かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『スキャナー・ダークリー』
2006年 12月 29日 |
リンクレーター作品としては好み系じゃないけれど、おもしろいSF世界。

今からほんの7年先の近未来、ロサンジェルス郊外のオレンジ郡アナハイム。覆面麻薬捜査官のボブ・アークターは、ドラッグ“物質D”の供給源を突きとめようと、自ら“物質D”を服用し、常習者たちと自宅で共同生活をおくる“おとり捜査”を開始していた。



フィリップ・K・ディックのSF小説「暗闇のスキャナー」(77)が原作。実写映像にデジタル・ペインティングを施してアニメーションに変換するデジタルロトスコープアニメーションという技法によって映画化された。

ドラッグのトリップ感の表現は映画ならではものだよね。だから、ドラッグ・ムービーは結構好き。トレスポに、『ラスベガスをやっつけろ!』、『レクイエム・フォー・ドリーム』、『スパン』、印象的なものが多い。スタイリッシュな演出にハイなったり、頭がクラクラして気分が悪くなるほどだったり。そんな感覚を表現できる映画の中でも、アニメーションというのはまさに最適。実写の場合はカメラワークや編集で明確に表現するラリった感覚を、ごくごく自然に表現。というか、他の実写ドラッグものと違って、どこからがドラッグによる幻想なのかわからないままに物語が進んでいくのがおもしろい。アニメで構築された近未来空間の異質さ全体と、ドラッグによるトリップ感が溶け合っている感じ。

それがおもしろいの今は冷静に思うのだけど、体感中はそれが不快ささえも引き起こした。初っぱなから、部屋に虫がたかっているんだもの。それらが蠢く様は、アニメとはいえ、生理的に不快。ドラッグ常用者のハイテンションさも慣れるまではちょっと不快。これは疲れている時に観るものじゃーないね。同じ技術を使った前作の『ウェイキング・ライフ』では思考の旅をしながらも、浮遊感のある心地よさを味わった憶えがあるんだけど、こちらのSF世界は殺伐としていて心休まらない。そして、たぶん、本作の映像の最大の見どころグッズであろう”スクランブル・スーツ”のチカチカが私の神経に触るんだよね。これはダメ。生身のキアヌの顔を見せてくれー。

だから、好き嫌いで言うと、好きという感触は少なかった。きちんとした筋がなくても、『ウェイキング・ライフ』の方が好きかも。アニメーション映像としてはやっぱり手作りものの方が好きだし。『パプリカ』のパレードを観た時の高揚感はここにはなかったなぁ。私は夢いっぱいのアニメの方が好きなのかも。ユーリ・ノルシュテインのアニメをまったりと眺めたい。SF世界をCGで表現するなら、エンキ・ビラルの『ゴッド・ディーバ』的な都市の風景が見たい。という感じで、そのおもしろさに視覚からは心底魅入ることができなかった・・・。

だけど、さすがのフィリップ・K・ディックのストーリーには引き込まれた。70年代の小説だなんて信じられない。アクションが見せ場になったり、中途半端な家族ドラマが持ち込まれてしまった『マイノリティ・リポート』などとは違い、ほんの7年後の日常の風景の中から、ジワジワとドラッグと監視社会の恐ろしさが浮かび上がってくる。ホロスキャナーとやらで、自分自身の家を監視する映像を自分が見るという図は最高だよな。幻覚ではない部分でこんなに混迷した状況が描写されるというのは実におもしろい。自伝的なものでもあるというディックの小説を忠実に映画化してくれたことは見事。

そして、彼の人や施設の正体、彼の顛末にもゾゾッとしてしまうのであった。これこそ、SFの醍醐味。偏った見せ場に注力してしまいがちな実写ものSFよりも、そのテーマの表現に成功しているんじゃないだろうか。心地悪さも含めて、おもしろかったかな。

