented by Ken at 2006-09-03 23:01 x
かえるさん、こんにちは!
この作品、大変味わい深くありました。
画面の隅々まで、雨音も桃饅頭もピーナッツの殻も老俳優も、僕に取って全てがツボに嵌ってしまい。
嵌ったときのツァイ・ミンリャン(他には『Hole』)、もうたまんないです。
外したとき(例えば『河』)もまた逆にたまんないのですが(笑)。
ああ、『西瓜』も早く観たい!
Commented by CaeRu_noix at 2006-09-04 12:40
Ken さん♪
奇妙でしみじみしていて味わい深い映画でしたよね。
隅々までツボでしたかー。初めは、これって、コメディ?と思うほどに、一つ一つのシーンがミョーでおかしかったですよね。それでいて、受付の彼女が登場すると寂しい気持ちでいっぱいなりました。蒸し器に入った桃饅頭は私もお気に入りですー。古くて汚い映画館でしかないのに、映し出される空間にとても味がありましたよね。ミンリャン映画の雨はもちろんたまらないものがありますし。『Hole』の湿度、空気感に似ている感じもあったかな。『西瓜』は『Hole』に通じるところもあるような雰囲気なので私もとても楽しみですー。
Commented by Puff at 2006-09-04 20:23 x
ドモドモ-♪
TB、コメントをありがとうございました。

いやー、ホント、良い映画でしたよねー
そしてそして、受け入れられる人、受け入れられない人とにキッパリ分かれる映画だとも思いました。
ワタクシもですね、「龍門客桟」が凄く観たくなりました!
大スクリーンにチラチラ映っているのを観ただけでも、とっても面白そうでした。
そして、この映画がミャオ・ティエンのデビュー作で、本作品「楽日」が遺作となったのが、何と言うか、シンクロニティ(意味のある偶然)のように思えてさらに感慨深かったです。。。

