かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『レディ・チャタレー』
2007年 11月 16日 |
美しい森で育まれるピュアな愛。
ワイセツではなくて、とことん芸術。

1921年、英国中部の炭坑の村、クリフォード・チャタレー卿は第1次世界大戦で下半身不随となり、妻のコンスタンスは夫の世話をしながら暮らしていた。



通常版より30分ほど長いディレクターズカット版を鑑賞。若者集う渋谷スペイン坂上界隈にあるシネマライズなのに、この手の作品ではよくあることだけど、オヤジ・初老男性比率高し。何しろ日本でも「わいせつ文書」として有罪判決を受けたスキャンダラスな小説「チャタレー夫人の恋人」の映画化作品。でも、これはその広く翻訳出版されている第3稿ではなくて、パスカル・フェラン監督にとって、より純粋な愛の物語としての感動があった第2稿が原作なのだそう。小説の方を読んでいないので、違いはわからないけれど、監督の受けた感動がそのまま伝わってくるような、ワイセツにはほど遠く、エロティックでもない、静かで上質な感慨深い文芸作品になっていた。

過激な性表現が氾濫する現代の感覚では、その描写が少しも大胆過ぎるとは思わなかったし、逆に、開放的ではない時代ゆえの主人公の奥ゆかしさが感じられるから、2人の行為はただ純粋で優しいものとして伝わってくる。2人だけの空間、森という場所がとてもステキなの。夫の介護のためにいつも屋内で過ごしていたコンスタンスが、その肩の荷を下ろして、森を歩きゆっくりと時間を過ごす。その心洗われる解放感の中、目に見えるもの聴こえるもの触れるもの、何もかもが輝いていたのじゃないかな。コンスタンスが森番パーキンに身を委ねていくことも自然に見えた。必然ではないけれど自然。情欲に突き動かされて、というのではなくて、それは森の精のイタズラのような誘惑かな。

戦争で下半身不随になった夫を裏切って、妻が夫の使用人である森番と関係するというのは、その時代の常識では、不道徳なあってはならない行いだろう。不倫、それも、夫が性的に不能になっている状況で妻が浮気をするというのは忌むべきことにに違いないし、また階級社会イギリスで、貴族の婦人が支配下にある下僕と関係をするというのももってのほかなのかな。ワイセツな描写以前にも問題視される要素があったのかもしれない。でも、そんなタブーとは裏腹に、育まれていく夫人と森番の関係、そこにある思いは何だかとても柔らかでピュアなんだよね。序盤の描写で、コンスタンスの日常の気詰まりさにしっかりと心寄り添うから、森での心と体の解放をごく自然に受け止められるのだ。孤独な2人が出逢いゆっくりと心と体を通わせていく様をあたたかく見守ってしまう。

そんなふうに、その筋書きは不道徳でしかないと思うのに、静かで美しく綴られた映像表現によって、主人公のドラマに肯定的な目線で見入ることができるのだった。その手腕は、お見事。女性監督らしい繊細さによって、コンスタンスとパーキンの感情が丹念に描写され、初めは少しも魅力的に見えなかった森番だというのに、そこに育まれる愛情は説得力をもって、見る者の胸に迫る。2人の秘め事の逢い引きは、森の美しい自然と溶け合うように、疚しさは感じられない清々しいものだった。いい歳をした男女なのに、全裸で無邪気に駆け回るシーンの解放感は格別に感慨深かったな。草花で互いの体を飾る様もほほえましかった。孤独な思いを抱えてきた2人が、心の鎧を脱ぎ捨てて、こんなふうに笑顔で見つめ合う姿に心温まるから、気恥ずかしさや滑稽さなんて感じない。

わき上がる泉のような感情が芽生える。男と女が体を重ねて、惹かれ合い心を開き、あたたかなかけがえのない愛情を育んでいく。現代においては忘れ去られているような、純粋で根源的に素晴らしいことが、その時代状況設定によって、ごくごく自然に描かれていることに感動してしまう。セックスは愛の行為であり、その歓びはそのまま生の活力になるのだということをじわりと感じていくの。言葉にしてしまうと無味なお決まりの文句にしかならないのだけど、説明的ではない映像表現の中でそれがゆっくりと伝えられることはとても崇高な映画体験なのだよね。イギリスの物語だけれど、フランス映画らしい芸術作品。

