かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『眠れる美女』
2007年 12月 23日 |
魅惑の館へようこそ。

15年前に妻と娘を自動車事故で亡くした事業家のエドモンドは、友人からある秘密の館を紹介される。



文豪、川端康成の晩年の代表作であり、三島由紀夫が「熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の逸品」と絶賛した同名小説を、俳優としても活躍するドイツ人監督が舞台をベルリンに置きかえて映画化。

川端作品の翻訳で著名なエドワード・G・サイデンスティッカー氏が亡くなった頃に、本作のことを知ったのだけど、そういえば、先日鑑賞した「呉清源」も川端と関係があったのだよね。というわけで、本映画化作品を鑑賞し、「雪国」くらいしか読んでいない私も、川端文学への興味がわいたのだった。

読んではいないのだけれど、日本人の自分には、日本を舞台に書かれている原作の方が、薄暗くて湿度の高いいやらしさが感じられそうな気がした。その館が昭和の日本ではなくて、ヨーロッパの洋館として存在する方がナチュラルで幻想的なのだよね。やっぱりベッドにそれを覆う透明感のあるやわらかい素材のカーテンでしょう。グリム童話の「眠りの森の美女」のイメージも手伝って、このベルリンの館(メゾン)は格調高くも魅惑的な空間となっていた。車のライトが浮かぶベルリンの夜景ショットも好き。

美しくも謎に包まれた不思議な館。この館にはどのようなからくりがあるのだろうか、一体これから何が起こるのだろうかというミステリアスな雰囲気に心掴まれて、スリリングな緊張感を持ちながらも、鬱蒼とした精神を解き放つことのできないエドモンドに心寄り添ってみる。意外にも、老人が深く眠り続ける全裸の若い女に触れたりする様にも、嫌悪感を感じることもなく、興味深く見つめてしまった。老いてもなお、いえ、老いたからこそ、物言わぬ若い女性の体に、こっそりと触れて添い寝することに悦びや幸福感を感じるということに。死というものが確実に近づいている年代だからこそ、死にはまだまだ遠い若い女に恋い焦がれ、その若い肢体が自身の目の前で今、死んだように眠っているという状況に、不思議な魅力を感じるということ。

時に川端康成の思考に思いを馳せながら、老人エドモンドの心の旅に同化してしまうのだった。まだまだ貪欲な単なるオヤジのエロ魂なんかにはあまり共感できないと思うのだけど、死の面影につきまとわれて人知れず葛藤しているエドモンドには歩み寄れるもの。生々しさを感じさせないエロス、観念的でもあるそのシチュエーション。ヘンタイ紙一重状況なのに、その文学性と芸術性に惹かれてしまう。こんなに老いても少年期の母親の思い出が鮮明に蘇ってくるのにグッときてしまった回想シーンもお気に入り。目の前の現実の出来事さえも何だか夢のワンシーンのような淡さをもっていて、浮遊感のある不思議な印象を残すのだった。死と性と老いについて思考させられるのに、重々しすぎないファンタジー感が心地よい。

ベストセラーのおもしろい筋書きの小説を何でもかんでもそのまま映画化することには疑問を感じる私だけど、綿密に状況や主人公の思考の動きを描写した文学作品をあえて、説明を排除して映像化することには、"映画"の魅力を感じてしまうな。

ヴァディム・グロウナ監督の次作品『ヒーローズ』では、ビロル・ユーネル主演予定なんだって!

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by CaeRu_noix | 2007-12-23 23:54 | CINEMAレヴュー | Trackback(4) | Comments(8)
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Tracked from I am invinci.. at 2007-12-24 08:23
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Tracked from シャーロットの涙 at 2007-12-25 08:39
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Commented by mi10kuma at 2007-12-24 01:21
『ヒーローズ』情報、ありがとうございます!!!
きゃあああああ、嬉し過ぎる悲鳴です^^
Commented by 哀生龍 at 2007-12-24 08:29 x
>日本を舞台に書かれている原作の方が、薄暗くて湿度の高いいやらしさが感じられそうな気がした
言われて見れば確かに!
とある奥座敷で・・・と妄想が膨らみますね(笑)

