かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『みえない雲』
2007年 01月 25日 |
起こり得る事故の恐怖を味わい考えること。

ドイツ北部で原子力発電所の事故がおこり、近郊に住む女子高生ハンナは・・・。
チェルノブイリ原発事故直後の1987年に発表されたベストセラー小説が原作。



原子力発電所をたくさん保有している国に住む者にとって興味深い物語。これがハリウッドだと、地球温暖化という現実的な題材さえも、『デイ・アフター・トゥモロー』みたいな愛と冒険に満ち満ちたあり得ないパニック映画になってしまうのだけど、本作はドイツの田舎町に住む1人の普通の女子高生だけを追っていて、リアルで切実なものとなっているのがよかったかな。

謎の転校生とほのかな恋?っていう始まりのくすぐったさには感情移入できず、必要以上に調子にのっている同級生男子ズの姿がちょっと不愉快で、それほどにハマれずに客観視したまま、原発事故の前後の模様を眺めていたのだけど。やはりその題材は、宇宙人やゾンビが襲ってくる物語よりも切実で現実味があるから、次第に息をのみ、時にその恐ろしさにゾッとしながらその展開を注視してしまうのだった。地域内に避難する地震などの災害とはまた違って、その大気を含んだ雲から降る雨から逃げなくてはいけないという状況。こういうパターンだと、個々に移動するしかないのだろうか。アシの確保ができなかったら終わり?まだみえない雲そのものより、我先に逃げようと人々が取り乱しているパニック状況に大きな恐怖を感じた。

それにしても、主人公ハンナに起きたことはあまりにも残酷じゃないか。迫りくる黒い雲の恐怖には実感がわかないのだけど、自転車の事故には激しくショックを受けた。弟を護らなくちゃとがんばっていた矢先に・・・。自分達の命の安全のために必死で移動したことで、若き命がいとも簡単に失われてしまうなんて。緊急時には、ひき逃げを追及することも、家族の遺体を弔うこともできないなんて。大切なものが何で、何のためにみんなががむしゃらになっているのかわからなくなる。うまく受け止められない。だから、雨の中を歩いて行ったハンナの絶望感もわかるな。

こういうシビアな状況の主軸に恋物語を置くというのは、場合によっては興ざめなんだけど、孤独になってしまったハンナだから、エルマーの登場は嬉しく思えた。どんな状況においても、ささやかな喜びや幸福感がないと、希望をもって生きていけないものだよね。髪の抜けてしまった彼女をちゃんと包み込んでくれる彼氏でよかった。序盤は、あまり魅力的に見えなかったけど、ちょっとキアヌ系だし。ハンナ役のコはスキンヘッドでも充分にかわいいし。アメリカ行くのかよって思いきや、そうじゃなくて一安心。希望のもてない出来事を突きつけられ続けた中、ラストの風を切って走るハンナの笑顔はすがすがしくてよかった。