官能的な描写に期待して観に来た男性の方々には手ごたえのない映画だったに違いないけれど、監督と同性の私にとっては、そのテーマに心掴まれる味わい深い作品であった。納得のセザール賞。
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by CaeRu_noix | 2007-11-16 07:01 | CINEMAレヴュー | Trackback(8) | Comments(9)
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Commented by ジョー at 2007-11-27 22:47 x
こんばんは。
実際に映画を観てるより、かえるさんの記事を読んでいるほうがいい映画のような気がしてきます。まだまだ修業が足りませんね。
Commented by CaeRu_noix at 2007-11-28 01:24
ジョーさん♪
ありがとうございます。
いやー、いい映画だったと思いますよー。映像で受け止めたものを言葉にするのは難しいけれど、無理にそのまま文章にしたらこんなカンジでした。ホントに感動したことそのまんまです。
でも、フランス映画は日本ではあんまり人気ないですよね。
Commented by charlotte-a at 2007-12-04 23:54
こんばんは。シャーロットですー。
これって名前を書く欄がないけど、反映されるのかな?

ところで見に行きましたよー。でも私が見たものは短い版ですかね?
ディレクターズカット版とは30分くらい違うって、どんなシーンがあったのかすごく気になるんですけど。DVDとかでたらまた見たいです。
文芸作品・・・うん、そうですねー。なんか魅せられましたですよ。
だってー猟番が素敵に見えましたですもの;・・・森の精のせい?;
いい映画でしたね。しみじみ

私の見た時はなんだかいつも銀座辺りでお見かけしそうな紳士?のお客さんが結構多かった気がします。
Commented by シャーロット at 2007-12-05 00:17 x
ああ、わかった。エキサイトにログインしてると↑こうなるんだ・・・。
じ、実は、わけあって登録だけしてたんですよ。
雲隠れしようかと思っていた時があって;でもIDでばれるか;
Commented by CaeRu_noix at 2007-12-07 01:33
シャーロットさん♪
何故アルファベットかと思ったら・・
それが雲隠れというのはわからないけれども(ホントに隠れたいなら、私なら、ネットで書いたり発言したりしないという道を選ぶと思うのでー(笑)、強気でどうぞー!
長めのディレクターズカット版がかかっていたのは確か最初の一週間だけです。それ以降は普通の短めバージョン。私はいそいそと長い方を観に行きました。だって、自分が観られない映像があるのは悔しいんだもん。たぶん、物語展開上はカットしても差し障りのないような場面だったのだと思いますけどね。森のお散歩シーンなんかが長めなのかな。
題材的には退屈しそうなタイプなのに、じっくり見入ってしまった魅力的な作品でした。映像も美しかったし、上質感が感じられました。これぞ芸術ってな雰囲気でしたよね。
パーキンは客観的にはあんまりステキじゃないんですが、コンスタンスの身の上ならば大いに魅力を感じちゃうのだろうなと思えました。寡黙な男はよいですね。
シネマライズは普段は若者比率が高いのですが、時折年齢層がググッとアップするんですよね。案の定、この題材はオヤジ好みー
フランス映画って、若い一般の映画ファンにはホント人気ないんだなと。
Commented by ゆるり at 2007-12-16 18:09 x
そうなんですかぁー。私が観たシネ・ヌーヴォでもやけに初老の男性が多いなぁと思ってたんですけど、そういう傾向があるんですねぇ。
この作品では、屋敷の中とは対照的にコンスタンスが森の中は無邪気に自然にふるまっている(本能のまま)感じが印象的で、こちらまで森で深呼吸している感じになりました。音楽を使わない静かな映像も好みです。
>パーキンは客観的にはあんまりステキじゃないんですが、
そうなんですね、やっぱり。個人的には結構好みかも。(笑)
それだけに、人を寄せつけない傷付いた孤独な男性が少しずつ開放されていく感じが良かったなぁ。フランス的な素敵な映画ですね。


