かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
latchodrom.exblog.jp
(映画を見るのにいそがしくてブログはもう)
Top
『セレブの種』 SHE HATE ME
2006年 10月 18日 |
スパイク・リーって、やっぱりエネルギッシュだ。
盛りだくさんな内容が軽快に楽しく語られて、最後はジーン。

ハーバードでMBAを取得し、バイオテクノロジー企業で働くエグゼクティブのジャック・アームストロングは、会社を首になり、元彼女のファティマからの“種付け”の依頼を受ける・・・。



2時間20分なんて長いよーっていうのが難だけど、それゆえに見ごたえあり。『インサイド・マン』の前の2004年につくられた作品が、その後に公開されることからも、それほどに評価の高い作品ではなかったということかな。確かに、『25時』ほどに気に入ったわけではないし、『インサイド・マン』ほどに痛快な面白さを味わったわけではないんだけど、それでもやっぱりスパイク・リーって、やってくれるよなーって嬉しくなってしまう濃いぃ映画。

新聞などの評には、エピソード、テーマを詰め込みすぎで強引でまとまりがないという指摘がいくつかあった。それはそうかもしれない。複数のテーマが巧く絡み合って収束しているとは言い難いかな。でもね、おもしろかったんだから、そんなのは別にいいの。何のジャンルに入れたらいいのかわからないような方向性と、未だかつてないありふれていない物語なのが魅力。社会派でありながら、悪ノリしまくりのブラックコメディで、最後は何だかヒューマン・ドラマな味わいなんだもの。混沌としていて盛りだくさんなところに満足。

種で大々的にビジネスをする物語かと思ったらそうではなくて、レズビーになった元カノの斡旋による個人的な自宅稼業。悪徳社長の差し金で銀行口座も凍結されて、経済的な理由から、ついつい引き受けてしまったというのが悲しいところ。経済的な理由で女がフーゾクに勤めてしまうのと同じことじゃない。相手は選べないし、1日に何人もを相手にしなければいけなかったりという過酷な状況を、当然のごとく面白可笑しく描写してくれるから楽しい。虚しいはずの受精のためだけのセックスも、何だかエキサイティングで多様な悦びにあふれているところがスパイク・リー的に大人テイスト。デンゼルが主役だったら、こんなにサービスショットはなかっただろうな。

種付けが物語の主軸になりながらも、企業の不正問題をどうしても入れたかったらしい。オープニング映像のブッシュの顔写真入り紙幣にエンロン印が押されていたことから明らか。序盤では、悪徳企業の悪人社長の身勝手さが軽く描かれていただけの印象だったけど、終盤の裁判のシークエンスで、スパイク・リーの熱いメッセージにグッとくる。このジャックの語りはとってつけたようだという批判もあったけど、監督の思いが込められたその雄弁さに私は心うたれてしまった。ウォーターゲート事件の通報した警備員を同一視するというのはしっくりきたわけではないけど、アフリカを含む世界中のエイズ患者を助ける特効薬がつくられることを望む誠実な姿には感動。『ナイロビの蜂』で描かれたような製薬会社の非道を思い出しつつ、企業が本来の使命を蔑ろにして金の亡者となっている社会に立ち向かうっていう姿勢がかっこいい。

多角的なモラルへの問いかけにも考えさせられてしまう。企業の不正とレズビアンへの種付けはまるで違う話だけど、人によって罪深さを感じる度合いは違うんだろうな。種付けでお金を稼ぐのは美徳にはほど遠いけど、利害が一致しているならいいんじゃないかとも思えるし・・・。でも、企業の重役が私腹を肥やすための不正で、多くの生命を救う可能性を無下にするというのは許し難い。種付けビジネスは自らの体をはってやっているだけエラいかもしれない。

笑わせられて、考えさせられて、ヒューマンな感動のある着地にとにかく満足。マイノリティーに温かい、偏見を超えた柔軟な発想に胸をうたれる。レズビアンの女性たちが自分の子どもをもつことができるのはステキなことなんじゃないかと思う。受精のためのセックスで絶叫していた女たちが、出産でまた叫ぶ場面は楽しくも感動的だったり。ジャックにとっても、妙な形であれ、父親になったことにハッピーがあるのだ。『ぼくを葬る』を思い出すような交互のキスシーン。こんな形の家族というのもあっていいのかもしれない。

