かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『僕がいない場所』 Jestem
2007年 11月 08日 |
哀しさと美しさが胸に迫る。
ポーランドの大人は判ってくれない、誰も知らない。

社会主義から民主主義に変わりゆくポーランド、少年クンデルは孤児院を抜け出し、母親がいる町に帰る。



『それでも生きる子供たちへ』という不遇のもとでも精一杯生きる子ども達を描いたオムニバス映画が今年のお気に入りの1本だったのだけれど、本作もまるでその中の一編のようにみずみずしい輝きを放っていた。主人公の少年クンデルの置かれた境遇はあまりにも酷なのだけど、辛い状況だからこそ、その切なさに心打たれてしまうし、刹那の幸福感が際立つの。そして、その全てが美しい映像で詩的に綴られているから、すっかり魅了されてしまった。ポーランド映画には映像美を感じさせるものが多いよね。ヒンヤリとした空気感がたまらない。女性監督ドロタ・ケンジェルザウスカの夫で、プロデューサー兼撮影監督のアーサー・ラインハルトが切り取るショットに何度となくため息をついた。

その陶酔感をともに盛り上げるのはマイケル・ナイマンの音楽。前半部では時折、その音楽が叙情的に主張しすぎることが気になってしまったのだけど、主人公の心情に呼応する美しい旋律に酔いしれる感銘はそれを上回る。波乱万丈な出来事や会話が詰め込まれた物語の映画音楽は、いくら美しくても場面に合っていても、主張の強い交響楽のスコアは、好きじゃないと感じることが多いのだけど、本作のように台詞も多くはない、一人称の視線で描かれた物語の場合、時にはリリカル過ぎる音楽も効果的でふさわしいと思えた。主人公によって吐露される言葉に代わって少年の思いを伝える。詩人になりたいというクンデル自身の姿が映像と音楽によって一篇の詩になっている。

街角や駅のホームという何気ない景色の陰影に富んだローアングルショットが素晴らしい。一人称映画の目線の主体がその外側に切り替わるかのようで、美しくも寂しい風景に溶け合う孤独な少年の姿が、哀愁の色を帯びながらもたくましく躍動する。ポーランドの街のレンガ造りの建物の佇まいも、地面を覆い隠し一面に広がった黄金色の落ち葉の絨毯の上をクンデルが走り抜ける様も絵になる美しさ。そして、何よりも川べりの情景に魅せられる。クンデルが住処にした廃屋のような艀は暗くて汚いに違いないけれど、その秘密基地は水辺のきらめきによって、最高にステキな空間になっていた。

母のもとに身を寄せることができずに、でも大人に頼ることはせずに、食べる物さえもない暮らしを始める少年の姿は不憫であまりにもやるせない。それでいて、親はなくとも子は育つというものなのか、機転を利かせて、日々何とか生き抜いていく少年のたくましさに感慨も受ける。男の子って強いなー。女性監督ならではの-少年という生きものへの憧憬の念が感じられるようなまなざしに心寄り添ってしまうの。腕白な振る舞いは男の子ゆえのものなのだけど、孤独で過酷な暮らしの中、子どもらしいあどけない顔を見せることはなく、孤高の戦士の彼は何だかいつも大人びた険しい表情をしているんだよね。それがまたせつない。そんな彼の存在感、その彼を見つめる作り手のまなざしに、合わせて心うたれるだけ。

弱さを見せないクンデルだからこそ、少女と心通わせて、母に嫌われた悲しみを露わにする場面には胸が痛んだ。男にだらしない母親に失望し軽蔑する一方で、強く母の愛を求めているのだから。その思いは届かずに拒まれるばかりなんて本当に哀しくなる。でも、そんな絶望の淵にいるクンデルに素直さを呼び起こしてくれた少女の屈託のない笑顔は、かけがえのないあたたかな光だったね。孤独な隠れ家が2人の秘密にかわった柔らかな時間がとても愛おしい。2人で逃避行なんてもちろん夢物語に過ぎない計画だけど、こんな風に打ち砕かれてしまうのはなんて残酷。