スキャナー・ダークリー A SCANNER DARKLY
2006   公式サイト
監督・脚本 リチャード・リンクレイター
アニメーション ボブ・サビストン
出演 キアヌ・リーブス、ウィノナ・ライダー、ロバート・ダウニーJr、ウディ・ハレルソン
 (シネセゾン渋谷)
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by CaeRu_noix | 2006-12-29 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(7) | Comments(6)
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Commented by sabaha at 2006-12-30 22:18
こんばんは。
かえるさんとは、意見が合うときはドンピシャ、合わないときは真逆(とまでは言わないけど、結構逆)なのが、面白いなあと勝手に思っているここ半年くらいの私です。
で、これは、私はハマりました。
>生身のキアヌの顔を見せてくれー
って、それこそが、この作品の狙いですよね。その全てが一枚膜をかぶっているような世界が、たまらなく不快であったり逆に快感であるような。
でも、私も硫黄島ドグマ酔いしたりするので、生理的にダメだと受け付けられない気持ちもわかります。その辺は、作品として、賭けですね。
私はその昔「ロジャー・ラビット」(なんて、誰か覚えているのかしら。アニメと実写の融合モノ。当時は画期的だった)なんて観て、大感激したりしたので、新しい手法にはちょっぴり弱いのかも。CGはあまり好きじゃないので、何でもOKではないんですが。
最近観た近未来SFという観点で比べると、「トゥモロー・ワールド」よりこっちが好きな私でした。
Commented by CaeRu_noix at 2006-12-31 11:55
わかばさん♪
ふっふっふ。楽しい語らいをありがとうございました。そうなんですよね、わかさばさんとは、熱狂的に好きな作品がいくつもかぶったわけですが、当然のことながら、評価が全然違うものも多数あり、その感じ方の違いを考察するのが興味深かったですー。独自レヴューというよりは映画の紹介的な記事の人だと、評価の分かれ目さえも自分と比較できなかったりするんですが、わかばさんはそういう点をしっかりと書いてくれるので、自分との共感ポイントや反対の感じ方をしているのが見いだしやすくて、語らい甲斐がありました

画の質感全般はアートとして楽しめるタッチだったんですけど、あのチカチカスーツはホントに生理的に苦手でした。スーツを脱いだ時のアニメなキアヌの顔の陰影なんかはすごくいい感じだと思ったんですけどね。ゆらゆらは好きだけど、チカチカはダメ・・。ドラッグ・ムービーは本来不快さこそがおもしれーんですけどね。
昔のアニメと実写の融合ものは画期的でしたね。実写映画の中に登場するアニメシーンなんかも大好きだし。
技術の新しさについては、私は前作で感動済みで。おもしろかったことには変わりないけど、スキ系ではなかったです。
Commented by いわい at 2007-01-31 20:06 x
こんばんは。
”ロトスコープ”初体験。そもそもリンクレイター監督も初めて。
食わず嫌いでしたが、この映画の世界観にバッチリあっている手法だと思いました。
不快さを感じる前に、面白さを感じられました。虫の表現など、アニメーションならではのトリップ感が素敵でした。
Commented by CaeRu_noix at 2007-02-02 10:51
いわい さん♪
”ロトスコープ”初体験はわかりますが、リンクレイター監督初とは!
リンクレイターはアメリカの監督の中ではかなりのお気に入りでっす。

>不快さを感じる前に、面白さを感じられました

いえ、"前に"というのは違うと思うんです。w
いわいさんは不快さを感じることなく、面白さを感じられたんです。私は、面白さを感じたけれど、不快さからも逃れられなかった。前後でいったら、快不快の方が前で、面白みの方が後なんです。というか別ものなんです。その不快さは「大脳辺縁系」で、面白さは「大脳新皮質」での判断というか・・・??
ってそんなことはさておき、楽しまれたようでよかったですー。この手法は世界観にピッタリでしたよね。
Commented by いわい at 2007-02-02 19:17 x
なるほど、違いに納得です。
わたしは、映像で不快感を感じることはあまりないのです。「大脳辺境系」が未発達なのかも?
不快に感じるのは、素材の扱いとか、安易な設定とか、内容に関することが多いです。
結構いろいろ撮っているのですね。リンクレイター。
『スクール・オブ・ロック』もそうだったとは。
Commented by CaeRu_noix at 2007-02-03 13:28
いわい さん♪
ヘリクツにお付き合いありがとうございますー。
脳のことなんてよくわかんないんですけど、たまたま読んでいた本にそういう区分けが出てきたので、当てはめてみました。
映像であれ実物であれ、血や内臓などのグロいビジュアルが生理的に苦手というのはまぁあるんですが、私もこういう映像技術的なもので不快感を感じることは少ないかも。でも、とにかく、このスーツのチカチカは神経にさわってしまったんですー。私の場合、音、声、音楽に対しても不快に感じるものは多いかなぁ。しんけーしょー
内容に関する不快感というのは、道徳観だとかそういうのが関わってくる、やはり「大脳新皮質」なモノなんですよね、きっと。
リンクレイター作品は多様なのですよ。『ビフォア・サンセット』は大大大好きですし、他のもみーんなイイですよー。ベアーズだって。
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