>老いたからこそ
若さや瑞々しさのような死から遥か遠くにある存在を求めると同時に、自分の心の奥底を吐露出来る相手を求めているんでしょうね。
聞かれたくない・知られたくないけれど、聞いて欲しいあれこれ・・・
Commented by CaeRu_noix at 2007-12-25 00:56
シリキさん♪
主演作ってのは嬉しいですよね。
本作の公式サイトのキャストのところに出ていた情報です。
でも、たぶん、その「HEROES」って、これから撮影するんですよね・・・。
日本で公開になるのって一体いつになるんでしょうぅぅ。かもーん。
Commented by CaeRu_noix at 2007-12-25 01:11
哀生龍 さん♪
日本でも映画化されているみたいですが、それは観たくないなーって感じです。
ねっとりじっとりしてそうですよね・・・。
日本人の爺が若い日本人女子の裸体を弄ぶ姿ってのは、快くない感じもしますしぃ。

心の奥底を吐露するというのは、どうなんでしょうね。
原作ではおそらく、語りの主体として、ごく普通に主人公の思いが吐露されている気がするんだけど、それが映像化された時、眠っている女に向かっていちいち話しかける姿を観客が目撃しちゃうという構図には初めは違和感がありました。でも、だまって聴いてくれる(ってか聞こえてないけど)存在が目の前にいたら、語りかけてしまうものなのかもしれませんね。
Commented by シャーロット at 2007-12-25 08:39 x
めりーくりすます。遅くなりました;
私も日本版は見たくないなあ;やはり洋館の雰囲気の方が幻想的で受け入れやすいかも。なんだかあまりイヤラシさは感じなかったです。不思議。私も実は雪国くらいしか読んだことがなかったかも;今読んだらちょっと印象も違うでしょう。あ、まだ「呉清源」観てないんですが;川端センセと関係あるんですね・・・
ビロルは普通の運転手さんでしたね。こんな文芸作品調も意外と似合ってしまうというか贔屓目ですが素敵でしたw・・・が、やっぱり主演作品が観たいですねー。


Commented by CaeRu_noix at 2007-12-26 09:15
シャーロット さん♪
MC。洋館に限りますよねー。
『薬指の標本』と同様に、日本の小説のヨーロッパでの映像化が見事にピッタリしてました。そういえば、あちらはフランス映画だったけど、あのホテルの場所はドイツの港町だったんですよねー。
太宰あたりには自ら惹かれたのだけど、川端は「雪国」を感想文書くために読んだだけであまり思い入れもなかったです。でも、雪国はすごく印象深かったな。駒子ー!「徒労」という言葉を覚えましたー。
「呉清源」では、野村宏伸が川端役ということを事前に知っていたのに、鑑賞時は気づきませんでした。そういえば、どおりで文学的な言葉をヤツは言っていたなぁと後で思い起こし。2人は交流があったそうです。
ビロルはスーツ姿でキリリとしていましたが、やはり異質な感じで、それがワケアリの男っぽくてよかったですわ。出番はやはり少なかったけど、たったあれだけの台詞で持ち味は発揮なぁと思いますー
Commented by とらねこ at 2007-12-27 01:32 x
こんばんは、かえるさん。
日本の方ですと、原作の文がそのまま出て来ていて、ほんの少し原作に触れる機会があったのですが、
なかなか格調の高い哲学性とエロが交じった素敵な文を書くもんだなあと意外に思いました。
ワインはいかがでしたか?美味しかったでしょうかw
しかし、そこにある画だけで官能性を感じさせる映画ってやっぱいいですよね^^

私実はビロル・ユーネルが出てることを知らずに見たので、ビックリしましたwあんまり出てこなかったですが、存在感ありますね。というかありすぎ?
Commented by CaeRu_noix at 2007-12-28 07:16
とらねこ さん♪
邦画の方もご覧になっていたんですね。
そうか、原文がそのまま登場するのは魅力ですね。
こちらの日本語字幕も再日本語化される際に、原文の表現を用いていたりしたのでしょうかー?エロさと格調高い哲学性を混じり合わせて文書表現できるなんてすごいですよね。高校生の頃には浸りきれなかった川端文学をそのうちまたかじってみたいですー。
ワインはまだあけていません。お正月に飲みまする。昔はピースポーターだとかドイツの甘い白ワインが結構好きだったけど、今は断然、スッキリ辛口白が好きなので、この中甘ってのはどうかなぁ。
私は何割かはビロル目当てでしたー。ホント、たったあれだけの登場なのに、その人となりを大いに見せつけてくれる存在感でした。運転手に雇いたいタイプじゃないけど。
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