かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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『黒い土の少女』
2008年 03月 20日 |
悲哀と表裏一体の日常の輝きに魅せられる。

韓国の江原道、寂れた炭鉱の村で、9歳の少女ヨンリムは、炭鉱労働者の父と知的障害のある兄3人で暮らしていた。



ベタベタな韓流アイドル映画は好きじゃないけれど、その対極にあるともいえるこの韓国アートフィルム・ショーケース(KAFS)inシアター・イメージフォーラム上映作品は見逃せないの。首都ソウルではなく、釜山を拠点に活動するこのアート系のチョン・スイル監督は、フランス留学をして映画を学んだこともあり、尊敬する監督はブレッソンとタルコフスキーで、ブリュノ・デュモン、パトリス・シェロー、ペドロ・コスタ、クレール・ドゥニ等が好きな作家なのだそう。そんなわけで、その演出、映像表現はすこぶる好みのタイプだったな。台詞が少なくて、キム・ギドクやジャ・ジャンクーの作風を思い起こさせるものがあり。監督同士が友人で、猫いらずつながりな去年KAFS作品『キムチを売る女』のことも思い出し。淡々とした流れなのに、一つ一つのショットやその演出に魅せられるのだった。寒村の風景がとてもいい。

主人公の9歳の少女ヨンリムの境遇は一見、とても不憫。まだまだ母親が必要な年齢だというのに、どういった事情からか母親はいなくて、知的障害をもつ兄に対して姉のように面倒を見ながら、炭坑夫の父親を支えながら健気に暮らしている。その健気さ、子どもの無邪気さ、みずみずしさに心を奪われてしまう。子猫の可愛さにすっかり夢中になっているヨンヒムの子どもらしいあどけない振る舞いと心からの笑顔の素晴らしいこと。彼女の境遇に同情したり、憐れみを感じるよりも何よりも、こうやって子どもは、不遇を不遇だとも思わずに、ささやかな日常の中で、きらめた時間を過ごしているということにただ感動させられるの。ハリウッド子役みたいなこまっしゃくれたしっかり者キャラとは大違いだし、わざとらしい演出は一つもないというのに。

手持ちカメラによるリアリティを感じさせる映像。それに合わせて、ドラマを演出するための音楽も排除されているのだけど、その代わりに、それゆえに、劇中の登場人物によって歌われる歌がこの上なく心揺さぶるものだった。家族3人が車で移動中、スクリーンには車窓から見る正面の風景が映し出されていて、ドライブの高揚感の中で彼らが、童謡みたいなコミカルな歌を熱心に歌い、その元気な歌声がしばらく続くうちに、何故か涙腺が刺激されてしまうのだった。いつもは子どもと遊ぶ時間もないはず父が、他愛もない歌を一生懸命熱唱する様に、彼の抱える多様な思いが無意識に込められているようで、滑稽さを感じつつも感動を呼び起こす。そして、父が仲間と居酒屋で呑んでいる時に、近くのテーブルに座っていた労働者たちが歌う力強いアリランがこれまた素晴らしいの。辛い暮らしへの嘆きが歌に込められるから心は揺さぶられ、同時に不遇にも負けないたくましさを感じさせるから、また感動してしまう。淡々とした運びの物語展開なのに、歌によって、私にとっては感動作になり得てしまった。

少女が主人公の物語ゆえ、何も声高には主張されてはいないけれど、炭坑町の現実問題がまっすぐにとらえられている点も静かに胸をうつポイントだったな。物語そのものは居たたまれない悲しいお話だというのに、美学が感じられる作品の味わいを満喫。

★★★★
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by CaeRu_noix | 2008-03-20 09:36 | CINEMAレヴュー | Trackback(1) | Comments(0)
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Tracked from しぇんて的風来坊ブログ at 2008-07-14 23:49
タイトル : 黒い土の少女
寂れた炭鉱。炭鉱夫に妻の陰はなく二人の子と暮らしている。年長の兄は知的障害のようであり、幼い妹が兄の面倒を見たり・・・。炭鉱夫は塵肺で病気に・・・。 一昔前のような設定で暗いタッチの映画だが、携帯などで現代の設定と知れる。 観た後、パンフレットを読み(公式サイトにも記載)、川本三郎氏の論に違和感を持つ。現実から離れていく(逃げざるを得なかった)子供・・・(まるでパンズ・ラビリンスと同じように振舞ったかのように思えるよ、この解説だと・・・?) そうは思えなかった。あまりにも、どげんかせねば...... more
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