なんとも哀しい物語でもあるのだけど、事故によってどんな悲劇が起き得るかがじっくりと描かれていて、興味深く思考させられたことに意義があったと思う。

日本人なら、『東京原発』を観て、楽しく知るもよしー。


みえない雲 DIE WOLKE 黒い雲
2006 ドイツ  公式サイト
監督: グレゴール・シュニッツラー
脚本: マルコ・クロイツパイントナー
原作: グードルン・パウゼヴァング
出演:パウラ・カレンベルク、フランツ・ディンダ、ハンス=ラウリン・バイヤーリンク、カリーナ・ヴィーゼ
 (シネカノン有楽町)
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by CaeRu_noix | 2007-01-25 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(9) | Comments(6)
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Tracked from シャーロットの涙 at 2007-01-26 15:57
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タイトル : みえない雲
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1月4日(木) 仕事初め。 一年で一番仕事が楽な一日。 今年は5日からという所が多いので、 なおさら楽だった。 午後4時10分に終業。 おっ、これなら『みえない雲』の5時からの回に間に合う。 三田線から日比谷に出る。 日比谷に着き、 出口A4aのビックカメラ有楽町店地下2階から7階にある「シネカノン」受付へ。 前から7列目の左通路側の席をとる。 客は40人程度。 少ないが、5時の回だとこんなものか? 「原発事故」とかそれにともなう「白血病」を取り扱っているのに変に...... more
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2.みえない雲■原題:DieWolke■製作年・国:2006年、ドイツ■上映時間:103分■鑑賞日:1月8日 シネカノン有楽町(有楽町)■公式HP:ここをクリックして下さい□監督:グレゴール・シュニッツラー□製作:マルクス・ツィンマーキャスト◆パウラ・カレンベルク...... more
Commented by シャーロット at 2007-01-26 16:16 x
こちらにもお邪魔します。
かえるさんはご覧にならないのかなあと思ってましたが、感想を伺いたかったのでした。
半年も前に見たのでかなり細かいところは忘れていて、それに記事もあまり詳しく書けなくて中途半端なことしか書いてないですがTBいただきました。
そうそうあの自転車事故のシーンがかなり尾を引きました。これは書けないことだったのに予告編で思いっきり流してるから、ちょっと拍子抜けしたのが本音ですが。
そのシーンがあったからその後のハンナの感情面の変化が気になって入り込めたのでした。パウラちゃんは可愛かったけど実にしっかりしたお嬢さんでしたよ。片方の肺がないというのも後で知ってまた衝撃~
Commented by CaeRu_noix at 2007-01-27 12:38
シャーロット さん♪
ドイツ映画は観ますとも。オランダ映画やデンマーク映画やベルギー映画も。
あ、ドイツ映画祭にゲストで来ていたのは監督じゃなくて出演俳優さんですっけ?
自転車事故は衝撃的でしたよね・・・。私は予告はちゃんと見ていないんだけど、しっかり映していたんですね。台無しー。
私は自然に彼女に感情移入できたというカンジでもなかったんだけど、親の不在時に小さい弟を守らなければいけない高校生の不安と恐怖いっぱいの追い詰められた状況には、真剣に入り込んでしまいました。大仰なパニックものよりスリリング。
片方の肺がないパウラちゃんが主演というのがまた意味深いですね。
Commented by mako at 2007-01-30 12:20 x
こんにちは。
そーそー、あの自転車場面を予告でバッチリみせたのはわたしもビックリしました。なんか若者2人の恋をメインに持ってきた売り方していたようですが、それにしたって…ねえ。
エコ大国のイメージ強いドイツですけれど、最近は停止させていた原発を稼働させるのさせないのという話がでてきているのだそうです。詳しいリサーチはしていないんだけど、ちょっと残念ですね。
人が避難してがらんとした広場を牛さんたちが歩いてる場面が怖かったです。
Commented by CaeRu_noix at 2007-01-30 17:09
mako さん♪
予告ではおいしいシーンを見せるのが常ですが、あの場面は隠さなくちゃダメですよねー。一番のショックでしたもの。恋愛パートは初めはちょっと乗りづらかったです。
おお、ドイツで原発再稼動の話というのは最近ですか?映画を観た後に、監督のインタビュー記事を読んだんですが、ドイツは2000年に脱原発の道を選ぶ”という方針を採択したというフレーズにさすが!と思ったばかりだったのに。その記事の中でも、ドイツがそういう方向でも、お隣フランスがそれを進めているから、簡単な話ではないと書いてありましたが・・・。
そうそう、牛の歩むショットは印象的でした。そういった危険があるとまず動物は見捨てられちゃうんですよね・・・。
Commented by ラクサナ at 2007-03-08 00:59 x
あ~私は、その予告編を観ていなかったので、良かったです。^^
観てても覚えていなかっただけかも・・・笑;
弟君のことは本当にショックでしたね。
ああいった突然のパニックの中で、高校生の女の子が弟を守っていかなければならないという設定は、より孤独感をあおられて、本当に見事に観るものに直撃するインパクトがあったと思います。
生えかけた髪が風になびくように、どんな状況で明日が分からなくても、人間って、まずは一日一日を希望を持って生きていけるんだなと、出来すぎたラストかもしれないけど、教えられた気がしました。
私でもそう思うのだから、より若い世代には効きそうですよね。^^
Commented by CaeRu_noix at 2007-03-08 15:19
ラクサナ さん♪
多くの映画の予告で見どころを映像を出しすぎなのが困りますー。
ラクサナさんはご覧になってなくて何よりでした。私は基本的に予告を観ない主義ですし。
そんなわけで非常にショッキングでしたよね。逃亡パニックの中で、幼い弟を保護しながら、避難しなければならない不安で過酷な状況に追い討ちをかける凄まじいインパクト!でも、ああいう極限状態では、大いにありえる事故だから、しっかと釘付けになって見入ってしまいましたよね。
たくさんのしんどい思いをした後、少しだけ晴れやかな気分になれるエンディングでしたよねー。ささやかなハッピー、ささやかな希望が大切。
もちろん若い世代には、被爆しても希望をもって生きましょうということ以上に、そんな事故が起こらないことや、起こっても犠牲を最小限にすることを目指してほしいかもー。w
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