かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『素粒子』
2007年 04月 13日 |
現代人の病巣。痛がゆいから面白い。

異父兄弟である国語教師の兄・ブルーノと、生物学者の弟・ミヒャエルの物語。



素粒子って、何だ?
物理学において素粒子とは、物質を構成する最小の単位のこと。
だから、何だ?

そのタイトルを初めて聞いた時は、科学にまつわる題材のSF作品なのかと思っていた。でも、実際は、理系ものという感じではなくて、とことん深遠に文学的。1998年、フランス文壇を揺るがせたミシェル・ウエルベックの問題小説を映画化したもので、原作が小説というのは大いにうなづけてしまうエピソードの散りばめ方。そして、原作小説の方も是非読んでみたいと思わせられた。とにかく小説を読む進めるような感じで、引きつけられる。映画の物語としては個性的なタイプだけど、私はおもしろかったな。

この監督、オスカー・レーラー氏は昨年のドイツ映画祭で来日していて、会場ですれ違ったけど、こういう作品を撮るような感じには見えなかった。(初夏なのに黒ジャンを着ていた。)日本で公開されるのは本作が初めてだけど、"ファスビンダーの真の後継者"と表されてもいるらしい確かなる演出力の鬼才監督。不安感を煽られまくりの独特の世界観が構築されていて、痛くて歯がゆいからこそお見事と思えた。

『ラン・ローラ・ラン』コンビの再会に嬉しくなったんだけど、2人はこちらではほとんど絡まないんだよね。でも、2人が確実にキャリアを重ねているのは嬉しく、本作でベルリン国際映画祭主演男優賞をとったというのは大いに納得のモーリッツ・ブライプトロイの演技は素晴らしい。いつも多様な顔を見せてくれるけど、今回は好青年にはほど遠いキャラで、憂鬱でいっぱいの病的な精神を巧みに体現。

性的欲求を満たしても心は充たされない。性にまつわるエピソードはブラック・ユーモアのように描写されるのだけど、ビミョウに笑えるところまではいかなくてひたすらいたたまれずに痛さを残す。『アメリカン・ビューティー』などを思い出したりしたけど、アメリカのブラックユーモア作品の方がまだ笑える要素があるような・・・。こちらは笑っちゃうしかないような局面でも鈍い痛みにとらわれてしまう感じ。

それから、SFではない文学的な世界と書いたけれど、現代の物語でありながら、舞台が近未来であるかのような浮遊感を感じたりもする。彼らに内にある不安感、飢餓感、その痛みはリアルなんだけど、その空虚さが金属的に無機質な近未来空間を思わせる。まるで夢の中にいるかのような。ヒッピー達のヌーディストキャンプやあやしいクラブが身近でないからそう思わせるだけじゃなくて、そんなふうに主人公達はこの世界で生を実感できていないということなのかもしれない。空気感とディテールが秀逸。

ラストの4つのチェアが並ぶシーンには安堵感と温もりを得られるのだけど、物語全体を通しての印象はせつなくて憂鬱なものだったかな。でも、そこにある現代人の心に巣くう病のリアルやにじみ出る悲哀とおかしみに心掴まれて、どんよりしながらも見ごたえを感じちゃった。

素粒子 ATOMISED ELEMENTARTEILCHEN
2006 ドイツ 公式サイト
監督.脚本 オスカー・レーラー
撮影 カール=フリードリヒ・コシュニック
美術 イングリット・ヘン
出演 モーリッツ・ブライブトロイ(ブルーノ)、クリスティアン・ウルメン(ミヒャエル)、マルティナ・ゲデック(クリスティアーネ)、フランカ・ポテンテ(アナベル)、ニーナ・ホス(ジェーン)
 (渋谷 ユーロスペース)
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by CaeRu_noix | 2007-04-13 23:58 | CINEMAレヴュー | Trackback(5) | Comments(10)
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Tracked from シャーロットの涙 at 2007-04-14 16:51
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Commented by シャーロット at 2007-04-14 16:48 x
またお邪魔します。
この作品結構難しい感じでした。そうそうオスカー・レーラー監督、確かにオサレーな革ジャン着てましたっけ。原作とはちょっと違う描き方というか話らしい事をおっしゃっていた気がします。すみません、うる覚え。
>金属的に無機質な近未来空間を思わせる
・・・まさに。私達と生きてる空気感が違う感じ?でもリアルな感情がいっぱいで、もやもやした記憶がよみがえってきました。
憂鬱でしたが、ラストシーンはホッとできたのでよかった。あのホールの席で固まって見ててすごく疲れたのも思い出しました;
Commented by 哀生龍 at 2007-04-15 17:46 x
CaeRu_noixさんが“彼らの内にある~リアルなんだけど、~まるで夢の中にいるかのような。”と書かれている雰囲気は、「アグネスと彼の兄弟」を見たときにも感じました。
この監督の持ち味なのかも・・・
強烈なエピソードを淡々と描いていたり、痛みを伴うエピソードをオブラートで包んでみたり。

