かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『ここに幸あり』 Jardins en Automne
2007年 12月 14日 |
流れ流れて、千鳥足。カイ・ホウ・カ・ン。

大臣のヴァンサンは、ある日職を追われ・・・。



オタール・イオセリアーニの映画との出逢いは、シネセゾン渋谷のレイトショーでやっていた『素敵な歌と舟はゆく』だった。主人公が誰で、物語のポイントは何なのか、よくわからないままに、カメラは次から次へと多くの人々を映し出していった。初めは戸惑ったけれど、その不思議なリズムと感触に次第にハマっていき、映画の終わる頃には胸がいっぱいになった。それ以来、大好きな監督の1人になった。ワインと動物と乗り物と音楽と。飲んだくれ監督って最高だー。

今作も、『素敵な~』と同じようなスタイルかな。飄々と流れ、流れていく。棺おけ屋さんで好みの棺おけを物色している紳士たちの姿にクスッとさせられる。そう、これこそがイオセリアーニの世界。次から次へと登場するすっとぼけた人たち、主人公のヴァンサンのトホホにほほえむの。本当は恵比寿ガーシネじゃダメ。やわらかソファーに深く腰掛けて、ワイン飲みながら、ゆったり鑑賞したいところ。

イオセリアーニ的な世界観って、わが国では受け入れられがたいかなとも思った。彼がうたうのはキリギリス的な姿のハッピー感なのだけど、何しろ、自分が子どもの頃に聞き知ったアリとキリギリスのイソップ寓話といったら、遊んでばかりのキリギリスはけしからん奴で、コツコツ働き蓄えるアリこそが素晴らしいというイメージだったもの。勤勉さこそは美徳だし、将来のために備えるのはごく当然の価値観だったような。

それはある意味正しいのだけど、決して確実に実りあるものでもないこともわかってきたし、世の中を知るごとにそれだけが大事だとは思えなくなる。そして、堅苦しい社会に暮らしているからこそ、イオセリアーニ映画の中の、ただ気ままに飲んだくれる人々の姿に、無性に幸福感を覚えてしまうのだ。義務やしがらみから解き放たれて、面倒くさいことの全てにサヨナラして、人種や身分なんて関係なく、そこに居合わせた仲間達と飲めや歌えや。社会的には没落・堕落と見なされるのかもしれない、ああはなりたくないと人は言うのかもしれないけど。でもね、そのノーテンキな解放感といったら、極上なのだ。

今回はチーターの登場が嬉しい。愛嬌あふれる動物たちに心なごみ、飄々とした気ままな人々の挙動を眺めているだけでほのぼのウキウキ。何よりも楽しい気分にさせられたのは、ミシェル・ピコリンが扮するママでしょう。ステップが上手なんだよね。こんなに寛容さを体現した母さんはなかなかいない。年を取るって粋なことかもしれないと思えてしまう。そして、ヴァンサンと関わった愛する女性達が一堂に会し、長いテーブルに並んで座っている姿には、あまりにも壮観で感動的。そんなことって現実にはなかなかあり得ないけど、この上なく素敵じゃない。最後の晩餐じゃなくて、人生の秋のヴァンサン餐。

ニッポンの大臣は辞職したって、偉い人であり続けるのだろうけど、こんな体験ができたならいいのにねぇ。享楽さえも、富と地位と権力についてくるものになっているのが実情。イオセリアーニの世界にはほど遠い現実社会の構造にちょっと寂しくなりつつも、ほろ酔い気分で夢心地。
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by CaeRu_noix | 2007-12-14 23:59 | CINEMAレヴュー | Trackback(2) | Comments(2)
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Tracked from シャーロットの涙 at 2008-01-20 00:36
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Tracked from ゆるり鑑賞 Yururi.. at 2008-01-27 11:27
タイトル : ここに幸あり
監督:オタール・イオセリアーニ (2006年 フランス/イタリア/ロシア) 【物語のはじまり】 ヴァンサン(セヴラン・ブランシェ)は、ある日突然大臣の職を追われ、 仕事も住む家も妻も失ってしまう。そんな...... more
Commented by シャーロット at 2008-01-20 00:31 x
絶対に見たいーというほど監督の事も知らなかったのです。なんとなく見たいなあと思っていただけですが・・・見逃しませんでしたっ。笑
…で、見逃さなくて良かったです。とても好きです、こういう作品。
次から次へとたくさんの人や動物が出てくるところがなんだかとっても可笑しくて、気がつくと好きになってた感じ;
ミシェル・ピコリンの事も知らなくて、いやに男っぽい女性だなあ~なんて。凹
ワイン飲むと悪酔いしてしまうことが多くて困りモノなんですけど、ワイン飲みながらお家鑑賞も悪くないなって思った作品でした。
くちばしの大きいあの鳥ちゃん、おとなしい子でしたけどジョークでもしゃべったら面白かったろうに。…なんて;

Commented by CaeRu_noix at 2008-01-21 22:24
シャーロット さん♪
絶対に見たいわけでもなかったのに、ご覧いただきめるしーです。
いいですよねー、(めっきり、ノンシャランというコピーがついている)イオセリアーニの世界って。
起承転結のある物語展開に慣れてしまっていると、なかなかドラマが始まらないなーって戸惑ってしまうかもしれないんですが、実は既に最初から始まっているんですよね。
そう、気がつけば、なんだかいいなぁ、好きだなぁって思っちゃうのです。
私は、ピコリが出ていると知ってはいたんですが、まさかこういう役で登場するとは知らなかったので、ビックリ大笑いでしたー。
そう、おばあさんにしては、やけに大柄で男っぽいっす。(笑)
イオセリアーニ監督自身も絵描きの友人役で出ておりましたのよ。
ワインとコミカルな動物と乗り物が定番。鳥がまたお茶目なんですよねー。
絶対、呑みながら観たい作品なのです。
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