かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『スエリーの青空』 O CEU DE SUELY
2008年 03月 03日 |
旅の途中。

エルミーラは、小さな息子を連れて、サンパウロから故郷の田舎町イグアトゥに帰ってきた。



「Suely in the sky」という意味のこの原題は、ビートルズの「Lucy in the Sky with Diamond」からとったのだそう。邦題は、所有格のようにもとれるのだけど、あくまでもちっぽけな人間 in この青空、なのだ。

ブラジル映画の魅力の一つはこの澄み渡る広大な青い空。スクリーンいっぱいに広がる空を眺めているだけで清々しさを覚えるの。そんな大らかさとは裏腹に、この映画の中のエルミーラの物語は何だかやるせなくて息苦しい閉塞感に覆われている。だからこそ、余計に空の青さがまぶしいのだけれど。

ラテン系の人って大人っぽい風貌だから、主人公のエルミーラがまだほんの21歳だと知ってビックリ。新生活を始めようという時に、待っていた夫と連絡がとれなくなって、小さな息子を抱えて、田舎町で途方に暮れる状況は、21歳の彼女にとって、どんなに絶望的なことだろう。もう一度、遠くの町へ行くのにはまとまったお金が必要で。

そして、彼女が考えついたことはあまりにも愚かしいのだけど、なす術もない若い女がお金を稼ぐためにこういう手段をとってしまうことに目くじらを立てようとは思わない。年老いたマリアンヌ・フェイスフルが孫のためにやわらかい手で一肌脱ぐと感動ドラマが生まれるのに、21歳の若い女が商品価値のある自らの肉体を景品にしてしまうことばかりは軽蔑されるのだとしたらおかしな話。そう、反感や不快感を覚えるというのではないんだけど、虚しくて危なっかしくてチクチクとした痛みが走る。

でもね、やっぱり、うら若き女が、そんな風に自分を安売りしちゃいけないよーと心配にもなる。当選者だけのものだから、安売りというのとも違うのだろうか。そんな風にゲームの中に自身を投じてしまうところがまた愚かしくて痛々しいんだけどね。やれやれと思う中で、クジを売りつけようとした店の男が、景品が何かを知った途端に豹変して、スエリーを強く追い払ったあの場面は、彼女とともにショックを受けた。それは必要な痛みだよね。その景品に誰もが尻尾を振るわけではないのだ。

それ以上に、心揺さぶられたのは、祖母の本気の怒り。一般的には、おばあちゃんは孫に甘いと相場が決まっているんだけど、彼女は母親代わりなんだろうね。あの強烈なビンタには目が覚めたに違いない。新しい町で、スエリーになった故郷での日々を思い出した時、あの自分は何てバカだったんだろうと思い返してくれるとよいのだけれど。

ストーリーを切り取れば、大して面白い話じゃないし、感動するというタイプでもないし、主人公に共感できないという人も多そうな非エンタメ作品。いかにもイメフォ。でも、私にとっては、この演出スタイル、映像にはセンスが感じられて、好感触。ドキュメンタリータッチで細やかに描かれる彼女たちのリアルな息づかいには引き込まれてしまったな。説明的ではない分、映し出される風景が行間を埋めるように情感に満ちていて。空の下のラテンアメリカならではのカラフル家並みだとか、画になるショットの一つ一つが好き。バスが走り去った後の道路、その余韻もたまらないラスト。

★★★☆
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by CaeRu_noix | 2008-03-03 23:53 | CINEMAレヴュー | Trackback(1) | Comments(2)
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Tracked from レザボアCATs at 2008-03-05 12:09
タイトル : 31●スエリーの青空
甘さを控えめにした、淡々とした描写。女の子の怖いもの知らずな行動が怖くて、ヒヤヒヤしながら固唾を呑んで、次のシーンを見守ってしまった。... more
Commented by とらねこ at 2008-03-05 12:16 x
そうですね、スエリーの起こした行動、ハラハラしました。
でも、すぐに体を売って、という訳では決してないんですよね。
確かに、手玉に取って、みんなに一泡吹かせてやった。
だからこそ危険がすごく孕んでいてドキドキだったのですけど、でも最後に本当に「アタリ」があった時、あそこが一番怖かったですよ~。
青空は、彼女の希望の、向こうにある世界だったのですね。
Commented by CaeRu_noix at 2008-03-06 22:48
とらねこ さん♪
思い切りがいいようで、迷い戸惑いながら行動しているという感じのスエリーちゃんにはハラハラさせられましたねー。
大都会ならともかく田舎町で詐欺まがいのことや売春婦まがいのことをするのは怖いですよね。まんまと儲けたぜーっていう達成感よりか、クジを売ってたのってあんただろ!と詰め寄られたり、こっぴどく叱責されたシーンのヤバヤバ感が強く。
ベッドシーンもドッキドキだったし。
まったりしていた印象でしたが、今思うとずいぶんスリリングなドラマだったのかも。w
そうですね。青空は向こう側にあるのかな。
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