かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『神童』
2007年 05月 27日 |
清涼感。

"神童"と呼ばれていた13歳のピアニストうたは音大受験生のワオと出逢う。



音楽映画はやっぱりいいよね。ピアニストが主人公の映画はたくさんあるし、邦画にも音楽ものはいくつもあるけれど、ひょっとして日本映画でクラシック音楽ものというのは希少なのかな。のだめによるクラシックブームの波に乗り、今だから作られたということだろうか。のだめに同じくコミックが原作で主人公の天才ピアニストが少女というのは目新しい感じがしないのだけど、日本製クラシック音楽映画自体は新しい試みなのかもしれない。世間では、のだめに比較されそうな題材なのだけど、私はTVドラマは見ていないし、原作コミックも読んだことがなく、ただ純粋に音楽な映画を楽しんだ。心地よいピアノの音色に酔いしれるばかり。昔、バイエルの途中で投げ出した私は、弾けることがただただスゴイって思う。

ブームにのった企画先行型商業主義的アイドル映画の匂いを感じていたら、私は観に行かなかったかもしれないんだけど、エンタメ路線の人ではない『帰郷』の萩生田宏治監督作品であるところがポイントだった。萩生田監督作品の素朴さが好き。ゆったりとした空気感が好き。クラシック音楽そのものは、監督のイメージには合わない気もしたのだけど、主人公は自信満々の相原こずえなどではなくて、ピアノを弾くことから逃げ出したくなっているうたと下手っぴなワオなのだから、恋愛関係ではない男女2人の物語なのだから、むしろ合っていると思えた。音楽の映画なのに、静けさと透明な空気のやわらかさが印象的な好みのトーン。序盤の商店街のワオの住む八百屋で、初めにうたがそこのピアノの勝手に弾くところから既に感涙。八百屋さんから聞こえるクラシックというミスマッチ加減に妙に感動してしまうの。

密ではなくて、ゆったりした印象も強いのに、何度もハラハラとさせられ、緊張感でいっぱいになった。受験で演奏するシーンだとか、初めての曲を大観衆の前で演奏するシーンだとか、失敗は許されないとドキドキしてしまう場面が多かったし。孤独に複雑な思いを抱える思春期のうたの気持ちがやるせなくて、うたがトラブルを起こすたびに心が痛みを感じてしまった。私にとっては、思いもよらないほどにハラドキ度の高い物語だった。そういう緊迫感をもったまま、時に美しいピアノのメロディを聴くことになるので、心臓の高鳴りがそのまま持続しつつ、音楽への陶酔へ引き込まれていった。うたという少女は迷い悩みながらも、ピアノと向き合った時ばかりは、反抗期の中学生から天才ピアニストに姿を変えて、素晴らしい演奏を聴かせてくれる。もうそのことにただ感銘を受けてしまう。それが音楽の力。音楽が耳と心に響くと、空気が透明なんだということに気づき、人間の体内にそれを感じる器官が機能しているんだということに気づく。

日本のドラマでは、恋愛、友情、親子愛など決まったパターンでの関係性が描かれるものが大多数の中、うたとワオの恋愛未満の兄妹のような関係性がとてもよかったな。ワオの松山くんは亡きパパ西島っちにちょっと似ているじゃないか。うたはパパの面影のあるワオだから、惹かれるものがあったんだなって思ったりした。回想シーンのピアノのお墓がとてもよかったな。脚本、撮影は『リンダリンダリンダ』と同じ人だと知って納得の学校のシークエンスのリアルな空気もよかった。やけに子どもっぽい中1男子。手塚ママキャラはちょっといかにもな感じだったけど。それから、声楽の彼女の口パクは歌に合ってなくて最悪でしたね。アップで撮るべきじゃなかった。ピアノの演奏シーンは吹き替えに見えないほどに見事だっただけに残念。

ロストロポーヴィチは、演奏家は音楽の娼婦だと言ったけれど、そんな台詞はもちろん80年生きた巨匠ならではの言葉。13歳の少女には、私は音楽っていう言葉がよく似合う。


神童 2006 公式サイト
監督 萩生田宏治
脚本 向井康介  原作 さそうあきら
出演 成海璃子、松山ケンイチ、手塚理美、甲本雅裕、西島秀俊、
貫地谷しほり
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by CaeRu_noix | 2007-05-27 09:40 | CINEMAレヴュー | Trackback(3) | Comments(2)
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Commented by シャーロット at 2007-06-02 14:36 x
かえるさんが後押ししてくださらなかったら私は見ないつもりでしたので、とても感謝しておりますです。
すごく清々しくて演出もしつこくなかったのでとても気に入りました。でも、まったりした映画と思いきや、とてもハラハラドキドキしちゃったし、なんだか期待した以上の作品でありました。
たしかに八百屋さんから熱情が聴こえたら、すごく意外で足を止めてうっとりしちゃう。。。男の人のピアノには実はうっとりする自分です。笑
それと・・・ピアノものは撮るのがきっと大変なんですよね。運送費とか会場の費用とか意外に高くて経費がばかにならないというか。倉庫のピアノも凄い数でしたしね…などなど裏のことばかり気にして見ていた自分もいて;真面目にハラドキ。笑

Commented by CaeRu_noix at 2007-06-04 10:46
シャーロット さん♪
劇場鑑賞していただけてよかったですー。
だって、ホントにピアノがたくさん登場したし、調律をしているような場面もあったりして、シャーロットさんが観ないでどうするのーってカンジだったんですもの。
もとがコミックだから、台詞じゃなくて、画で表現される部分も多かったんでしょうね。加えて、この監督の説明的ではなく、空気感を伝えてくれるという作風もポイントだったと思います。場面の一つ一つはTV的でもあったのかもしれないけど、TVだったら端折られてしまうようなところをゆったり撮っていたかなと。それでいて、予想外にハラハラ映画でした。実技の試験って、筆記試験の何倍も緊張ー。
低予算映画だと、ピアノを調達するのも大変でしょうね。Yのばかりになるのはやむ終えないのかな。
「トトトの歌」は欧米では「チャップスティック」というらしい。
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