かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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岩井俊二の 『リリイ・シュシュのすべて』 劇場鑑賞
2007年 03月 05日 |
日本映画界で私が一番好きな映画監督は岩井俊二。それはずっと変わっていない。



90年代、私は日本映画をほとんど観ていなくて、レンタルビデオで観たものすら数えるほどだったのだけど、岩井俊二監督作品だけは貪るように観ていた。
そして、21世紀を迎えてからは、多様な日本映画の魅力にも気づき始め、岩井俊二ONLYではなくなったのだけど、去年、彼がプロデュースした 『虹の女神 Rainbow Song』 にとても心うたれ、どれだけ他の多くの優れた映画を観ようとも、本質的に好きなものは変わらないんだよなーということを実感。

それなのに、岩井俊二作品を好きになったのはレンタルビデオがきっかけで、映画館に足繁く通うようになった時期よりも前だったから、結局私はほとんどの作品を劇場鑑賞していない。『リリイ・シュシュのすべて』もシネマライズで何度も予告を観たことは覚えているんだけど、何だか辛そうなお話だなぁって、劇場鑑賞を見送ってしまったのだ。そして後になって、DVDレンタルして観て、衝撃を受けた。こんなに痛いお話なのに、二度続けて観てしまった。この映画を劇場で体験しなかったことを激しく後悔した。だから、観たい新作が目白押しであろうとも、その旧作をスクリーンで観られる機会を逃せなかったわけで。

『善き人のためのソナタ』のように、ヘッドホン越しに偶然に聴いて、ぐわーんと感情を揺さぶられてしまうような音楽って何があるだろうって考えたんだけど、もしかしたら、ドビュッシーの曲にはそんなチカラがあるかもしれない。ドビュッシーのピアノ曲が流れると、身動きが取れなくなって、息をすることをも忘れそうになるくらい、その魅惑的な美しさにドップリと浸かってしまった。『善き人』のように、その曲を聴いた者は悪人になれないんじゃなくて、むしろ理性的に振る舞うことすらできなくなるというか・・・。この物語の中で語られるエーテルというものを感じ取れる気がする。

今の私でさえ、音楽の美しさに心はわしづかみにされる。多感な中学生にとっては、もっとパワフルで圧倒的なものなんだろうな。小林武史の創り出すサウンドも私は好き。『スワロウテイル』のイェンタウンバンドの曲も、懐かしのマイラバSONGも。だから、劇中で流れるリリイ・シュシュの歌に、彼らと一緒に私も素直に酔いしれてしまえる。孤独にヘッドフォンでリリイの曲を聴く彼らの思いに共感して、その痛みに胸を掻きむしられる。あれ以来、何度もリフレインしたフレーズは、"夕暮れの空は赤くー♪

そう、やっぱり、蒼井優ちゃん扮する津田詩織ちゃんが川原でカイトを上げるシーンが最高に好き。「空、飛びたい」っていう呟きに何度でもせつなくなる。 久野さんが音楽室で1人弾くピアノも大好き。ピアノ伴奏をなくしてアレンジされた合唱曲「翼をください」もステキすぎる。鉄塔のある川原も、学校の教室も、たんぼ道も、電車の中も、すべての空間が目映い光を浴びて、多感な中学生の波打つ感情と共に心を捕らえる。今は亡き篠田昇のカメラに魅了される。田園風景の美しさにはクラクラしてしまう。その音楽と映像のチカラで体内のエーテルが器官を溶かしてしまいそうな・・・。

リリカルで美しい映像と音楽が、彼らの身に起こっている出来事の残酷さを際だたせる。傷口がヒリヒリと痛む。彼らの会話の一つ一つや衝動がとてもリアルだから、あまりにも悲しく残虐な事件の重なりも、現実が反映され凝縮されたものとして迫ってくる。今もイジメによる自殺がいくつもあったりして、その問題は色あせない。TV番組のコメンテーターには時々、「いじめられる側も努力して変わりなさい」なんてことを言う人がいるけど、そんな人にはこういう中学生の実態もあるんだってことを知ってほしい。当事者にとっては、どうにもならない逃れられない状況なんだよね。そんな状況がとても細やかに描かれていると思う。陰鬱で残酷なのに、みずみずしく感情を切り取っているから、たまらなく好きだって思えるのだ。

ニンゲンハトベナイ 投稿者 カエル


それは映画ファンサービスデーで他の映画館でいろいろな新作映画が1000円で観られる日だというのに、割引されるわけでもないこの旧作を観るために、結構多くの人が来ていたことが嬉しかった。DVDだって出ているものなのに。フラガール以降の蒼井ファンっていうんでもなかろう。
あ、この頃の市原くんと優ちゃんって、ナンカ顔似てるよね?

