かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『ハーフェズ ペルシャの詩』
2008年 02月 04日 |
詩のように。

コーランの暗唱者としての称号“ハーフェズ”を与えられた青年シャムセディンは、高名な宗教家モフティ師の娘ナバートにコーランを教えることになる。



イランには詩人も多く、人々が詩に親しんでいる国なのだ。これまで観てきたイラン映画の中でも台詞として詩が諳んじられるシーンが印象的だったな。日常会話の中で自然に詩が出てくるなんてカッコいい。詩を愛する風土だからそうなのか、イラン映画の物語描写は、小説のようではなく、詩のように場面展開するものが多い気がする。このアボルファズル・ジャリリ監督もどちらかといえばそういう作風だよね。詩を題材にした物語が詩のように表現されるってステキだよね。ゆったりした心地よいリズムであったり、時に唐突なほどに事態が急展開したり。

ヒロインは、ジャリリ監督が惚れこんだという麻生久美子。外国人から見たら、それほどでもないのかもしれないけど、日本人の自分から見ると、高名な宗教家の娘がが日本人女優というのには違和感を感じてしまう。でも、そんなふうにリアリティのないキャスティングによって、この物語の寓話性が強められたという捉え方もできるかな。色鮮やかな民族衣装を着た色白の和風フェイスの彼女の存在感がこの物語世界をより詩的にファンタジックにしていたといえるかも。そんなふうに、詩のようなこの映画文体の中では、多くの描写や状況説明が省かれていても、シンプルでピュアな叶わぬ恋の物語はまっすぐに伝わってくるのだった。問答無用で青年ハーフェズの恋の行方を見守りたくなるの。

『少年と砂漠のカフェ』の頃は、ジャリリというのはとことんシビアな切り口で映画を作る監督だと思っていたのだけど、2005年のフィルメックスで初めてコメディ作品を観て、それまでの印象が全てではないことを知った。その時に観たコメディのニュアンスに似ている部分があるからだろうか。ユーモラスに感じられる場面も多々あった。人の不幸を笑っている場合じゃないのかもしれないけど、鞭打ちアゲインのワンカットにはつい、クスッとなってしまった。宗教、因習の理不尽によって、困難に合う青年の姿は、同情に値するものなんだけど、四コママンガのオチのように、鞭打たれたり、牢に入れられたり、パンを取られたりという不遇を見せられるから、シニカルコメディのようにも楽しめてしまった。メガネッコ作戦だとかいきなり老女と結婚というのもおもしろかったなぁ。不真面目な自分はおもしろがってしまうほどに、青年の思いとその行動はひたむきに誠実なのだ。

三歩進んで二歩下がる、また振り出しに戻る、の連続のような「鏡の誓願」の旅路。でも、人生ってこういうものなんだよねとも思わせる。地道な取り組みがすぐに実を結ぶわけではない。でも、こうやって、前に進もうとしながら、目の前にあるものを受け容れて、コツコツと行為を重ねていくものなのだよね。人生って、修行のようなものなのかもしれないな。状況説明は少なく、散文的に、映画は進んでいくから、観ている自分もインスピレーションのように、気まぐれに思いを巡らせる。コーランは意味を問わずにただ何度も読むものであるのと同じように、生きる中では、その意味を問わずとも無心の反復に意義があるものかもしれない。意味は自ずから見えてくるものもあるわけで。

反復。散文的。久しぶりの感触のイラン映画ならではの味わい。

★★★★
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by CaeRu_noix | 2008-02-04 23:58 | CINEMAレヴュー | Trackback(6) | Comments(2)
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Commented by シャーロット at 2008-02-09 02:13 x
こんばんは。
コメディなども撮る監督さんなんですか・・・。
そういわれてみればそんな断片がありましたね~。
なんでそんな無茶な理屈をつけるの?って思ったような。。。
ちょっと思い出しました。
とにかく詩もそうですが、詩的な要素がある作品は好きです♪
なんとなく反復のリズム感っていうのもいいものですね。
ああやって体でリズムを取って覚えるんだ・・・って見入ってしまいました。
Commented by CaeRu_noix at 2008-02-10 19:05
シャーロット さん♪
コメディ作品はフィルメックスで観たその1本だけなんですよね。
日本で一般公開、特集上映されたほとんどの作品はシリアスタッチなものでした。
だから、本作も本当は笑う映画じゃないのかもしれないんだけど、あまりにもそんなバカなー!な展開がおこるので私はついつい可笑しくなってしまったのですよ。そもそも、クミコの方が無理矢理話しかけたのに、彼があんな目にあうなんてふんだりけったりすぎるよーとか。
そんなこんなでせつなさ一辺倒ではなく、ユーモラスな味わい半分で観てしまった私でした。
小説みたいな文体の映画よりも、散文詩のようなリズム、場面展開をする映画って魅力的ですよねー。
ああ、コーランを暗誦する時、少年たちはいつもなぜかああやって体を前後に揺らしてますよね。あれって、リズムをとっているって感じなんですかねぇ?
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