かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『ホレム・パーデム』(チェコ映画) ★★★★★
2007年 05月 17日 |
Horem Padem
秀作が多いことに驚かされるチェコ映画。
そして、「EU Film Days 2007」で観たこの作品もとっても気に入っちゃいました。



それもそのはず。事前には知らなかったんだけど、本作の監督のヤン・フジェベイクといったら、『この素晴らしき世界』の監督じゃないー。そりゃあ、手応えあるに決まっているよなー。ああ、観られてよかった。

『この素晴らしき世界』は、オールタイムのベスト30に入れたいほどの素晴らしい映画。戦中ナチ占領下を舞台に、善悪ではおしはかれない悲喜こもごものドラマを通じて、命の輝きと人間の底力に感動させてくれる人間讃歌でした。この世は捨てたものじゃない、大いに素晴らしき世界なのだってことを思わせてくれた。通常上映なのに映画が終わるとともに会場に拍手が起こったことも印象的。

本作は、『この素晴らしき世界』ほどに崇高なテーマを描いた作品ではないのだけど、やっぱり私はこのヤン・フジェベイク監督の視点、切り口、そのテイストが好きなんだなーと確信。悲劇的な出来事をもユーモラスに物語り、笑いに包み込んでしまうクストリッツァ的なアプローチが好みなのだよね。情けなくてかなりの困ったちゃんな登場人物をコミカルに描き出して、愛おしさすら感じさせてくれる寛容な目線にグッときてしまう。

現代のリアルな問題がちりばめられた社会派視点のドラマではあるけれど、そういう堅苦しさを感じさせない楽しい喜劇な仕上がり。いくつものささやかなエピソードが絡み合う群像劇。複雑な人間模様が面白い。でも最後に、それらが収束してメデタシメデタシな結びを迎えるわけではない。だから、人によっては、断片的なコメディとしては楽しめても、ヒューマンドラマとしての満足感はそれほどではないかもしれないなとも思う。それはともかく、私にとっては感銘で胸がいっぱいになる愛すべき映画でした。こうやって、僕らはみんな生きているーってなカンジにジーン。

赤ちゃんがほしいミルチャ。何でもお金を出せば買えちゃうのがグローバルな資本主義社会?ミルチャのパートナー、警備員フランタのキャラクターがまた微笑ましい。見た目はすごく怖そうなのに、意外とカワイイ奴なんだもん。スラブ系の女性は儚げなイメージなのに、なぜか東欧中欧の男性はいかにも肉食なゴツイ男が多いよね。イギリス、イタリア、ドイツのサッカー狂の姿は映画でもよく見かけていたけれど、スパルタ・プラハのサポーターっていうのは初めてかも。フーリガンとして暴れて前科ありっていうのがいかにもなフランタ。BARに集ってサッカー中継を観る強面な男達の野太いコールの合唱がおもしろーい。

もちろん出演者チェックなんてしていなかったので、パヴェル・リシュカの登場も嬉しかったな。『ルナシー』や『白痴の帰郷』の時とはまるで違う軽薄なノリのちんぴらキャラが最高。留置所のカメラ映像やその時の暴れん坊ぶりがそれは楽しかった。

ホレツキー教授を取り巻く複雑な家族関係の方は、笑い飛ばせないほどに切実。父が倒れて、久しぶりに移住先のオーストラリアからチェコに帰ってきた息子マルチンが、長年親と疎遠になっていたのも仕方ないと思える不憫な過去をもつことが明らかになっていく。夫婦関係は破綻して長年別居していた母とマルチンが、父と新しいパートナーとその娘の暮らす家を訪問するシークエンスはシュールな笑いを生みつつも、リアルな痛みが盛り込まれていて、ハラハラ見ごたえのあるものだった。前妻と後妻が仲良く交流しちゃうフランス映画があったけれど、こういう状況だとそこには至らないものだろうな。それでも、母親違いの兄妹の対面は嬉しいもの。娘レンカ役の彼女はチェコの蒼井優ってカンジだな。踊れるし。

かつては共産主義国であったチェコも西欧化が加速して、今は西欧同様に増える移民に困っているという側面があることを知った。私情による反発心が主だったとはいえ、難民センターに勤めるホレツキー教授の現パートナーハナに対して、マルチンの母ヴィエラが現実を語る場面は興味深かった。移民の多い地区に住み安全面で不安にかられているヴィエラが、優雅に豊かな暮らしをする一方で難民を助けるお仕事に満足しているハナに訴える姿にはドキリとした。フランスでサルコジ氏が大統領に選ばれたことを思い出しつつ。

ヴィエラの言い分もよくわかる。共産体制時には需要のあったロシア語の翻訳の仕事も今の時代には使えない。激動のチェコを生きてきた人の苦労話はせつなく胸をうつ。それでもその時代の変化を受け止めなくてはならないんだよね。移民たちに迷惑していると母は言うけれど、その息子はオーストラリアという国へ行き、自身が移民という立場で苦労したのだ。両面から物事をとらえるところがとてもいいんだよね。マルテンの奥さんの名前を聞いた時に肌の色は想像できたのだけど、新しい世代の柔軟性に嬉しくなる。浜辺のサッカー遊びのシーンはステキだったな。今日的なテーマに心うたれる賑やかで味わい深い一作。
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by CaeRu_noix | 2007-05-17 12:06 | CINEMAレヴュー | Trackback | Comments(2)
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Commented by sabaha at 2007-05-17 22:10
こんばんは。
チェコ映画、いいですね、観たかったです。というよりEUフィルムデーズ、みんな面白そうで、全部観たい。そしてパヴェル・リシュカが出ていたとは~先にしっていれば~(笑)。私はスウェーデン作品を観て、これもなかなか面白かったです。スケジュール的に多分もう他のは観れませんが、来年以降も期待します。
Commented by CaeRu_noix at 2007-05-18 11:52
わかば さん♪
一昨年のチェコ映画祭の時も感じたんですけど、チェコ映画の水準の高さは素晴らしいですよ。そして、パヴェル・リシュカもすごくよかったですよ。こういうヤクザな役もハマるのねぇとファン指数が増しました。それも含めて、この作品はわかばさんにも気に入ってもらえるタイプじゃないかなぁと思います。『サンジャックへの道』なんかがツボの人にはいけるんじゃないかなと。機会あったら是非ご覧いただきたいですー。
そうなんです。EUフィルムデーズ上映作品はハッキリいって全部観たいです。大阪ヨーロッパ映画祭でかかっていたものや他の映画祭で見逃した作品名がいつくもアリ。そういうのは機会あるごとに上映してほしいですよねー。土日なんかは上映回数を3回くらいにしてくれてもいいのになぁと思いつつ、そこがコクリツなのね・・・
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