哀生龍も見応えを感じて、見終わった後に心地良い余韻が残りました。
Commented by CaeRu_noix at 2007-04-15 23:30
シャーロット さん♪
なつかしのドイツ映画祭ー。
オスカー・レーラー監督、背は低めだったけど、パッと見なかなかカッコよさげでしたよね。お話も聞いてみたかったですー。そうか、原作とは結構違うんですかね?原作小説、そのうち読んでみたいなと思っています。難解かなぁ。
そこにあるエピソードや心情はリアルだと思えるんだけど、全体に漂う雰囲気はなんか異次元のような不思議空間でしたよね?その感覚がなかなかよかったです。これもあんまり有楽町朝日ホール向けではないですね。もっとこっそり見たいかも。w
何かが解決したというんではないけど、ラストのチェアの並んでいるシーンにはあたたかなものがありましたねー。
Commented by CaeRu_noix at 2007-04-16 11:59
哀生龍 さん♪
『アグネスと彼の兄弟』も観てみたいです。4/7にDVD発売されたばかりのようで。(最初、この監督の作品はこれまで日本では公開されていないはずーと思って、哀生龍さんはお目当ての俳優を見るためにドイツ版DVDを購入されたのかしら?!って思ったのですが、映画祭鑑賞でしたのね。)いつもそういう作風なんでしょうかね。この独特の雰囲気はこれまで観たことの映画の何かに似ている気がするんですけど、限定できずにいますー。
形容が難しいのですが、見ごたえのある面白さだったし、不思議な心地よさに包まれましたよねー。
Commented by 現象 at 2007-04-24 14:34 x
ファスビンダーの後継者か、すげえな。
待てよ、ファスビンダーって誰だっけ。
という風なもんで事前情報もあまり入れず、
そのとき他に見るものがなくてフラっと見に行きました。
見終わった後はさすがファスビンダーの後継者だな。
待てよ、ファスビンダーって誰だっけ。
ってなもんで帰ってから調べたとさ。
Commented by CaeRu_noix at 2007-04-24 18:28
現象 さん♪
おお、orangeさんのところのコメントとこちらとではずいぶん違いますね。(笑)
ファスビンダーって、結局、誰??
誰だかわかんなくても、「ファスビンダーの後継者」っていう響きはナンカかっこいいですよねー。後継者っていいなー。
ファズビンダー作品は観たことないけど、さすがファスビンダーの後継者っつぅーカンジでしたよねぇぇ。
いや、ホント、そのうち、ファスビンダー作品も観てみたいですー。ヴェンダースが完了した後で。

『アグネスと彼の兄弟』は最寄のレンタル屋にあったのでそのうち観ますー
Commented by mar_cinema at 2007-05-04 04:24
かえるさん、こんばんは。
ラストシーン、せつないんだけど、心地良い不思議な感じでした。
とりあえず、ドイツ映画祭、参加予定ですが、
イタリア映画祭では、すぐ公開される作品を観てしまったので、
日本で公開未定の作品をピックアップする予定です。
Commented by CaeRu_noix at 2007-05-06 21:44
mar さん♪
ラストシーンはよかったですよねぇ。
小説の方はまだ途中なんですがどんな終わり方なんでしょうー。
小説には小説のディテールのおもしろさがありますが、映画の方もかなりうまく主旨を押さえて物語化していますよね。白いカナリアがダストシュートに投げ込まれるっていうのがゴミ箱に捨てられるインコに変わっていたのは残念でしたが、それ以外は忠実な感じでまとめている印象。
イタリア映画祭も行かれたのですねー。映画祭はやはり一般公開予定じゃないものを観たい私です。今度のドイツ映画祭は日程的に選択の余地がないのですが・・・。
Commented by orange at 2007-06-24 02:04 x
こんばんわ☆かえるさん。
コメントお返し大変遅れてしまいごめんなさい・・・

どうやら同じ回で鑑賞だったようですね!ユーロスペースの会場ですれ違っていたかもしれません!
この日は土曜日だったので、私服か・・・季節的にはパーカーを着ていたような気もしますが。
『ラン・ローラ・ラン』コンビでしたね。あの頃は二人ともインパクトが強かったですが、こちらは憂鬱な作品だったので、スタンスは地味でした。
素粒子は何故か、母から受けついた彼らに残っている要素かなと思いました。これもまた逃れられない母からの遺伝子かな・・・と♪
Commented by CaeRu_noix at 2007-06-24 13:53
orange さん♪
おお、3ヶ月も前のことなので、もうその状況を忘れてしまっていますが、やはり同日同じ回の鑑賞だったんですね。いやしかし、3月25日は土曜ではなく、日曜でした。土曜だったということなら、やっぱり違う日です。って、もうどうでもいいですね。(笑) orangeさんはやっぱり目印にオレンジ色の服を着ていてほしいですー。
憂鬱な空気の漂う作品でしたよねー。ドイツ映画は明るくカラッとした映画がフシギと少ないのが面白いです。素粒子の原作を読んだのですが、こちらはもっと悲しいラストでした。主人公ブルーノの境遇-幼い時に母に手放されたことなどは、この原作者自身の境遇が多く投影されていたということを知り、ちょっとショックでもありました。原作を読んだ私は、本作のタイトルが「素粒子」であることを少しだけ理解できました、でも、文系の私には説明できませんです・・。素粒子という最小単位とDNAのお話はまた全然違うんでしょうけど、母親のことは大きなトラウマでしたよね。
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