Commented by CaeRu_noix at 2007-12-17 00:46
ゆるりさん♪
やはりそちらでも初老男性が多かったですかー。
そういう傾向、大いにありますよ。どこで映画情報を得てくるんでしょう。
序盤にコンスタンスの生活の息苦しさが伝わってくるから、森のシーンでは本当に解放的な気持ちになれましたよねー。そうですね、彼女も観客の私たちも深呼吸って感じでしたね。私は沸き立つ泉のような感覚を抱いたのですが、なるほど、深呼吸&酸素なイメージもあったかもしれません。
森の素晴らしさに包まれる美しい映像にも満足でしたね。
おおお、ゆるりさん的にはパーキンは好み系ですかー。
監督は、観客が最初に彼を観た時に、この人が相手役なんて!と首を傾げてしまうことを承知の上であえて選んだというようなことを述べていましたが、ゆるりさんには恋の相手としていたって当然に見えますかね。(笑)
でも、一目惚れしたり、つき合いたいと本能的に思うような男性とは言えないながらも、その実直そうなところなんかに好感はもてるので、夫人の気持ちに心寄り添うことはできましたー。
そうそう、シャイな彼が徐々に心を開いていくところもよかったですよね。
英国という設定でも、とことんフランス映画らしい映画だったと思いますー。
Commented by なんな at 2007-12-24 21:00 x
かえるさん、こちらでははじめまして。
今年の映画館鑑賞のベスト3に入るくらい気に入ってます。
>ワイセツにはほど遠く、エロティックでもない
そうなんですよね。チャタレイ夫人コンスタンス、まったく屈託無く屈折のないというところが良かったです。その自然なふるまいが微笑ましく魅力的で共感を覚えました。
バーキンもいかにもフランス男といった風貌で、その外見に反して繊細な男だったというのも新鮮でした。
ユーモアあふれるシーン(と言っていいのでしょうか?)もあり・・・花を飾るシーンなど、ああ面白すぎる~。
パスカル・フェラン監督といえば『a.b.c.の可能性』が好きなんだけれど、音楽の使い方が対照的です。前作は若者の群像劇であり、音楽もカラオケやダンスパーティーシーンでふんだんに使われていたのに対して、こちらは殆ど無かったですね。森の音、風の音、川のせせらぎ、鳥のさえずり、木々の揺らぐ音・・・森がいかに神秘の場所であるかを映像だけでなく音によっても改めて気付かせてくれたというわけです。
Commented by CaeRu_noix at 2007-12-25 01:35
なんなさん♪
いらっしゃいませ。コメントありがとうございまーす。
そしてそしてご覧いただけて嬉しいです。なんなさんは本作のよさをわかってくれると思っておりましたー。これはきっと女性にとってより味わい深い映画だと思うんですよね。
そうか、バーキンの風貌はいかにもフランス男なんですね。
現代だったら、こんなにピュアな気持ちで不倫しちゃう男女はまずいないだろうと思うんですが、この2人の場合はホントに純粋な愛の行為に感じられました。花を添えるシーンなんかも失笑・爆笑もののはずなんだけど、2人の恥じらいのあるピュアな気持ちがあふれているもんだから、私は結構ほほえましくも真面目に感動しちゃいましたよ。(笑) こんなことをできちゃうピュアさって、ある意味素晴らしいなぁと。森は解放感があっていいなーって。とにかく森の効果が抜群でした。自然の音がホントに美しかったですよねー。
『a.b.c.の可能性』も観てみたいです。群像劇というのが魅力的。そちらの選曲も気になります。パスカル・フェラン監督には俄然注目ですー。
なんなさんとはフランス映画の話ができるので嬉しいです。
私は最近、ルルーシュの「ヴィバラビィ」を観ましたー。ピコリづいてます。
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