精子も代理母も臓器も商売道具になっているお金が大事なこの世界で、本当に大事なものを見失わないように・・・。

セレブの種  公式サイト
SHE HATE ME  2004 アメリカ
監督.脚本 スパイク・リー
脚本 マイケル・ゲネット
美術 ブリジット・ブロシュ 音楽 テレンス・ブランチャード
出演 アンソニー・マッキー、ケリー・ワシントン、エレン・バーキン、モニカ・ベルッチ、ウディ・ハレルソン、Q-TIP、ジョン・タトゥーロ

(渋谷 アミューズCQN)
[PR]
by CaeRu_noix | 2006-10-18 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(12) | Comments(10)
トラックバックURL : http://latchodrom.exblog.jp/tb/4031804
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Tracked from カノンな日々 at 2006-10-21 00:38
タイトル : セレブの種/アンソニー・マッキー、ケリー・ワシントン
スパイク・リー監督のが本作でテーマにしたのはなんと生殖ビジネス。R-18指定になったので過激な内容があるのかと思ったらコミカルなタッチだし、さほどでもなかったですヨ。エロスを期待し過ぎないように(笑) ところでレッドブルって日本でもアニメでCMしてるドリンクで....... more
Tracked from カリスマ映画論 at 2006-10-29 02:24
タイトル : セレブの種
【映画的カリスマ指数】★★★★☆  ばらまく精子、貫く正義  ... more
Tracked from とにかく、映画好きなもので。 at 2006-10-30 17:06
タイトル : セレブの種
   セレブの種とは、有能な遺伝子の事を指す。有名な大学を出て、キャリアも抜群、企業でも活躍し、知能指数も高い。ハリウッドのスターのランキングだと確かハーバード大学出のマット・デイモンが人気の遺伝子だったような記憶がある。  エイズの特効薬の....... more
Tracked from アロハ坊主の日がな一日 at 2006-11-19 09:28
タイトル : [ セレブの種 ]知的労働より肉体労働
[ セレブの種 ]@渋谷で鑑賞 [ インサイド・マン ]に引き続き、 今年2本目となるスパイク・リーの監督作品。 テーマが重いのに、観終わるとなんだか気持ちが軽い。 たぶん、それはスパイク・リーのウイットに富んだ軽快な 語り口のせいだと思う。私的には[ インサイド・マン ] より素敵。 ... more
Tracked from しまねこ日記 at 2006-12-07 07:03
タイトル : セレブの種
エイズの特効薬の開発会社に勤めるジャック・アームストロングは、ハーバード大学でMBAを取得したエリート黒人。しかし企業の不正を知り、内部告発をしたことから会社をクビになる。その上、陰謀により銀行口座を凍結され無一文になってしまった。そんな彼の弱みを...... more
Tracked from Osaka-cinema.. at 2007-03-08 04:50
タイトル : セレブの種~倫理かお金か
声高に人種差別を叫ぶことは少なくなりましたが、 やはりこの人の映画は何か一味違う。 「25時」 「インサイド・マン」と好調にスマッシュヒットを 送り出す、日本での最新作はこちら 「セレブの種」 原題は「She Hate Me」 舞台はやはりNYであります。 MBAを取得し、大手製薬会社に勤めるエリート 黒人のジャック(アンソニー・マッキー)。 会社が開発を進める、HIV特効薬。 研究元の博士が自殺するし、インサイダー疑惑、 不正な数字も現れるわで、正義感の強いジャッ...... more
Tracked from パピ子と一緒にケ・セ・ラ.. at 2007-03-08 12:46
タイトル : セレブの種(DVD)
女が求めるのは、超一流の遺伝子!。 エイズの特効薬の開発会社に勤めるジャックは、一流大学を出て管理職として活躍するエリート。しかし企業の不正を知り、内部告発をしたことから会社をクビになり、無一文になってしまう。そんな彼の弱みを知って、かつての婚約者で今...... more
Tracked from 小部屋日記 at 2007-03-10 20:12
タイトル : セレブの種
She hate me(2004/アメリカ) 【DVD】 監督・製作・脚本: スパイク・リー 出演:アンソニー・マッキー/ケリー・ワシントン/エレン・バーキン/モニカ・ベルッチ/バイ・リン /ジム・ブラウン 女が求めるのは超一流の遺伝子。 性と欲、お金にまつわるお話・・・ ●ストーリー● ハーバード大学のMBAを取得し、大企業に勤める超エリートのジャック(アンソニー・マッキー)は、内部告発をして解雇されてしまう。一夜にして文無しになった彼は、生活費を稼ぐためレズビアンの元彼女から“種付け”の...... more
Tracked from レザボアCATs at 2007-03-20 22:20
タイトル : #42.セレブの種
人工授精なんかはまだまだ、私達一般庶民にはあまり縁のない話とは言え、たまに耳にする言葉だけれども、遺伝子工学なんかが進むにつれ、だんだん身近なものになってくるのかなあ・・・?... more
Tracked from Sweet* Days .. at 2007-05-15 13:04
タイトル : 『セレブの種』
セレブの種 監督:スパイク・リー CAST:アンソニー・マッキー、他 STORY:ハーバード大を優秀な成績で卒業し大企業に勤めていたジャック(アンソニー・マッキー)は、社内の不正を密告し解雇され全財産を失う。そんなある日、ジャックの元恋人で今はレズビアンのファティマが、高報酬と引き替えに子供を作るよう依頼してくる・・・・一言で言ってユニーク。シリアスなんだけど突然笑える場面が出てきたり。 DVDのパッケージやタイトルからしたら軽い作品かなぁなんて思うんだけど、 見てみると何ともシリアス...... more
Tracked from ジフルブログは映画・音楽.. at 2007-10-03 08:53
タイトル : セレブの種@我流映画評論
今回紹介するのは、ひさびさに鑑賞したスパイク・リー監督作品の『セレブの種』です。 先に映画のストーリーから・・・ ハーバード大学のMBAを取得し、大企業に勤めていたジャックは会社の不正取引を告発し、解雇されてしまう。 職を失ったジャックに、かつての恋人で今はレズビアンのファティマから、報酬を支払う代わりに彼の優秀な“種”の“種付け”を依頼されるのだった。その噂が広まり、ニュービジネスとして成功し始めたジャックだったが…。 それでは感想を・・・... more
Tracked from I am invinci.. at 2007-11-21 19:15
タイトル : セレブの種
She Hate Me 優秀な学歴を持つ大手製薬会社プロジア社の最年少部長ジャック(アンソニー・マッキー)は、エイズ特効薬“プロキシソン”の開発をしていたシェラー博士(ダーヴィッド・ベネント)の自殺がきっかけで、自社の不正を知ってしまった。 しかし内部告発した事がす..... more
Commented by 伽羅 at 2006-10-26 02:28 x
こんばんは!
先日は、ご丁寧な1周年記念のお祝いコメントをいただきまして、
どうもありがとうございました!!