-cast-
蓮見雄一 ・・市原隼人
星野修介 ・・忍成修吾
津田詩織 ・・蒼井優
久野陽子 ・・伊藤歩

2001 公式サイト
監督.脚本岩井俊二
撮影 篠田昇
音楽 小林武史

岩井監督インタビュー  / YouTube

*ドビュッシーのピアノ曲
アラベスク
亜麻色の髪の乙女
月の光 
( helloalive より )

ロケ地探索


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by CaeRu_noix | 2007-03-05 07:41 | CINEMAレヴュー | Trackback(4) | Comments(4)
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Tracked from ペパーミントの魔術師 at 2007-04-08 16:40
タイトル : Salyuと”エーテル”~「リリィ・シュシュのすべて」~
Bank Bandの「to U」で 桜井さんとコラボするまでは 実は知らなかったアーティストで 現在は「地下鉄(メトロ)に乗って」の 主題歌「プラットホーム」も歌ってる。 もうすっかりメジャーになってしまったSalyu。 まさか彼女がこの映画のリリィ・シュシュだったとは。 じゃ..... more
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Tracked from 八ちゃんの日常空間 at 2007-12-11 00:57
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虹の女神の公開を記念して『特別オールナイト〜それぞれの軌跡』が、池袋のテアトルダイヤで行なわれた。もちろん配給側の企画ではなく、興業側の企画だから、上映作品に制約があるだろう。こっちの方がいいのに、なんていう気持ちもあるが、どれも話題作だったし、今でもレ...... more
Tracked from 新!やさぐれ日記 at 2008-09-19 22:32
タイトル : 【DVD】リリィ・シュシュのすべて
■動機 岩井俊二観賞 ■感想 そーきたか・・・ ■満足度 ★★★★★☆☆ つかれた ■あらすじ 中学生になった蓮見雄一(市原隼人)は同じクラスの優等生・星野修介(忍成修吾)と仲良くなる。夏休み、2人はほかの仲間たちと西表島へ旅行に行く。しかし、旅行から戻った星野は変質し、番長を倒し自らその座に収まり、蓮見はいじめの対象になっていく。雄一は、田園の広がる地方都市で歌手「リリイ・シュシュ」を唯一の心の支えに、鬱屈した毎日に耐える。 ■コメント 映画「虹の女神」のルーツをたどってみたら...... more
Commented by ななな at 2007-05-17 19:15 x
かえるさん、こちらにもTB&コメありがとうございました。

この映画ホント痛くて途中で観るのを止めようと思ったくらいだったのですがどうしても止めることができませんでした。
リリイ・シュシュに酔いしれ叫ぶ彼らの姿はとても切なくて悲しくてその思いに胸が締め付けられる思いでした。
透明感溢れる映画なのにそれが残酷な彼らの狭い世界を際立たせていて・・・
私も観ている間は「何て残酷なんだろう」なんて思っていましたが観終わってみると言葉に上手くできないけどあの映画で苦しんでいる人たちを抱きしめてあげたくなるような気持ちになってもう一度見たくなりました。
岩井俊二監督気になり中~です。
Commented by CaeRu_noix at 2007-05-18 11:48
ななな さん♪
観ていただけて嬉しいですー。
私は岩井俊二大好きでありながら、これは劇場鑑賞を見送っちゃったんですよね。とても暗そうで、痛そうだったんですもん。
だけど、その痛さも含めて、大いに魅了される作品だったのでした。彼らの思いは切実で激しく悲痛なものでしたよね。こういう題材を美しい映像と音楽でうたいあげるのはひょっとしたら、正しいことじゃないのかもしれないけれど、残酷なものが美しく描かれるというやり方に釘付けになりました。蓮見くんの痛みも星野くんの痛みもそれぞれにわかりますよね。とてもやるせない気持ちでいっぱいになります。でも大好き。
岩井ワールドにウェルカムですー。スワロウテイルも花とアリスもみなよいですよー
Commented by 八ちゃん at 2007-10-04 00:49 x
最初はついていけなかったんだよなぁ~
後からジワジワと胸に押し寄せてくるようで。
ドビュッシーが好きだからなのか、余計印象が宙に浮くような、変な感覚。
言葉に言い表せません。
Commented by CaeRu_noix at 2007-10-04 02:23
八ちゃん♪
おお。ついていけないとは、登場人物の行動などに、ということでしょうか。
それともその映画の演出や展開に?
それでもやっぱり胸に迫る何かがありますよねー。
ドビュッシーづかいは私にはとても素晴らしいものでした。
他にも同じ曲を使っている映画はあるんだけど、私にとってはドビュッシー=リリイシュシュなんですー。ドビュッシーを聴くと心があっちの世界にいってしまいそうになりますー。映像と音楽に物語がのっかる感じって大好きですー。
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