かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『サッド・ヴァケイション』
2007年 09月 27日 |
アルモドバル作品を思い出すような感動。

北九州市、若戸大橋のたもとにある間宮運送を舞台にした物語。



北九州市出身の青山真治監督が故郷を舞台に描いてきた"北九州サーガ"の集大成的作品なんだって。『Helpless』の続編であり、『EURICAユリイカ』の登場人物も絡んでくる。予め用意されたシリーズものはあまり好きじゃないけれど、こんなふうに10年後にその続きが物語られるというのはおもしろいと思う。故郷にこだわって撮り続ける映画監督の姿勢は好きだしね。だけど、こないだ観た『Helpless』はやりたいことはわからなくはないけど心に響くという感じではなかった。というわけで、やっぱり私には、黒沢青山ラインはあんまりなのかもしれないなーと思ったりしたんだけど、本作はしっくりガツンときちゃった。

これって、アルモドバル作品みたいだなーって感じた。だからこそ、私のツボにハマったのかも。複雑な関係図、悲劇の転がし方と解き明かされた秘密、そこに受ける衝撃に似たものを感じ、それら全てを凌駕する肝の据わったたくましき母の姿に大いなる感銘を受けてしまったところがリンクした。思いもよらず、これは大いなる母性と女のドラマであり、女優の存在感で圧倒する映画だったことが、ボルベールやオールアバウトにリンクしてしまったのだ。女優を撮ることに力を注いでいる監督という印象をもったことはなかったのだけれど、そこが今作の肝であり、それゆえに私の心に響く映画になっていた。客観的にクールにドラマを撮っていた映画監督が、今回はグッと登場人物に人間味をもたせて彼らに寄り添っている感じなんだよね。

主人公はHelplessの11年後の浅野忠信扮するケンジ。彼が言葉も通じない中国人の子どもを連れ帰ったのは、自分が母に捨てられた時の傷があるからなんだろうね。ヤバい仕事に関わったりもしているみたいだけど、身よりのない子どもの世話をしたり、あの時以来ゆりちゃんの面倒も見ているようで、真っ当というわけではないものの心優しい彼の姿に安心する。代行の仕事でも謙虚な様子の穏やかケンジなのに、偶然に自分を捨てた母に再会し、憎しみを蘇らせるのだ。同時に高校生の弟の存在も知り、その彼はケンジに反発心を見せる。昔から見てきた家族ものの定番パターンなら、邪魔者異分子はケンジの立場の人間のはずなのに、逆に、弟の素行に手こずる両親の前でケンジが歳の離れた兄としてのに頼りになる姿を見せることになって、ごくごく当然のことのように間宮の家に受け容れられていくという展開がおもしろいなぁって思った。

母の現在の夫が経営する間宮運送の仲間入りをするケンジ。過去にこだわる様子もなく復讐心をもつ息子にも動揺せずに大らかに迎え入れる母。不思議に再スタートする母と息子の関係性。そこに絡む出逢ったばかりの兄弟の奇妙な関係性。物語の大きな核になるのはそんな血縁なのだけど、間宮運送で働く人々によって疑似家族が形成されているところもポイントであり、私好みのものだった。ワケアリの人々を従業員として黙って受け容れる間宮運送の存在が温かくていいんだよね。そんな連中とは関わりたくはない、自分の一家が安全に幸福に暮らせることの方が大事と考える人が多いと思うから、間宮の父さんの寛容さやこの共同体の存在にもじんわり感動させられるんだよね。皆で弟くんの家出を止めた場面がよかったな。