これはすごく気になっている作品なんです!!
スパイク・リー監督は元々大好きなんですが、
今度のテーマは“生殖ビジネス”!と挑発的。
社会風刺が効いた作品で、面白そうですね。
果たしてウチの地元の映画館に来るかな~、と不安です。
Commented by CaeRu_noix at 2006-10-26 23:53
伽羅 さん♪
どうしたしましてー。
おお、スパイク・リー監督お好きなんですねー。
多様性を見せつつも衰えることなくエネルギッシュで素晴らしいですよね。
本作は、1ヶ月ポッキリで上映が終わってしまいました。たぶんあまり人気なかったのかな。でもでも、私はすごく楽しめましたよー。伽羅 さんにも是非観ていただきたいです。これのレヴュー書いているブロガーさんも少ないんですよね。伽羅 さんの地元で上映されることを願います!
Commented by orange at 2006-10-30 17:05 x
こんにちは☆
コメント&TBありがとうございました、
モラルをテーマにしていましたが、切り口は中々鋭い作品だと思いました。
会社=金をもうけるのは当然ですが、本来の目的を見失ったら目も当てられないですからね・・・
レズビアンだって子供を産む権利はもちろんあるし、女性同士結婚しても良いと思います。ハードルは高いかもしれないですが、それを皮肉を織り交ぜながらも温かく描いていて素敵な作品でした♪
Commented by CaeRu_noix at 2006-10-30 23:17
orange さん♪
遊びをきかせつつも、やはりスパイク・リー!鋭い切り口でしたよね。種付けワーキングというものをおもしろおかしく描きながらも、しっかり企業の不正について言及しているところが気持ちいいです。そういう社会派姿勢がイヤだという意見もあるもたいですが、私はそこが好き。
今のアメリカはちょっと同性愛者などのマイノリティには風当たりが強いようなので、ハードルは確かに高いですよね。そんな現代社会だからこそ、こういう作品のメッセージがとてもステキだと思えますよねー
Commented by アイマック at 2007-03-10 20:24 x
こんばんは!TBどうもです♪