名前を付けてくれたはずの血縁の親はこんなにも冷たくて、名前さえ聞かない少女がこんなにも好意を寄せてくれる。名前になんていったい何の意味があるんだろう。彼がどれだけ悲しい思いをしてきたかなんて気にもせずに、ただそれが社会的な仕事だからと、ホームレスの少年を保護した大人は姓名を問うのだけれど・・・。
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by CaeRu_noix | 2007-11-08 20:13 | CINEMAレヴュー | Trackback(10) | Comments(12)
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Commented by mi10kuma at 2007-11-08 23:26
ちょっと前に『サンドイッチの年』という映画をビデオで観たのですが、かえるさんの感想を読むと、何かとても近い孤独感、喪失感を感じます。『それでも生きる子供たちへ』も心に響いた作品がいくつかあったし気になります。あー、でも時間がない。『ナルコ』とどちらにしようか...気分次第かしら
Commented by CaeRu_noix at 2007-11-09 00:09
シリキさん♪
サンドイッチ~は未見なんですが、そういう物語なんですか。
借りようと思ったことはあったんですが、てっきりほのぼの系ドラマかと思っていました。今年は子どもが主人公のよい映画がたくさんですよー。
しかし、ナルコと本作とでは180度タイプが違いますですよ。シリアスかコミカルか・・・。気分次第でどうぞ。
Commented by mi10kuma at 2007-11-09 00:52
『サンドイッチの年』はブログの下の方に感想書いたので暇なときに参考になさってくださいまし。かなり後からずっしりきますよ。
ポーランド映画って久々なんですよねえ。迷います。
Commented by シャーロット at 2007-11-09 15:58 x
素晴らしい映像美にうっとりでした。もうこの詩的さがたまらなく好きーって叫びたいところですが;あまりにも美しすぎることと哀しすぎることが重なりすぎて、もうその切なさに胸が苦しくって;;ナイマンのピアノはやっぱり美しすぎますっ・・・。
あの少女の姉も美しいながらも冷たさがにじむようでしたし、美しいものへ対するクールな視線にズキズキ胸を突かれてもう涙でした;;
クンデルにとっては唯一温かく安心できる存在であった少女との逃避行、、、させてあげたかったですよ。
僕は僕で・・・それでも生きていく強さが、なんか哀しいです。。。
Commented by CaeRu_noix at 2007-11-10 01:02
シリキさん♪
サンドイッチ、おすすめということでしたら、見なくちゃリストに入れまーす。
見なくちゃリストのタイトルは100本くらいいつもあるので、すぐには観られないかもしれませんが・・・。レンタル屋さんにVIDEOがおかれているうちにー。
ポーランド映画って、あんまり公開されないですよね。
キェシロフスキの国なので贔屓にしたいのですが。
Commented by CaeRu_noix at 2007-11-10 01:19
シャーロット さん♪
映像美はぶらぼーでした。映像に期待して観に行った映画でも、それほどに手ごたえがなかったりすることもあるんだけど、これはすごくツボでした。ロシア映画の巨匠作品を思わせるようなところもあったりして。
残酷なモノを美化して映し出すことって、ある意味正しくはないのかもしれないけど、ドキュメンタリーではないし、公然のモデルがあるわけじゃない、フィクションならば、思いきり美しくつくりこんだっていいじゃないかと思うのです。哀しいことが美しくうたいあげられることって、すごく心に沁みますよね。やるせないけれど、その感触に芸術の醍醐味を感じますー。
ナイマンは私としてはヤレド以上に好きなんですよね。ナイマンの音楽はやっぱりCDで聴くより、劇場で聴くのがよいなーって。
あのお姉ちゃんの存在がまたよかった。いえ、少年の物語的にはよくない存在なんだけど、映画的には極上でしたわ。
あの女の子、最初に登場した瞬間は可愛くない子だなーって思ったんですけど、みるみるうちにあの屈託のない笑顔に魅了されちゃいました。こちらも極上。
そして、クンデルくんの大人びた表情も極上でしたー
Commented by sora_atmosphere at 2007-11-13 00:00
リフレインのように繰り返されるオープニングのシーンは印象的でした。
Commented by CaeRu_noix at 2007-11-13 01:05
sora_atmosphere さん♪
オープニングも印象的でしたね。ラストにつながるのもおもしろかったです。
そして、彼の大人びた表情も忘れられないですー。
Commented by ゆるり at 2008-01-06 23:59 x
かえるさん、遅ればせながら新年おめでとうございます!
それから、コメントいただいてありがとうございました。
大阪の上映時期が遅いせいかタイミングがかなりズレてしまい、
いつもコメントに躊躇してしまいます。(^-^;A

この映画、ハンカチを用意して観ていましたが必要なかったです。
涙は出なかったけど、それ以上に心に残る作品になりました!

かえるさんはあの少女の顔について言及されてましたが、
私の場合クンデルが最初はちょっとすれてて可愛くない顔やなぁと正直思ってしまったんです。
けど、話が進むにつれて彼がすごく愛おしく見えてきて。
自分は誰からも愛されないと感じながらも優しい気持ちを持ち続けられるなんて、奇跡の様。。。。
Commented by CaeRu_noix at 2008-01-08 00:30
ゆるりさん♪
今年もよろしくお願いしまーす。
コメントは、したかったらすればいいし、余裕がなければしなくてもいいと思いますー。
大阪と東京の上映時期はそんなに大きくは違わないので、その点は問題ないと思いますよー。
2年も前に観たイマイチな映画について熱くコメントされるとかはちょっと困るかもしれないけど、ちょっと前に観た大好きな映画のお話は大歓迎でっす。
そうですね。号泣映画っていうんじゃなかったです。
でも、ちょっとしたシーンに涙はにじんでしまった感じ。
クンデルの表情にやられちゃった部分が大きかったかな。
そうそう、彼はやけに大人びていてすれていましたよね。でも、そこがまたせつなくて・・・。わたし的には造形としてはカワイイ顔だと思いましたわ。
とても可哀想なんだけど、そんな同情は寄せ付けない感じで。
とにかくこの孤独な少年に魅了されましたー。ちょっとしたシーンの優しさにグッときましたねー。
Commented by mchouette at 2008-01-11 14:04
かえるさん、メッセージありがとうございます。
TB持参しました。この映画、映像と、少年と少女の表情、そしてナイマンの音楽が見事に映像に融合して、一つの世界となってましたよね。
少年と少女のキャスティングはあの女の子も何かを秘めたような味があったし、クンデル役の少年は、子供っぽくもなく、かといって大人びてるかというとそうでもなく、見事だと思う。
やっとTBできたわ(笑)
Commented by CaeRu_noix at 2008-01-12 02:59
シュエットさん♪
トラックバックもありがとうございます。
ホントにホントにそれらが見事に溶け合っていましたよねー。
扇情的すぎる音楽は時として、うるさく感じられてしまうのですが、本作のスコアは映像にピッタリマッチした聴かせる美しいメロディでした。
少年と少女の悲しげな表情も子どもらしい屈託のない笑顔も印象深いです。
よくぞこんな子を見つけてくれたというキャスティングも素晴らしいし、女性監督らしいこだわりで彼らのそんな表情を引き出すことができたのですかね。
うーん、思い出すたびにため息の出てしまう作品です。
やっぱりベスト5くらいにしておけばよかったかなぁ。
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