男たちのてんやわんやに盛上げられつつ、本作で何よりも印象的に心に響いたのは女たちの姿なのだった。女の九州弁っていうのがすごくいいんだよね。大らかで温かい感じ。板谷さんの言葉の響きが心地よかったなぁ。そして、石田えりの不敵な存在感がこの上なく素晴らしい。この1点だけでとても感銘を受けてしまった。日本では相変わらず東京タワー的に献身的な優しい穏やかな母さんこそが母たる母なのかなーって思っていたのだけど、毅然とした強さやたくましさをもち、どっしりと大らかさを見せてくれる母が日本の片隅に存在したのだ。どんなに複雑で不幸な事態に遭遇しても、狼狽えたり取り乱したりする姿は見せない。何もかもを受け止めて揺るがない。道理なんて気にせず、善悪や聖俗なんてものをひょいと超越したところに母の微笑みがあることにただただ感動してしまった。
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by CaeRu_noix | 2007-09-27 07:56 | CINEMAレヴュー | Trackback(11) | Comments(11)
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Commented by Sunflower-man at 2007-09-27 08:47 x
あのちょっと品悪く聞こえる小倉弁、今ではほとんど聞かれなくなってしまいましたね。
北九州は石炭、鉄から始まり日本各地の方言が入り混じってしまい本当の方言がなくなってきていますね。
Commented by CaeRu_noix at 2007-09-28 01:05
Sunflower-man さん♪
北九州情報を発信されているんですね。
そうなんですかー。小倉弁は今はあまりきかれなくなったのですか。ちょっと寂しいですね。私は、博多弁と小倉弁の違いなどもわからないんですが、とにかくこの映画の中で話される女性の言葉はとてもよかったんですよね。
なるほど。日本各地の方言が入り交じって、本来のものが消えてしまうという現象なんですか。街もどんどん様変わりしているようですね。
平尾台の風景などにも惹かれました。ステキなロケーションでしたー。
Commented by えい at 2007-09-28 09:26 x
こんにちは。

ぼくはこの映画に今村昌平を連想しましたが、
そうかアルモドバルとも言えますね。
博多と北九州では、微妙に言葉が違いますが、
ぼくはどうにかついていけました。
福岡出身の俳優さんを多数揃えたのも
成功した一因かも知れませんね。
Commented by CaeRu_noix at 2007-09-29 00:11
えいさん♪
アルモドバルでした。私には。
今村作品はうなぎくらいしか観ていないので、私はよくわからないんですが、今村監督の描くものにも通じるものがあるのですね。
九州弁はそうですね、たまに、アレ今何て言ったの?と聞き取れなかった箇所があったかもしれません。でも、大体話の内容はわかりましたよ。
そうだったんですね。石田さんが熊本出身というのは雑誌記事で読みましたが板谷さんが北九州出身だとは今知りました。だからあんなに話し方が板についていたんですねー。光石さんは出演作の多さにも驚きました。今年観た映画の数本に出演していました。それぞれに存在感がありました。
Commented by kusukusu at 2007-09-29 02:10 x
僕もちょっと今村昌平を連想しました。たぶん日本の田舎の母性みたいなのを描こうとしているからだと思うけれども。
でも、今度の作品で青山真治ってこういう人間像を描きたかったのかーと分かってきた感じですね。これまでの作品より人間像が深まって描かれてきているようには思いました。
ただ、いくら揺るぎない母性というテーマだとは言っても、あんなことがあっても揺るがないというのはあるのかな・・と思ったりはしましたが。ところどころ、大胆な省略をしている作品で、実は母性が揺らいだ時もあったんだろうけど、そこは省略しているのだと
考えればいいのかもしれませんが。でも、そこは「省略」しているのだということで納得しろというのはちょっとずるい気もする(笑)。
Commented by kusukusu at 2007-09-29 02:11 x
あと、過去の作品を絡ませるのは、ちょっとこないだ見たアハマドの『グブラ』を思い出したりしたんですが、でも『グブラ』は過去作品を見てなくても分かるようになっているけど、これ、『ユリイカ』を見ていないと、『ユリイカ』の話が絡んでいる部分がよく分からないし、なんか、中途半端に『ユリイカ』の話を入れているような気はしました。(もともとは実はこの『サッドヴァケイション』の話のほうを考えていて、後から『ユリイカ』の話が出来たそうではあるんですが。映画になったのは逆だけど。)
Commented by CaeRu_noix at 2007-10-02 00:47
kusukusu さん♪
なるほど、今村監督は日本の田舎の母性を描いているんですね。
青山作品も多くを観たわけではないけど、人間ドラマととしては共感しきれないものがほとんどだった印象なんです。『ユリイカ』なんかも、クライマックスの映像などには感銘を受けたけど、人物造形や登場人物の言動・行動にリアリティを感じない部分もあり・・。やりたいことはわからなくはないけど、自分には完全にはピンと来ることのないものばかりでした。そういうわけで、今作は私にとって初めての概ね好感触な作品となりました。人間像に深みがもたれたということなんでしょうかね。
でも、『ユリイカ』の話はあんまりうまく絡んでいたような気がしなかったんだけど、あとで無理に付け加えたからなのでしょうか・・。
私は省略しているとは感じなかったんですよね。確かに、全く動揺しない母親がいるわけはないと思うので、その途中の彼女の心の動きは描写が省略されているともいえるのですが、鑑賞中は、だからこそ、その姿にうたれたのでした。
Commented by ミチ at 2007-11-29 18:58 x
こんにちは♪
TB&コメントをありがとうございました。
あのあとネット回線がおかしくなって修理しているうちにすっかりご訪問が遅れてしまってすみません。
青山監督作品って二本目なんですけど、こちらはかなり好印象を持ちました。
ご贔屓俳優が出ていた所為かな?(笑)
九州弁、かなりツボです。
なんか包容力とセクシーさを感じます(これも浅野さんや石田えりさんがしゃべってるからかな?)
石田さん演じる母親はかなり特殊に見えましたが、誰もがああなる可能性を秘めているとも思えました。
大人しい私の中にもあんな要素が????
Commented by CaeRu_noix at 2007-11-30 00:29
ミチさん♪
いえいえ、かまいませんです。ありがとうございます。
好印象ではなかった青山作品って、何だろう?(笑)
黒沢きよし、青山真治監督作品で、シネフィルな人たちには結構支持されているみたいなんですが、私には半信半疑な存在だったのでした。『ユリイカ』はとても素晴らしいと感じられた部分と納得いかない部分があったし。で、いくつかの作品は私の感性には合わないというカンジでした。でもでも、今作はとても心に響いてしまったのでした。
ミチさんの場合は、やはりやはりご贔屓俳優さんのおかげでしょうかね。そういえば、半信半疑の黒沢作品の中では、浅野&オダジョーコンビのアカルイミライが一番好きな私です。
九州弁の響きがまた味わい深かったですよねー。
石田母はよくよく思えば、かなり特殊なタイプなんですが、私はエラク感動しました。そうですね。誰もがそういう強さを秘めていると思います。
おしとやかなミチさんの内にもきっと・・・。
Commented by 真紅 at 2008-09-08 22:50 x
かえるさん、こんにちは♪
ずっと前ですけど、『題名のない子守唄』よりもこちらに母性を感じた、とコメントいただいていたような気がして、ずっと観たかった作品でした。
(劇場では観られなかったんです、古いハナシですみません)
DVDで観たところ、これはもうガツーーーンときまして、北九州サーガ三作を観てしまいました。
『ユリイカ』はね、観るのに気合が要りましたよ。。さすがに。
で、TBさせていただきました。私は男子の九州弁も好きですー。