内容にはひかれるのですが、つめこみすぎて疲れちゃう映画でした。
アニメの部分は笑えました^^ゞ
生殖ビジネスなど、いろいろ考えさせられました。
Commented by CaeRu_noix at 2007-03-11 23:50
アイマック さん♪
コメントありがとうございます。
そうですねー。盛りだくさんな内容でしたもんね。
私はその濃さ、テーマの多重さが面白かったんですが、確かにどっと疲れます。エンタメしながら、考えさせられるところもよかったです。
アニメは笑えましたよねー。ちょっとしつこかったけど。
Commented by とらねこ at 2007-03-20 22:29 x
かえるさん、こんばんは★TBありがとうございました。
う~ん、さすがはかえるさん。素晴らしい感性の素敵なレビューですね。
新聞なんかの評を読まれるのですね。で、これは、いまいちと言われていましたか。
>何のジャンルに入れたらいいのかわからないような方向性と、未だかつてないありふれていない物語なのが魅力。社会派でありながら、悪ノリしまくりのブラックコメディで、最後は何だかヒューマン・ドラマな味わい
一言でこの映画の良さを表現しているところが、かえるさんはさすがだな、といつも思ってしまう。
そうなんですよね、この、ジャンル不定の、冒険心に溢れた遊び心が面白い作品でした。
“佳作”というにはしのびないにしろ、こういうセンスが素敵なんですよね。
『25時』や『インサイド・マン』に対する評価も、とても共感してしまいました。
Commented by CaeRu_noix at 2007-03-22 12:31
とらねこ さん♪
ありがとうございます。いやいやいや・・・。
あ、新聞の映画評は結果的にはあんまり読んでないです。自分の観たばかりの映画のことが新聞に載っていたらその記事は読むと思うけど、大抵自分がその映画を観るよりも先に新聞の映画評は紙面に載ることがほとんどなので、先入観を入れたくない私はまず読むことはないです。で、これの新聞の映画評というのは、たぶん劇場のロビーに掲示されていたものだったかと思います。私はパンフレットはめったに買わないけど、心を動かされた作品については、映画を観た後にロビーに貼ってあるものをじっくり読むことが多いんです。或いは、帰宅後に検索して読んだ新聞サイトの評だったのかもしれませんー。
とにかく、その私の読んだものは、それほどに本作を評価してなかったんですよね。でもでも、私としてはとても楽しめたパワフルな作品でした。とらねこさんにもこのよさを楽しんでもらえて嬉しいですー。ヨーロッパ派の私は、それまでそんなにスパイク・リーには注目していなかったんだけど、『25時』以来お気に入り指数が上がっております。
Commented by 哀生龍 at 2007-11-21 19:31 x
>詰め込みすぎで強引でまとまりがないという指摘
そんな批評もあったんですね。
哀生龍は、企業の問題も“種”事業の問題も“医療関係と倫理”と言う共通のテーマだと思って見ていたので、一見違う出来事を上手く結びつけたなぁ~と感じました。

重いテーマをコミカルに分かりやすく仕上げた、良い作品ですよね!
Commented by CaeRu_noix at 2007-11-22 08:12
哀生龍 さん♪
そんな批評も見かけました。
ハリウッド映画慣れしている一般の映画ファンには、詰め込み過ぎ!なんて感想を言う片がよくいますけど、ちゃんとしたライターの人までもそういう見方をするとはー。
盛りだくさんでお腹いっぱいになるのがいいのにー。
でもそうですよね。根っこの部分は同じような問題ですよね。
現代的で鋭いテーマにあふれていたと思います。
スパイク・リーは先行き過ぎなのかもしれません。
ぐっじょぶです。
<< 『セプテンバー・テープ』 PageTop 秋の映画祭ちぇーっくなど >>
XML | ATOM

個人情報保護
情報取得について
免責事項
Beige Shade by Sun&Moon