>自然とここに流れる空気に親しみを感じることができる
ですよねー・・・、古い劇場が閉館になるほど寂しいものは無いですよね。
特に、町の片隅にあるような、古くから町の人に親しまれた劇場ほどそれを強く感じます。
スーパーや他の施設とはまた違った郷愁みたいなものがありますよねん。
Commented by CaeRu_noix at 2006-09-05 12:50
Puff さん♪
映画館に通いつめた映画好きにはたまらないステキな作品でしたね。ぴあの満足度アンケートの点数をちらりと見ましたが、平均点も最低点は低めでした。これほどに物語的なもののない映画は珍しいので、まぁ仕方ないと思いますー。こんな映画ばっかりだったら困りますけど、こういう映画を作ろうと思う監督がいることは素晴らしいです。なんて幸せな映画館でしょうー。
どこかで読んだ解説によると、この映画の冒頭は、「龍門客桟」の初めのシーンに通じているとかいないとか・・・。観てない私にはその主旨がよくわからなかったんですが、とにかく、「龍門客桟」を観ている人はより楽しめるポイントがありそうなんです。
ミャオ・ティエンのデビュー作を劇中上映した作品が遺作になったという偶然性には感慨深いものがありますよね。この劇場の終わりに、ミャオ・ティエンの生の終わりが重なってまたせつないです。でも、なんだかステキですよね。
シネコンの設備は合理的だから、古い映画館がそれらに負けてしまうのは仕方ないんですが、そんな素朴な町の情緒が失われていくのは本当に寂しいですね。
Commented by sabaha at 2006-09-12 22:45
こんばんは。
初体験だったのですが、また一人面白い監督に出会ってしまった気持ちでいっぱいです。
とはいえ、あまり味わいきれていなくて、今回は自分の感想もかなりあやふやなんですが、他の作品もどんどん観ていきたいと思いました。
桃饅頭が出てきて、あ、日本じゃない、と思いました(笑)
Commented by CaeRu_noix at 2006-09-13 14:29
わかばさん♪
ツァイ・ミンリャンワールドへようこそー。
本作は予想以上に物語的なものがなくて私もちょっとビックリしました。
私は、前にメールのやり取りをしていた人が、ツァイ・ミンリャンの『河』を観て、その才能に嫉妬したなんて表現をしていて、興味をもったのが最初だったかしら。結構クセになりますー。
ももまんがまたよかったですよね。飲茶の国だなぁと。
Commented by 隣の評論家 at 2006-09-18 22:02 x
かえるさん、こんちわー。
遅ればせながら観て参りました。
この作品は、『映画大好き』歴の長い人でないと何も感じられない作品かもしれませんねー。映画好きならではの各々の想い。観る人によっては感じる事も違うんだろーな。
22日は、いよいよこの作品自体が『楽日』を迎えるという事で。最終回上映終了後、プチ・トークショーか何か開催されるみたいですね。私は、その後の『太陽の傷』の鑑賞を予定しておりますのん。観たら記事にしますんで。
Commented by CaeRu_noix at 2006-09-18 23:14
隣の評論家 さん♪
ご覧になりましたねー。そうですねー、これは映画大好き且つ映画館大好き生活どっぷりな人じゃないと何かを感じにくいかもしれませんねー。(映画大好きでも、ハリウッドアクション系が専門の人には受け容れられないような気がするし。)観た人それぞれに味わい方は異なるのでしょうね。22日で終わっちゃうんですね。やはり、早かった。私は珍しく公開2日目に行きましたけど、すいていましたもの・・・。そして、噂の太陽の傷に行かれるのですねー。レビューを楽しみにしていますー。
Commented by 朱雀門 at 2006-09-21 21:48 x
こんばんは、コメント・TBありがとうございました。
私はかなり戸惑いながら見ていた作品ですが、「人と人がすれちがい、物語が生まれそうで生まれない物語」というのも、映画館を舞台にすると何となくリアルに感じられ、面白い視点の作品だなと思いました。
そういえば私がユーロスペースに足を運んだ時も、本作と同じく雨降りでした。
雨宿りを兼ねた映画鑑賞というのも乙なものですね。逆に、晴れ渡った日曜日の昼間に映画を見に行くのはちょっと不健康かも・・・と時々思ったりしています(苦笑)。
Commented by CaeRu_noix at 2006-09-22 13:12
朱雀門 さん♪
戸惑うっていうのはよーくわかりますー。ツァイ・ミンリャン贔屓で、あらすじを読んで、こういうタイプの作品だと予想していた私ですら、ここまで徹底していたことにちょっと驚きましたもの。ハリウッド映画では省略されてしまうような場面がこんなに長い間映し出されるって逆に画期的なんですが・・・。いわゆる物語というものはないに等しかったけれど、不思議とユーモラスで心地よい空間を体験できました。こういうのもおもしろいですよね。
雨がとてもよかったですよね。渋谷の雨にはあれほどの情感は感じられないような気もするけれど、相乗的に感慨が増したかもしれませんね。そう、天気のよいさわやかな季節に昼間から映画館の暗闇で過ごすのはつくづく不健康だと思っております・・・。
Commented by mar_cinema at 2006-11-06 02:07
かえるさん、こんばんは。
余韻が残る不思議な作品で、未だ余韻が残っている作品です。
潰れてしまった映画館など、懐かしさや哀しさをちゃんと持ち合わせているんですが、
作品で映画館を描いた場合に、感じる所が少ないのは、
自分でも何でだろうって自問中です(汗)

そういえば、この映画は妻と一緒に鑑賞しましたが、
妻側の方に座っていた方の笑い声や、しぐさが、ちょっとうざかったと言っており、
リアルで、「楽日」で鑑賞中な気分を味わったそうです(笑)
Commented by CaeRu_noix at 2006-11-07 12:37
mar さん♪
余韻が残りますよねー。観ている時はもっと何かを求めてしまったような気がするんですが、印象的な場面がいつくも焼き付いています。
私の場合、それほどに思い入れのある古い映画館というものが個人的にあるわけじゃないので、そういった部分では直接的に100%の感銘を受けられなかったかもしれません。映画館ものよりは、「映画」が題材のものの方がはまれるかも。でも、世界的な一映画監督がこういう寂れた映画館に注目してくれる心が嬉しかったりして、多様な意味で感慨深いんですよね。
客席での迷惑な客シリーズはおかしかったですよねー。わかるわかるーっていう楽しさがありました。リアルタイムでそれを共通体験してしまった奥様は不運であり、幸運だったかもしれません?
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