石田えり、凄いですね。。母性というか、間宮社長が「底知れん懐の深さ」に震えてましたが、ほとんど怖いくらいでした。
彼女の役柄には賛否あると思うのですが、有無を言わさぬ存在感でした。
ああ、感動しましたです。
ではでは、またお邪魔させて下さい。
Commented by CaeRu_noix at 2008-09-10 00:56
真紅さん♪
たいへーん、嬉しいです。
自分が発したそういう言葉を記憶していただき、それが作品鑑賞動機の一端になったというのは!
そして、そんなふうにハマっていただけたとは甚だ嬉しく。
ホント、ガツンとくる作品でしたよね。やられました。
浅野の母親役が石田えりなんて、年齢差的にはちょっと不自然なんですが、そんなことを気にすることなく、このキャスティングを実現させたというだけで、その才覚はサスガ!って思いました。
ホント、えりママには圧倒されるばかりでした。九州カラーがまたよかった。
(キャラ設定的に狙った関西弁なんかみたいじゃなく)自然に方言が話される映画って、魅力的ですよね。心地よい響きー
『ユリイカ』もじっくり劇場鑑賞してみたい一作です。

そして、本作のトラコメはわたし的にもタイムリーだったことも嬉しく。
にちよびに青山真治氏のトークを聞いて、(ロンゲのイメージが強くて、前はあまり好感をもっていなかったのに)、とても面白くてスバラシイ意思をもった監督なのねぇって、単純にも一気に好感度アップしたところだったのでした。w
ユスターシュ、ガレル、ドワイヨンに影響を受けた映画作家は支持せねばーって感じです。
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